229 ダンジョンをクリアします
命理ちゃんが膝をつく。しかし次の瞬間、命理ちゃんの体が逆再生のように元に戻っていく。
なるほど・・・〖祈り〗でギリギリ耐えて、〖起死回生〗で回復したのか。
――ということは、この後来るのは―――!!
命理ちゃんが立ち上がると、彼女の持ったレーザーからさらに猛烈な光が放たれる。
さっきより酷い余波にさらされる命理ちゃん。
またたく間に体が壊れていく。
まって、今度は〖祈り〗も〖起死回生〗も無いんじゃ!?
私はリーサル・ミノタウロスの頭が有った筈の場所に攻撃を集中する。
「――さっさと倒れろ!!」
すると、命理ちゃんの両腕が吹き飛んだ所で、
『最深部ボス アンドロ種 スーパーミュータント リーサル・ミノタウロスを討伐しました。ダンジョンを踏破しました。銀河クレジット500万、勲功ポイント500万を入手しました。称号〖超空洞ダンジョンの踏破者〗を手に入れました。効果:ステータスアップに必要なポイントを一段階、前のランクに戻す』
「―――ま、間に合った」
リーサル・ミノタウロスの討伐が完了した。
「危ないところだったわ」
「命理ちゃん、腕大丈夫!?」
「機械なのだから、心配は要らないわ。腕にはロストテクノロジーが無いし修理も可能よ――最悪の場合、一週間待って〖起死回生〗を発動させればいいわ」
「よ、良かった」
いやでも、〖起死回生〗の発動条件って死にかけでしょ? 勘弁して下さい。
「というか――〖再生〗!!」
「流石に機械には〖再生〗は無理・・・・。え――治っていくわ。流石スウだわ」
見事に生えてくる命理ちゃんの腕。あと他の部分も治っていく。
そういえば、バーサスフレームとかは〖再生〗できなかったのに、なんで命理ちゃんは〖再生〗出来たの?
・・・・あ、あれ?
「まって――胴体のロストテクノロジーまで治っていってるわ」
「ふぁ!?」
これには、アリスもリッカもビックリ。
「「えええ!?」」
「もっと早く試せばよかったわ」
「う、うん。そうだよね」
「これなら、ハイパー命理キックが放てるかもしれないわ」
「ハ、ハイパー命理キック?」
何じゃそりゃ、なんてこの時は思っていたのだけれど――このハイパー命理キックを私が最初に喰らう事になるなんて、この時は思いもよらなかった。
「スウ、当機は元々接近戦が得意なのよ――あとは高速戦闘」
「そうだったんだ? 接近戦と高速戦闘――私とアリスのハイブリッドみたいな組み合わせだなあ」
「それに昔は、真空回帰剣というのも持っていたのだけれど――星団帝国に奪われてしまったわ。あれが有れば、攻略も随分楽だったのに」
「今はどこにあるんだろう?」
命理ちゃんが残念そうに首をふる。
「わからないわ。それより、報酬随分入ったわね」
そういえばと、私は報酬を確認して、ビックリ。
「すんご。クレジットも、ポイントも500万入ってた」
称号も嬉しい。ステータスアップが、これからずっと半額になる感じだし。
「わたしは300万ですねえ」
「わたしもそんなもん。スウと命理、ずるい」
「ボクにも400万入った」
「ティタティずるい!」
「まぁまぁ、リッカ」
私がむくれるリッカを落ち着かせていると、イルさんがバグった。
『せ、せせ、せせせ』
「え、なに、どうしたのイルさん!?」
「うわ、ショーグンどうしたの!?」
「・・・・ダーリンも、様子がおかしいぞ・・・・ヒドラの毒でも受けたのか?」
リッカは三裂星雲でヒドラと戦った時に受けた毒が、結構トラウマになってるもんね。
ちなみにあの毒、ストレンジレットみたいな物質だったらしい。
――ストレンジレットって言うのは、辺りを侵食していく量子なんだって。ナニソレ怖い。
「カリギュレイターも変だわ」
『星団クレジット1000万が、手に入りました』
「え、星団帝国ユニレウスのお金!?」
「そ・・・そんなものどうしろって言うんですか?」
私とアリスが困惑。
私はイルさんに尋ねてみる。
「銀河連合で使えるの?」
『無理です、マイマスター』
「だ、だよねえ!?」
まあ、バグみたいなものらしいし・・・・手に入っちゃっただけかな。
「当機は昔、星団帝国ユニレウス人だったから、星団クレジットは結構持っているのだけれど。これが使えれば涼姫のヒモをしなくてよかったわ」
「気にしないでいいから」
私が笑うと、イルさんの声がまたする。
『宝箱が出現しました』
すぐさま反応したのは、リッカ。
「お! わたしのだ!」
「うんうん」
「どうぞ」
「そうね」
「うん」
私、アリス、命理ちゃん、ティタティーで頷いた。
むくれていたリッカが、ご機嫌になった。
リッカがファンタジーゲームに出てきそうな宝箱に、小走りで駆け寄って開けようとする。
不味い!
私はウカツなリッカを、急いで注意する。
「リッカ駄目!」
「え、駄目?」
「ダンジョンの宝箱を正面から開けるとか、何考えてんの!?」
「え?」
「毒針が飛び出してきたりしたら、どうするの!?」
「いやまて、スウこそ何を考えているんだ?」
「ダンジョンの宝箱と言えば、罠だよ!」
「は、はあ・・・」
「毒針、爆弾、毒ガス、テレポート、アラーム。ダンジョンの宝箱は本当に危ないんだから!」
私がプリプリしていると、リッカが諦めたような顔になった。
「じゃ、じゃあどうやって開ければいいんだ?」
「針なら後ろに回って開けるとかなんだけど。ここは私に任せて」
「お、おう」
私は野球の審判がするセーフのポーズで、みんなを後ろに下がらせる。
そうして、十分距離を取ってから。
「〖念動力〗」
遠隔で開けた。
良かったトラップは作動しなかったようだ。
「ふう」
私が額の汗を拭うと、リッカが震える声でお礼を言ってきた。
「あ、ありがとうスウ、助かったぞ」
リッカも危険性を理解してくれたようだ。
実に良いことだ。
「うん。あのまま正面から開けたら、危ないところだったね」
「お、おう」
なぜか顔を引きつらせながら、リッカが宝箱に向かった。
やがてリッカは宝箱を覗き込み、首をかしげる。
「鞘?」
リッカが宝箱の中から、黒い鞘を取り出す。
やがて何かが視界に表示されているのかリッカが選択するような仕草をすると、鞘が日本刀用の白い鞘になった。
私とアリスが、困惑する。
「さ、鞘?」
「剣じゃなくて、鞘ですか・・・・残念ですね」
二人で顔を曇らせたけど、リッカは目を輝かせた。
「おおお」




