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249 パラシュート無しでスカイダイビング

◆◇Sight:三人称◇◆




 スウがどうやらドミナント・ドラゴンに〖味変化〗を使った。


 ドミナント・ドラゴンが無機質な爬虫類の眼をスウに向けて。尻尾を鳴らす。


「シャラララ」(無駄だ、元から食物を必要としない我らに味覚などという弱点は無い)

「コケ」(ママ、アイツなんか言ってるよ?)

(なんて言ってた?)

「コケ」(「俺は味なんて分からん。味音痴を舐めるなよ」って)

(なるほど。そういえばMoBって物を食べないんだっけ? グレムリンもそうだったっけ)


 スウとリイムはテレパシーで会話しながらも、ドミナント・ドラゴンの攻撃を見事に躱す。


「さすがスウさん、敵の攻撃を躱しています。いつも通りですね!」


 アリスが言うと、刃物を躱すスウとリイムの姿を見ながら、リッカが呟いた。


「アリス、違う。――あれは、いつもより驚嘆すべきことだ」

「えっ?」


 アリスが、リッカを疑問の顔で見た。


「馬ってさ、車や飛行機とは違うんだよ」


 アリスが「何を言ってるんだろう?」という声を出す。


「そりゃ・・・・そうですよ。そんな当たり前な事を」

「いいや、アリスは分かっていない。――車とか飛行機は、操縦桿を――ハンドルを右に切れば必ず右に行ってくれる」

「ですね」

「だけど、馬はそうじゃない。右の手綱を引いたから必ず右に行くわけじゃない。止まれと言ったから止まるわけじゃない」


 アリスが、リッカに言われて「ハッ」とする。


「あ・・・・それは」

「さらに馬は車や飛行機みたいに、自由に微妙な調整ができるものじゃない。それに全力で走ってほしくても、いつも全力で走ってくれるわけじゃないし。――体力を温存してほしいのに、全力で走ったりもする」

「で、ですね」

「そして、飛行機は操縦桿を引けばすぐさま何かしらの反応があるけれど、動物だと相棒の反射神経にも依存する。スウはリイムの反応速度に合わせリイムの手綱を動かしている。でないと相手の攻撃なんか躱せない」

「た、たしかに」


 アリスの驚くような納得の声。

 リッカが、スウとリイムを羨望の眼差しで見る。


「しかもスウの戦い方は考えてやるんじゃない、反射に近い。だからスウはリイムのリズムを完全に体に染み込ませて動いている。スウが今やっている事こそ、呼吸を合わせるって事なんだ」

「あの二人だからできるんですね。ずっと一緒にいる――寝るときまで一緒の二人だからこそ、できる事なんですね」

「――本当に凄いよ、息が完璧に合ってる。スウが飛んで欲しいようにリイムは飛んでる。なんだあの見事な旋回は、戦闘機に乗ってる時のスウの動きにソックリじゃないか」

「確かに、あんな幾何学的な動きを動物がするなんて」

「嫉妬してしまうな。・・・・あれこそがまさしく、人馬一体の境地だよ」


 敵の刃物を躱しながら、スウは考える。


(リイムは飛行機より軽い、翼の動きで無茶な曲がり方もできる! 頭を振ったりして姿勢制御もできる)


 リッカが、スウとリイムの動きを見て気づく。


「学んでる、スウが。リイムと飛行機の違いを、リイムにしかできない空中戦機動を! ――戦闘機を超えるぞ、あれは!!」


 ドミナント・ドラゴンに後ろを取られたスウとリイム、


「リイム、翼を畳んで急降下!」

「コケーーー!」


 亜音速で飛んでいたリイムが、降下で僅かに加速する。

 だが、大した速度変化にはならない。

 ――早く飛ぶほど、空気抵抗は強くなる。

 そして軽い物体ほど空気抵抗の影響は大きくなる。


 リイムとスウの体重が軽すぎて、落下による限界の速度――終末速度が低すぎるのだ。


 真空中なら重さは、落下速度に関係しない。

 だが大気中では重さが関係してしまう。


 軽い二人だからより多く上昇は出来ていたが、降下時は加速に時間が掛かり過ぎる。


 けれどマンタのようなドミナント・ドラゴンは金属のような体で重い、すぐさま加速して、スウとリイムに迫る。


 飛んでくる刃の到達時間もどんどん短くなる。

 今はかろうじてスウは躱しているが。

 アリスが、小さく悲鳴を挙げる。


「ス、スウさん! ――あれ大丈夫なんですか!? 飛行機の戦い方してませんか!? リイムじゃあの作戦は使えないじゃないですか!?」


 だがリッカは不敵に笑った。


「いや、あれでいい」


 ドミナント・ドラゴンは、スウに接近しすぎた。

 このままでは追い越し(オーバーシュート)してしまう。

 だからドミナント・ドラゴンは上昇を開始しようとした。

 刹那――


「リイム!」

「コケ」(ママ!)


