211 旅客機に乗ります
◆◇◆◇◆
シャドウ・サークルがあれば、とりあえず「ビジィとヘッドオン連発で、互角には戦えたかな」なんて結論で、普段の生活に戻った。
それで学校が始まって2週間が経った最近、フライトシミュレーターにハマってる。
「旅客機はやっぱ操縦がだいぶ違うんだなあ」
なんて思っていた。ところがこのシミュレーターのせいで、あんな事に巻き込まれるとは思ってもみなかった。
現在、私達は空の上で、覆面した人達にアサルトライフルの銃口を向けられている。
以前デカジャガを渡した国に招待されて――というか「行きたくない。旅行、嫌」と渋る私に、向こうの国の高官さんが土下座する勢いで頼み込んでくるから、渋々旅客機に乗った。
あんまりお金のある国ではないので、普通の旅客機。
私は、アリスに頼み込んで一緒に来てもらった。
するとみずきも「わたしも行く!」と主張してきたので、一緒に行くことになった。
もちろんアルカナくんも一緒。
そして、8時間ほど飛んだ辺りで事件が起きた。
「手を上げろ!!」
英語と、どっかの国の言葉でそう言われた。
え・・・これってハイジャック?
客室に座っている乗客全員が、素直に手を挙げる。
「頭を下げて、前のシートに押し当てて頭の後ろで手を組め!!」
全員、言われたとおりにする。
もちろん私とアリスもみずきも。
座っている位置は、窓際にアリス、そのとなりに私、私の後ろの席にアルカナくん、通路を挟んでみずき。
〔二人共、〖超聴覚〗を〕
私の言葉に、二人はただ頷いて返す。
私は〖超音波〗を使って、〖超聴覚〗を持ってる二人にしか聞こえない高音で喋る。
ちなみにアルカナくんも人間に聞こえない声が聞こえる。流石、フクロウのアニマノイドさん。
『アリス、みずき、アルカナくん。何かあったら、まず私がスキルで仕掛けるから』
アリスも超音波で返してくる。
『やるつもりなんですか?』
『何かあったらね』
2人が、ただ頷いて返事をした。後ろでアルカナくんが頷いた気配がした。
〈時空倉庫の鍵〉と〈時空倉庫の鍵・大〉は、持ち込めていない。
あの中には銃器など様々な物が隠せるのは周知の事実なので、保安検査で駄目って言われるのは分かっているので、旅行鞄の中に入れた。側にない。
〈時空倉庫の鍵・大〉はどうやら世界中でも私とアリスしかもってないけど、私の生配信で存在は知れ渡っているし、そもそも持ち込む気もないので鞄の中。
魔術の発動体もない、鞄の中だ。
つまり今、私達あるのは、スキルとステータスと、素の能力のみ。
「全員危険な物を持っていないか、身体検査だ」
この区画にいるハイジャック犯は4人。
前方に2人、後方に1人立って見張り。残りの1人が乗客の身体検査をし始めた。
「おい、立て!」
順々に乗客の体を叩くようにして、調べていくハイジャック犯。
「次はお前だ」
私も立たされる。腕を、頭の後ろで組んだまま立った。
私の体が下から叩かれていき、
「おいおい、こいつは危険だなあ」
ハイジャック犯は、そう言って私の胸を揉み始めた。
嫌悪感が、私の背筋を走り抜ける。
アリスが顔を真っ赤にして震えている。多分怒っている
「アリス、いいから」
私は言ったけど、みずきが我慢できなかったらしい。
私の視界には、ハイジャック犯の体でみずきは入っていなかった。
ハイジャック犯が、突然力を失ったように崩れ去る。
みずきが、不思議な足払いをしたんだと思う。
前後に控えていた2つの銃口が、一斉にみずきに向く。
さらに後ろにも我慢できなかったちびっ子がいたらしく、アルカナくんが、シートに飛び上がって飛び石のように渡ってシートの上を走っていく。
「わたくしの主にこの狼藉、五体満足で済むと思うなッ!!」
いや、流石に五体満足のままにしてあげて。
アルカナくんが〝主呼び〟なのは、ハイジャック犯に本名をバラさないようにしてくれてるんだろう。
