193 内政チートします
ミスっていたので今日は二話投稿です。
もう一話あります。
世界史Bの教科書で読んだ三圃制が使えそう――そうだ、たしか三圃制はスイスで始まったはず。
標高が高くて牧畜が盛んなスイスに似た環境なこの国には、うってつけだと思う。
できれば三圃制をさらに進めた四圃制(ノーフォーク農法)にしたいけど、この惑星の植物とこの国の標高や気候が詳しく分からないから、直ぐにはちょっと難しい。
ちょっと配信をしようか・・・視聴者さんの意見が欲しい。
視聴者無双してごめんなさい。
「ちょっとまって下さいね。少し考えをまとめます」
姫様に言って、配信を始める。
暫く小声で視聴者に状況を説明する。
そうして、5千人位になったところで視聴者に尋ねてみた。
〔視聴者の皆さん、惑星ファンタシアのリメルディアで三圃制を勧めてみようと思うんですが、どう思います?〕
❝俺、農業詳しくないから分かんねぇ❞
❝その国の植生が詳しく分からんけど、あそこの見た感じスイスに近い気がするから行けるかも❞
❝一応、小さな範囲で実験してからのほうが良いと思う❞
❝でも農業改革は時間かかるよなあ、多分結果が出る頃にはスウたん大学生だぞ❞
❝農業チートは、時間が掛かるのがネックよな❞
〔はい。気の長い話ですが、正に種を巻いておこうかと――〕
「セーラ姫、ちょっと席を外していいですか? あと羊皮紙を何枚かとペンを貸して頂けませんか?」
「えっと、はい」
多分、スマホを使う所を見せるわけにはいかない。
メイドさんから紙とペンを受け取ると、私は席を外してカーテンの向こうで、色々検索して内容を紙に書き写す。
「イルさん、ミスリルってどんな合金なの?」
あと、ミスリルの特性も聴いておく。
できるだけ情報を書いたら、お姫様の下へ戻った。
そうしてWikiなどの情報を写したものを、お姫様に見せる。
「こうすれば食料などが1.5倍になります」
「い、1.5倍!? そんな馬鹿なこと・・・・」
私は首を振って、三圃制の説明に入る。
「まず農地を三つに分けます」
「待って下さい――分ける場所を二つから三つに増やすだけで、1.5倍になるのですか? 1.3倍より少し多いくらいでは?」
このお姫様、計算早ッ。本当にファンタジーの住人!?
相当頭良さそう。
「いえ、1.5倍になります。土地は必要になりますが労働力に少し余裕が出ます。その余裕が出来た労働力でさらに作物を作るのです。こうすれば1.5倍になります」
「あ、確かにそうですね。・・・なるほど」
「それでまず一つの面に、豆か、燕麦か、大麦、いずれかを植えます。二つ目の面には、小麦か、ライ麦、どちらかを植えます。三つ目の面は休耕地とします」
「それで大地の力を落とさず、より多くの収穫が望めるのですか?」
「はい。違う種類の作物が、大地を回復してくれるのです。花畑で、ある花が数年沢山咲いていたのに、急に減って、何年かするとまた沢山咲くような事がありませんか?」
「はい――たしかに有ります」
「あれは、土の栄養素が関係しているんです。地力って言うんですが、これが別の草花が咲くことで回復するのです。片方の草花が暫く咲いて、自分が使用しない地力を回復する。けれどその草花は自分に必要な地力を減らし、あまり咲かなくなる。――すると今度はもう片方の草花が暫く咲いて、あまり咲かなくなった草花に必要な地力を回復する。ということを繰り返します。そんな風に互いに地力を回復しあって、助け合っているのです」
「そ、そんな助け合いが草木の間で起こっていたのですか!? な、なるほど・・・・」
「はい。さらに三圃制では、馬を労働力として使います。」
「馬!? 馬ですか!? ――牛ではなく!?」
「はい。馬は牛よりよく働きますので、より良い労働力となる(らしい)のです。そうして馬には燕麦を飼料として与えます。もちろん人が食べても構いません」
「そうですか・・・畑で馬の食べ物も育ててしまうのですか」
「はい。とりあえず小さな範囲で実験してみてはどうでしょうか?」
「なんというか・・・何もかもが、大胆な発想ですね・・・・丁度自由になる土地があるので、実験してみますね」
お姫様が「動揺と、希望」を綯い交ぜにした表情で、羊皮紙の絵や文字を読んでいる。
そこで ❝チート食料のジャガイモは持ち込まないの?❞ ってコメントが流れてきた。
私はそのコメントに返事する。
「それは考えたんですが、この惑星一日が20時間なんです。地球とは気候もちょっと違いますし。地球のジャガイモじゃ、上手く育たない可能性があって――もし有るならですが、この惑星にあるジャガイモを探しに行った方が良いかもしれません。あと・・・デカイモが使えたらすごい楽なんですけど――イルさん、デカイモは持ち込んじゃ駄目だよね?」
『はい、自然の生態が狂う可能性が高いので駄目だそうです。更にいくら特別権限ストライダーでも、許可なく生物は持ち込まないで下さいと言っています。地球のジャガイモも止めて下さい』
「そっか」
私が色々と憶測していると、セーラ様が首を傾げた。
「ジャガイモ?」
「あっと、フェアリーと話していましたその農法は実験して下さいね。失敗して飢饉とか洒落にならないんで」
「それはもちろんです。わかりました」
まあ私の進言で飢饉やらかした時は、ご飯をどっかから調達しよう。空母とか戦艦とか沖小路の総力使ってもらってでも。この惑星の国々から輸送する方法もあるし。
