217 義母、義姉との別れ
今日は二本立てです、このあとお口直しに日常回をいつもの時間に投稿します。
ある日の事、佐里華と折姫はとうとう借金取りの男に捕まり言われた。
「簡単に借金を返済する方法を用意した。と」
驚く2人に借金取りは説明する。
「フェイレジェにいい方法が有るのだ」と「ただしプレイヤーになれれば」だと話す。
運か不運か、2人はプレイヤー適性が有ったようで申請が通った。
「良かったじゃねえか!!」
「これでお前らは、借金からおさらばだ!!」
嬉しそうに手を叩く大柄なサングラスの借金取と、小柄なサングラスの借金取り達が今日は何故か凄く優しくしてくれるので、苦笑ながらも佐里華と折姫は笑顔を作った。
こうして自分たちもプレイヤーだと言う借金取りが白い練習機で、佐里華と折姫をハイレーン近くの人気のない丘へ連れてきた。
そうして佐里華と折姫は、借金取りが話した返済方法に青ざめた。
「頭を銃で撃ち抜く!?」
「そうそう。このフェイレジェって奴はさ、死んでも死なねぇんだよ。お前の今の体が死んでも、別のコピーが作られ、地球に送られるんだ」
「し、死なない? 本当ですか?」
「マジもマジ。俺もこの目で見たからな。つかほら、このサイトに書いてあるだろ?」
借金取りが佐里華と折姫に、フェイレジェの仕様を読ませる。
「で、お前らが死ねば今の体が残って、臓器売ったりさ。まあ体をそのまま売ったりでもいいけど、色々出来るって寸法よ」
「ただ、俺らがお前らを殺しちまったらBANってヤツになって今後に響くから」
借金取りが、二人に拳銃を渡す。
「これでよ、自分等の頭撃ち抜いてくれや」
「そしたらもう借金はチャラよ。お前らは明日から安心して暮らして行ける」
「な、なるほど・・・」
「ほ、本当なのかしら・・・」
「早くしろって」
「ちょっと引き金引けばいいだけなんだから」
小柄な借金取りが指でっぽうを作って、自分のこめかみに押し当ててグリグリと回した。
借金取りのイライラとした様子に、佐里華と折姫が震えながらこめかみに銃口を当てる。
だが、震えて引き金が引けない。
余りにも恐ろしくて、二人は涙を流し始めた。
そんな二人を見て、借金取りが大きな声を出す。
「早くしろ!」
◆◇◆◇◆
時は少し前に戻る。
その日の放課後、涼姫とフーリは一緒に帰っていた。
七里ヶ浜駅で電車を待つフーリはスマホの電源を切ろうとした。――その時だった。
彼女のスマホが揺れた。
「誰かしら・・・・丞島? ――何かしら・・・?」
「執事さん? そういえばあんまり顔を見ないね」
「ええ。最近車での送り迎えを断ってるから」
「私と帰るために?」
「そうね――」
嬉しそうに顔を溶かす涼姫の横で、フーリが通話を始めた。
すると、フーリの表情がみるみる険しくなる。
「フーリ?」
涼姫が呟いて訝しがっていると「わかったわ」と、フーリが通話を終えた。
「言うべきかしら・・・いえ、言うべきね・・・・スズっちさんには言うべきだわ」
「私に言う? ――どうかしたの?」
「貴方の元・義母と元・義姉の事なのだけれど」
「え、義母さんと義姉ちゃん?」
「そう。あの人達、あまり良くない所にお金を借りちゃってね。最近スズっちにお金を集ろうとしてたのよ。それを私やアルカナで何度か止めたわ」
「そ・・・そうだったんだ?」
「ごめんなさい、勝手な判断をして。でもスズっちさんは優しいから・・・あの二人にまた貴女が傷つけられるのは・・・私、見たくなかったの」
「う、うん。大丈夫・・・・フーリは私のため思ってくれたんでしょ」
「そうだけれど・・・勝手なのは変わらないわ――それで、あの二人に監視を付けさせていたのだけれど。今日はちょっと様子が可怪しいらしいの」
「可怪しいって、義母さんと義姉ちゃんに何か有ったの?」
「ええ。高利貸しとハイレーンの海の反対側にある丘へ向かったんだとか。高利貸しは銃を持っていたそうなの」
