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201 異世界剣術 VS 立花流

 驚愕するスウに、射掛けられる弓矢。


 当たりはしないが、スナイパーライフルで狙うのは難しくなる。


「仕方ない」


 スウは、王子を直接追いかける事にした。飛んでくる矢を躱しながら全速力で飛び出す。

 と、ふと、スウの目に遠くに浮かぶ巨大な(ふね)が視えた。


「えっ、アレってFLの空母!?」


 国境付近で停泊するように浮いている――それはスウも知る、FLの世界で見た空母であった。


「隣国のアーティファクトって事!? ――不味い、国境まで行かれて向こうにグロウ王子を取られたら、本当にとんでもない殺し合いになる。絶対にここで止めないと!!」


 しかし、スウの目にもう一つアーティファクトが視えた。それは赤いデルタ翼機だった。


 赤いデルタ翼機は戦場に飛んできている。


「ちょ、バーサスフレームまで持ち出してくるの!?」


 スウは〈時空倉庫の鍵・大〉を開いて64ミリ機関銃でバーサスフレームを射つが、赤いデルタ翼機は、あっさりそれを弾く。


 VRを見れば『反暴機(はんぼうき) ビジィ』の表示。


「先頭に枕詞みたいなのが付いてるし型番がないってことは、特機なの!? ――冗談じゃない! 特機とか、何をしてくるかわからないのと、生身で戦ってらんない。イルさん、私もバーサスフレームを使っても良いよね!?」

『OKのようです。マイマスター』

「来て、フェアリーさん!!」


 フェアリーテイルだって、量産機と特機の中間くらいの力がある――装甲はともかく。

 だがそれでも、フェアリーテイルが到着するまで3分ほど掛かる。


「でも、そもそもあの特機って誰のもの!?」


 スウが見れば、ニクサ軍のやや後方側に立つ、サングラスの騎士の方向へ飛んで行っている。


(あのサングラスを掛けた人は――ニクサ卿!? 私がダギシスに化けた時、質問で正体を看破しそうになった人だ!)


 すると、眼下の兵士がスウに叫ぶ。


「スウ様!! あの者はアーティファクターです! 代々、途轍もないアーティファクトを受け継いでいるという!!」


 スウは思わず混乱。


「なんて事!? ――先にあっちを相手にしないと駄目!?」


 するとリッカだ。彼女は、ニクサの方へ飛んでいく。


「スウ、あの騎士はわたしに任せろっ!」

「あ、ありがとうリッカ。じゃあ私はグロウ王子を追いかけるから!!」

「任せた!!」


 スウはグロウ王子に向かって猛進。グロウ王子達の足は馬だ、スウが〖飛行〗で飛べば瞬く間に追いつく。

 そうしてかなり近くまで来て、スキルを使った。


「〖念動力〗――」


 馬を掴むつもりだったが、効果を及ぼさない


「――これも弾かれる!? 絶対防御とかじゃないのね!? そんなスキルあったら反則だよ!?」


 さらにスウは様々な攻撃を試す――しかし〖空気弾〗も弾かれ、〖念動力〗で石などを飛ばして当ててみるが、これも弾かれる

 だが、スウは気づく、王子とサルタが接触していることに。馬とも接触している。


(なら、肉体は弾けなさそう)


 気づいたスウは、二人に躍り掛った。


「止まって下さい!!」


 スウが、馬の後ろに乗るグロウ王子の腕を掴む。

 そして〖超怪力〗で無理やり引っ張ると、グロウ王子は簡単にスウの上に持ち上げられた。


「貴様!! 離せ!!」


 暴れるグロウ王子に、スウが叫ぶ。


「諦めて下さい!!」

「グロウ様!!」


 サルタが慌てて馬を止め、スウとグロウに駆け寄ってくる。

 そうしながらショートソードを鞘から抜いた。

 さっさと上空へ逃げようとするスウの耳に、スウにとって驚きの声が掛かる。


「まって貴女、スウさんだよね? 配信者の!」

「――え!?」


 スウが驚愕に固まった瞬間、サルタがグロウ王子の腕を取り引っ張り返して後ろに庇ってしまった。




 一方、リッカはサングラスを掛けた騎士と対峙していた。

 サングラスを掛けた騎士の赤いバースフレームは地上まで降りてきたが、リッカが赤いバーサスフレームのタラップの前に陣取った。


「えろう弱りましたわ。アーティファクトに乗らしてくらはらへんのですか?」

「乗らせない」

「アレに乗れたら、戦況がひっくり返せると思うんですわ。なにせあらゆる空飛ぶ機械にまけへん能力を持つアーティファクトなんです」

「なら益々乗らせる訳にはいかない」

「したら、しゃーないですわ。まずはあんさんを相手しましょ。あんさんを倒して、ゆうゆうと乗らせてもらいま」


 スラリと引き抜かれる、曲刀(サーベル)

 リッカも、打刀(たち)を抜き放つ。

 リッカは舌打ちしたい気分だった。丸いサングラスのせいで向こうの目が視えず、相手の意識が読みづらい。


 そんな事を考えていたリッカに、ふと嫌な予感がよぎった。

 とっさに頭を傾ける。

 リッカの目が有った場所を通り過ぎる、細い針。

 ニクサの口から針が放たれたのだ。


(ふくみ針――こいつは、暗器使いだ!)


