表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

208/463

205 アリスと元町に行きます

「アリス、それスケッチブック? 美術部に入るの?」

「入りませんよ?」

「じゃあなんでスケッチブックに絵を描いてるの?」

「そりゃ、スケッチしてるんですよ」

「何を?」

「スウさんのステージ衣装です」


 私の脳が、一瞬ショートした。

 そしてアリスの言葉を理解して、叫ぶ。


「上がらないよ、ステージとか――ッ!?」


 なにを(かげ)にスポットライト当てようとしてるの!?


「陰は消し飛ぶからね、それ!! アリスは私がいなくなっていいの!?」

「・・・そ、それは嫌ですが」


 まって、嫌な予感がする。

 第六感の耳鳴りがする。


「アリス、ちょ、ちょっと、そのスケッチブック見せて」

「えっと、はい」


 アリスに手渡されたスケッチブック、画用紙みたいなその紙の上を彩る〝水着みたいな衣装〟の数々。


 水着!? ――もう秋も近いぞ! というか今から衣装作りだと、ステージは冬だろう! 寒イボ出るわ、色んな意味で!


 私はステージになんか上がらないけど!


 こ、これは・・・・アリスの意識改革が必要だと思う。


 服を着ているのが可愛いと思わせなければ!


「アリス! この世界には着エロっていうのがあるんだよ! ほら!」


 私はスマホの検索結果を見せる。


「え、着エロ? ――着信音でそんな変な事するんですか? 外で鳴ったらどうするんですか・・・・涼姫はそんな趣味が・・・」

「違う! 画像を見ろ!」

「ああ、画像の方ですか・・・確かに着込んでるのに・・・」


 ふ・・・アリス、順調に騙されているね。それはセーフティーサーチが掛かった画像なのさ。

 健全な画像しか出ないのさ。


「私達スウチャンネルが目指す方向性は、こっちだと思うんだよ」

「わかりました」


 素直なアリスに、ちょっと罪悪感。


「着()ズムですね」

「・・・なにその妙なイズム」

「じゃあ涼姫、明日は日曜ですし一緒に服を買いに行きませんか?」

「えっ、友達と服を買いに行く?」


 脳が破壊され始める私。


「・・・なにその女の子みたいなイベント!」

「涼姫、久しぶりのデートですねっ!」

「デ、デート!?」


 私の脳が、完全に壊れた。




◆◇◆◇◆




 スマホのカレンダーの明日の部分に、『アリスとデート』と絶対忘れるわけもないメモをして。


 次の日。


「どこに行く? 江の島周辺とか?」

「そんな近場に行ってどうするんですか。もう何十回と行ったでしょう」


「え・・・・一回しか行った事ない」


 陽キャとお参りする人と観光客しかいない場所だよ? 私が何回も行くわけ無いじゃん。


 美味しいらしいご飯食べに、一回だけ行っただけだよ。

 もちろん、テイクアウトだよ。一人で食べ物屋さんに入る勇気などないわ。


「いえ、シーキャンドル昇ったり」

「一人で展望台に登りにいくの?」

「涼姫が標準的に一人なのはともかく、横浜の元町辺りにショッピング通りがあるんですよ」

「よ、横浜ぁ!?」


 私は神奈川県の都市、横浜に私を連れて行こうなどというアリスの暴挙にドン引く。


「大都会じゃん! 東京ジャングルじゃん!」

「・・・いや、横浜は東京ではないでしょう。前に行きましたけど、可愛い服が一杯売ってるんですよね。そこから横浜の観光地を見ながら歩いて、映画館に行きませんか?」

「映画・・・? えっ、アリスと映画見れるの?」

「はい、一緒に見ましょう」

「いく! 私映画館行く! んで、ポップコーンを右手にコーラを左手に持って、アリスにポップコーンを盗まれながら映画見る!」

「盗みませんよ。わたしが買うんで、シェアしましょ」

「やったぁ!」


 私は「バンジャーイ」をしながら教室でくるくる回って、みんなの視線を釘付けにした。

 普段は辛い視線も、今は気にならない。


 バンジャーイ!




