232 アレックスさんが泣きます
アイビーさんが応接室の机を叩いて立ち上がり、前のめりになる。
マドレーヌみたいなお菓子と、紅茶が入ったカップが跳ねた。
「スウさん! みなさんのAI達から入ってきた情報によると、みなさんは星団クレジットを手に入れたようですね!」
「は、はい」
「それでは、どうしても買って欲しい物があるんです!」
「えっと、了解です」
「先程、課金ショップの開店の報を受けて――もしかしたらと思って調査団を派遣したら、やっぱり有りました」
アイビーさんは、主にロストテクノロジーの調査してるのかな?
前にヒマな人とか言ってごめんなさい。
「えっと、買ってほしいのはなんでしょうか?」
「戦闘用データノイドの体です。間違いなくロストテクノロジーが使われています。我々では命理さんに搭載できるサイズまでは小型化できない光崩壊エンジンや、様々な武器が搭載されているはずなんです。それを研究したいのです! 特に小型光崩壊エンジンは現物が欲しくて。他部品はスキャンしたら命理さんに使って貰って結構ですから!」
すると答えたのは、命理ちゃんだった。
「それなら、当機が買うわ。当機は星団クレジットなら結構持っているから」
「本当ですか!? 是非お願いします!! 小型光崩壊エンジンさえあれば、あとはこちらで何とかします。ちなみに、これが課金ショップに並んでいた品物の一覧です」
アイビーさんが5つウィンドウを開いて、私達に渡してくれる。
課金ショップの商品が、画像や解説付きでズラリと書かれていた。
「にしても命理さんが星団クレジットを銀河クレジットに換金していなくて、本当に助かりました!」
そういえば。ユニレウスを奪還した後に出会ったミサキちゃんのお母さん、ネモさんが生前の資産をみたいな話をしていたっけ。
やっぱ使えるんだね。銀河連合で、星団クレジット。
命理ちゃんが「え」という顔で凍っている。
あれは「換金できたの?」という顔だ。
命理ちゃん、私のヒモしなくてよかったんだねぇ。
アイビーさんがティーカップを唇にあてながら、話を続ける。
「普通は復活したら、すぐに星団クレジットを全部を銀河クレジットに換金してしまいますから・・・命理さんが星団クレジットを保管していてくれて助かりました。星団帝国が無い今、星団帝国のお金が発行できる機関などないですからね。現在、連合軍内や市民の中に星団クレジットの所持者がいないか血眼になって探しています。ですが命理さんのお陰で、小型光崩壊エンジンの問題は直ぐに解決できて良かったです」
「こ・・・こんな事態も想定していたのよ」
「流石命理さんです!」
「さすイノ!」
最期の言葉をリッカに笑いながら言われ、顔をほんのり赤くした命理ちゃん。
さっきダンジョンで命理ちゃんはハッキリと「星団クレジットが使えれば」って言っちゃってたもんね。
ほんのり桜色な命理ちゃんは、何度も何度もリストを見返している。何かを探してるみたいだ。
「真空回帰剣が無いわ」
あー、確かに。
・・・売ってたら、凄い戦力アップになったのに。
その後、私達も全員でしばらくウィンドウとにらめっこして、ウィンドウショッピング。
すると早々と買い物を終えた命理ちゃんに、ほっぺをプニプニされていたリッカが呟いた。
「アヒス(アリス)」
「どうしました?」
「こへ(これ)、ヒョーグン(ショーグン)とかヒャーリン(ダーリン)みはいなきちゃい(みたいな機体)の〝特機〟がはる(がある)」
「えっ」
アイビーさんが二人のウィンドウを覗き込んで、二人に説明した。
「これは、篇世機オラクルA、オラクルBですね。現在お二人が使っている機体の元となった機体です」
リッカが立ち上がる。
命理ちゃんのプニプニから脱出した。
「――マジで!? アリス、わたしたちはコレ買わない!?」
「良いですね!」
どうやら、アリスとリッカの買うものは決定したみたいだ。
「ボクも機神を買おうかな。――この量子魔術を強化してくれるやつ。これが有れば、スウに自由に会いにこれる?」
そんなのあるんだ? 確かにティタティー向きかも。
ただ、ティタティーの魔術をアレ以上強化したら、どうなっちゃうんだろう。
あ、まって。でも確か――、
「星団帝国時代のバーサスフレームは、単機じゃ宇宙に出られないんじゃなかったっけ?」
アイビーさんが頷く。
「ですね。――けれどブースターくらい、銀河連合のショップにありますよ。先ほどの報酬の勲功ポイントで十分購入できます」
「それなら、自由にスウに会いに来れる?」
「ええ、もちろんです」
「じゃあ、これを買う」
解決したみたいなので、私も商品に目を通していく。
「私も何か買いたいけど、フェアリーさんは十分強いしなあ・・・って、これ・・・いいかも」
私が見つけたのは、フェアリーさんにドッキングできる巨大ユニット。
花みたいな形をした空母サイズの、動く武器庫みたいな装備。
その名も〝戦闘基地、ビスカムアルバム〟。
基地を連れて飛ぶという、まさに動く要塞。
見た目も花っぽいし、蝶みたいなスワローさんにはピッタリだと思う。
「私はビスカムアルバムを買おうかなあ」
するとアイビーさんが、興奮し始めた。
