表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

202/466

199 作戦を立案します

 目が覚めると、与えられた寝室のベッドの上だった。

 ティタティーとリッカの顔が、眼の前にあった。

 ひと悶着あったのか、リッカの頬に痣があった。


「起きた」

「起きたぞー」


 二人の言葉にメイドさんが「お目覚めになられました!」言いながら、廊下を駆け出していく。

 私のベッドの横には、セーラ様もいた。彼女は安堵したような表情で涙を浮かべていた。

 窓の外はすっかり暮れていた。

 私は、王様に〖再生〗を使って意識を失ったのを思い出した。


「ごめん心配を掛けて」


 ティタティーが首をふる。


「大丈夫、氷の妖精族には刹那のような時間」


 リッカが呆れたような顔になった。


「よくヒ素中毒とか知ってたなー」


 私は頬に痣のあるリッカに、眉尻を下げた苦笑いのようなものを返した。

 そうして泥のような体を起こして、〖再生〗を使――手を止められた。


「あとでよろしく」

「う、うん・・・・まあ、愚者の毒の知識はオタク知識というか。いや、何の毒でも多分やることは変わらなかったけど」


 セーラ様が、泣きそうな顔のまま私を見つめる。


「スウ様、父上を救っていただき、本当に――本当に―――」

「王様は、どうなりましたか?」

「父上は――」


 その時だった、耳鳴りがした。〖第六感〗に反応――リッカが窓の外を見た。

 リッカはセーラ様に飛びかかって、抱くようにして床を転げた。

 窓が割れた、何かが飛び込んできた。姫様が呻いた。


「――っ」


「〖マッピング〗〖超聴覚〗!」


 うわ―――体力が回復しきってないのか、スキルを使うと体力が減るのが明らかに分かる。

 体力が有り余ってると少々疲れてもなんとも思わないけど、体力が少なくなると、僅かに体力が減っただけでも滅茶苦茶不快になるあの感じ。

 ありありと自分の体力がカツカツなのが分かる。

 体が、「これ以上体力使うな馬鹿ヤロウ」と訴えてる。

 ――だけど、そうは行かないんだよ。

 今は根性見せる時なんだよ、私の体。


「賊!? 奥の木の上!? いや、なんであんなに屋敷の中を狙いやすい場所に木が植えられてんのよ、って――木が消えた。なるほどスキルかなにかか」


 私が賊を追って窓の外に飛び出そうとしていると、リッカの焦った声。


「ごめんスウ、矢が姫様の足に(かす)った! さ、〖再生〗を――いや、スウにまた倒れられたら困る。この惑星の回復薬を渡されてるから・・・・」


 リッカが〈時空倉庫の鍵〉から薬を取り出しているのを確認すると、〖超聴覚〗に声が聴こえてきた。


「よし。モータル・グリズリーでも即死の毒だ、たとえ〖毒耐性〗が有っても姫は助からん。撤収だ」


 即死を狙ってきたのか、でもセーラ様には〖毒無効〗がある。

 私はセーラ様に〖再生〗を使う。――っと、私はまた意識を失いかけた。

 駄目だ、これ以上〖再生〗は使えないぞ。

 だけど賊を、あのままにはできない。

 私は〖飛行〗を使うと、窓を突き破って外に飛び出た。このくらいの文明のガラスは値段が高いと思いますけど、ごめんなさい。

 相手は多分黒装束、闇夜に紛れる心算(つもり)のはずだ。だけど――


「〖暗視〗〖超暗視〗」


 視えた、逃さない!

