221 レベル要素が発見されます
チートPTがメンバー変更が不能なのが分かると、アリスの心配そうな声がした。
「それは、人選は慎重にしないと駄目ですよね・・・? 一個しかそのパーティーはないんですから。チートな涼姫は固定として、わたしはどうなんでしょう?」
そこで命理ちゃんが静かに呟く。
「アリスは、涼姫が全力を出すのに必要」
「えっ」「あー」
凄まじい、二人の納得の声――え!? え!? どういう事!?
私は混乱のあまり、思わず命理ちゃんを振り返った。
「ア、アリスが私の保護者みたいじゃん!?」
「違うの?」
なるほど、反論の余地がない。
「ち・・・・違わない」
するとアリスが笑った。
「涼姫ちゃん、アリスママに存分に甘えて下さい」
「くっ」
「アリスは強いし」
「まあ、剣道三倍段っていうし日本一取ったんだから、日本で最強に近い女子高校生ではあるよね」
「なるほど?」
キッチン――ってほどじゃないけど、キッチンにいるアリスの声が回っている、首を傾げたのかな。
私は命理ちゃんに尋ねる。
「命理ちゃん、151階まで行くのは大変だった?」
「凄く凄く」
「当時の命理ちゃんって、ロストテクノロジーが十全に機能してたんだよね?」
「してたわ」
「当時の命理ちゃんが、そんなに頑張ってやっと行けた151階――他の人がたどり着けるのかな・・・・」
「わからないわ」
「とりあえず、いきなり乗り込んで大ピンチなんて事になったら大変だから・・・151階の様子を教えて」
「分かったわ――でもその前に、目的地が視えてきたわ。あの海の干潟に止まって。近くにある崖に洞窟が有って、その中にダンジョンがあるのよ――前にいつでも入れるようにしたのだけれど、当機の作った施設が全部壊れてしまっているわ」
私は頷いて、干潟に着陸。飛行形態だと難しい地形なので、人型にする――ちなみにワンルームが縦になるけど重力制御装置があるんで、アリスの料理が大変な事になったりしない。
もちろん、ワンルームを畳んだりしないし。
でも――
「う、埋まる!!」
流石に干潟にバーサスフレームは無茶な様で、地面に埋まっていく。
私は、フェアリーさんの足のロケット噴射の熱で地面を乾燥させる。
そうして、量子魔術で鉄の床を作ってその上に着陸させた。
飛行形態にして、足だけ出して着陸しておいた。
「とりあえず応急処置で」
「じゃあ、ご飯にしますか? 食べながら命理ちゃんの話を聞きませんか?」
「そうだね。イギリス料理楽しみ」
私がワンルームに降りていくと、エプロン姿のアリスがワンルームに料理を持って来ていた。
うさぎ柄のエプロンが可愛い。
「せっかくなんで、さっき涼姫が言っていたスコッチエッグも作りましたよ」
「ほんと!? 大好きなんだよね、あれ」
「特製デミグラスソースと一緒に召し上がれ」
「この短時間で、デミグラスソースを作ったの!?」
「作れるわけ無いじゃないですか。ウスターソースとケチャップと、肉汁を混ぜたものですよ」
「そんな方法が」
「はい。では二人共、手を洗って下さいね」
アリスの言葉に、命理ちゃんが嬉しそうにコックピットから降りて来た。
「わかったわ、ママ」
「命理ちゃん、そのネタ擦らないで!?」
私達はフェアリーさんのワンルームで、低いテーブルを囲んで食事。
私はアイリッシュシチューを一口。
これは薄味のビーフシチューという感じかな? ポトフとビーフシチューの間?
