252 私の最終強化がはじまります
◆◇Sight:鈴咲 涼姫◇◆
一旦地上に戻って、雪花を何とか修理してもらい。
さらに降りていくと、機械城って感じの場所に来た。
「ここが197階かな」
巨大な歯車や、巨大なパイプやコードが垂れ下がっている。
ただ、そこに人型の石像などが並んでいて奇妙な感じだった。
そこに居た鉄巨兵という身長15メートルくらい有りそうなモンスターを倒す。
アリスとリッカが巨大な鉄の塊みたいな敵を、バッサバッサ切り裂いていく。怖い。
「あ、宝箱がでた」
私も鉄巨兵をタイニーガンで倒すと、正面に2メートルは有りそうなでっかい宝箱が出てきた。
「でっか、何が入ってるんだろう」
「なんでしょうね?」
私は、早速開けてみる。
中から出てきたのは――四本の足?
前足二本が、長いブーツみたいな感じになっている足だった。
説明が表示される。
〈カグヤ・アレイオン〉 両足に履く、ケンタウロスユニット。
四本の足は、ロケットエンジンとして使える。
後方の足はガトリングにもなり、強力な光弾を連射する。
「これは、パワードスーツになるんでしょうか? 命理ちゃんかスウさん向きですね」
「え――私?」
私は出てきた黒いユニットを観る。
かなり機械的なフォルムだ。
人間が着けるのに、ちょうどいいサイズだけど。
命理ちゃんが私を観る。
「スウが出したのだから、スウが使うべきだと思うわ」
アリスが頷いた。
「わたしもそう思います。正直ここまでスウさんを強化できるアイテムが一つもなくて、ちょっと火力不足なんじゃないかって感じていたんで。このカグヤ・アレイオンというのは、〈励起放射ガトリング〉を撃てるみたいですし」
そっかあ。じゃあちょっと履いてみようかな。
私はテーブルみたいに立っている四本脚の上に飛び乗る。そうして滑り込むように足を前足の部分に滑り込ませた。
アリスが「ふぅ」とか言っている。
え、なに?
❝なんか・・・露出が減ったのに、股間が強調されて―――エッッッ❞
「はい??」
❝あつらえたように、アリスデザインのパイロットスーツにピッタリだな❞
私は顔を火照らせて、脱ごうとする。
「やっぱ要らない! 命理ちゃんに――」
ブーツを脱ごうとすると、アリスに押さえつけられた。だからなに、その怪力!
「駄目ですよ! スウさんはもう、火力不足なんですから!」
「いや、でも!!」
「そのユニットが無いせいで、ピンチになったらどうするのです!?」
確かにそれはそうなんだけども――私は項垂れるように頷いた。
でもまあ、自分が装備する機械かあ。ロボ少女になるのも悪くないかもしれない。
「ロケット噴射はどうやるのかな?」
ケンタウロスユニットをいじってみる。するとアリスが笑う。
「結構ワクワクしてるじゃないですか」
「正直楽しい」
「男の子ってこういうのが好きなんでしょ?」
「アリスは一体全体、私を何だと思ってるの」
あ、バーサスフレームのVR動作みたいな感じかな。ただ音速でずっと空を飛んだりは無理かあ。
私は パカラッ パカラッ と空を歩く。
『マイマスター、そのユニットの内部で光崩壊を検知。どうやら小型光崩壊エンジンが搭載されているようです』
「え、マジ? じゃあこれ、小さなバーサスフレームじゃん」
しかも銀河連合が作れなくて困ってる、小型光崩壊エンジンとか。
「スウがとうとうバーサスフレームになったわ。当機とおそろいだわ。うれしい」
「うん、お揃いだね」
私は命理ちゃんに微笑んで、地上に降りて後ろ足を畳んでみる。
シュー ガシャこン みたいな音がして、腰の後ろの部分が持ち上がって、後ろ足は背中にぶら下がるみたいになった。ランドセルみたい。
なるほど、これなら邪魔にもならない。ちょっと重いけど、滅茶苦茶重いわけじゃないから問題はない。
重さは小学校のときに背負ってた、ランドセル位かな?