 〖暗視〗〖超暗視〗を使って、さらに〖マッピング〗と〖超聴覚〗も掛かってて、超高速で飛ぶ私から逃げられるものか。

 だけど、全員を捕らえるつもりはない。暗殺者は三人いるから、二人は泳がせよう。

 狙うはあの先頭を走る、リーダー格らしき男。


「〖念動力〗」


 私は一気に近づいて、リーダーらしき男を捕まえた。

 リーダーらしき男が驚きの声を挙げる。


「何だ、この速さは―――!!」


 でも、ファンタジー住人は恐ろしい。

 〖念動力〗だけじゃ抑えきれない、とんでもない怪力だ。抜け出そうとされる。


「―――〖怪力〗〖超怪力〗」

「くそ―――っ、離せ!」


 ファンタジー住人でも、これなら動けないみたいだ。


 部下らしき2人の暗殺者が走るのを止めて、振り向きざまにダガーを引き抜いた。

 だけど、私がニューゲームを出して構えると、ジリジリと後ずさった。


「アーティファクトだ」「―――ああ」「退くぞ」「――わかった」


 リーダー格らしき人物を置いて、さっさと退却していく。

 すると――リーダー格らしき男が、なにか歯に仕込んでいる物らしき――させない。

 私は念動力で、歯を食いしばるのを止めさせる。


「んが!? ――んごお!!」


 多分奥歯に仕込んだ毒で、自害でもしようとしたのだろう。

 駄目です、貴方には今から情報源になって貰います。


 すると〖マッピング〗の上空に反応。

 暗視で見上げれば、ハクセンが忍者のような見た目の黒ずくめの姿になり、夜空を飛んで暗殺者を追跡している。彼女にも〖暗視〗があるから暗殺者を見失わないはず。


 私は〖サイコメトリー〗で捕らえた暗殺者の記憶を読む、そうして逃亡した暗殺者の目的地を特定。

 通信でハクセンに、逃亡先と思われる場所を伝える。


『了解したでござる』


 こうして私はリーダー格らしき男を拘束したまま、与えられた寝室へ引き返した。

 戻ると沢山の人々が居た。

 元から居たセーラ様、セーラ様を守るように控えているリッカ。

 メープルちゃん。バルムさん。

 アンドリュー様、王妃様。

 そして王様。


 私は駆けつけてきた騎士さんに、犯人を渡す。


「暗殺者を捕らえて来ました。恐らく奥歯か何かに毒とか仕込んでいると思いますんで、自害させないように気をつけて下さい」


 騎士さんは、暗殺者の口の中に何かボールのような物を入ようとしている――すると口に入れられる寸前で、暗殺者が姫を見て驚愕して叫んだ。


「なぜだ! なぜ姫は生きているのだ!! 確かに即死毒を受けたはずであるのに!!」


 リッカが冷たく言い放つ。


「教えると思うか?」


 暗殺者が何かを答える前に、その口は閉じられないようにボールみたいなものを入れられて猿ぐつわを噛まされた。

 だけどこの後、彼に待っているのは現代人ならドン引きな所業。


「皆さん、尋問で手荒な真似はしないで下さい! 暗殺犯からは後で私がスキルで記憶を探ります。お願いします―――口を割らせるのに、手荒な真似はしないでください!」


 騎士さんが泣きそうに眉尻を下げた「甘い・・・・ですよ」「しかし、それでこそスウ殿だ。かしこまりました」と言って、暗殺者さんを運び出していった。


 今すぐ調べたいけど、今スキルを連続使用すると、また倒れると思うんで・・・今すぐまだちょっと勘弁して下さい。


「スウ殿、良かった目覚められたのだな!」


 王様が近寄ってきてくれた。


「あ、はい。王様こそ元気になられたのですね! 本当に良かった・・・・」

 

 王様はすっかり健康になったのか、杖すら突いていない。

 流石にやせ細っているのは回復してないけど、それは徐々に回復していくだろう。


「ああ、ああ! スウ殿のおかげで、ほれすっかり良くなった!」


 王様が、胸をドンと叩いた。猛将といったオーラが何となく見える。

 病気の姿しかみていないから分からなかったけど、この人はどちらかと言うと豪放磊落(ごうほうらいらく)な人なんだろうか。


「あの―――王様、私他人の記憶を見たり、誰かの記憶を他人に見せたりできるんですが」

「うむ、聞いておる。ところで我を呼ぶ時はバルバロンと呼んでくれ」

「えっと、では――バルバロン様。私――誰が暗殺しようとしたかまでは特定はできるんです」

「なるほど」

「でも、物的証拠とかはないですし、今の状態のまま無理やり犯人を捕まえてしまってはバルバロン様が強権を発動したと思われ、信用を失うと思うんです。所詮数人の証言になりますし」

「そうだな、あまりに無茶な方法で捕まえるのは問題が有るな」

「そこで――セーラ様が死んだと向こうは思っている筈なんで、一芝居打ちませんか?」

「――ほう、くわしく聞かせてくれ」


 私はバルバロン様に考えを話し始めた。


「まずアンドリュー様はお母様の実家に戻ってもらいます。理由はセーラ様が死んだことで、後ろ盾を無くしたので身の危険を避けるためという理由で」

「ふむ・・・・」


 豪放らしいバルバロン様には、こういう消極的なやり方は少しお気に召さないらしい。

 だけどバルバロン様は、〝お気に召さなくとも、反対もしない〟。


「しかし犯人は禍根を残さないため、アンドリュー様を襲うでしょう」

「また暗殺か」

「いえ、既に私が見つけている犯人は、こう考えていました。『セーラが生きている間にアンドリューと直接事を構える事はできない。しかしセーラが死んでしまえば後は一手だ。一気に詰める』」