そこに黒ビールの苦味がある。黒ビール飲んだことないけど。
好みかもしれない。
セロリの味はするけど、それは香り添え程度で、焼きそばソースのセロリくらいにしか感じない。
肉は骨付きラム肉で、ホロホロ崩れていく。
「このお肉、すごい美味しい。やわらか~」
私が言うと、アリスが苦笑して「涼姫のキッチンに、圧力調理機能が有ったからですよ――なんですか、あの変形スーパーロボットみたいなキッチン・・・」と呆れていた。
・・・・ロマンじゃん。
私はさらにスコッチエッグを一口。お肉と卵って約束された相性じゃん、その結末が美味しくないわけ無い。
しかも外側はパン粉をまぶして揚げられている。揚げ物は美味しさ三倍段。
アリスの腕も良くて、卵がトロトロの半熟。
半分に切られたスコッチエッグに歯を入れると、下からは香ばしくサクサクな食感の後、肉汁が閉じ込められたハンバーグのような生地の中から旨味が溢れる。さらに上からは甘い黄金の黄身。
やがて、プリプリの白身が歯に存在感を残す。
口の中でソースと肉の旨味、黄身の甘みが一体になって約束された勝利の栄光を示した。
「味の凱旋パレードだ」
「なんですかそれ」
アリスは吹き出しそうになって、必死に押さえ込んだ。
フキンで口を拭っている。
淑女だ、アリスが淑女に変形なさった。
私は151階の様子を命理ちゃんに確認する。
「命理ちゃん、151階に危険な攻撃してくるヤツは見てないんだね?」
「というか151階は穏やかな感じの階よ。MoBすらほとんど居ないわ」
「なるほど、じゃあいきなり151階に飛んでも安心そうだね」
「そうね。ちなみに、ボスはだいたい10~20階区切りくらいで出てくるわ」
ボス、多そうだなあ。
「なるほど・・・・わかった」
アリスがウェルシュ・ラビットをサクサクさせていたのを置いて、フキンで口を拭いてから喋る。
アリスが淑女に完全変形してる、超合金だこれ。
『紳士淑女の国を経験した者だ。面構えが違う』
「かつて、ロストテクノロジーが全部使えた命理さんが手こずったんですよね? 命理さんから見て、わたし達がいきなり152階以降に挑んで通用しますか?」
命理ちゃんが、急に真剣な声を出す。
「正直な話をして良い?」
「はい」
「うん、お願い」
「無理」
アリスがやっぱりという風に頷いて、唇を噛む。
「涼姫でもですか?」
「大分マシだけど、厳しい。正直な話をすると、涼姫を除くクレイジーギークスのプレイヤーでの最高戦力、アリスやリッカは話にならない。151階は穏やかだから大丈夫だけれど、154階辺りで誰かが死にそう」
「そ、それは駄目!」
私が慌てるように言うと、命理ちゃんは心得ているという風に頷く。
「だから涼姫達にはレベルを上げて欲しい」
私とアリスは、有ったら良いなと思っていたのに無かった存在にビックリ。
「レ、レベル!?」
「レベルってなんですか!?」
ゲームではよく使われる概念だけど、フェイレジェには存在しなかった概念をいきなり言われて、私とアリスは困惑。
「スキルは、印石の欠片でレベルアップするのよ」
「「はい!?」」
私とアリスの声がハモった。
私は、前のめりに命理ちゃんに尋ねる。
そんな新たな新事実が、50層でやっとでてくるの!?
「え、なにその衝撃的事実。印石の欠片は、ゴミじゃないの!?」
「ある場所に行けないと、ゴミよ」
「そのある場所で、スキルは印石の欠片で強化できるんですか!?」
アリスの質問に、命理ちゃんは事もなげに続ける。
「そうよ」
この言葉に、印石を完全にゴミと思っていたららしいアリスは唖然。
「そんな・・・バカな・・・・」
命理ちゃんが、私に向き直る。
「涼姫、この後またちょっと飛んでほしいの。レベルアップできる場所に案内するから」
「う、うん。じゃあ今の座標を記録しとこう」
こうして食事を終えた私たちは、またフェアリーさんで飛んで――別のダンジョンに来た。
森に囲まれたそこは、穴のようなダンジョンではなく、なんだか時空のゆらぎのような場所だった。
「ここ、当機が攻略済みのダンジョンなのだけれど」
「攻略済みなの!? ・・・・一人で攻略しちゃったの!?」
「ええ、攻略済み――」
パネェ。さすが命理ちゃん。しかし、不穏な言葉が続く。
「――でもここは、生身の人間は長時間入らないほうがいいわ」
「どうして?」
「中が、まるで夢の世界なのよ。人間は囚われて、出てこれない可能性があるわ」
「出てこれない!? ――危ない場所なの?」
「そう、当機みたいなデータノイドかアンドロイドでないと多分攻略できないダンジョン。この最奥にあるの、印石をレベルアップさせる場所が」
アリスが〝まどろみの中で観る光〟のような、ダンジョンの入り口を見つめる。
「命理ちゃんもレベルを上げたんですか?」
「少しだけ上げれたわ。当時の当機には、沢山の印石の欠片を集める手段が無かったの。だから少しだけしか――でもこれだけが、この後のボスを一人で倒せる手段だったのよ。だから何万年掛かってでも、ここでレベルを上げて、アイリスのもとへ行くつもりだったわ」
私は命理ちゃんの必死な思いを感じて、思わず喉の奥が痛くなった。
「・・・・そっか」
「頑張ったんですね」
アリスも辛そうに眉尻を下げている。
「でも――」
命理ちゃんが、言って私の方を見た。虹彩が静かに回転していた。
「――今は涼姫がいるわ。涼姫が居るなら〖奇跡〗の力で、幾らでも印石の欠片を集められる。要らない印石を砕けば、すごい量になると思うの」
―――確かに!




