233 ユーと接触します
電話を切って、フェロウバーグからダンジョン惑星へ。
――行こうとしたら、噂をすれば影だ。
浮遊大陸の上空を飛んでいるスワローテイルが、一機。
IDが『ユー』と表示されている。
まあ、一個くらい印石をあげてもいいかあ。
「イルさん、ユーに通信を繋いで」
私の言葉に、アリスが「ぎょ」っとする。
「ス、スウさんどうしたんですか!? ユーに自ら接触するなんて」
「マイルズに『〈飛行〉の印石をあげたらどうだ』って言われて。確かにユーなら使いこなすだろうし、戦力になるだろうなあ。って思って」
「理屈はわかりますけれど、ユーですよ!?」
「そこなんだよねえ・・・・」
『マイマスター繋ぎました』
「あ、ユー?」
『スウか!? どうした―――お前から俺に通信を入れてくるなんて―――なんだ今日は神が俺を祝福でもしているのか!?』
「いや・・・それは知らないけど・・・・あのさ〈飛行〉の印石いる?」
ちなみに今は誰も配信していないので、秘密を話しても問題ない。
『当然ほしいが』
「プレゼントするよ」
『何を言っている。幾ら俺がスウの心に住んでいても、お前の取った印石は俺には使えないだろう』
「全然住んでないけど。ユーは秘密って守れる?」
『お前との秘密、それはお前を護るようなものだからな。命をかけて護ろう』
「・・・・相変わらずだね。じゃあ話すけど――私、印石の所有者を変えれるんだよね」
『――――な・・・・なに・・・?』
「クリストアギュイアの駐機場にいるから、降りてきて」
『本当なのか・・・・?』
「うん、秘密だよ?」
『当然だ。俺は、お前を護るために生きている』
ユーじゃなかったらキュンってしそうなセリフを吐くユーを待っていると、スワローテイルが降りてきた。
でも、あのスワローテイル金色だしちょっと形が違う――聖蝶機スワローテイルだ。
特機の方だ。
ユーは、アカキバって人にあげたって言ってたし、実際アカキバって人が乗ってたけど。
金色のスワローテイルから、ユーが降りてくる。
「フシャー」って声がしたかと思って振り向くと、アリスに逆立だった尻尾が幻視された気がした。
私はユーに尋ねてみる。
「聖蝶機スワローテイル、取り戻したの?」
「アカキバが撃墜されて、アカキバには回収できず放置されていたらしくてな。連合が回収したらしいんだが、この間修理が終わったからと連絡が入って、俺に返却された。『特機を放置する余裕はない。貴方の腕で活かしてくれ』と言われてな」
「なるほど・・・・そりゃ運営も、特機はユーに使ってほしいよね。その機体は、乗り手と共に成長するらしいから、もうユー以外がこれから成長させてもユーを超えられる気はしないし」
「まあな」
「確か聖蝶機スワローテイルは、フェアリーさんより速いんだよね。――ユーが乗ったら凄いことになりそう」
「だが速さに関しては伝説を使えば、お前のフェアリーテイルのほうが速くなるぞ」
「あ、そなのか」
「俺の伝説は浮いてしまったな。フェアリーテイルは欲しいが、勲功ポイントが多い方ではないのでな」
「ユーは攻略やクエストを、サボり過ぎだよ」
「興味がないからな」
でも・・・・フェアリーテイルは写真集と同じ名前だから、ユーが乗ったら嫌だなあ。まあ止める権利はないけど。
「じゃあ、印石をあげるね」
「本当にそんな事ができるのか?」
「うん、できるよ」
私は〈時空倉庫の鍵〉から青い印石を取り出すと、ユーに手渡す。
「マジェスティックなスウからのサプライズプレゼントとは・・・・感無量だな」
「その変な表現、鳥肌が立つからやめてって」
記憶の糸を切って、ユーにくっつける。