「・・・・なるほど。しかし――だ。スウ殿はそれで良いのか? それでは争いになるぞ。スウ殿は血を流し合うのは好まぬのであろう? ――我はやむをえぬとは思っているが」

「犯人は追い詰められています。セーラ様が生きていると知っても、兵を挙げるでしょう。じきに王様にも毒を盛っていたことがバレるのですから」

「我に毒を――――そうか、やはり同一犯であったか・・・・そうか。そして犯人は」

「はい、王位を狙っています。そして進退窮まっているのですから、今回で王位を取れないとなったら、刃を交えての全面対決になるでしょう。つまりセーラ様が生きていると、彼らにとっては詰みです。だからバルバロン様が生き残ったと知って、セーラ様の直接暗殺などという強硬手段に出たのでしょう」

「王位を狙っているという事は――そうか」


 王位を狙えるのは息子さんだけ。つまり、バルバロン様を暗殺しようとしたのが息子だと言っているようなものなんだ。

 そして、アンドリュー様がいなくなって王位を取れるのは一人しかいない。

 第五王子までいるらしいけど、取れるのは一人だけ。

 私は言外に、犯人を名指ししているようなものなのだ。

 きっとバルバロン様は、私の言葉を聞くまで「自分を暗殺しようとしたのは、隣国辺りの差し金ならば、幸い」と思っていた事だろう。

 その希望を今、私は打ち砕いた。

 バルバロン様が目をつむり、深い深いため息を吐いた。

 バルバロン様がまぶたを開くと、寂しげな瞳がそこにあった。


「スウ殿、すこし一人にしてもらってもいいか。いや――レイア来なさい」

「はい、あなた」

「スウ殿、後は全てをそなたに任せる。善きに計らってくれ」

「御意に」


 私は胸に手を当てて、しっかりと頭を下げた。

 バルバロン様とレイア様は、憔悴(しょうすい)仕切った様子で部屋を出ていった。

 私は、アンドリュー様とセーラ様を振り返った。


「ここで、全ての王子同士の殺し合いは終わらせます」

「―――で、できるのかい?」

「―――スウ様、そのような事が」


 アンドリュー様と、セーラ様が少し不安げな表情で尋ねてきた。

 私は喚声(かんせい)で返した。


「アンドリュー様には、この国を強力にまとめ上げてもらいます! 他の王子に――他国に、どうしようもない力の差を見せつけてもらいます!」


 アンドリュー様が、何かを決意するように頷いた。


「―――分かった」


 セーラ様の表情が、苦渋を飲むようなものになる。アンドリュー様が歩む茨の道が見えているのだろう。


「・・・・はい」


 ――私も覚悟を決めないと。

 ここまでドロドロの政争に巻き込まれて――それに発破を掛けて、私だけ綺麗なままではいられないと思う。

 こんな考えすら、罪に思えてくる。――それでも。

 私は話を続ける。


「しかし、戦いはできるだけ避けたいです。そこでセーラ様の死を偽装します。第三王子――グロウ王子が挙兵して馬脚を現した後、アンドリュー様の御実家に到着する前に、セーラ様には姿を現してもらって、相手を止めてもらいます」


 アンドリュー様が大きなため息を吐いた。


「やはり犯人はグロウだったか。しかし賢者スウ、その話ではやはり争いは避けられないのではないか?」

「はい。ですが争いは最小限にします。私が、相手の挙兵の数をギリギリまで落とします」

「どうやって・・・?」

「こうします〖人化〗」


 私は〖人化〗を使って、ある人の見た目になる。


「――んな!? その姿は―――隣の国の大臣ではないか!!」


 〖サイコメトリー〗で観たんだ。


「はい。この人は今回、裏で糸を引いて第三王子を操っていました」

「おのれ、マゼルナの大臣ダギシス!! やつの仕業だったか!」

「この姿で第三王子を口車に乗せます。私は相手の過去も読めるんで、ダギシス大臣の仕草も、王子の記憶を読みながら真似をすればいいだけです。リッカ、メープルちゃんもこの変装できるスキルが使えるので、お供として着いてきて貰います」

「――なるほど・・・やってくれるか?」

「お任せ下さい」

「わかった」

「はい」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