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202 反暴機 ビジィ

◆◇◆◇◆




 スウは呆然と呟いた。


「プレイヤーなんですか?」

「そう、私も貴女と同じ国の生まれよ――スウ、あっちの人間なら話が通じるかと思って――お願い! グロウ王子を見逃してあげて! 彼も可哀想な人なの、血みどろの政争に怯え、周りを殺すしか生き残る方法がなかった」

「―――それは・・・」


 スウも、確かにグロウ王子にも同情する部分があるのは理解していた。


「今、第二王子がどうなってると思う?」

「まさか、処刑されたんですか!?」


 第二王子は、スウがセーラに協力したことで捕らえられた王子だ。

 けれど、サルタが首をふる。


「お優しい、第一王子とセーラ姫の嘆願により、生きているわ」

「なら――」

「暗い、地下牢で」

「――え」

「私、調べたのよ! そしたら第二王子は真っ暗な地下に居たわ。まだ辛うじて正気を保っていたけど、あんな場所に繋がれて、生きてるって言える!? 真っ暗なのよ、本当に陽の光の一つも当たらない――自分の手すら視えないほど、本当に真っ暗なのよ!? それにあんな場所に幽閉されたら、すぐに病気になって死ぬわ! 現代人の貴女は分かるでしょう!! ――陽の光が一切差し込まない、湿気だらけの場所がどれほど簡単に人の命を奪うのかを!!」

「そんな・・・・」


 スウは愕然とした。自分の選択で一人の男性が、真っ暗闇に捕られていることに。


「あんなの、自分の手を汚したくないだけよ! ――優しさじゃない。間接的に殺そうとしてるだけ! ――お願いよ、スウ。グロウを見逃してあげて!」

「でも、そうしたら戦争になるかもしれないんです。セーラ様を殺したりしたら――何千万人も死ぬんですよ―――」

「防いで見せるから!」

「・・・・本当に? できるんですか?」

「きっと・・・」

「――〝きっと〟・・・じゃあ、駄目なんです――・・・・・・」


 数千万人といえば、第一次世界大戦の死者数と同程度である。


 現代人であるスウにしてみれば、グロウを逃がせば今から第一次世界大戦が始まるかもしれないって言われているのに、逃がすような物なのだ。


 許容する人もいるだろう。――だが、スウ――いや鈴咲 涼姫という少女にとって、これは許容できない。


「ならもう、私にどうしろって言うのよ、スウ! 私は貴女に勝てないのよ!! でも貴女が正しいの? ―――ねえ、貴女は本当に正しいの!?」

「そ、それは・・・」

「間違いなく貴女は強いわ。勝ったほうが正義なら、貴女は正義そのものよ! 認めるわ、貴女には私は勝てない!! 貴女が好きに正義を決められるの!! だから選んで、貴女が正義を選んで!! でもグロウを助けられる正義を選んで、お願いよ・・・・強いんでしょう!? 何でもできるんでしょう!?」

「私は・・・・」


 サルタが涙を流して、地面に倒れ込む。


「――お願い誰か、グロウを助けて・・・・」


(・・・・この人は、本当にグロウ王子を愛しているんだ)


 スウはサルタの悲しい気持ちを思って、唇を噛んだ。

 そして、言葉を紡ぐ。


「私は、何でもは、出来ません」

「じゃあ、切り捨てるのね!? 貴女は貴女の正義で、切り捨てるのね!? グロウを殺す選択をするのね!!」

「いいえ、私は選ぶ力が確かにあるかもしれません。正直この惑星で自分が弱者なんて言えません。だから――ある程度は選べます。――だけど、この世界に対して選ぶだけの見識がない。選んで良い存在じゃない。所詮、地球の知識や常識で選ぶしか無い――」

「貴女は! 選ぶ力を振るうのに、選んだ結果は他人のせいにして、なにも選ばないというの!?」

「――いいえ、聞いて下さいサルタさん」

「貴女はズルいだけよ!! 力ある卑怯者よ!! ――最悪だわ!! 強者の言い訳なんて、弱者の言い訳より不愉快よ!!」

「サルタさん聞いて下さい!! 私は何も選べない、この惑星において選んでいい存在じゃない。――だけど、グロウ王子は助けられます」


 その言葉にサルタの目が、驚愕と希望を映す。


「・・・グ、グロウを助けられる!?」

「私は選べないけど――選んじゃ駄目だけど、サルタさんもグロウ王子も選べない存在にできます。そして、すみません――私は選んじゃ駄目だけど、この世界で選ぶべき人は選んでいます」


(結果的に、私も選んでいるのだけれど)


