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250 生き残れ

 スウは青ざめながらも、とにかく両手両足を広げて、速度を緩めようとする。

 それでも時速200キロ付近に達してしまう。


 リッカとアリスが、スウの状況に気づく。


「あれ、まさか〖飛行〗が使えないのか!?」

「まさか、〖念動力〗も!?」

「やばい、急げ!!」

「はい!!」


 スウを立っ助けようとする二人――だが、リッカとアリスはスウとの距離が随分ある。

 リッカとアリスの持つ〖飛行〗単体では、時速400キロ程度しか出せない。

 時速200キロで落下するスウには、追いつけそうにない。


「駄目だ、間に合いそうにない!」

「そうだ、最速降下曲線を!」


 アリスは言うが、リッカが首を振る。


「私達の体重が軽すぎる、この速度から落下軌道を取っても、ほとんど速さは変わらない!」

「そ、それでも・・・!」


 二人は、スウがかつて見せた最速降下曲線で降りだすが、さほど速さが変わらない。


 パラシュート無しでのスカイダイビングを強制されたスウは、必死で生き残る方法を考える。 


「どうする? ――どうする!? どうする―――!!」


 このままでは、私は即死だ。そうしたらコピーされた、次の自分になってしまう。

 たとえ、〖再生〗が使えたとしても、自分が即死してはどうにもならない!

 リイムもアリスもリッカも、自分を助けられそうにない。命理やティタティーも遠すぎる。


「何か、何か――方法を考えろ!!」


 その時、混乱するスウの頭に、リッカが誕生日にくれたハルバードが思い浮かんだ。


「ハルバード!? ハルバードが今なんで!? 死の間際だから誕生日の事を思い出したの!?」


 スウは混乱する自分の脳みそがエラーを吐き出したのだと思って、ハルバードを忘れようと頭をふろうとして・・・・、


「――いや」


 ・・・・何かをひらめき、〈時空倉庫の鍵〉を開いた。


 そうしてハルバードを取り出す。

 槍、斧、ピッケルが一体化した武器だ。

 そんな様子を遥か遠くから見たアリスが、困惑の声を出す。


「ス、スウさん、〈時空倉庫の鍵〉から何かを取り出しましたよ!?」


 目の良いリッカがスウの取り出した物を見て、眉をひそめる。


「わたしが、スウの誕生日にプレゼントしたハルバードだ・・・・そんなものどうする気だ?」


 スウは、ハルバードのピッケルの部分を〈時空倉庫の鍵〉のゲートの端に引っ掛ける動作をした。

 リッカとアリスは「なるほど」と思ったが、ピッケルはすり抜けてしまう。


「だめなのか!?」

「駄目なんですか!?」


 ハルバードは、起死回生の一手にはならなかったようだ。


 スウは頷いて、ハルバードを〈時空倉庫の鍵〉に仕舞い直し、目をつむった。


 ――穏やかな顔だった。


 まるで死を恐れていない。


「ま、待って下さいスウさん、なんですかその表情(かお)! ――お願いだから諦めないで!!」

「達観なんかしてる場合か! ―――諦めるな、スウ!!」


 「諦めるな」と叫ぶアリスとリッカの視界の中で、スウがどんどん地面に近づいていく。

 200メートル、100メートル――。


(スウが、潰れたトマトの様になる!!)


 最悪の光景を想像する二人の視界で、スウが再びハルバードを取り出した。


「何を・・・」

「ハルバードなんかどうす・・・」


 スウが、何かをブツブツと呟き出す。


「両手両足を広げた人間の終末速度は、時速200キロがせいぜい――それなら!」


 スウはまず魔術を使い、鉄でハルバードと柄を長くする。

 そうして長くなったハルバードの柄の最後端を握り、ハルバードの重さを使って逆立ちするような格好になった。


 そして、いよいよ地面に激突の瞬間。


「入れ―――ゾーン」


 スウは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 スウはハルバードを軽く握って、衝撃を逃がす。さらに徐々にブレーキを強めるように、握っていった。


