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195 第一王子と顔を合わせます

◆◇◆◇◆




「マイルズ、右を押さえてて」

『ラジャ』


 今、私はマイルズとバーサスフレームで、砂漠の惑星の上空を飛んでいる。


 巨大なMoB、サンドワームを相手にしているんだけど、このMoBバーサスフレームすら丸呑みできそうだ。


 一匹ずつ戦いたかったんだけど、一気に八匹も出てきて、ちょっとてんやわんや。


 なぜマイルズがいるのかと言うと、彼に〖超聴覚〗と〖マッピング〗を取りに行きたいというと快く付き合ってくれると言ってくれたからだ。


 ごめんなさい、あの洞窟の地底湖を一人で潜水する勇気がありません。

 で、私が「マイルズお願い、あの洞窟に着いてきて」というと。


 マイルズはヴィックに休暇を願ったんだそうな。

 するとヴィックは「スウの頼みなら、任務でいい」と、あっさり送り出してくれたらしい。


 ヴィック、マジ感謝。


 〖超聴覚〗と〖マッピング〗――ついでに〖飛行〗を取り終え「サンドワームも倒しに行く」と言うと、マイルズも着いてきてくれた。――で、今の状況に至る訳です。

 でも〖奇跡〗持ちの私が倒さないと印石が出にくいんで、マイルズはあくまでサンドワームを引き付けてくれているだけ。


 4匹のサンドワームがフェアリーさんを飲み込もうと、私に伸び掛かってくる。

 サンドワームの口は円形で多重に牙が配置されている。ヤツメウナギみたいな口だ。

 あんなのが迫って来るから、メチャクチャ気持ち悪い。――ちなみに知らない人はヤツメウナギは検索しない方が良いかもしれないです。


 サンドワームに飲み込まれると、ヒドラと同じ様な毒でバーサスフレームの自由を奪われて、あの牙で機体ごとバリバリ砕かれるんだとか。

 そんなやられ方は、絶対に御免だ。


 私は逆噴射でサンドワームに向き直って、〈汎用バルカン〉を放つ。

 だけど、前に戦った時もそうだったんだよね。――全く通用しない。


 ブヨブヨした体表で弾かれてしまう。


 〈励起バルカン〉はヌメッとした体液を蒸発させるだけだし。体液はいくらでも湧いてくる。


 黒体系の熱なら通用するかもだけど、一応生物のいる惑星なのでロックが掛かってて使えない。


「やっぱり〈励起剣〉か〈励起翼〉しか通用しないのかあ」


 私はフェアリーさんを人型モードにして斬りかかる。

 するとやっぱり来た。


 サンドワームの攻撃〈バキューミング〉。凄まじい吸引力でこっちを吸い込もうとしてくる。


 人型だとこの攻撃を躱しにくい。

 だけどこれは、私の誘い。


 私はすぐに飛行形態になって、吸い込みに任せて突撃。

 そのままサンドワームを、〈臨界・励起翼〉で、撫でるように切り裂いた。

 こんな感じで、サンドワーム8匹を退治。


 この惑星は、バーサスフレームの外に出ると危険なんで印石を〖念動力〗で回収。

 普通はドローンで回収するらしいけど、私には〖念動力〗があるのでとっても便利。


 前に〖毒無効〗を取りに来た時は、出たやつをフェアリーさんでそのまま叩き割ったんだけどね。――今回は他人に渡さないといけないんで、ちゃんと回収しないと。


「ありがとう、助かったよマイルズ」

『気にするな』

「お礼に後で〈毒無効〉あげるね」

『む――助かるが、そんなつもりで手伝ったのではないのだがな』

「マイルズには、毒とかで死んだりしてほしくないし」

『―――』


 急に通信が静かになる。

 あれ? と思っていると、しばらくして返事が有った。


『――そうか。では、ありがたく受け取っておこう―――』

「うんうん」


 この後も、取れそうな印石を全部取りました。


 内訳は、


〖ショートスリーパー〗

〖暗視〗

〖強靭な胃袋〗

〖怪力〗

〖飛行〗

〖空気砲〗

〖毒無効〗

〖超聴覚〗

〖マッピング〗


 全部マイルズとハクセンとメープルちゃん、みずきの分も集めた。

 というか、何か有った時のために全部多めに取っておいた。


 〈毒無効〉は、あとでクレイジーギークスの全員にあげよう。


「いやはや、こんなに大量の印石を貰えるとは思っていなかったぞ」

「この辺の印石は、ヴィックに売らなくていいよね?」

「そうだな、このくらいならもう意味がない」

「りょ」

「お前は、本当に印石が出やすいんだな。1つも持っていない人間だらけなのに、とんでもない話だ」

「ま、まあね」

「助かった」

「こちらこそ」


 こうして私はファンタシアに戻った。


 マイルズはファンタシアまでは着いてこなかった。他の任務があるし「近代武器が使えない生身では、ボクはあんまり役に立たない」と言って、惑星オルセデウスの合衆国宇宙軍の軌道ステーションに戻って行った。

