192 お姫様にスキルをプレゼントします
メイドさんが驚愕の表情で、セーラ様の印石を覗き込んだ。
「あ、温かいのですか? 姫様・・・」
「そ、そういえば温かいです!! こんな、こんな事が・・・・ありえるのですかっ!?」
「はい。スキル石を譲渡できるスキルが有るのです。とにかく使ってみて下さい」
「わ、わかりました」
姫様が印石を机において、近くにあった燭台の底で印石を叩いて砕いた。
印石なら私ですら握りつぶせるのに、本当にか弱いんだなあ。
軽い音を鳴らして、星空を内包したジルコンのような石が砕けると姫様の体が光った。
メイドさんの目がまん丸になった。
姫様が、自分の体を見詰めて固まっている。
「こ、これは・・・・本当に・・・・」
私が黙って頷くと、執事さんが戻ってきた。
「姫様、鑑定の水晶をお持ちしました!」
「ありがとう、セバスチャン!」
執事さんが机に水晶を置くと、セーラ様が手を乗せる。
すると、水晶に簡単な能力値とスキルが一個示された。
〖毒無効〗が、しっかりと所持されている。
「す、凄い!! 本当にスキルが取得できています!! こんな――こんな事って!!」
「良かった――これで毒殺の心配はもう無いですね。この事は秘密にしてくださいね。決して口外しないで下さい」
セーラ様が、私の手を握って顔を近づけてくる。
セーラ様の顔がフルスクリーンになる。可愛い、フルスクリーンが可愛い。
「はいもちろんです!! これでもう食事の度に怯えなくてすみます!! 有難うございます!!」
(あ・・・そっか)
食事を怯えながら食べないといけないのは、本当に嫌だ。
グルメな私としては分かる。凄い苦痛だ。
「は、はい! ―――本当に良かったです! ――あと、できれば第一王子さんの分も欲しいので、後で手に入れてきますね」
「「「え・・・・」」」
セーラ様と執事さん、メイドさんが唖然とこっちを見てくる。
「む、無理では? スキル石はそんなに簡単に出現するものではないと訊きましたよ?」
「いえ。私はスキル石が出る確率が挙がるスキルを持っていまして。かなり高い確率でスキル石が出るんです」
三人は、なんだか顔を見合わせていた。
とりあえず、私は話を戻す。
セーラ様が襲われる理由は分かった。じゃあ今度は、解決策を探さないと。
つまり、他国の介入を止めさせる。
「あのセーラ様。この国をどうして周りの国は、そんなに欲しがるんですか? 言っては悪いですが・・・――小国ですよね?」
私が地図を見ながら尋ねると、現実に呼び戻されたようにセーラ様が飛び跳ねてこちらに向き直って言う。
「え、あ――はい。地下資源です。この国の地下にはミスリルが大量に眠っているのです」
しかし出てきた単語に、今度は私がビックリする番だった。
「ち、地下資源にミスリル!? ――ちょ、ちょっと待ってくださいね・・・・」
そういえばバーサスフレームの装甲にMysLill(ミステリーと小さなの合成語らしい)っていうのを聞いたこと有るけど、地面にミスリルが埋まってるの!? ミスリルとかそんなの。完全にファンタジー金属じゃん。ここは一応、現実の一部ですよ!?(ほぼ間違いなく) あり得ないじゃん、なんの元素なの!?
この宇宙の元素は決まってるんだよ、地下資源のような物質は宇宙に存在する元素以外に出てこないんだよ!?
「イ、イルさん、ミスリルってなに、元素的にどれ!?」
私がイルさんを呼ぶと、お姫様が小鳥のように首を傾げた。
「イルさん?」
「あっ――フェ、フェアリーの事です! イルさんって呼んでます!」
ファンタジー世界だし、フェアリーと話せるとかなら問題ないよね!?
お願いだからファンタシアに居てよ!? フェアリー!
「フェアリー!? スウ様は、妖精達と会話できるのですか!?」
「そ、そうです・・・・フェアリーと話せるんです!」
「本当に沢山の素晴らしいスキルをお持ちなのですね。――それとも特技なのでしょうか?」
「と・・・特技かなあ?」
『マイマスター、ミスリルは帝国時代には超硬合金ミスリルと呼ばれていました。なので元素ではありません。超重元素を用いた合金です。――通常は安定して存在できない超重元素を、合金にすることで安定させたものです』
〔超重元素の合金!?〕
(そんなのが地下から出てくるなんて、宇宙は広いなぁ・・・)
ウランより重い元素は、通常の自然界に存在しない筈なんだよね。
『超硬合金ミスリルも自然界では合成されないはずなのですが、なぜかこの星では大量に地下から発見され、この惑星は帝国時代において重要なミスリル採掘場でした』
「な、なるほど」
トンデモ資源が眠っている国なんだ。そりゃ他の国が欲しがる訳だ。
「・・・とにかく素晴らしい地下資源が眠っている土地なんですね」
「はい、そのため様々な国がこの国を欲しています。一説では、我が国にはアーティファクトの機神まで大量に埋蔵されているという噂もあって、この国を盗れば西方の支配者になれると考える国は多いです。ですがこの国の中にも、打って出るべきだと考える方はすくなくありません」
どんどん大戦争に、繋がってく。
「でも、お姫様は平和を望んでいる訳ですね?」
「はい。この国が戦争を起こせば、とてつもない大戦争が起こるのだと感じるのです」
――AI神も、おんなじ心配してるんだよねぇ。
「他の国となんとか縁を切って、王子たちの争いを止められないんですか?」
「それが・・・この国は、土地が痩せていまして。なので他国の食料や薬などが手放せなくて。そうして頼ってしまうと、あちらの意見に飲まれやすく」
そういえばさっきウィルムが出てきた時、やたら食料と薬を心配する人が多かった。
つまり先ずは、食料問題をなんとかしないと駄目ってことか。
「険しい山々・・・山ではどんな食べ物を育ててるんですか?」
「ブドウや牧畜が主です」
ヨーロッパ地域の、山の多い場所と同じって感じかな。
「それなのに食料が少ないのですか?」
「我が国は政治的混乱が多く、農業の発達も遅れているのです」
「あーもしかして、輪作してない感じですか?」
「輪作とは?」
「土地の力を失わないように、別の作物を交代で植えることです」
「別の作物を植える事でも土地の力は回復するのですか? 小麦を育てたら、次の一年はその農地は使ってはいけないのでは?」
「なるほどその感じだと、休ませてる休耕地に家畜を放って雑草を食べさせたり?」
「はい」
二圃制農法だ。
これなら教科書の知識だけで、かなり改革できる。
 




