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209 必殺技を考えます

◆◇Sight:三人称◇◆




 涼姫は、神奈川の家で湯船に浸かりながら考えていた。


「ブーン」


 涼姫が飛行機の模型を手に持って飛ばす。

 ちなみに涼姫は、普通の女子高生――というか高校生がお風呂に玩具を持ち込んで遊んだりしないというのを知らない。


 子供の頃からの行動だが誰にも指摘されないし、友達から情報も得ていないので、今でもこの通り湯船に入ったら玩具で遊びだす。


 ただ、今日はちょっと様子が違った。


「ビジィに勝てなかった――あの時、普通にドッグファイトで勝つなら、どうやればよかったんだろう?」


 遊びではなく、研究の時間になっていた。


「そうか、ドリルドローンで牽制したりも出来たなあ。あと、ヨーヨーをくっつけてとか」


 そこでふと、助平の顔が浮かぶ。

 彼の言っていた言葉「必殺技の一つくらい持っておくべきだ」。


「必殺技・・・か。――ちょっと考えてみようかな」


 ほぼフルスクラッチで作ったフェアリーテイルを手に持ち飛ばしながら、その特性を考える。


 涼姫は模型を動かしながら、空気の線を思い浮かべた。


 さらに水に沈めて、水の流れを見ながら流体力学を試したり。

 ちなみに涼姫はこういう事も想定していたので、模型は水に沈む素材で作った。


 お風呂に付いたジャグジー機能をオンにすれば、精巧なフェアリーテイルの模型が、精巧に流体を可視化させる。


 ちなみにジャグジーのお陰で、今ならカメラが湯船を上から映しても、涼姫の裸は視えないので安心だ。


「うーん・・・・やっぱ得意なハイ・ヨーヨーの変形――ん?」


 涼姫が主翼から伸びる、妙な動きをしている泡を見つけた。


 涼姫はその理由を、しばし考え込む。


「なんで・・・・。――あ・・・そうだった、前進翼は主翼の根本に乱気流が発生するんだっけ。だから地球の前進翼機は水平尾翼が無かったり、小さかったりする。――でもフェアリーテイルはこの乱気流を普段はエンジンのインテークから吸い込んじゃうから、大きめの水平尾翼を持てるんだよね。以前サーバント・キューピィと戦った時はこの風を水平尾翼に当てて、高速回転してみた」


 涼姫がお湯から模型を取り出して、宙返りさせてみる。


「尾翼を失速させれば素早く尾翼が沈み込む。さらにカナード翼も使って回転。推力偏向ノズルも全部上に向け、主翼の動翼を全部下に向ければ、相当な速さで回転できる。ちょっと主翼が折れないか心配な機動だけど。1、2回なら大丈夫だよね?」


 涼姫が、フェアリーテイルの機首を真上へ向けた。


「そして上を向いたまま相手の後ろ方向に、弧を描くようにバレルロールすれば、一瞬で相手の後ろを取れるね――これがあればビジィにも勝てたかも知れない。バレループと呼ぼう・・・アリスにまた名前突っ込まれそうだけど」


 そこで、お風呂の外からアルカナの声がした。


「涼姫様。バスタオルとお着替え、こちらに置いておきます」

「ありがとー」


 もう、ほぼ毎日アルカナがこうして着替えなどを持ってきてくれているのだが、研究モードに入った涼姫の明晰な脳が、彼女にとある事実を気づかせる。


「あれ? アルカナくんって、毎日私のパンツとか持ってきてる?」


 その後叫び声を挙げた涼姫の風呂場に向かって、護衛であるアルカナが職務を全うする事になるが、ジャグジーが掛かっていて良かった涼姫なのだった。


「ま、まあ。アルカナくんは小学生くらいだからノーカンノーカン」




◆◇Sight:鈴咲 涼姫◇◆




 必殺技の構想は出来た。


 とはいえ、かなり難しい機動なので練習しないと駄目。


 私はハイレーンの海の上の空で練習。


 すると早速事故。


「やばっ! スナップピッチとスナップロールを同時にしたら、背面でスピンした!」


 私は慌てて姿勢制御――駄目だ間に合わない!!