 さすが「出来ないことは出来ないと言えるから、ボクは強い」と断言するマイルズ。すんごいあっさり帰った。


「ただいまー」

「お帰りでござる」

「おかえり」

「おかえりなさいー」


 私がお姫様の部屋に帰ってくるとハクセン、メープルちゃん、リッカが迎えてくれた。


 セーラ様とメイドさんも顔を出す。


「スウ様、おかえりなさいませ」

「ただいまです。というわけで印石を取ってきました。とりあえず取れるだけの印石を」


 私が軌道上の売店で買った、それっぽい革袋を開くと、中に石がジャラジャラ。


 セーラ様が目を(しばたた)かせた。


「ほ、本当にスキル石がこんなに沢山・・・・」


 リッカが頬を膨らます。


「ズルいぞー、スウー。Booo」

「リッカの分も取ってきたよ」

「スウ大好き」

「本当に調子いいなあ、この可愛い生物」

「第一王子の分もあります。あと、ハクセンとメープルちゃんの分も」

「拙者の分まででござるか!?」

「私も!?」

「うん、二人も危ないし。だから特に〈毒無効〉だけは絶対に身につけておいてもらいたい。あとは、こんな危ないこと手伝ってくれたお礼」

「かたじけないでござる」

「スウさん、超ありがとう」


 こうして私は、印石をみんなに配った。

 で、あとは第一王子だけど。


 私達は、セーラ様の執事に第一王子の私室に向かって案内される。


「こちらでございます」


 赤い絨毯の上を土足で歩いているのがちょっと気になる私がいたけれど、やがて豪華な扉の前に来た。


 執事さんが部屋の中に声を掛ける。


「アンドリュー様、セーラ様と、そのご友人スウ様をお連れしました」

「ああ、入っていいよ」


 執事さんが扉を開いてくれたのでセーラ様に続いて入ると――はいイケ面。

 まあ、高貴な血筋の人って美男美女とばっかり結婚してるからイケ面率高いらしいけど。

 また凄いの出てきたなあ。


 輝くようなブロンドを流麗に伸ばした、瀟洒(しょうしゃ)――清く垢抜けた感じの20代半ばくらいの男性。


 「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花」とかいう言葉が似合いそうな男の人。

 そんな男性がこっちに優しく微笑んでくる。


「君がセーラの会わせたいという人だね、座っておくれ」


 私は椅子を勧められてセーラ様の隣に座った。


 ハクセン達も椅子を勧められるけど、


「いえ、拙者等は姫の護衛なので、何時何時(いつなんどき)でも動けるように立っておきまする。お心遣い深く感謝をいたしまする」


 と返している。王子に対しては、なんか言葉遣いが変わった。

 にしても立っておかないと、とっさに動け無いとかは思い浮かばなかった・・・・私はそんな事気づかないでアホ面で座ったよ。やっぱ三人に来てもらって良かった。


 王子様――アンドリュー様はハクセンたちの言葉に頷くと、私の正面に座った。


 アンドリュー様は、先ずはセーラ様に話しかけた。


「セーラ、あの〝高炉〟というもの見せてもらったんだけど、凄いね。君は聡明だとは思っていたけれど、どこからあんな発想を思いつくんだい?」


 この言葉にセーラ様は「ニッコニコ」だった。


 アンドリュー王子の話は続く。


「――他の王子達もあれを作ろうとしているけど無理みたいだね。だからなんとか、あの高炉の所有権を奪えないか画策しているようだよ」

「えっ、所有権を!? 兄様、絶対に死守して下さいね!」

「もちろんだよ。あとセーラ、この君が書いた農業改革の資料読ませてもらったけど、これまた凄いね。三圃制農法というのは確かに理にかなっている。花畑の咲く花が、数年毎に代わるのは『なるほど、こういう理由だったのか』と納得したよ」