 リッカは目の前の相手が、隠し武器使いだと理解した。


「ありゃりゃ、避けはりましたか・・・・相当できるおなごはんですなあ。弱りました、わ!!」


 声と同時、ニクサが剣を肩の方へ振り上げる。――すると、柄が伸びた。


鎖分銅(くさりふんどう)―――!?)


 リッカは迫る分銅を、慌てて打刀で弾こうとする。

 だがリッカは歯噛みした。それしか無かったとは言え、弾いてしまえば相手の思うツボ――見事に打刀に分銅が絡む。

 だが〖怪力〗を使うことで、打刀を奪われることだけは防いだ。


「なんや、びっくりするわ。あんさん小柄なおなごやのに、なんちゅう馬鹿力してはるんですか」

「女の子に言う台詞じゃないね」


 言ってリッカが〝視線を仕掛け〟しゃがむ。


「な――消えはった!?」


「――やけど!」


 ニクサが鎖を引き寄せる。

 ニクサは手応えを頼りに、リッカを発見。


 両者が相手に向かって突進し、刀とサーベルが打ち合わされる。


(重い!)


 リッカは驚愕した。

 ニクサはサーベルを片手で持っているのに、驚くほど重い。


 リッカは素早く敵の戦力を分析する。


 まるでフェンシングの様な構えは、横向きになることで、左右のブレを前後のブレに変換して、前後のブレすら完全に攻撃に利用している。

 さらに全身の関節を固定して、地面の重さがサーベルの先に乗っている。


 きちんとした理合いの上に成り立っている・・・・厄介な相手だ。


「点の攻撃で、弾きにくいし・・・!」


(こんなのと、何合も打ち合うのは危険だ)


 するとニクサがリッカの打刀を弾いて、


「そこや!!」


 不意打ちの蹴りを放った。


 フルプレートを着たニクサの蹴りだ、足も当然鋼鉄のブーツで覆われている。

 さらにブーツの先端から刃が飛び出す。


 打刀が自由にならないリッカは、鞘で蹴りを弾いた。


「鞘をそんな風につかいはるんか!?」


 リッカがしゃがみながら相手の隙を突く。


「戦場でそんな重い鎧を着けて、片足立ちになるとか」


 リッカが、鎌のような足払いを放った。その一撃はニクサの足首を見事に捉える。


 打撃のためではない。

 足を引っ掛けて転倒させるために蹴り。

 しかも屈強な大男でも、足払い一発で転倒させるリッカの蹴り。


 重い鎧を着て、これを受けてまともに立っていられるはずがない。

 だが、そこはニクサも只者ではない。


 足払いに逆らわず、重い鎧を着けたままトンボを切って、後方に宙返りした。


 ニクサのとんでもない身体能力。

 だがリッカは、ニクサの身体能力を目の当たりにしたにも関わららず冷静な表情のまま猛然と突進。


 鞘の先端の石突き金物を突き出し、ニクサの喉――ヘルメットの隙間を狙って突き出していく。


 ニクサはサーベルで防ごうとするが、こんどは逆にリッカが打刀ごと鎖を引っ張ってニクサの邪魔をした。


 石突きの金物を喉に受けて、吹き飛ぶニクサ。


「グえっ、ほッ―――」


 ニクサは、あわや喉仏を潰されるかという一撃を受けて咽せ返る。

 だがニクサも手練の剣士、ただでは転ばない。


 吹き飛ばされる勢いに乗せて、鎖を引く。

 鎖はすぐさま張り詰め、リッカの打刀を引っ張る。

 すると、リッカは打刀を手放してしまう。


(あっさり放しはった? 得物無くして、なにして――)


 打刀は鎖と共にニクサの顔面に向かって飛んでくるが、そこには鋼鉄のヘルメットがある。

 しかも、ニクサには予想できる不意打ちだった。

 飛んでくる打刀程度、ニクサは苦もなくヘルメットで弾き飛ばした。


(何の意味もない)