 リイムが翼を広げる。


 リイムは、空中で急停止。


「コブラ機動!? ――でもあれじゃ相手に大きな面積を――」

「大丈夫」


 ドミナント・ドラゴンは翼を広げて大きくなった的を狙おうとするが、スウがリイムの片方の翼をたたませて、高速回転させた。


「ローリング・コブラ!?」


 アリスが驚きに目を見開いた。

 リッカが不敵に笑う。


「戦闘機の可変翼なんか目じゃない可変翼を、リイムは持っているんだ」

「ど、動物の翼って凄いですね」


 ついにドミナント・ドラゴンがスウを追い越(オーバーシュート)し掛ける。


 だが、ドミナント・ドラゴンがすれ違いざまに左ヒレをスウにぶつけてきた。


 リイムから放り出され身動きが取れない、スウ。


 身体を捻って反転したドラゴンが、刃物マシンガンを放った。


 身動きが取れないのでは、さしものスウも躱せない。


 袈裟斬りに斬り裂かれるスウの身体。


 雪花の防御力を上回られた。


 スウの胴体が真っ二つになる。

 いや、鎖骨から下がほとんどない。


「スウ!!」

「スウさん!!」

「コケェェェ!!」(ママァァァ!!)

「たしよふ(大丈夫)! ――〖再生〗!!」


 スウは血を吐きながらも、スキルを使用。直ぐ様スウの身体が生えてくる。

 ――体力はかなり消費したが。


「よ、よかった」


 みずきは安堵するが、アリスは慌てた。


「良くないです! スウさん裸! 裸!」


 雪花の大部分を失ったスウは、殆ど裸だった。


 配信にモザイクが掛かる。


 スウは悲鳴を上げながら〖飛行〗を使い、〈時空倉庫の鍵〉から制服を取り出して身につける。


「マジでよくもやってくれたな・・・」


 スウがアサルトライフルのスコープを覗き、ドミナント・ドラゴンに迫りながら銃弾の雨を降らせた。


 撃たれたドミナント・ドラゴンの悲鳴のような声が辺りに響いた。


 スウは、自分に寄ってきたリイムに跨がろうとする。


「シャララ」(お前のスキルは本当に邪魔だな)


 言ったドミナント・ドラゴンの口から、可視できるほどの衝撃波が放たれた。


 リイムに跨がろうとしていたスウが、衝撃波で弾き飛ばされる。


「コ、コケ!?」(マ、ママ!!)

「不味―――〖飛行〗!」


 スウはスキルの〖飛行〗を使用――だが、スウは止まらない、落下していく。


「スウさん!?」

「どうした、なんで〖飛行〗で飛ばない!?」


 スウが青ざめる。


「――〖飛行〗が発動しない!? なんで!? ――なら〖念動力〗!!」


 何も起こらない、自分の身体を〖念動力〗で支えられない。


「これ、まさか――」


 スウは他にもスキルを使うが、効果が現れない。


「――スキルが封じられてる!? あの衝撃波のせい!?」


 スウが落下していく。――上空3000メートルから。――硬い地面に向かって。


 スウの顔が真っ青になった。


「不味い、不味い不味い!! 今、雪花が無いんだよ!? ヘルメットも付けてないし!」


 首のボタンを押しても何も起こらない。

 ヘルメットを収納していたのは背中だから、その部分は無くなっている。


 リイムが母親を助けようと急降下の姿勢になるが、その前にドミナント・ドラゴンが立ちふさがった。


「コケーーー!!」(お前、どけぇぇぇ!!)

「シャラララ」(アイツは危険だ、このまま死んでもらう)

「コケーーー!!」(ママは殺させない!!)


 リイムは前足でドミナント・ドラゴンに襲いかかるが、ドミナント・ドラゴンはこれを余裕で迎え撃つ。

 そうしている間にも、リイムから母親は遠ざかって行く。


「シャララ」(グリフォン風情が、竜種に勝てるなどと思うなよ?)


 直ぐ様、豆粒のようなサイズになる、母親。


「コケェェェェェェーーーーーーッ!!」(ママァァァァァァーーーーーーッ!!)


 リイムは落下していく母親を見て、叫ぶ――。


 リイムのその翼が、徐々に輝き始めていることには、誰も気づかなかった。


 ―――リイムは、母を助けるため、徐々にゾーンに入っていく。

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