銀河連合が駄目って言うなら、みんなに配った〈次元倉庫の鍵〉を貸してもらって、余ってるのもフルに使えばマンション三棟分くらいの食料を一度で運べる。
「それから農具にミスリルは使っていますか?」
「僅かにですが」
「じゃあ、そこは問題ないんですね。農具に使う鉄の割合は、どんなものですか?」
「えっと木で作った農具の先を鉄で補ったりしています」
「なるほど、やっぱり鉄が足りていないのですね。この国は鉄の産出は多い方ですか?」
鉄は多分この国でも取れると思うんだけど。
地球は、鉄の惑星って言われるくらい鉄が多いんだよね。
この惑星ファンタシアも恒星と惑星の距離が地球に近いし、強い磁場が有るみたいだし、惑星の組成も似てると思うんだけど。
「はい、かなりの量出ます」
「では製鉄方法は、どんな風になっていますか?」
「せ、製鉄ですか!?」
「製鉄できる量を増やせるかもしれません。これなら短期的に一気にお姫様の力を上げられると思うんです。食料生産力もほしいとは思いますが、今は短期的に一気にお姫様の力を上げたいわけですし。あと、鉄を農具に沢山使えば、さらに食料の増産に繋がるはずです」
「それは正にそのとおりだと思いますが、鉄の増産ですか・・・ちょっとお待ち下さい」
セーラ姫がメイドさんに指示して、製鉄に詳しい人物を連れてこさせる。
すると、文官らしい人がやってきた。ドワーフさんと取引しているんだとか。
話を訊くと、やっぱり毎回炉を壊してるみたいだ。これじゃ熱が無駄になる。
鉄を作って熱くなってる炉を使い続ければ、それだけ熱が無駄にならない。
私は〝高炉〟について説明した。
もちろん、スマホで調べたものを書き写した羊皮紙で。
書き写した絵を見せながら説明する。
「まず炉をレンガにして、ここから水車の力でフイゴを動かして空気を送り込み、ここから材料を投入。この様に積み重ねます」
文官さんが驚く。
「水車でフイゴを!? そのように大型のフイゴが必要なのですか!?」
「はい、多分少人数の力では風力が足りません。風力が弱いと、炭素の多い脆い鉄が出来るのでしっかりと送り込んで下さい。中に発生した可燃性ガスも高温で燃やすのです。もしどうしても火力が得られず脆い鉄が出来たなら、今まで通り精錬して下さい。あと、毒ガスが危険なので換気の徹底もしてくださいね。できればマスク――マスクは作り方を後で教えます。長時間労働させないこと。発生するガスは、必ず煙突などで外へ逃してください」
「なるほど・・・」
「で、問題は作った炉の内面に使う熱に耐えうる、耐熱レンガなんですが」
「そうです! それが問題です。どうするのですか、それが作れないから毎回粘土で炉を作る必要がある訳ですし、高温を起こせないのですよ! そもそも耐熱レンガを作るために、耐熱レンガが必要などとなるのでは・・・?」
「3つ方法があります。耐熱粘土で耐熱レンガを作る」
「も、もう一つは?」
「私の持っているアーティファクトで作る。です」
「アーティファクトですか!?」
「もう一つは?」
私が、地球のホームセンターから買って持ってくる。
「最後は秘密です」
「というわけで、イルさん。耐熱レンガ使って良い?」
『少々お待ち下さい、揉めています』
あ、不味いのかな。
『賛成2、条件付き賛成1で許可が出ました。どうせそこまで難しい技術や材料がなくとも作れるのだから、良いだろう。という判断です』
なんかもうやってることが『MAGIシステム』じゃないですか。
そういえば私、AI3つに会話させて『MAGIシステム』ゴッコして遊んだなあ。
あと『そこまで難しい技術や材料ではない』と申しますが、私からしたらとんでもなく高度な仕組みなんだけど。
これ、製鉄の大革命だしなあ。
「よ、良かった、じゃあちょっとレンガを持ってきます」
私はセーラ様に耳打ちする。
〔簡単な耐熱レンガの材料は赤土粘土、石英や黒曜石、チャートなどガラス系を砕いた粉、焼いた石灰石です。耐熱粘土も同じ材料です。――この材料は他言無用でお願いします。もしもの時はこれ等を用意して、耐熱粘土の炉を作って、同じ材料で耐熱レンガを作って下さい。耐熱粘土やレンガにはガラス――ケイ素とアルミが大事です。鉄とアルミはよく一緒にあるので、赤土粘土にはアルミが含まれれる可能性が高いですが、たまに足りない場合があります。その場合、他の赤土を試して下さい。ろう石なんかも、耐熱レンガに出来ます〕
「は、はい分かりました」
「ではちょっと席を外しますが、すぐに帰ってきます。――リイム、私が居ない間お姫様をよろしくね」
「コケッ!」
リイムはビシッと胸を張ってくれた。うん、大丈夫そう。
私はフェアリーさんで地球に帰ってホームセンターをあちこち巡って耐熱レンガを購入して、ファンタシアに戻り文官さんに耐熱レンガを渡した。
地球の外をあちこち巡るの怖いんで、ホームセンターにフェアリーさんで乗り付けちゃった・・・。
あとイルさんに『ショートカットしすぎです。マイマスター・・・』と呆れられた。
でもいいじゃん、どうせ作れるんだし面倒は省いちゃっても。
有名企業の製品だし、私が造るよりずっと良いって。
にしても知識チートしすぎたかな。やっぱスマホは凄いわ、異世界行くならスマホが欲しい。
今回のは私だと、ネットが無いと出来ないチートだった。




