243 みんなが激戦をくりひろげます
リッカの足元が凍りついていく――黒いティタティーが温度を奪っているんだ。
リッカが近くに水を生み出してそれを圧縮して高温を生んで、奪われる熱を代替させている。
それでもリッカの体が、徐々に霜に覆われていく。
「凍らされる前に――決着を付ける!! 入れ――明鏡止水」
リッカが明鏡止水に入り〖飛行〗を使う。更に足から水を吹き出して、一気に黒いティタティーに迫る。
黒いティタティーから飛んでくる無数の氷の矢。
その全てをリッカは打刀を複雑に動かして、弾いていく。
なんかもう、刀の動きがややこしすぎてあやとりみたいに視える。
リッカはまたたく間に黒いティタティーの前――、あと一歩まで迫った。
だけど、黒いティタティーは上空に生まれていた黒体からエネルギーを照射。
リッカは仕方なく攻撃を諦め、弾けるようにサイドに躱した。
リッカも化け物みたいな剣術家だけど、相手も化け物みたいな魔術師だ。
こんなファンタジーな相手を、スキルが有るとは言えベースは地球の剣術家でしかないリッカはどうやって攻略するんだろう・・・・。
リッカが圧縮した水球を、鞘の中に収める。
抜水術の準備だ。
だけど、リッカが小太刀を抜こうとした瞬間、鞘が凍りついた。ティタティーが魔術を使ったんだ。
凍りついて小太刀が抜けない。
抜水術は使えないみたいだ。
リッカはなんとか小太刀を引き抜いたけど――小太刀が霜に覆われている。
リッカが小太刀を振るう。ティタティーが空中に大きな氷のハンマーを・・・あ、不味い――!
刀は「折れず曲がらず」と言われているけど、凍った鋼とか鉄って・・・。
キィン
甲高い音を立てて小太刀が折れた。
リッカが目を見開く。
金属が凍って柔軟性を失い、折れてしまったんだ。
凍った鋼は、想像以上に脆い。
「――っ」
不味い、リッカとファンタシアで最強クラスの氷の魔術師ティタティーは、相性が悪すぎる。
リッカが腰の長い方――打刀を抜いて、脇構えになる――剣道では、最弱とされる構えらしいけど・・・実戦ではどうなんだろう。
リッカが突っ込む。
リッカはスキルを色々駆使しているのか、異常に早い。
だけど黒いティタティーも歴戦の猛者の写し身、与し易い相手じゃない。
立花家200年の研鑽と―――100年を生きる妖精の激突。
リッカが迫ると黒いティタティーが、黒体を蝕から燭に切り替え、奪った熱を自分の頭上から一気に放つ。
するとリッカが水を生み出した――
(あ!)
――すると起こる〝私が訓練場から出てきて、最初の頃にしたのと同じ間違い〟。
〝励起放射を、水中で使うという間違い〟。
励起放射が水にぶつかると強烈な泡が発生し、黒いティタティーの視界を覆う。さらに水蒸気爆発のような物が起きて、辺りをモヤが覆った。
黒いティタティーが、リッカを見失う。
さらにリッカが立花の技を使えば、姿が霞のようになった――黒いティタティーにリッカの動きは視えるのだろうか。
◆◇◆◇◆
その頃、アリスの方は不味い事態になっていた。
アリスが対峙する黒いリッカが小太刀を納刀し、まるで水泳の飛び込み前のような――拝むような姿勢を縮めたような構えになったんだ。
俯くようにして、前のめりになりになり体を小さく丸めている。
おでこの上くらいで、鞘と柄に手を掛けている。
何―――あの構え、すごく嫌な感じがする。
「悪いですが、わたしはその構えに近づきませんよ――完全なカウンターの姿勢です・・・・そんな格好をしたリッカに近づくほど、わたしはバカではありません。柄で攻撃を弾くつもりでしょう――リッカが言ってました『柄はナイフ位の長さがある。これだけの長さがあれば、自分なら刀を余裕で弾ける』と」
アリスの言葉を訊いた黒いリッカは、構えを解く――と見せかけて、水を圧縮した水の剣を作り出した。
そのまま水の剣を長く伸ばして、アリスに斬りかかる。
アリスは、これを避けたら相手の思うツボだと思ったのか、避けずに〖防御力上昇〗であえて右腕で受けた。
パイロットスーツの防御力もあるからだろうか、腕を斬り飛ばされず耐えている。
黒いリッカは、アリスの行動に意表を突かれたのか、水の剣を振り抜いた姿勢で一瞬止まった。
そこへアリスが、赤い閃光のようになって突っ込む。
「〖重力操作〗〖超怪力〗〖怪力〗〖飛行〗!! 剣道の試合だとわたしの膂力を抑えられてしまいましたが――スキルを上乗せした今のわたしの突進を止められますか!? ニセモノ・リッカ!!」
黒いリッカの居合で抜かれる小太刀が、アリスの大太刀とぶつかり合った。
火花の散るような鍔迫り合いになる。
すると、アリスが口角を吊り上げた。
「やっぱり、貴女はニセモノだ!」
アリスが蛍丸を、大きく振り上げる。
鍔迫り合いにより互いの得物の刃の〝欠けた部分が、ガッチリと嵌まり〟黒いリッカの小太刀があっさり持ち上げられる。
小太刀が、宙を舞う。
黒いリッカは、小太刀を手から奪われた。
―――アリスが、インターハイでリッカから一本を取った『磨り上げ』だ。
「本物のリッカならこんな技を、二度も食らいません!! ――それに、貴女からは泰山の様な威圧感も、水鏡の湖面のような得体のしれなさも感じない!!」
小太刀を奪われた黒いリッカは後ろに飛んで、地面に手を付きながら足を広げて三点着地みたいな姿勢で停止した。
黒いリッカが自らの丹田を見るように身をかがめ、腰の打刀の方に手を添える。
立花流の明鏡止水+抜刀術の構えだ。
――私がリッカとアリスの話についていけなかった構え。
しかし黒いリッカは抜刀術の姿勢で構えたまま、何か異変を感じたのか、ゆっくり顔を上げた。
そして黒いリッカは観たものに対して、一瞬、体を跳ねさせ僅かに震わせた。
黒いリッカの視線の先、そこに在ったものは。
見事な上段の構え、凛とした立ち姿だった。
「さあ、ニセモノ・リッカ。ここからが本番です」