 生まれて初めて墜落しました。


「ちゃんと海の上で練習してよかった」


 人型にして上昇。


「流石に右主翼と尾翼を、同時に失速させたら不味いか・・・。そりゃ、右主翼と水平尾翼を同時に失うようなもんだもんね――それにスナップロールのタイミングも難しいし・・・これは相当練習が必要になるなあ・・・・VRの3倍の時間でやろう」


 その後、私はVRで寝る間も惜しんで機動の練習。


 VRの外でも常にバレループの事ばっかり考え続ける。


 食べる時も、お風呂の時も。夢にまで見た。


 だけど、一週間経っても成功しなかった。


 ある日のお昼の事。

 朝にお弁当を作るのが間に合わなくて(明け方からVR訓練に打ち込んでいたとか言えない)。


 お昼ごはんを売店で卵サンドにするか、ハムサンドにするか、サラダサンドにするか、三択ブーストならぬ――三択トーストに悩んでいると、アリスから着信があった。


「あ、アリスだ・・・学校だといつもは直接会いに来るのにどうしたんだろう?」


 私が通話ボタンを押す。

 するとアリスが震えながら言葉を発した。

 その内容に、私は驚く。


「え・・・っ。スナークさんが撃墜された!?」

『そ、そうなんです!! それで海に落下して、転送もされてなくて、復活にもなっていないみたいですから生きているはずなんですが、姉さんの墜落した辺りの上空に、姉さんを撃墜したMoBがずっと居座っていて』

「そ、そのMoBを倒さないとスナークさんを助けられないんだね!?」

『そうなんです・・・・しかもドミナント・セレーナという飛行機みたいなMoBらしくて! スウさんあの・・・』

「今すぐ行くから!」

『お願いします!』


 私は、フェアリーテイルを呼んで、事情を担任に話して早退を告げる。


「そうか、八街のお姉さんが・・・・。そうだな・・・生徒にこんな事を言うのもあれだが――お前にしか手に負えないんだろう。分かった、行って来い。しかし危なくなったら逃げるんだぞ」

「はい!」


 そうしてフェアリーテイルが降りてくるまでに、情報収集。

 もちろんアリスも一緒に行くので、隣でショーグンを待っている。


「なんで、〝あの〟スナークさんが撃墜されたの・・・? スナークさんって相当強いよね?」

「今日は姉はデルタエースに乗って、ソロで47層にスキル集めに行っていたらしいんです。そしたら飛行機みたいなMoBドミナント・セレーナに出会ってしまったんです。このドミナント・セレーナというのが、こちらの未来を読むらしくて」

「こちらの未来を読む――なるほど」


 そりゃ勝てないわけだ。

 というか、私にも手に負えない可能性がある。

 どうやって勝てば・・・・でも、今はとにかく急行しよう


 フェアリーさんと、ショーグンが降りてきたので、私達は48層の海洋惑星に急行。

 その惑星の様子を見て、私はドン引く。


 今は夜側なんだけど、海が渦だらけなのだ。


「こ、これ・・・・スナークさん生きてるの?」

『生きてます。姉は配信中です。今、岩場に引っかかっています。でも、パイロットスーツがあるので呼吸とかは問題ない筈です』

「な・・・・なるほど」


 あんな海に潜ったら、私なら怖くて泣いちゃう。

 いや、スナークさんも女の子なんだ、泣いてるかもしれない。


 スナークさんの配信を点けると、カメラは海の上だった。


 ドローンが激しい渦から逃げてきたのだろうか。


 早く助けてあげないと。


「にしてもセレーナは・・・どこ」

『ス、スウさん、後ろ!』


 後ろ? 

 振り返れば、黒い飛行機の様なモンスターが。


「あれが、ドミナント・セレーナ!?」


 相手は、本当に飛行機みたいに後方へ炎を吹き出しながら、動翼で方向転換してる。

 まるで、黒のデルタ翼機だ。


 飛行機らしくないのは、後方に尾が有ることくらいだろうか。

 奴はさらに口から、弾丸のような物を吐いてくる。


 奴の頭上には◤ハーピィ種、ハイパーミュータント。ドミナント・セレーナ◢の文字。


 ハーピーのセレーナ・・・・Celaeno(ケライノー)の事?


 私は弾丸を躱しながら、ハイ・ヨーヨー。


「駄目だ。完璧に付いてくる!」


 これが、未来を読んでるって事?