 スウの下へフェアリーテイルが降りてくる。


「このフェアリーテイルで、グロウ王子を遠くへ連れていきます」

「どうしてフェアリーテイルを使っているの? 私は今だにバーサスフレームのアーティファクトをこの星で見つけられていないのに――貴女は、アーティファクトを見つけたの?」

「いえ、これは銀河連合のバーサスフレームです」

「え!? この星にアーティファクト以外で――銀河連合のバーサスフレームを持ち込んだら、即BANじゃ? なんで貴女はBANされないの!?」

「私は、特別にバーサスフレームを持ち込む権限があるんです。これで貴方達を逃します。暮らしていけるだけの金塊も差し上げます。私、かなりクレジットを持ってるんで――」


 そこまでサルタに告げて、スウはグロウ王子に視線を向ける。


「――王子は殺されることを怖がっているから、暗殺しようとしてたんですよね?」

「あ・・・ああ、そうだ・・・・。たとえ兄上や姉上が私を殺そうとせずとも、二人の支援者が俺を殺す。――第二王子がいなくなって、リメルティアの戦力が殆どなくなった今、他国が裏で動きすぎている」


 苦虫を噛んだような表情になったスウは「なら」と呟いて、続ける。


「逃げて下さい、遥か遠くへ。グロウ王子が、二度とリメルティアには関われないほど遠くまで。以前、地図を見せてもらいましたが、極東にウブスナという国が有ります。そこはサルタさんや私の故郷に近い文化だそうです。サルタさんと一緒なら、住心地は悪くないかもしれません」


 サルタが頷く。


「ウブスナなら・・・勝手は少し分かるかも」


 スウも頷く。


「はい。ただ、こちらの地域に戻ってくることは不可能では有りません。そして、王位を争うことも――例えばアーティファクトを手に入れたりして――だからグロウ王子は、二度とリメルティアには関わらないと約束して下さい。戻ってきたりしたら、その時は・・・私は恐らく容赦なくグロウ王子を殺さねばなりません。この星の神が言っていました。セーラ様が死んだら第一次世界大戦並の死者が出るんです。・・・・サルタさんも絶対に関わらせないで下さい・・・」

「第一次世界大戦並の死者!? ――そ、そうね・・・・私は貴女と同郷だから相談したんだし――貴女の気持ちは分かる。え、ええ、そんな戦争が私のせいで起こったら困るもの・・・わかったわ」


 サルタの真摯な答え、そしてグロウ王子からも、


「了解した・・・約束しよう」


 しっかりした答えが返ってきた。

 暗い場所に幽閉されているという第二王子も、同じようにして助けようと思うスウだった。


 スウは、フェアリーテイルのドローンに通信でAI神に「二度とサルタ王子がリメルティアに関われないように出来ませんか?」と尋ねた。

 すると、『私は未来予測して少しだけ歴史を修正するだけですが、やってみましょう』という返事が有った。


 スウも(はら)を決めた。


「では、少しバルバロン王を説得してきます」

「え、でも拒否されたら・・・・」

「そしたらちょっと反抗するのを選んでみます。――でも大丈夫だと思いますよ、グロウ王子が犯人だって知った時、王様は酷く悲しそうでしたから」


 グロウ王子はスウの言葉を聞いて、辛そうに俯いた。


 スウは、グロウの様子を見ながら続ける。


「ウブスナに行かせるのは、島流しとか追放みたいなものだって説得してみます。王族の罪人をこういった方法で追い出す事は私達の方では、古来から有ったと訊きますし。――その代わり――二人共、約束は守って下さいね」


 スウの念押しに、二人は頷く。


「わ、分かったわ―――お願い」

「ああ」

「では行ってきます」


(今は戦いも続いているんだ。早く止めないと)


 スウは〖飛行〗で王様に飛ぼうとした。


 しかしそこへ、


『あきまへんなあ――そんな大団円は許しまへん』


 頭上から声がした。


『結果は、あてらが決めるんですわ。リメルティアは第3王子が王位を簒奪、混乱の最中マゼルナに襲われる。そこを我がワマフズ・パウ帝国が鎮圧。リメルティアはワマフズ・パウ帝国の一部となる。そういう結末で決まってはりますんよ』


 スウが見上げれば、真紅のバーサスフレームが上空を旋回していた。

 人型形態がないのだろうか。


「ごめんスウ、乗られた!」


 リッカの声に、スウがすぐさま反応した。


「大丈夫、時間稼ぎありがとう!」


 スウは急いでフェアリーテイルに乗り込む。


 そうして人型になって空に飛び上がった。


『おや? やりはるんで?』

「当たり前です」

『そちらさん、ただの機神に乗ってるように視えるんやけど?』

「機神?」

『普通の機体ちゅう意味ですわ。こちらは超・機神なんですけど』

「やっぱりその機体、特機なんですか」

『あんさん、知らはりませんみたいどすけど、機神では超・機神には勝てませんのや。歴史上これがひっくり返ったちゅう話はありまへん。いくらあてが片手やゆーたかて、負ける道理はありまへん』


