237 私に、触手が生えます
「ここが151階かあ」
命理ちゃんが安全だと言っていたけど、安全どころか癒やしの光景が広がっていた。
青い空に緑の草原。そこをクラゲの様な生き物が、ふわふわと飛んでいる。
アリスが、悩むように顎に手を当てながら空を見上げた、しかし踊りは続けている。
メイド服のスカートが短いので、アリスが足を上げるたび見えそうで視えないのが実にときめく。
「クラゲセラピーニャン?」
しかし気取られぬように、私もクラゲを見上げ(可愛いなあ)と思ってしばらく空を見上げる。
・・・おっと、そろそろだ。
私が小学生の頃に動画サイトで流行った踊りを、なぜアリスに踊らせたかなんて理由は決まってる。
私はアリスの配信を映していたウィンドウを、急いで視界いっぱいにする。
(ここだ!)
私が心で叫ぶと、ジャストタイミングで、アリスが頬のあたりに人差し指を持ってきて、カメラ目線で肩を揺らしながら上体を持ち上げた。
なんとも妖艶で悩ましい。
「―――ふぅ」
スウは賢者になった!
私が賢者になっていると、何かが肩をかすめて横を通り過ぎた。
「――え!?」
今、火花が見えた気がするんだけど。
「な、なに―――?」
私は、後方を振り返る。
地響きを立ててズレていく、大岩。
いやいやいや!! なにあれ!?
左耳に ヒュンヒュンヒュン という風切り音。
見れば、クラゲが触手を振り回している。
今、雪花が無かったら大怪我してなかった!?
――なんか、メチャクチャ危なくない!? ここ!!
私はすぐさま視界不良を引き起こしているカボチャのマスクを、捨てた。
「命理ちゃん、平和な階だったんじゃないの!?」
アリス以外のみんなが一斉に、カボチャのマスクを外している。
「前は、あんな敵いなかったわ」
「それは早く言って!? 出てきて、イダス、リンクス! みんなを守って!!」
リッカはすでに臨戦態勢。
アリスも蛍丸を抜いた。
命理ちゃんは目からビームで、クラゲを撃墜し始める。
ティタティーが、氷柱を幾本も生み出して放つ。
私も、ニューゲームを放つ。
『スライム種 プルモースライム』
このクラゲはスライムなのか。
って――ニューゲームじゃダメージが通らない。
私は用意しておいた手榴弾のピンを抜いて投げる。
手榴弾が炸裂してプルモースライムが何匹か吹き飛んだ。
けどなんか、どんどんクラゲが転移してくる。
金色に光ってるのもいるし。
『レアエネミー スライム種 ヴォーパル・プルモースライム』
ってリッカが金色クラゲの攻撃でダメージを受けた――シルバーセンチネルのパイロットスーツじゃ、金色の触手攻撃は防げないのか。
リッカは、次々繰り出される金色クラゲの攻撃をなんとかいなしているけど、相手の攻撃がとんでもない速度だ。
あんなの、いつまでも防げないはず。
それにクラゲの数が多すぎる――早速だけど、使おう。
「みんなちょっと離れて!」
「え――はいニャン!」
「なんだ、なんだ?」
「了解よ」
「うん」
アリスは徹底してるなあ。
私の言葉にみんなが、跳ねるように下がっていく。
私は、リッカを追いかけようとした金色クラゲを〖念動力〗で捕らえる。
強化した〖念動力〗と〖超怪力〗で金色クラゲは動けない。
何匹か普通のクラゲがみんなを追いかけていくけど、流石にみんな強い。少々ならすぐさま切り捨てたり、爆散させたり、凍らせて行く。
私は〖飛行〗で上空へ。
そして、バーサスフレーム用の〈時空倉庫の鍵・大〉を開いて、中から爆弾を落とした。
手榴弾とかじゃない。バーサスフレームが使う用の爆弾。
爆弾が地面で炸裂して、クラゲたちを吹き飛ばす。
❝え、なにしてんのアレ?❞
❝生身で空爆を始めたよ・・・・この子❞
❝あれは生身でやる戦い方じゃない❞
10発くらい爆弾を落としたら、とりあえずクラゲが片付いた。
地面に戻ると、引き攣った表情のアリス。
「あれは反則では?」
「アリスもできるし、やりなよ」
「そうですねえ――〖念動力〗なしじゃあまり上手く出来ない気もしますが・・・考えておきますニャン」
私は、リッカの脇腹に触れて傷を癒やす。パイロットスーツが破れている。予備にオークションサイトで買って作っておいたシルバーセンチネルを、リッカに渡して着替えるように言う。
リッカが水のカーテンを作ってその向こうで着替えだしたのを確認し、そこら中に散らばった、カボチャのマスクを回収していると、イルさんが教えてくれる。
『マイマスター、印石が出ました』
そうか、それがあった。見れば大量の印石が、転がっている。
「何が出たんだろう」
『〖飛行〗×16、〖触手〗×8、〖仲間〗×1です』
しょ・・・触手?
私と相性の悪い触手さんじゃないですか、ヤダー。
「触手って、使ったらどうなんの」
『データベースに照合なし。分かりません。解析終えました――触手が出ます』
「そりゃそうだよね」
とりあえず使ってみるかあ。
❝触手とか使いだしたらもう本当に化け物だぞ、この娘❞
❝触手つかう女の子とかヤダ・・・・❞
「私も嫌だけど、あんまり酷かったら封印します」
「大丈夫ですか、スウさんニャン」
「ちょっと怖い」
私は印石を砕いてみる。
体が紫色に淡く光ったのでスキルを使用。
「〖触手〗」
私の影から、なんか真っ黒いのがウネウネと一本出てきた。
「あーこういう感じ?」
影から出た物を、勢いよく伸ばしてみる。
ちょっとカッコイイかも。
ちなみに影以外からも、私の近くにある黒い場所なら出せるみたい。
これは黒い物を常備したほうが良さそう。
アリスも、私の出した触手を見て頷く。
「かっこ良くないことは、ないですねニャン」
「これ、アレだね。VRと体を同時に動かす感じ」
「スウさんしか使えないじゃないですかニャン」
「でも一本だけだよ」
「一本でも無理なんですってニャン」
「みんな要らない?」
「そんなの、つかえない」
「当機にも無理だわ」
「むり」
❝スウは何を言ってるんだ? 自分が出した印石しか使えないだろう?❞
❝さあ?❞
あ、不味い不用意な事言わないようにしないと。
みんな横に首を振るので、私はとりあえず他の〖触手〗の印石を欠片にしてしまうかと砕いてみた。
すると、私の体が淡く発光した。




