表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

201/463

198 王様と会います

 ティタティーとセーラ様が出会った次の日、私はアンドリュー様に呼び出された。


「賢者スウよ、もう一人会って欲しい人物がいるんだ」

「もう一人ですか?」

「ああ――着いてきて欲しい」

「はい」


 私とリッカとメープルちゃんとリイムは、セーラ様とティタティーと共に、アンドリュー様に案内された。

 アンドリュー様は、なぜか執事さんやメイドさんも下がらせた。


 連れてこられたのは、ひときわ豪華な扉の私室だった。

 ここってもしかして。


「父上、入ります」


 暫く、部屋の中から返事はなかった。

 やがて「どうぞ」という、やつれた様な声が返ってきた。


 部屋の中に入ると、なんだろう――死臭? みたいな匂いが漂った。

 リッカの顔が険しくなる。


「スウ、これは・・・危険な状態だ」

「やっぱり―――そうなんだね」


 奥に通されると、大きなベッドの上に一人の老人が寝ていた。


「賢者スウ、我が父――つまりこの国の王です」


 意識がない、私は医者じゃないけど流石に分かる。恐らく、もう長くない。

 老人の隣には細くやつれた女性、王妃様だろうか?

 アンドリュー様が深い悲しみをたたえた瞳で、私を見て〝頭を下げてくる〟。

 頭を下げると、母上に怒られるって言ってたけど――お母さん眼の前にいるんじゃ・・・。


「賢者スウ―――無茶を言っているのは百も承知で頼みが有る・・・・父上を、貴殿の力で救えないだろうか」


 アンドリュー様の声に反応して、やつれた女性が、疲れ切った瞳で私を見た。


「そう、この人がスウさん・・・」


 顔の影が濃い。この人も心配になる。

 アンドリュー様が、女性に返事をした。


「はい、母上。彼女が賢者スウです。わたくしに幾つもの奇跡を見せ、教えてくれました」


 するとアンドリュー様のお母さん――つまり王妃様が涙を流した。


「どうか、どうか・・・・我が夫を救って下さいませんか、スウさん。もう家族を失うのは嫌なの」

「・・・・できるか分かりませんが・・・力は尽くしてみます。――王様のお体を少し見せてもらえますか?」


 王妃様が頷いたので、私は布団をめくって王様の体を見た。――青い斑点などが見えた。

 やっぱりだ。私は、この状態をオタク知識で知っている。


「これはヒ素中毒の症状だと思います」

「ヒ素?」

「あっと、愚者の毒です」


 愚者の毒っていうのはリアルに使われた暗殺毒で、ファンタジー物などによく出てくるので知ってる。

 服毒暗殺はファンタジー作品でもこの毒を少量、長期間に渡って飲ませる方法がよく取られる。

 ただ、この毒には弱点があって。

 アンドリュー様が訝しがった。


「そんな馬鹿な! 父上はずっと銀の食器で食事を続けてきたのです。愚者の毒を盛られていたなら食器が黒ずむはず。そのようなことは報告されていない!」


 そう、愚者の毒は銀と科学反応するんだ。愚者の毒に触れた銀は黒ずむ。――ただし。

 