 アリスはショーグンで追いかけてくるけど、高速戦闘に不向きな人型機だから追いつけないみたいだ。


 アリスは最初アフターバーナーを使って、スワローテイルみたいな加速でセレーナに近づいて斬り掛かったんだけど、それも未来を読む力を使われたのか、あっさり躱された。


 そこから私はドラムロール、ループ、シャンデル。


 ハンマーヘッド・ターンまで繰り出したけど、・・・ドミナント・セレーナは全ての機動に着いてきたり、先回りしてきたりする。


 私はドリルドローンを放つ。だけど、セレーナは未来を読んでまたたく間にドリルドローンを撃墜してきた。

 さらに粒子加速ヨーヨーも、躱されて当たらない。


「ま、またドッグファイトで負ける!?」


 ――でも目的は、スナークさんを助けるだけだから。

 私はアリスに連絡をいれる。


「私がセレーナを引き付けるから。アリス、スナークさんを・・・・」

『あっ、そうですね! はい!』


 私が言うと、セレーナがアリスの方へ向かった。

 コイツ、スナークさんを確実に殺す気!?


 なら海の中まで追いかければいいのに・・・・いや、ジェットエンジンみたいな感じだから海に行けないの?


 ケライノーなら海流の神オケアノスの娘なのに、海に入れないのか。


「アリス、セレーナがそっちに行った! とにかくセレーナを倒さないとだめみたい!」

『接近してくるなら、好都合です!』


 アリスがドミナント・セレーナに斬りかかる。

 するとドミナント・セレーナが――変形した!?


 飛行機ぽかったフォルムから、生物的な鳥になった!

 鳥形態でアリスと、爪で戦い出した。


『か、刀マグナムが、当たりません!』


 アリスの攻撃は全く当たらないのに、ドミナント・セレーナの弾丸は、すべてアリスに命中している。


 未来を読むモンスター、厄介すぎないか!?


『このままでは、シールドが!』

「未来が読めても、光の速さは躱せる!?」


 私は〈臨界黒体放射〉を放とうとしたけど――あ、ロック掛かってる!!

 じゃあ〈臨界励起放射〉!


 でも、やっぱり躱される。


 撃つ前に避けるとか、未来を読む相手なんてどうしろと!


 アリスがドミナント・セレーナから、逃げるように飛びだした。


『く、苦し紛れですけど――サッチウィーブ作戦です、スウさん!』

「なるほど!」


 私とアリスは、二人で∞を描くように飛んでセレーナと戦う――けど。


 私の弾丸が全部躱される。

 逆にセレーナの弾丸はアリスに命中し続けて・・・・、


『わたしとスウさんの合体攻撃でも通用しないんですか!』

「合体攻撃!? まあ、合体攻撃といえばそうかもだけど」


 私が困惑している間に、ショーグンのシールドが割れた。

 そうしてショーグンの足のロケットが粉砕され、肩の辺りのロケットが粉砕され・・・。


「ま、不味い。アリス、脱出して!」

『改造機のショーグン・ゼロをロストは痛いですけど・・・・仕方ないです』

「セレーナを倒して後で回収するから!」

『じゃ、じゃあスウさん、頼みます!』


 アリスがロケットを切って転移すると、ショーグンは渦巻く夜の海に沈んでいった。


 私はVRのマップを開いてショーグン・ゼロの位置にチェックを入れ、セレーナに向き直る。


 ヘッドオンの形だ。

 でも、腹を決めてヘッドオンをしても被弾するのはこちらばかり。


「三択ブースト・シールド!」


 極短(ごくたん)ブーストで、相手の攻撃を弾く。


「駄目だ、また後ろを取られた!」


 こんなヤツ、本当にどうやって倒せば。


 着氷させる?


 雷――上空に積乱雲無し。


 波は凄いのに、雲がないって、なんで! ――いや、あれは渦か。

 こうしてる間も、スナークさんは危険な海の中・・・渦で岩場に叩きつけられたりしたら・・・・。


 パイロットスーツと〖次元防壁〗で耐えてるのかもだけど、いつまで保つか。


「いや、まてよ――」


 バレループなら或いは・・・・。


「――いや、これしかない・・・まだ一度も成功してないけれど」


 私はVRでフェアリーさんの足を動かして、尾翼を失速させる。

 さらにカナード、フラップ、エルロン全部で揚力を得て、一気に機首上げ。

 瞬く間に、縦になるフェアリーさん。


「いくぞ――バレループ!」

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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 うーん、こいつは強敵だ…!?某海賊なガンダ○のエピソードの一つに『ニュータイ○の力を含めたアム○の能力を完全に再現したバイオ脳との戦い』というのが有りましたが、そっちも行動を完全…
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