 アンドリュー様が、羊皮紙を眺めながら何度も頷き続ける。


 アンドリュー様に渡してあるのは、私の書いたものではないんだよね。


 詳しい内容はセーラ様にしか教えていないので、あそこに有るのは王子様を納得させられるだけの事をセーラ様が書いた概略。

 どんな時期に何を、どんな植物を植えるべきとかも書いてある(もちろんネットの知識)。


「この三圃制農法という物、多少の反発は押してやるべきだ。今の僕の権力で出来そうな事は、頑張ってみるよ」

「はい! 頑張ってください、お兄様!」

「うんうん。しかもこの説明には幾つもの注意書きがあり、しっかりとした慎重さも君らしい。僕は聡明な妹を持って果報――」「あっと、わたくしを褒めるのはやめて下さい」


 セーラ様が私を視る。そうして手のひらで指し示した。

 視られた私は〝なにを言われるか勘づいて〟慌てて、リッカたちの方へ向き直る。


「お兄様。その知識をもたらしたのは、こちらに座っているスウ様なのです!」


 私の右耳に、アンドリュー様の驚愕の声が流れ込んでくる。


「な、なんだって!? セーラが考えたのではなく、その少女が!?」


 私はアンドリュー様を見れていない。

 だって〝あっち〟の反応が怖くて。

 リッカが〝じとー〟とした目を向けてくる。

 その口が「ずるいぞ、それは地球の知識だぞー」と動いている。

 私は、急いでリッカに弁明する。


「言ったから、ちゃんと言ったから! 私が考えたんじゃないって!」


 セーラ様が「どうしました?」と首を傾げている。


「いやっ、そのっ、リッカも同じ知識を持っていると思って!」

「なんと・・・リッカ様も賢者なのですかッ!?」


 私はお姫様に頷く。


「はい!」


 私が返事をすると、なぜかリッカが急にしどろもどろになる。


「いやっ、わたしはっ――」


 ハクセンが冷たい声になった。


「慌てるでござろうな。普通の高校一年生は三圃制などという発想は出て来ぬ。スウどの三圃制の知識は本来、スウどのやリッカは来年の秋あたりに知りうる知識でござる。知恵者の多い爽波であるからスウどのが知っていたに過ぎぬ。というか花畑の知識なぞ、どこから持ってきたのか見当もつかぬでござる。第一リッカは調子に乗って適当に農法を提案して自然がビックリして、大飢饉を引き起こしたであろうよ」


 そしたらメープルちゃんが笑った。


「ハクセンお姉ちゃん、それは違うよ。リッカお姉ちゃんは多分、来年になっても三圃制なんて知らないよ。だって授業中寝てるもん。あと多分、製鉄を自分で理解して他人に説明するなんて出来ないと思う。私は某漫画を読んでるから分かるけど、多分耐熱レンガ辺りでお姉ちゃんは詰む」


 ここで、リッカが地団駄を踏んだ。


「そこまで酷くないよ!? わたしの学校だって、そこそこの偏差値はあるよ!?」

「セーラ姫、スウどのは知恵者の多い学び舎でのトップでござる。賢者の卵でござるのは間違いないでござる。リッカとは違うのでござる」

「わたしもなにかの知識で内政チートする! あとで調べてやる! え、なにダーリン――特別権限ストライダーでないと、高度な知識は持ち込めない!? スウずるすぎぃいぃぃぃぃ!」


 リッカが、ますます地団駄を踏んだ。


「ハッハッハ。特別権限ストライダーをあがめたてろー」


 言い負かしたので、満足して私はアンドリュー様に向き直った。


「リッカは内政チートできないみたいです」

「ちぃと? ――とにかく、君がこの素晴らしい知識の数々をもたらしてくれたんだね。礼を言うよ。僕は王子なので簡単には頭を下げられないけれど、深く感謝はしている。この感謝は、王族らしく形にして返させてもらうよ」

「い、いえ・・・そういう必要はないです」

「そう言わないで受け取ってほしい。知恵をもたらしてくれた賢者に対価を支払わないと、私が笑われてしまう。神話の時代の大王のように賢者に褒美を与えようとしたら『そこをどいてくれ』なんて褒美を求められたら、僕は恥ずかしくて泣いてしまうだろう」


 アレクサンダーと、ディオゲネスの逸話が伝わってるのかあ。

 ちなみに、私みたいな引きこもりをディオゲネス症候群というらしいです。

 閑話休題。


 じゃあ「そこをどいてくれ」っていう褒美を求められたら、答えはこうかな。


「であると、アンドリュー様はこう返すのです。『私がもしアンドリュー・リメルダでなかったならスウになりたい』と」

「はっはっは! その答えは良い。まさに賢者だ、君は!」


 あ、あれ・・・? アレクサンダーの語りは伝わってなかったの!?

 私は思わず後を振り返った。

 リッカの〝じとー〟とした目が私を見ていた。

 口元が「貴女がアレクサンダーだったのかー」と動いている。


「ちがっ、違うの、今のは伝説が伝わってると思ったの!」


 表情を崩したアンドリュー様が笑いながら言う。


「そして、素晴らしい自信家だな君は!」

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