「みなさんお目が高いです! どれもロストテクノロジーが搭載されています! できればですが――スキャンさせてもらえないでしょうか!!」
「もちろん私は構わないです」
「わたしも、いいです」
「ボクも構わない」
「わたしは嫌」
「リ、リッカさん・・・・そんな」
アイビーさんが、悲嘆に暮れた顔で絶望した。
「じょ、冗談だって」
冗談だと訊いたアイビーさんの顔が パッ と輝いた。
リッカの冗談は、たまに慌てるよねえ。
私はさらにウィンドウを見ながら、アイビーさんに尋ねる。
「でも私達、何も考えず自分の強化につぎ込んでるけど、いいのかな」
「わたくし達の協力者であるみなさんが自分を強化なされるということは、わたくし達も強化されるということです。わたくしたちが『あーして、こーして』と言うより、皆さんの考えでどんどん自分が必要だと思う強化を行ってください。皆さんの事を分かっているのは、わたくし達ではなく、皆さんですから」
「現場主義ですねえ」
私は「ヨシッ」と猫のポーズでビスカムアルバム購入の決定ボタンを押した。
まあ今はダンジョンだし、メカを買っても活躍するのはもう少し先になるのかな。
こうして話を終えて、応接室を出てアイビーさんの部下に案内されていると、スマホが鳴った。
マイルズからだ。
私は、通話ボタンを押す。
「どうしたの、マイルズ?」
『お前、ステータスを確認してみろ。総合勲功ポイント3位になっているぞ』
「え・・・・3位?」
私は雪花で、自分のステータスを確認する。
ID:スウ
力:25
知力:58
敏捷:333
ステータス上昇:
原始反射加速50%
空間把握20%
筋操作(切り替え)20%
酸素消費量低下10%
記憶力拡大20%
集中力持続強化60%
思考加速15%
反射神経加速60%
筋力アップ 30%
筋操作(精密)30%
筋操作(速度)30%
頑強(骨)20%
頑強(筋肉)20%
称号:〖伝説〗、〖銀河より親愛を込めて〗、〖開放者〗、〖超空洞ダンジョンの踏破者〗
〖奇跡Ⅱ〗、〖暗視〗、〖強靭な胃袋〗、〖超怪力Ⅲ〗、〖第六感Ⅱ〗、〖超暗視〗、〖サイコメトリーμⅡ〗、〖念動力μⅢ〗、〖再生Ⅱ〗、〖飛行Ⅲ〗、〖超音波〗、〖マッピングⅡ〗、〖超聴覚〗、〖前進Ⅱ〗、〖味変化〗、〖空気砲〗、〖ショートスリーパー〗、〖テレパシーψ〗、〖洗う〗、〖超怪力Ⅱ〗、〖怪力〗、〖毒無効〗、〖人化〗、〖熱耐性〗、〖質量操作〗。
魔術:土属性
クラン:クレイジーギークス
所持機体:XFT-0 フェアリーテイル
WM-5 ホワイトマン
BAー1 ビスカムアルバム
クレジット 3275万c
勲功ポイント1578万p 総計3457万p/TOP3位
「あ! 本当だ・・・・勲功ポイントランキング・・・3位だ」
「え――ぬ、抜かれましたぁ」
アリスが崩れ落ちた。
そしてすぐさま立ち上がる。
「まあ私も、8位くらいに上がってる筈なんですけど」
「わたしもこの間100位以内に入ったぞー、今日の300万ポイントで大分上に来てるはずだー」
マイルズはスマホで話しながら、器用に拍手する。
スマホを、肩で支えてるのかな?
『おめでとう。ボクは祝福しているんだが、一人お前と話がしたいと言う人間がいて掛けさせられた。ほら、アレックス』
あ・・・5位の人・・・。
『畜生、畜生スウ!! お前、なんてヒデェことしやがるんだ・・・! あと閃光にも言っておいてくれやがれ、「お願いです。抜かないでください」と!』
「いや・・・流石にそれは無理ですよ・・・・私達も、自分を強化しないと駄目なんで」
『畜生、こんな事が許されて良いのか!! お前たちには人の心はないのか!?』
「そんなに勲功ポイントランキングって大事なんですか・・・・?」
『当たり前だ!! これが有るから俺たちは軍隊で特別扱いしてもらってるんだ。軍隊なのに、少々の無茶も訊いて貰えるんだ。他の軍隊の奴らと、しのぎを削ってるんだからな!』
「それは・・・そっちでやって下さい」
私が言うと、マイルズの声がした。
『Satisfied? It's time my turn.(満足したか? そろそろ代われ)』
アレックスさんの悲鳴のような声が離れていく。
『This so unfaiiiiii...r!!.(こんなのあんまりだあああぁぁぁ... !!)』
「マイルズも抜かれたくない?」
『ボクはそんな物に拘りはない。まあ、抜けるものなら抜いてみろ、ボクもここからは少し頑張らせてもらおうか』
「マイルズらしい」
『ボクもお前に貰った〖飛行〗を使ってダンジョンで戦っているが――バーサスフレームの武器を使えたりしないんでな、あまり攻略が上手く行っていない。まあ、こっちはこっちでやり方を見つけて頑張るさ。開放された「でかでかダンジョン」に、早速向かわせてもらう』
「うん、じゃあ会うかもね」
『その時はよろしくな』
「そういえば、ユーは見た?」
『いないだろう、アイツは飛ぶことにしか興味がない。〈飛行〉でもプレゼントしてやったらどうだ? きっと喜ぶぞ』
「うーーーん。ユーにプレゼントかあ・・・・そんな恐ろしいことする勇気はないなあ・・・」
『まあ、言ってみただけだ。ダンジョン踏破と3位おめでとう。では切るぞ』
「うん、またね」




