230 ちびっ子が強くなりすぎます
「おおお」と歓喜したリッカが、何かを読み始めた。表示されたアイテムの説明だろうか?
やがてリッカは、鞘を頭上に掲げて感極まったように歓声を挙げる。
「シュゲェェェ」
「良いものなの?」
私が尋ねると、リッカがヘドバンみたいに頭を上下させてから説明する。
「端的に言うと、壊れない鞘!」
「え、なにが凄いんだろう」
鞘が固くてどうするの?
『マイマスター、印石が出現したようです。〖超・食欲増加〗です』
私は速攻、印石の糸を切って踏み砕――かないで時空倉庫に入れた。
私が倉庫に腕を突っ込んでいると、リッカも腕輪を触って〈時空倉庫の鍵〉を開く。
「みてて」
リッカが私達に背を向けた。そうして、中から小太刀を取り出す。
「小太刀?」
私が首を傾げると、リッカが頷いた。
「うん。早く抜くのが目的なら、小太刀が良い」
「なんで・・・・? ――――――あーーーそっか。短い分、鞘からすぐ出るね」
私が納得すると、アリスが手のひらを拳で叩いた。
感動したように納得の声を挙げる。
「なるほど! そんな考えには至りませんでした! ――流石、沢山の達人の技を受け継いでいる流派ですね」
剣道家だから感動するのかな?
リッカはやっぱり凄い武門の子なんだなあ。
私達の気付かない事を知ってる。
リッカが、小太刀を鞘に納める。
「でも鞘の長さがあってないよ? ・・・それ普通の刀用の長さだよ」
「これでいい。長い鞘から短い刀が、素早く出てきたらどう思う?」
言われて気付く。
「なるほど――・・・・『もう出てくるの!?』って思った時にはズンバラリ・・・・――それは・・・怖いね」
「うん。精神攻撃は基本」
どこの基本ですか、それは。
「で、この鞘がすごいのは――」
リッカが〈時空倉庫の鍵〉から、一抱えは有るような金属の柱を〖怪力〗を使って取り出した。
そうして、柱から一歩離れて背中を丸めるような構えになった。
試し切り用? いつも柱を持ち歩いてんの? というか、え――まさかあんな太い金属を切るの!?
フェイレジェの刀とスキルが有るとはいえ、そんな太い金属を切るのは無理なんじゃ・・・・?
リッカが、私の心情を見透かしたかのように言う。
「ちなみに、この柱を切るのは初挑戦」
まって―――剣とか体が強化されたわけじゃなく、鞘が強くなっただけなのに、今まで切ったこと無い金属の柱を切るつもりなの!?
私が困惑していると、リッカが構えを取った。
―――なにあの構え。
顔が前を向いていない、丹田を見つめるような姿勢だ。
意味不明な構えに、私はリッカに思わず尋ねる。
「あの・・・敵を見ていないように視えるんだけど」
「視るな、感じろ。敵は丹田の水鏡に映される」
とうとうリッカの説明が、遠い場所に行ってしまった。
「アリス、意味わかる?」
「立花流の明鏡止水です」
あ、わかるんだ?
話に取り残された私は、ぽつねん。
寂しくなって、ちょっと命理ちゃんとティタティーの方ににじり寄る。
でも、あの理にかなっていない構えこそ理の結晶と思えてしまう――それが立花流。
リッカは一旦、静かに刀を抜くとそれを口に咥える。
そうして右手の上に、ビー玉程の水球を作り出した。
「水球? ――どうするの、それ」
リッカが拳を握ると、ビー玉程の水球が浮き上がりながら半分程度のサイズになった。
「え、水って圧縮しにくいんじゃなかったっけ!?」
「〖水作成〗をレベルⅢにしたら、ここまで圧縮できるようになった」
私はスキルを満遍なく上げてるけど、リッカは〖水作成〗だけを集中的に上げているんだよね。
ⅡからⅢにするには、コモンレベルの印石なら100個分必要だったらしい。
Ⅳにするには、200個分必要なんだとか。
ステータスアップに必要なポイント量の伸び方に、そっくり。
にしても今、あの小さな水には、どれだけの圧力が掛かっているんだろう。
圧力掛かりすぎて、水球が氷みたいになってる。
リッカは氷みたいになった水球を鞘に収めて、小太刀を鞘に収め直した。
「ちょ―――まさか・・・・」
私はリッカがやろうとしていることに、慄いて言う。
「そんな事したら、腕が吹き飛――」
リッカが鋭い息を吐くと、小太刀を抜く――いや、もう射出だ。
圧縮された水が開放される時に生まれる、とんでもない爆発で刀がはじき出された。
弾丸なんて目じゃない疾さに加速された刀が、リッカの操作により、見事に柱に刃を立てた。
すると、バター ――いや、液体のようだ。一抱えもある金属が溶けるように弾け飛んだ。
切断というか、もはや溶解。金属が水みたいに切断された。
「や、やば・・・」
「なん・・・」
私とアリスが、唖然とした声を出した。
でもリッカ、切断したのは良いんだけど、その刀をどうやって止めるの?!
――あんな勢いの刀を無理やり止めようとしたら、腕が引きちぎれない!?
私の心配を他所に、リッカは手首を回し、握りを緩め、手の中をスロープのようにして刀を回転させ勢いを受け流し始める。
刀がリッカの手の中でスピンを始める。ドリルみたいになってる。
・・・・ま、まじかお。
ドリルみたいな回転は、ゆっくりと勢いを無くして、やがて止まった。
あの勢いを殺しきったよ――この子・・・・。
あまりの見事さに、私が思わず拍手すると、アリス、命理ちゃん、ティタティーまで拍手を始めた。
ティタティーが感心する。
「ここまで凄い剣士は、ファンタシアでも見たこと無い」
リッカ、ファンタシアの人間でも勝てなくなっちゃったか。
そして、リッカが叫ぶ。
「痛ッたぁぁぁぁぁぁい!! 手の皮剥けたあああ!!」
あ・・・・やっぱそうなるよね? いくらなんでも。
というかパイロットスーツが無かったら、腕がもげてたよね?
私がリッカに近づくと、リッカから涙目が向けられた。
「スウ、早く治して! 超痛いぃぃぃ!!」
「あいあい〖再生〗」
私は、手を――触ったら痛そうなんで、リッカのほっぺをつまみながらスキルを使った。
リッカが焦げ臭いパイロットスーツに覆われた手を見ながら、呟く。
「―――これ、スウがいなかったら使っちゃ駄目だ」
「いや、威力を下げよう?」
こうして、リッカも人外な戦力になった。
リッカが、治った手のひらを〝グー、パー〟させてから、拳を握り込む。
「よし。〖水作成〗のレベルを上げて、もっと沢山圧縮できるようにするぞ」
・・・・ええ。
「・・・まだ威力あげるつもりなの・・・・?」
「この技はなんて名前にしよう」とかワクワクするリッカに、私は戦慄するのだった。