「まさか・・・! 義母さんたちを殺す気!?」
「あり得るかも知れない」
「なんでそんな事!」
「分からないわ」
「フーリ、私すぐにハイレーンに向かう、ごめん!」
「スズっちさんは、やっぱりそういう選択をするのね。見てる私が辛くなってしまうけれど・・・・でもそういうスズっちさんだから・・・私は好きなのだし――うん、急いだほうが良いかも知れないわ」
「行ってくる! ――来てフェアリーさん!」
叫んだ涼姫が〖飛行〗を使ったのだろう、空へ上昇していった。
フーリが少しため息を吐いた。
「地上で待っているのも、もどかしかったのね―――」
空中でフェアリーテイルと合流した涼姫は、すぐさまハイレーンへ。
そうして、ハイレーンの海の反対側にある丘まで来ると〖マッピング〗を使用。
人間らしき青点を3つ見つけて、すぐさまその上空へ。
そうして涼姫は、降りていった。
◆◇◆◇◆
こめかみに銃を押し付けた佐里華と折姫に、高利貸の男が怒鳴る。
「早くしろ!」
すると、高利貸の男の後ろから、
「何してるんですか」
底冷えするような低い声がした。
借金取り達が振り向くと、そこにはカーリーヘアの少女が立っていた。
目に光が無い。瞳孔がまるで黒い穴だ。
「あ、なんだテメェ?」
涼姫はこめかみに銃口を当てた義母と義姉を見て、声を張り上げた。
「私の義母さんと、義姉ちゃんに何してるのかって訊いてんだよ!! さっさと答えろ!!」
涼姫の「義母さんと、義姉ちゃん」という言葉に、目を見開く、佐里華と、折姫。
涼姫が足を地面に叩きつけると、なんと地面にクレーターが出来た。
驚いた借金取り達が、思わず銃を懐から出して構える。
「ど、どっかいけ、テメェ!!」
借金取りが思わず発砲してしまった。だけど引き金を引いた瞬間、銃口が逸れる。まるで、何かに横から弾かれたように。
「答えろ、何をしてるんだ。何をするつもりだったんだ」
涼姫が一歩踏み出す。高利貸二人がたじろぐように下がった。
「な、なんだこのガキ。何をした!?」
「イルさん、こいつら痛い目に合せても大丈夫だよね? うん、悪いことしようとしてたんだもんね、大丈夫殺さないよ、死なせるわけ無いじゃない。まあ殺すならファンタシアに連れて行こうか、あそこならこういう悪人を殺しても問題ないだろうし」
「何をブツブツと、お前が死ねや!!」
涼姫が右手を前に突き出し、何かを握る仕草をした。
高利貸達の体が浮いて、その首に指の跡が浮かぶ。
拳銃が見えない強力な力に、無理やり奪われる。
「スキルもない人が、私に敵うとでも――?」
涼姫が何かを地面に叩きつけるように上半身を振ると、借金取り達が硬い地面に激突した。
「答えろ。義母さんと、義姉ちゃんに何をしようとしていたんだ?」
「このアマ・・・・女のくせに!!」
「まだ分からないのか? お前達の命は私が握っているんだって」
再び涼姫の腕が、何かを持ち上げるように動いた。次いで、振り下ろし地面に叩きつけるようにする。
高利貸し達が地面に叩きつけられ、呻く。
「し、しぬ・・・」
「ああ、大丈夫ですよ貴方達は死ねません。むしろ死ねるなんて、甘いこと考えてるのか? ――〖再生〗」
暴れる借金取りの足が、何かの力で拘束される。
その足に涼姫が触れると、借金取り達の傷が瞬く間に消える。
傷が治ったことに震える借金取り達。
「気が向いたら答えて下さい。―――尋ね続けてあげますから、何度でも、何度でも、何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも――」
漆黒の穴のようになった目が、高利貸し達を見つめる。
涼姫は高利貸しを持ち上げては地面に叩きつけ、持ち上げては地面に叩きつけを繰り返す。
そして男たちは、鼻が折れても、歯が折れてもすぐに回復されて、また叩きつけられる。
何度も硬い地面に叩きつけられ、流石に大の男も泣きを入れる。