私は後ろ足のガトリングを使おうと――これは、肩に担ぐ感じじゃなくて、腰に持ってくる感じか。
後ろ足を変形させると、スライドしたり回転したりして、腰の両サイドに来た。
後ろ足に付いていたグリップを握って、引き金を引いてみる。
連射される――〈励起放射ガトリング〉。
「お、おー」
私が感嘆の声を挙げると、アリス、リッカ、命理ちゃん、ティタティーが拍手する。
「これ使って、鉄巨兵を倒してみようかな」
「ちょうど、あそこに居ますね」
機械城のゆっくり回転する歯車の向こうに、鉄巨兵を発見。
「ちょっと行ってくる」
「はい」
「てらー」
「了解よ」
「うん」
「コケケ」
私は、ケンタウロスモードで鉄巨兵に パカラッ パカラッ と歩いていく。
なかなかの快速。
❝なあ、あそこ197階だよな?❞
❝なんであの子ら、散歩を見送るみたいな感じなの?❞
❝あの子達を、俺たちの常識で考えてはいけない❞
私は、空中で後ろ足を畳んで変形。
斧を持った鉄巨兵がこちらに気づいた、鈍重な動きでこちらに近づいてくる。右手に持った巨大な斧を振り上げた。
私は、ロケットの噴射する足を操作して右に躱す。
そして、後ろ足を腰に持ってきて、引き金を引く。
〈励起放射ガトリング〉が鉄巨兵に吸い込まれていく。
鉄巨兵の撃たれた場所が、刮げるように消える。
流石は〈励起放射ガトリング〉、スワローさんの〈励起放射バルカン〉よりも威力がある武装だ。
「おおお」
私は〝ほぼ生身〟で出している火力とは思えず、自分の目を疑っていると、鉄巨兵は鉄くずになった。
❝・・・・やっば❞
❝俺もう、スウが怖くて近寄れないんよ❞
❝人間がやっていい所業じゃないだろ❞
❝お前たち、そんなことより今のエレガントなスウの姿を見てなんとも思わなかったのか? まさに妖精じゃないか❞
「ユー! 止めて!!」
ユーが、とんでもないコメントを書き込んでいた。
❝確かにフェアリーだ❞
❝フェアリーちゃんがいる❞
「や、やめぇぇぇ!!」
寒イボと共に吹き出した私の悲鳴が、鉄の城に響き割った。
かくして、たどり着いた199階。
暗い夜の氷河の上――そいつは、君臨するかの如く蟠踞していた。
あまりに巨大な体躯。恐らく全高100メートルはある。
『ドラゴン種 ウルトラ・ミュータント キング・ヒドラ』
白銀に輝く、三首の竜。
にしても、ヒドラって事はコイツ、
「不死身?」
「多分、不死身ですね」
「バーサスフレームでも勝てそうにないぞー・・・」
「――あのサイズは、真空回帰砲では消し飛ばせないわ」
「あんなドラゴン――ボクの故郷にもいない。あんなの出たら・・・・世界が滅びる」
「〖仲間〗」
私は補充しておいたドミナント・オーガと、マンハント・ペリトンをスキルで召喚する。
不死身同士なら倒せるはず。
500のドミナント・オーガと、500のマンハント・ペリトン。
――我が冠絶比類なき軍勢がキング・ヒドラに襲いかかる。
けど、キング・ヒドラが三つの首から放ったレーザーの如き竜のブレスで、半数の我が冠絶比類なき軍勢が消し飛んだ。
「な、なんて火力―――」
しかも我が軍勢の攻撃は、まるで通じていない。
ドミナント・オーガの剛腕から繰り出されるパンチも、マンハント・ペリトンの猛毒攻撃もまるで通用しない。
これは・・・だめだ。
まだまだドミナント・オーガと、マンハント・ペリトンは準備してあるけど、攻撃が通じないじゃ話にならない。
「とりあえず、左右の首を吹き飛ばそう」
「といっても、アレの再生を止められる熱を放てそうなのはスウさんか命理ちゃんだけなんですけども」