 ニクサは思った。

 ――だがリッカにとってはこれで良かった。


 ニクサのヘルメットが打刀を弾いた――僅かに視界が悪くなった、その一瞬で、リッカはニクサのヘルメットを遮蔽物にして、姿を隠した。


 視界の悪いヘルメットの影に入られ、ニクサはリッカの姿を見失う。


「また消えはった!?」


 リッカはもう打刀を手にしていない。


 ニクサは先程のように鎖を引いて、リッカの位置を知る方法が使えない。

 だが――確かにニクサからして位置は分からないが、リッカにも大きな負債がある。


 リッカは打刀を捨てた―――だから、もう〝鞘しか武器はない〟。


 リッカの使っている鞘は鉄鞘でもないのだから、振りではフルプレート相手には攻撃力が足りない。


 十分なダメージを出すには、金具でできている場所を突き立てる――突き攻撃しかない。


 ニクサは結論づけた。


(このオナゴがおる位置は、フルプレートの隙間を狙いやすい低い位置)


 考えを巡らせたニクサは、下を見た。――だが、そこにリッカの姿はない。


(な――なんでおらんのや!? どういうことなん!? どこや――どこや!?)


立花放神捨刀流たちばなほうしんしゃとうりゅう――」


 リッカの声が、フルプレートにとって最も防御の硬い真上からしてきた。


「上なんか!? ――上とかアホちゃうんか!?」


 相手の計算ミスを指摘しつつニクサが見仰げば、跳躍では飛び上がれないような高度でリッカが何かを構えている――それは鞘ではない。


 〖水作成〗により作り出された槍――岩をも貫く水圧が、渦巻いている。


 ウォーターカッターならば一般的なプレートメイルを0.1秒ほどで貫けるという。


 ウォーターカッターの水圧が600MPa。リッカの持つ水槍の水圧は1800Mpa。実に3倍。


「水の槍やとぉ!?」


 地球の最も深い海の水圧が100Mpa程度。その18倍。


 ニクサはサーベルで水を受け止めようとするが、間に合わない。


 リッカは〖飛行〗の加速も乗せてくる。


「あかん、なんなんや、このおなご――!」

「――雀蜂(すずめばち)!!」


 加速されたリッカの水の槍が、正に蜂の一刺しのように繰り出さる。

 一撃が、ニクサのプレートメイルを貫き、肩を貫き、太ももまで貫いた。


 ニクサが足と肩を押さえて、膝をつく。


 リッカはすぐさま刀を拾い上げる。

 そうして打刀を、〝鞘に納めた〟。


「なに武器を仕舞ってはりますんや!? まだ終わってまへんよ!!」


 ニクサが無事な足で跳躍――サーベルを突き出した。


 地面を駆ける豹の様な跳躍から繰り出される、突き。


 伸びるような一撃がリッカに迫る。

 だが――ニクサは知らなかったのだ。


 『居合』という術理を。


 リッカが白刃を再び引き抜き始める。


「武器を仕舞いはって、間に合うわけ――なにぃ!?」


 居合は刀を抜く術理、――それは後ろから抜いて間に合わせる理論体系。

 

 ニクサが狙うはリッカの心臓。

 リッカが狙うはニクサの拳。


 拳のほうが、近い。

 リッカの刀の方が、到達が早い。


 ニクサの手首が吹き飛んだ。




 リッカの突きつけた白刃の先が、ニクサの眼前で陽光に輝いている。

 リッカは、冷たい目で尋ねる。


「まだやる?」

「な・・・なんなんやこのオナゴ・・・・どうなってるんや・・・なんで今のが間に合いはるんや――あ、あかん。ま、参りました。あての負けを認めますわ。はよ止血せな、死んでまう」


 リッカがしばし残心する。油断なく下がり、打刀を鞘に納めた。

 リッカは指で赤いバーサスフレームを示した。


「アレを退()かせたら、命までは取らない」


 ニクサは破いたマントで腕を縛りながら尋ねる。


「わ、分かりましたわ、ただ・・・手首拾ってもええですか? イリョウポッドちゅうんなら、くっつきますし」

「ああ」


 リッカが足元に転がるニクサの手首を見て、油断なく一歩下がる。

 そこでリッカは、ニクサの唇の端が歪んだのを見た。


 ニクサが「やりなはれ、ビジィ」と言うと真紅のバーサスフレームが、突っ込んできた。

 

 リッカが慌てて飛び退く。一歩下がったせいで、ニクサから離れる方向に飛ぶしか避けられなかった。


 さしものリッカでも、バーサスフレームと生身で正面から戦う戦力は有していない。


 焦るリッカの視界で、ニクサが悠々とバーサスフレームに乗り込んでしまった。

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