「わ、分かった、話す!! 話すからもう止めてくれ!!」
涼姫が、借金取りを見もせずに手を開いた。
高利貸しが適当に落とされて、尻もちを着く。
「さあ、話して下さい」
「ゴホッ――ゲホッ」
「こ、ここFLだとプレイヤーは死なねぇんだろ? 死んでも体をコピーして生き返られるんだろ? なら死んだ体から臓器や目玉が取り出せるじゃねえか。だからあの女どもに自殺させて」
涼姫が、再び足を地面に叩きつけた。
地面に再びクレーターが出来上がる。
「お前、今、なんて言った―――ッ!!」
凄まじい激昂。
羅刹でもまだ、今の彼女よりは優しい顔をしているんじゃないかという、憤怒の表情。
借金取りたちが、震え上がり竦み上がる。
涼姫の咆哮が借金取り達に放たれる。
「死ぬんだよ!! コピーは本物と違うだろうが!! ――そんな事も分からないから馬鹿な事をしようとするんだ!! ――お前らが死んで、自分の臓器でも売ってろ!!」
涼姫が地面に転がっていた借金取り達の銃を投げて、高利貸したちに叩きつける。
高利貸しが銃を顔面に受けて、唇を切った。
涼姫はこの傷を治す気がないようだ。
「ほら、お前らが、死んで試せばいいだろ!! 頭を撃ち抜けばコピーが作られるかを!!」
穴のような涼姫の目が借金取り達を見つめる。そこから感情は読み取れない。
だが、目から表情なんか読めなくとも、彼女の激怒は明らかだ。
「はやくしろ!!」
涼姫が空中に鉄球を作って、それを借金取りにぶつける。
「ぐぇ――っ」
「ごぇっ」
「〖再生〗してやる。ほら、はやくしろよ!!」
何度も何度も、鉄球が飛んでくる。
借金取りたちが涼姫に殴りかかろうとしても、両足がなにかに掴まれているようで立ち上がることも出来ない。
痛みに耐えかねた、借金取り達がとうとう震える手で拳銃を握った。
そうして震えながら、こめかみに銃を当てた。
涼姫が静かに告げる。
「ちなみに教えてやるよ、そんな方法を用いても、お前の死体は消されてしまうだけだ。 そして、お前らには死が訪れる。確かにお前らの完璧なコピーはできるが、今ここにいるお前らに未来はない。FAXのコピーの様なもんなんだよ。コピー先に同じ内容の紙はつくられるが、作られた紙は本物じゃないだろう。そして送信元の紙を破くような行為をお前はしようとしている」
「「―――っ!?」」
高利貸し達の顔が、青ざめた。
「ま、まってくれ、助けてくれ!!」
「お前らは私の義母さんと、義姉ちゃんを殺そうとしたんだぞ!!」
「し、知らなかったんだよ!!」
「許してくれ!!」
涼姫がため息をつく。
その体が縮んでいくように、高利貸し達には見えた。
まるで巨大な熊から空気が抜けて、人に戻るような光景に。
「で、なんで2人を殺そうとしたんです」
「しゃ、借金が有るんだよその2人には!」
「俺たちは借金取りだ。お前が払ってくれるってんのか!?」
「幾らですか」
「1180万だ」
「結構ありますね、元はいくらですか」
「・・・500万」
「まさか貴方たち。トイチだろ、それ!」
「・・・・そ、そうだ」
「完全に違法じゃないか!」
高利貸し達が黙り込む。
「法定金利なら幾らですか」
「520万くらいだ」
「借金は私が返してあげます。ただし、ウチにはお金に詳しい経理がいますんで、きちんと法律に則った返済方法で返させてもらいます」
「・・・・ぐっ」
「チッ――」
小男のサングラスが舌打ちしたので、大男のサングラスが慌てる。
「おい、コイツをあんまり刺激するな! ――もうあんなのと揉めるのは御免だ!」
「わ、わぁってるよ!」
「じょ、嬢ちゃんそれで良い」
「じゃあ、連絡先を教えてください」
借金取り達が去ったのを見て、佐里華と折姫が涼姫に駆け寄ってくる。
「涼姫! ありがとう涼姫!!」
「涼姫、義母さんが間違ってたわ!!」
涼姫は、佐里華と折姫に振り返ると首を振って一歩下がって、ため息を吐いた。
