220 こちら専用チートとなります
「涼姫――当機ね、一人でここまでは来れたのよ。もちろん星団帝国が各層のボスを倒しておいてくれたからだけれど」
「1100年前の? ――うん」
命理ちゃんと出会って間もない頃、彼女からそんな話を訊いた。
というかじゃあ、命理ちゃんはこの50層のボスを一人で倒そうとしたの・・・?
いや、この先も全部一人で倒すつもりだったの? ―――この子、メチャクチャ過ぎない?
――それだけ、アイリスさんの事を思ってるんだろうけど。
「それでね――星団帝国がこの惑星のボスを倒せなかったのは・・・・当機は、〝もしかして〟っていう、理由を見つけたかもしれないの。1000年以上前だからおぼろげだったけど、それを今はっきり思い出したわ」
「そ―――そうなの!?」
とても大事な話じゃない? それって。
「二人共、着いてきて」
命理ちゃんが飛ぶ。――ロケットエンジンではなく〖飛行〗を使ったようだ。
「う、うん。じゃあ、アリス行こう」
「ですね」
私達は、三人で暫く飛んだ。1時間近く飛んだだろうか、それでも着かないんでフェアリーさんを使って飛ぶことにした。
操縦はもちろん私。
アリスは「二度と、スウさんの戦闘機を操縦しようなんて間違いはしませんよ」と言い切って、ワンルームでイギリス料理を作ってくれている。「ホットドッグだけじゃ足りないでしょう」って。
メニューは、イギリスパンのウェルシュ・ラビット(パンにたっぷりチーズと、マスタードを乗せて焼いたやつ。私とアリスの好きなものがここに合体)
ローストビーフ(キッチンでもできる版)。
アイリッシュシチュー(楽しみ)。
あとファンタシアで育てるのをおすすめしたのに、自分は食べたことがない(酷い話だ)「オーツ麦の料理が食べたい」というと、「わたしが好きなのは、オーツフレークですねえ」と言っていた。スコットランドで昔から食べられてきた、オートミールのフレーク版らしい。
「え、イギリス料理って色々美味しそうなのこんなに有るじゃん」って私が言うと。
アリスは苦笑して「美味しいイギリス料理を探したければ、『アイルランド 料理』、『ウェールズ 料理』、『スコットランド 料理』みたいな感じで検索するんですよ」とコツを教えてくれた。
なるほど、ユニオンジャックのユニオンは連合の意味でござったわ。
材料はもちろん、銀河連合から購入して転送。
アリスが料理を作っている間、命理ちゃんは複座で方角を教えてくれている。
「大分――風景が変わっているけれど、こっちのはず。あ、あの切り立った崖の間を飛んで」
「りょ」
結構無茶な場所を飛ばされるけど、そこは私の腕を信じてくれているのかな。
「ごめん、涼姫。当時の当機は歩いて風景を見ていたから、できるだけ低く飛んでほしいの」
「なる。おっけー」
できるだけ低空で飛んでいく――いや、そりゃ低空飛行は難しいんだけども――まあ戦闘速度で飛んでるわけでもなし、余裕。
私は、フェアリーさんの翼を最大に広げてゆっくりと飛ぶ。
しかも複葉機形態だから、超余裕。
命理ちゃんが風景を見回す。
「幾らチップに記憶があっても、これだけ風景が変わっていると探すのが辛いわ」
・・・そりゃ千年前だもんね、風景が様変わりしてるよね。言葉を受けて私は、命理ちゃんに返す。
「できるだけ低く飛ぶから・・・・頑張って」
「涼姫、ありがとう」
そこで私は、気になっていたことを尋ねてみる。
「ねえ・・・命理ちゃんは、ここのボスを一人で倒そうとしたの?」
「そうね。当時は、もうこの50層の下を目指す人はいなくなっていたから」
「じゃあ、たった一人で100層へ挑み続けたの?」
「そう。今プレイヤーにメインで攻略されているダンジョンも、85階まで有るのは確認したわ」
え、今攻略されている最深階が45階らしいけど・・・・?
「あっちは一体何階あるの・・・」
一ヶ月近く掛かってやっと45階なのに、最低85階とか深すぎない?
「分からない。当機は、85階まで確認したところで星団帝国の残党に掴まって封印されたから」
「なるほど――・・・そっか」
「ただね、多分なのだけど・・・・プレイヤー達が今攻略してる方は本命じゃないのよ」
「えっ?」
「スウと当機が今向かってる方が、本命な気がするの」
「つまり命理ちゃんは、今攻略されてるダンジョンに、この層のボスはいないって思うの?」
「その可能性は高いわ。だってさっき言ったダンジョンは151階まで確認できたから」
「なるほど・・・確かにそっちが本命のダンジョンの可能性は高いね」
「そう。そして当機とパーティーを組んでくれれば、涼姫達を一気に151階まで連れていけるわ」
「そういうことなんだね――でも助かるというか、最早チートじゃない・・・・――って待って、星の騎士団が45階まで攻略した方も、命理ちゃんとなら一気に85階まで飛べるの?」
「飛べるわ」
あ・・・、これ完璧にチートだ。
私達の会話が聞こえていたのか、アリスの声が聞こえてきた。
「わ、わたしも飛んで良いですか!?」
命理ちゃんが頷く。
「もちろん」
私は、命理ちゃんに尋ねる。
「それ、全てのプレイヤーを151階から始められるようにできる? ――例えば『私が151階まで命理ちゃんに連れて行ってもらって、今度は私が他の人をパーティーに加えて151階に連れて行って、連れてった人がまた他の誰かを』みたいな連鎖とかで」
「無理だと思うわ、パーティーリーダー登録した人だけが階層を登録できて、パーティーメンバーになれる人数は5人まで、メンバーの変更は不可。メンバーを交換したい場合、新しいパーティーを組まないといけないから、1階からになる」
「なるほど・・・・やっぱり無理なんだね」
完全に私達専用のチートかあ。