 というわけでやって来ました、元町ショッピングストリート。

 沢山の服屋さんが並ぶ中「どこに入ろう?」と思っていると、アリスが何軒か眺めて。


「ここですね」

「なんでここなの?」

「店主の仕入れのセンスが良いです」

「そういう物なの?」

「そういう物です。モデルの勘です」


 そう言えばこの人、服を着るのがお仕事の人だった。


「さあ、入りますよ」

「う、うん」


 私はFLの戦場に向かう時よりも緊張しながら、店に足を踏みれた。


 そうして始まる、私のファッションショー。


「涼姫、これとこれとこれを着てみて下さい」


 渡されたのは、


 1.春風が似合いそうなワンピース。

 2.着たら思わず「ごきげんよう」とか言いたくなりそうなブラウス。

 3.ポップでカルチャーな音楽を嗜んでそうな上着とトレーナー。


「あの・・・アリスさん? あまり私に似合いそうに無いのばかり渡されましても・・・」

「いいえ、似合います。間違いなく」


 するとさっきからアリスと一緒になって私を鑑賞していた店員さんが、目を輝かせて「本当に似合うと思いますよ、お客さん!」

 等と、のたまった。


「と、というかなんで私ばっかり、アリスの服は!?」


 店員さんも頷く。アリスの見事なプロポーションを見て、アリスを着せ替え人形にしたそうだ。


「わたしは良いんですよ。なんでも似合いますから」

「全く遠慮がない! 怒られそうな程に!」


 私の指摘にアリスが胸を張る。


「わたしは服を着こなすのが仕事なんですよ、着こなせないとやっていけません」

「な、なるほど」

「それに、昔わたしを可愛いって褒めてくれた人がいたんです。その言葉を証明し続ける義務がわたしには有るんです」

「・・・そんな義務って有るの?」

「有るんです」


 アリスが真剣な眼で答えた。

 信念っぽい。

 というわけで、私のファッションショーは続行。


 店員さんは少し残念そうだったけど、アリスが「安心して下さい。わたしお金なら有るんで、わたしの分を買わなくても問題ないくらい沢山買うので」と言うと、店員さんは「ハッ」と眼をしばたたかせ、


「FL配信者のスウさんと、モデルの一式 アリスさん!?」


 メガネを掛けた私とアリスの世を忍ぶ仮の姿を貫いて、看破した。

 

「――一式 アリスさんを着せ替え人形に出来ないのはちょっと辛いですが・・・なるほど、スウさんを着せ替え人形にできるなら」


 いま間違いなくこの人「着せ替え人形」って言ったよ。


 店員さんの眼が急に真剣な物になり。私のファッションショーは延長戦に入った。


 結果10着ほど、アリスがクレジットカードでお買い物。


 私が「いいよ、自分で買うよ・・・」と言ってるのに、強引に支払っちゃった。


「今日は、わたしがデートコースを選んだのですから、わたしが涼姫をエスコートするんです」


 って、女たらししてきました。

 私はモジモジと俯くだけだった。顔がとっても熱い。


 その後、並んで歩いたんだけど急に手を握られて。

 私はビックリして〝すってんころりん〟――しそうになった所を、アリスに支えられて抱えられた。


「涼姫、大丈夫ですか?」

「う・・・うん。というかアリス、顔が近いよ」

「その顔は、かわいいですか?」

「ちょ、超かわいい」

「ふふっ、やっぱりそうですか」

「でも、女の言うかわいいは信用できないとネットで・・・・」

「――いいえ、涼姫のかわいいだけは信じます。信じてます―――ずっと」

「そ、そっかあ・・・出会ってそんなに経ってないのに、ずっとって」


 そこでアリスが少し寂しそうに微笑んだ気がした。

 どうしたんだろう・・・。


「でも、辛い頃の事ですし・・・仕方ないのかもしれませんね。恐らくあの直後が、涼姫にとって人生最悪の出来事だったんでしょうし――全部忘れてしまいたかったのでしょう」

「え、直後?」

「いいえ。さて、映画を見に行きましょうか」

「えっと『みなとみなみ』の『横浜マウア15』だっけ? 〖飛行〗で行く?」

「何言ってるんですか、その途中には横浜の名所だらけなんですよ、二人で観光しながら行くんですよ」

「でもここからだと、その場所まで3キロ近く有るって書いてるよ・・・? ――複雑骨折しない?」

「・・・アナタは、どれだけ虚弱体質なんですか」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