命理ちゃんが〈ヘウレカ〉の準備に入る。
アリスとリッカが〖飛行〗で飛んで、キング・ヒドラの首に向かう。
2人は協力して、右側の首を切り落とす。
しかし、再生が早い――瞬く間に首が生えてこようとしている。
私はすかさず〈励起放射ガトリング〉で、右側の首の傷を焼いた。
これで右はもう生えてこないはず。
命理ちゃんも、生えかけていた左の首を〈ヘウレカ〉で吹き飛ばした。
首が吹飛ぶと同時に焼かれたので、もう生えてこない。
さて、真ん中の首をどうするか・・・・。
――っと、キング・ヒドラの真ん中の首がこっちを向いた。
私は慌てて〖触手〗を引っ張り出そうとするけど――ティタティーが黒体で、レーザーみたいな炎を防いでくれる。
「返すよ、燭」
ティタティーが黒体に吸い込んだ熱を、励起放射みたいにしてキング・ヒドラに返す。
見事に首を吹き飛ばすけど、駄目だ。やっぱり復活――。
そこで私はティタティーの言葉でひらめいた。
「返す――そうか」
私はキング・ヒドラに向かって飛ぶ。
まだキング・ヒドラの足元に残っていた、ドミナント・オーガを〖念動力〗で掴んで引き連れて。
「ティタティー、しばらく私に向けられたキング・ヒドラの攻撃を防がないで」
「わかった」
「来い、キング・ヒドラ!!」
私が挑みかかるような言葉を放つと、アリスが少し心配そうになった。
「ちょ、スウさん大丈夫ですか!? ――ドミナント・オーガを連れてますけど、ドミナント・オーガのパンチじゃ相手はビクともしないんですよ!?」
「いくら雪花でも、あのキング・ヒドラのレーザーは防げないと思うぞ!!」
「触手の黒体で防ぐつもり?」
リッカと命理ちゃんも心配そうだ。
私は、ケンタウロスユニットやスキルを駆使して猛然とキング・ヒドラに接近。
一瞬で、ほぼ目の前。
キング・ヒドラが大きく口を開いた――今だ!!
「あぶない!!」
リッカが叫んだ。
私はスキルを使う。
「〖仲間〗!」
アリスも叫ぶ。
「なにしてるんですか!! 他にドミナント・オーガなんか呼んでも――」
ちがう、〖仲間〗で呼んだのは〖念動力〗で連れてきたドミナント・オーガだ。
キング・ヒドラの放った閃光が、〝ドミナント・オーガの前に開いたゲート〟に吸い込まれる。
すると、もう一つのゲート――私の手のひらの前に開いたゲートからキング・ヒドラの放った閃光が撃ち出された。
つまり〝ドミナント・オーガが入るはずだったゲートに、キング・ヒドラの閃光を入れて〟――〝ドミナント・オーガが出るはずだったゲートから、キング・ヒドラの閃光を出したんだ〟
キング・ヒドラのレーザーのようなブレスが、キング・ヒドラの首を焼く。
最後の首を失ったキング・ヒドラの巨体が、糸が切れるように崩れ去った。
小山のように積み上がったそれは――もう、動かない。
やっぱりコイツも不死身だけど、不死身同士なら倒せるようだ。
キング・ヒドラが、ジルコンのように砕け去った。
「よしっ!!」
「そ、そういう事ですか――不死身のキング・ヒドラから出た光線で、不死身のキング・ヒドラを倒せばいい。だから相手の攻撃を、ゲートで返す」
「ロマンティックな解答だ、スウ」
アリスが納得して、リッカが変人の真似をした。
「考えつかなかったわ」
「魔王クラスのボスの倒し方、勉強になる」
命理ちゃんとティタティーが感心していた。
❝うーん、この❞
❝よく咄嗟に、あんな考えが出るなあ❞
こうして私達は、199階も攻略。
遂に、200階に到達したのだった。