「私も色々有って、ちょっとは成長したんです。急に調子のいいこと言わないで下さい」
酷く他人行儀な言葉に、佐里華と折姫が驚く。
「え・・・・」
「涼姫・・・・」
以前の涼姫ならこういう時、なんだかんだ言いながらも二人に阿る感じだった。
なのに一歩引いたのだ。
「なんであんなのから借金したんですか」
「お、お店を建てて」
涼姫が沈痛な面持ちで額を抑えて、俯いて首をふる。
「なるほど・・・・大体の話が見えてきました。そのお店は畳むこと」
「そ、そんな!!」
佐里華は嫌だと返した。
「調子悪いお店なんでしょう、そんなの抱えていても仕方ないでしょう」
涼姫の諭すような言葉に、佐里華は素直に頷くしか無かった。
「はい・・・」
「で、まだ借金が有るんでしょう? だから簡単には畳みたくない」
佐里華は気まずそうに頷いた。
「まずはお店を畳んで借金を返すんです。で、足りない分は私が返済してあげます」
「涼姫!!」
「ただし、きちんと私にもお金を返してもらいます」
「え・・・・」
「そうしないと貴女達はまた同じことを繰り返すでしょう。これは、貴女達の為です」
「「・・・・」」
「返事しないと、立て替えてもあげませんよ?」
「は、はい!」
「あとね、お父さんの通帳のお金を使い込んだみたいだけど・・・・それ贈与税が掛かるの知ってる? 家族でお金を融通する形でも、1年に融通できる上限があって、義母さんたち完全に上限を上回ってるから、そっちに請求が行くから」
「えっ!? そ、そ、そうなの―――!?」
「そうだよ」
「でも、そんなお金どこにも・・・・っ!」
「無いなら立て替えるけど、これもあとで支払ってね」
佐里華が、膝から地面に崩れ落ちる。
「じゃあ、ウチのすごく優秀な経理を送るんで・・・・は~~~」
涼姫が、再びため息を吐いた。
佐里華の打算的な脳みそが素早く回転する。そして涼姫に尋ねた。
「あの・・・・涼姫、ウチに戻ってこない? 親子としてもう一度やっていきましょうよ!」
「そうすれば贈与税は免除されるのでは?」「そうすれば涼姫ならもしかして、借金の立て替えの返済を免除してくれるのでは?」「それ以上もあわよくば―――」
そんな考えが、脳内を巡っていた。
しかし涼姫は眉をひそめ、首を振って目を細める。
「いえ、止めときます。私にはもう帰る場所が沢山あるんで、間に合ってます」
そう言って、体を浮き上がらせ冷たく続けた。
「では、もう二度と会うこともないでしょう。さようなら」
「涼姫・・・・!」
「涼姫、ちょっとまっ」
瞬く間に空の彼方へ消えた涼姫には、二人の声はもう届いていなかった。
涼姫は暮れかけた空を、月を背に飛んでいた。
悲しいほど聡明な涼姫は、元・義母が「やりなおしましょう」と言った時の考えを、正確に見抜いていた。
「あんな事、言いたくないのに」
涼姫は鼻を鳴らして、涙を拭いて飛んでいた。
本当は一緒に暮らしたい。
だけど、もう無理なことが分かっていた。
寂しがり屋の涼姫が、一人で暮らしていて寂しくない訳がないのだ。
だけど今は、リイムやアルカナがいてくれる。
それにアリスやリッカ、フーリやチグやカレンやミカンもいる。
もう大丈夫だ。
自分が居たらきっとあの義母と義姉は、また駄目になる。
だから、心を鬼にするしかなかった。
涼姫は一人、空で揺れながら口ずさむ。
「〽Rock a bye baby, on the tree top,(赤ちゃんゆらゆら 木の上で)
When the wind blows, the cradle will rock.(風にゆうらん ゆりかご ゆめみて)
When the bough breaks, the cradle will fall.(こぬれ折れたら よるべなく)
And down will come baby, cradle and all.(折れたらおちるよ あいのかご なにもかも)」
寂しそうな歌声は、遠くの空に消えていった。