「いえ、銀食器と反応するのは硫化ヒ素だけなんです。純粋なヒ素は銀食器と反応しません」


 部屋の中に流れる困惑。セーラ様が代表して聴いてきた。


「ス、スウ様、硫化ヒ素とはなんですの?」

「あっと愚者の毒です」

「いえ、あの・・・だから愚者の毒は銀と反応するのですよね?」

「違います、愚者の毒の毒素だけをさらに純粋にしてしまうと、銀と反応しなくなるんです」

「な、なんですって!? ――ではお父様は!?」

「な―――っ」


 セーラ様とアンドリュー様が驚いて、王様を見た。


「はい。長期間、恐らく純粋なヒ素に(おか)されたんだと思います」


 あと・・・・主治医も怪しい。いるならだけど。

 愚者の毒というものがこれだけ周知されいるのに、こんなに分かりやすいヒ素中毒の症状を見逃していたというのは、あり得ないと思う。――でも、それは今は後回しで良い。

 硫化ヒ素でも純粋なヒ素でもやることは変わらない――ただ、一個困ったことが有る。


「そんな! ・・・・このままではお父様が・・・・!!」

「〈毒無効〉はまだ有るんですが」


 私は言って、革袋から〈毒無効〉を取り出す。

 アンドリュー様が歯噛みする。


「意識もないのにどうやって〈毒無効〉を使ってもらえば良いんだ!」


 そうだよね。〖再生〗を使うつもりだけど。――いけるだろうか。毒に冒された体でも通用するだろうか?

 私は僅かな不安を懐きながらも、王様の体に手を触れる。


「〖再生〗を掛けてみます」

「なるほど・・・・その手があった!」

「そうですよ! スウ様には〖再生〗が有るのですよ!」

「ただ、毒に有効かは分かりません」


 私は願うように〖再生〗を使う。

 ん――――――!?

 私は、突如襲ってきた、あまりの疲労感に膝から崩れ落ちた。すぐさまリッカが私を支えようとしてくれるのが視えた。

 しかしその光景が暗転する――私が気付くとまた、知らない電車に乗っていた。

 世界が切り替わったのだ。この電車は前にも乗った、黄泉の世界に続く電車だ。


「不味い、王様すでに死んじゃってるの?」


 私は不安にかられながらも、電車に揺られて鏡のような湖の上を抜けた。

 やがて見えてくる、見覚えのある花畑と川。


 って、――川べりに立っている王様の影みたいなのが!

 王様は、今まさにレーテ川に入ろうとしている。

 私は列車から飛び出して、王様の手を引く。


「行っちゃ駄目です!!」


 だけど、王様の手がすり抜ける。

 まじか――・・・・なにか方法を考えないと――そうだ、こういう時は。

 レムナント・ワイトにも通用したし。


「〖サイコメトリ-〗〖念動力〗!!」


 よし、触れられた。

 ――ってまって、とんでもない倦怠感が来た。黄泉の近くでスキルを使うと現世の比じゃないほどしんどくなるみたいだ―――。

 いや、そんな事より!!