「なっ!! ――印石が温かくなったぞ!? ――これは、スウの温もりか!?」
私はユーにドロップキックをした。
2メートルほど吹き飛んだユーが地面を転げて、逆位置になりながら長い足の間のにある口から戯言を吐く。
「いや、しかし、これはスウの出したものだろう? その温もりだぞ。スウの温もりではないか」
「ちがうわ! きっとアイリスさんの心のぬくもり!」
「そうか、アイリスとはこんなに優しい人間なのか」
呟いた後ユーは立ち上がりながら、正位置にもどる。
すると命理ちゃんが頷いた。
「アイリスは、とても温かい人間」
ユーの顔が少し優しくなる。
「そうか、なら救ってやらねばな」
ユーが私以外の女の子に微笑む所、初めてみた。
命理ちゃんが目を暫くしばたたかせ、小さく口を開いた。
「ありがとう?」
「お前が礼を言うな。お前を救う訳では無い」
言ってユーは印石を砕いた。
ユーの体が淡く発光した。
「まあ、ユーは頼りになりますもんね。彼が本気でアイリスさんの救出を考えてくれるなら・・・心強いです」
アリスが(しかたないなあ)という風に、眉根を寄せて微笑んだ。
「だねえ。・・・あー。ユー、本気でアイリスさんを助けたいと思ってくれるなら、他の印石もあげるけど」
「別に、お前に言う事ではないとは思うが。〖飛行〗印石は、アイリスという女の記憶や意識で出来ているのだろう?」
ユーが軽く浮き上がる。
「うん」
「ならこうして俺を生身で飛ばしてくれているのは、アイリスという女だ。その礼はしないとな」
「そっか、そう思ってくれるなら――」
私は〈時空倉庫の鍵〉から、〖ショートスリーパー〗〖暗視〗〖強靭な胃袋〗〖怪力〗〖マッピング〗〖超聴覚〗〖超音波〗〖空気砲〗〖毒無効〗を取り出す。
〖マッピング〗〖超聴覚〗〖超音波〗〖飛行〗〖毒無効〗が品切れになったけど。取りに行くのがしんどいんだよなあ、この5つは。
「お前、幾つ印石を持っているんだ・・・・?」
「そろそろ幾つか底をついたよ」
「いや、〖幸運〗持ちの俺でも4つしかスキルは持ってないのだぞ・・・?」
〖幸運〗は〖奇跡〗に比べて、出現率10分の1位になるみたいだしなあ。
〖黄金律〗は、さらにその10分の1。
「とりあえず、どうぞ」
私は取り出した印石の糸をユーに繋ぎ直す。
ユーは全て砕いてスキルにした。
「スウ、ありがとう。この借りは必ず返そう――そうだな、フェイレジェで儲けた分で買ったんだが、今度俺の複葉機に――」
「要らない! それより借りを返すなら、アイリスさんの救出に手を貸して」
「それはもちろんだ。アイリスという女にも、俺は借りが出来たからな」
「頑張ってくれるのね」
「ああ」
「お願いね。じゃあ、私たちはダンジョンに行くから」
「了解だ。ダンジョンに興味はなかったが。そうだな、なにか力になれそうなら俺も向かおうか。お前たちと行ってもいいが」
「それは多分無理かな――私達命理ちゃんの力で151階にワープするけど、定員だから」
「なるほど、まあ今回はあまりやることは無いだろうが、51層以降が開放されたら任せろ」
「うん、心強いよ」
「状況によっては、フェアリーテイルが有れば助かるが。まあ、今はフェアリーテイルはお前の写真集で我慢しよう」
「くぁwせdrftgyふじこlp;@ ――――買ったの!?」
「当然だ」
「いますぐ捨てて!!」
「嫌に決まっているだろう、なぜ俺がビューティフルなスウの肢体を眺める手段を自ら手放さないといけないのだ。それはスウに対しての冒涜だ」
「印石返して!!」
「どうやってだ」
「写真集を、捨ててぇぇぇぇぇぇ・・・!!」
こうして私は、半分発狂しながらユーと別れた。