❝スウは聖蝶機スワローテイルにも、神合機フラグメントにも勝ってるけどな❞

❝グラサン、特機と量産機もパイロットの腕次第だぞ。井の中の蛙大海を知らずだな❞


「じゃあ、私が史上初ですね」

『口の減らないオナゴどすわ――なら実際にその身に味わわせてやりましょ。超・機神の恐ろしさを!』


 ビジィが上昇していく。スウは直ぐ様、後ろについた。


「ドッグファイトも知らないんですか?」


 スウがさっさとビジイを撃墜しようと〈励起バルカン〉の照準に入れようとした時だった。

 ビジィが反転した。

 それは本当にその場で、以前スウが見せた宙返りより鋭い。飛行機では絶対に不可能な反転だった。

 というよりも、慣性まで反転している。


 機首を無理やり反転させただけでは、慣性までは反転しない。それが反転している。


「なっ」


 スウが一瞬、驚愕に固まる。


❝なんだよ、あの反転!?❞

❝飛行機じゃねえよ!❞


 ビジィの機首が光りだし、スウに向かって突っ込んでくる。


❝なんだありゃ、〈励起翼(れいつば)〉の亜種か!?❞


『あてはらは、これを〈神の裁き〉呼んどります! 自由に向きを変えられるビジィの〈神の裁き〉を回避できる人間などおりまへん。これで終わりどすなぁ!』


❝また仰々しい名前を・・・❞


 スウはビジィの〈神の裁き〉を、〈励起翼〉で受け止める。


『は、なんやあんさんその武装――そっちも〈神の裁き〉を持っとりはるんか!?』


 2機は互いに弾かれた。


 ビジィはあり得ない回転で直ぐ様姿勢を整えたが、フェアリーテイルはそうは行かない。


 スウは急いで機首下げ、速度を得てスピンを回避する。


『やけど、後ろは貰いましたで! 空中戦では後ろを取るんが大事なのはよう理解しとります!』


 スウが歯噛みをする。


「―――くっ。まずい、どうしよう・・・・あんな無茶苦茶な運動性を持つ機体から、後ろを取れるわけがない!」


❝えっ、スウたんでもドッグファイトに勝てないの!?❞

❝嘘だろ・・・・おい❞

❝そりゃ相手の旋回力が桁違いすぎる。あんな旋回されたら、誰も勝てないに決まってる❞


『終わりや、男装のオナゴはん!』


 ファリーテイルが、ビジィから逃げる。

 後ろに張り付くビジィ。


 スウがどんな機動をしても、ビジィは離れない。あまりに運動性に差が有り過ぎる。


「こんなの・・・一体どうしろって・・・!」


 ニクサがスウの動きを見ながら、首を傾げる。


『――しかしなんやこのオナゴ・・・なんで弾丸を躱しはるんや・・・光の一撃も効きはりませんし。まあ、何時までも躱し続けられる訳・・・』


 スウは何か策はないかと考える――そして上を見た。

 そこには、雨を降らし続ける雲。


「・・・いやそうだ! ――入れ、ゾー・・・」


(あ・・・、みずきにあんまりゾーンを使うなって注意されてたんだ・・・・でも今は命が危険な時だから良いよね?)


「よし、――入れ、ゾーン!」


 目の光を無くしたスウが、上空に張り出していた分厚い雲に逃げ込んでジグザグに飛行する。

 これを追いかけるニクサ。


『確かに雲の中は見えにくいから狙いにくいですけど、それでも何時までも逃げおおせられる訳やありまへん! そっちは決め手が無いんやから、いずれはこっちの勝ちや!』


 時折ビジィの弾が、フェアリーテイルに(かす)る。


『ちゅうか、あんさんからもこっちの弾が見えにくうて、躱しにくいんやろ?』


 ニクサは嘲笑いながらも(弾丸を見て避けてたのかよ・・・)と、スウの実力に若干の戦慄を憶えた。


❝おいおい、これ不味くないか❞

❝相手の機体が、ドッグファイト特化すぎる❞


 2機が雲の中で追いかけっこを繰り広げるのを地上で見ていたリッカも、少し表情を固くする。


 雲の合間から視える姿がおかしい、ずっとフェアリーテイルが追われている。


「スウが・・・負ける?」

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