「行ってはだめ!!」


 私が王様の手を引くと、王様はこっちを振り向いて首を傾げた。


「そなたは誰だ? どうやら我は、Λήθη(レーテ)川を渡る時の様なのだが」

「今はその時ではありません! その川を渡っては、貴方様が貴方様ではなくなる。私は、貴方様を連れ戻しに来ました!!」

「我は戻れるのか? あれほど肉体を蝕まれておるのに、戻ってもすぐにここに呼び戻されるだけであろう?」

「いいえ、貴方様の体を再生しました!! ですから戻ってきてください!!」


 王様が私の言葉にゆっくりと頷いたので(私の意識よ、現実に戻れ)と念じると、川の光景が消えた。

 私は、リッカの腕の中でぐったりしていた。目を覚まして王様を観る。


「ゲホッ――ゲホッ」


 王様が咳き込んだかと思うと、ゆっくりと目を開いた。〖再生〗が効いたんだ。


「レイア、アンドリュー、セーラお前たち・・・」


 レイアと呼ばれた王妃様が驚きの表情になったかと思うと、王様の手のひらを握って額に押し当てて泣き出した。

 でも、〝まだ〟だ。

 王様の体力が有るうちに。


「リッカ、ありがとう」


 私は頷くリッカから離れ、フラつきながら王様に寄る。

 私は〖サイコメトリー〗で、〈毒無効〉の印石の糸を王様に繋いだ。

 王様が私の顔を見て、何かに気づいた様な表情になる。


「そなたは・・・・見覚えが有る気がする」

「はじめまして、王。わたくし、流れの学士スウと申します」


 この世界で『高校生』とか『学生』って言うのは変かなって思って、学士にした。

 王様は、私の目を見てから言った。


「うむ。くるしゅうない」

「有難うございます。王の体は現在、毒に蝕まれております。そしてこちらに〈毒無効〉のスキル石があります。こちらを砕けますか?」


 アンドリュー様が補足する。


「賢者スウのお力により、そのスキル石は――」


 王様はアンドリュー様が言い終わる前に、腕を持ち上げスキル石を持とうとする。けど、力が入らないようだ。


 その時だった。知らない男性が駆け込んできた。


「父上が危篤とは、(まこと)でありますか!?」


 「父上」の言葉から、彼も王子だと思われる。


「ああ、グロウお前も来たのか」


 グロウ・・・・セーラ様に聞いた第三王子だ、セーラ様を暗殺しようとしてる犯人。

 私は容赦なく、彼に〖サイコメトリー〗を使う。

 ああ・・・やっぱりコイツだ、王様に毒を盛っていたのも、王様の主治医を抱き込んでヒ素を飲ませ続けた。


「なんと言うことだ、父上!!」


 グロウ王子が涙をながして胸を掻き、天を仰いだ。

 お前が毒を盛ったんだろうが、よくもいけしゃあしゃあと。

 第三王子は私達やリッカ、メープルちゃんティタティーを見つけると、怒鳴り声を挙げた。


「貴様ら何者だ!! もしや貴様らが父上に何かをしたのではあるまいな!! ――即刻ここを出ていけ!!」


 するとアンドリュー様が静かに言う。


「静粛にしろ、父上の体に障る」

「兄上こそ、この様な下賤の輩を王の寝室に招くなどと!! 何かあったらどのように責任を取るおつもりか!!」


 この期に及んでまだ責任追及とか、清々しいほど真っ黒だなこの人。


「まあ!? そもそも兄上は下賤な母の――」

「ちょっと黙ってて下さい。〖念動力〗」


 私はグロウ王子の体を〖念動力〗で拘束する。


「な、何だこれは、体が動かんぞ!? ――貴様、何をした!! 王子である俺に、この狼藉!! ただで済むと思うな!!」


 私は叫ぶグロウ王子を無視して、王様に向き直る。


「すみません王、お口を開いて下さい」


 王様が少しだけ頷いて、口を開く。


「き、貴様、父上に何を飲ませるつもりだ!! ――」


 グロウ王子が部屋の外に叫ぶ。


「――誰かあるか!! 出合え!! あの賊を討て!!」


 グロウ王子は(王様を、私に助けられてしまうかもしれない)そんな風に思い至ったのだろう。

 グロウ王子が叫ぶと、走ってくる足音が聴こえ始めた――グロウ王子の手の者が増えたら面倒だ、急ごう。

 私は王様が印石を飲み込んでしまわないように、印石を〖念動力〗で動かして、王様の奥歯に挟んだ。

 硬い歯なら噛み砕けるかも知れない。

 それに咬合力(こうごうりょく)は体重の二倍程度になると言われている。体重50キロなら、咬合力は100キロ出るという計算。

 だから王様が弱っていても、顎の力なら・・・。


「王、スキル石を噛み砕いて下さい」


 王様は私の目を見ている――私を信じてくれている。王様が渾身といった様子で奥歯に力を入れる。

 すると軽い音を鳴らして星空を内包するような石が砕ける。かくして王様の体が淡く発光した。

 よし、もう一度〖再生〗だ。

 と、そこに兵士たちが駆け込――ティタティーがドアを分厚い氷で塞いだ。

 ナイス、ティタティー。

 外でグロウ王子の息のかかった兵らしい人たちが、何やら喚いてる。

 今の内だ、今度こそ。


「〖再生〗!!」


 私は、完全に意識を手放した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
>なんだろう――死臭? みたいな匂いが漂った 親の葬式とかで嗅いだのかな?
更新お疲れ様です。 また無茶したなぁスウちゃん…。完全に死んだ人ではなかったけどそれに近い状態だったから、そろそろケロちゃんとハデス様からお怒りメール(?)が届きそう。 あと第三王子は処刑で良いなマ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