乗客が悲鳴を挙げる。みんな体をより低くした。子供を抱きしめている女性もいる。
みずきは転んだ男の銃を奪い、椅子を盾に体を隠すけど、男たちが銃を構えている。不味い――
「〖念動力〗! ――」
私はハイジャック犯達のアサルトライフルを、上へ向けさせた。
アルカナくんが、前方のハイジャック犯の一人を蹴り上げた。
私は二人と、お客さんに話す。
「こうなったらやるよ!! please hold!」
私が叫んで、倒れたハイジャック犯を指さして、ちょっと良く分からない英語で言うと、アリスがちゃんとした英語で叫ぶ。
「Somebody please hold that man down!!(誰か、その男を押さえつけて下さい!!)」
私達の後ろの席の男性客の一陣が、急いでハイジャック犯を押さえ込んだ。
「Thank you!! ありがとうアリス!! 〖念動力〗〖超怪力〗!」
私はハイジャック犯達のアサルトライフルを、念動力で奪う。
ハイジャック犯達が、よくわからない言葉で叫ぶ。
アサルトライフルを取り返そうとしているが、私がそんな事はさせない。すると前方のハイジャック犯たちは、ナイフを取り出した。
そうして側にいた子供を引き寄せて、その喉元にナイフを突きつけた。
私は怒声を放つ。
「お前って奴は!!」
私は彼らの事を何も知らない。
私はただ迫る火の粉を払おうとしているだけだ。
だから、彼らにも理想が有るかもしれない、
だけど〝それ〟はない。
「お前の目指す何かに、お前はそれで顔向けができるのか!!」
私は容赦する気がなくなった。どんな理由で凶行に至ったのか知らない。
だけど、どんなに綺麗なお題目を立てても、―――いや、綺麗な題目であれば綺麗な題目であるほど、こいつはその理想に似つかわしくない。
「〖念動力〗〖超怪力〗!!」
私はナイフの刃をへし折る。
〖飛行〗! 〖前進〗! 〖超怪力〗! 〖怪力〗! 〖念動力〗!
乗客は、みんな姿勢を低くしている。
私は、彼らの頭上を飛んでハイジャック犯に急接近。
青ざめる男の顔面を掴んで、
「お前の理想に謝罪しろ!! 〖空気砲〗!!」
スキルをまともに食らわせた。
気を失うハイジャック犯。このスキルは、本当に人間を気絶させるのに丁度いい威力が出る。
後ろでは「〖重力操作〗!」「立花放神捨刀流――稲妻落とし!」
と、ジャンピング・直下式ブレーンバスターみたいな技をみずきが放っていた。
あんなちびっ子が、大男を抱えて50センチほど跳び上がる姿は若干のホラー映像。
だけどみずきが一人気絶させた事で、この区画のハイジャック犯は沈黙した。
乗客から拍手が巻き起こるが、まだだ〖マッピング〗を使えば、となりの客室にもハイジャック犯がいる。
というか〖超聴覚〗で、走ってきているのが分かる。
とはいえ〖念動力〗を使えば相手になんかならない。
他の乗客の協力もあり、私達はハイジャック犯達を、難なく取り押さえていった。
そもそも、みずきとアルカナくんだけでも恐ろしい戦闘力があるから銃を失ったハイジャック犯なんて相手ではなかった。
全員を撃退すると、乗客の男性がハイジャック犯達を服で縛り上げた。
しかし問題はまだ終わっていない。
客室乗務員の女性が、暗い顔で私に告げる。
気丈には振る舞っているけど。
「はい、コックピットも占拠されています。どうやら透明になって潜んでいたようで。本来コックピットには客室側からは侵入できないんです。爆薬を使ってもコックピットのドアは開けません」
「開け方を教えてもらえれば、アリスと私で開けられるかもしれません。透視と手を触れないで物を動かす力を持っているんです」
「それは・・・・。本当にプレイヤーの人は、なんでも有りですね」
すると、みずきが頭を振って私とアリスを指さした。
「いや、これが特別おかしい。これも大概おかしい」
みずきに、これ呼ばわりされた。