 そうしながら―――〝ハルバードの()()()()()()()〟。


 スウは逆立ちの姿勢から、地面に刺さったハルバードから飛び降りて、五点着地――なんて高度な身体操作は、出来るわけもなく。


 受け身の要領で地面を転がった。


 そうして逆位置で止まり、やがて大の字で地面に寝転がる。


「あ゛ー゛、死゛ぬ゛か゛と゛思゛っ゛た゛」


 大の字のスウは・・・・無傷。

 肩が抜けて、手の皮は剥けたが。


「あだだだだだだ!」


 スウが、肩の痛みに絶叫している。

 けれど、リッカとアリスは唖然。


「え」

「な、なんで・・・? なんでスウさんは生き残れたんですか!?」


 スウが生存に使った方法――それは『羊飼いの跳躍』という、スペインに伝わる伝統的な技術だった。


 長い棒を持って、登ったり、飛び降りたり。


 飛び降りる時は、地面との衝突の際に起こる衝撃を棒で受ければ、あとは安全に滑り降りれば良い。


 スウは、ハルバードの存在から、咄嗟にこれを思い出した。


 流石に上空3000メートルから飛び降りる技術ではないが、スウは人間の終末速度が時速200キロなのを思い出して「いける」と判断した。


 そうして幸い柄まで鋼で出来た長いハルバードは衝撃を受けきり、スウを助けきった。


「魔術で作った、柔らかい鉄だけでは生き残れたかわからないよね。リッカが誕生日にハルバードをくれてよかったぁ・・・!」


 スウはあとでリッカにお礼を言わなきゃ、と思った。


 アリスとリッカは狐につままれたような顔のまま、とにかく加勢と、スウへ向かう。


「スキルはまだ使えないのかな、〖再生〗〖再生〗〖再生〗」


 スウが3回度スキル名を唱えた時、スウの手が光った。


「あ、使えるようになった! 肩も手のひらも治った! ――よし反撃だ、よくもやったな! 〖飛行〗」


 スウは上空に急上昇を始めた。


 スウが向かう上空では、怒れるリイムとドミナント・ドラゴンが戦いを繰り広げていた。


「コケ、コケ、コォケェェェ!!」(お前、よくも、よくもボクのママを、ママをぉぉぉぉぉぉーーー!!)


 怒りのリイムが、ドミナント・ドラゴンに突進する。


「シャラララ」(遅い)


 ドミナント・ドラゴンは尻尾を鳴らして「遅い」と言い、さらに鼻で笑うような仕草をした。


 リイムのクチバシからの突進は殆ど音速に近かったが、音の壁は簡単に超えられるものではなく、空気に阻まれ音は超えられない。


 ドミナント・ドラゴンは、拳銃の弾丸程度の速度で迫るリイムの突進なら、あっさりと躱してしまう。


「コケェェェ!!」


 怒りのリイムは何度も何度も突進を繰り返すが、そのことごとくがドミナント・ドラゴンに躱されてしまう。

 ドミナント・ドラゴンはリイムの突進など相手にしていない。

 ――リイムがまるで遊ばれているかのような有り様だった。


 ここで、ドミナント・ドラゴンがスウが上昇して来ている事に気づいた。


「シャララララ」(い、生きていた!? ――何故だ、どうやって!? ―――ありえん!!)


 驚くドミナント・ドラゴンだったが、とにかく足の遅いスウを先に始末しようと急降下を始めた。

 リイムに完全に背を向けているが、気にしていなかった。

 (ヤツは自分に追いつけない、飛び道具もない)と。


 リイムも、急上昇してくるスウに気づいた。


「コケ!?」(ママ!? 生きててくれたの!?)


 リイムは涙で霞む視界にスウを捉え、母親が生きていた事に気づいた。

 するとリイムの翼が、さらに輝き出す――僅かに速度が上がる・・・・だが、何かが光を邪魔をしている。


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