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188 勇者になります

「い、良いんですか?」

「良いからやれ!」

「ほ、本当に良いんですね? 〖超怪力〗〖怪力〗〖前身〗〖飛行〗――本当に、本当に・・・知りませんよ!? ここまでしたらどれだけの威力が出るか私にもよく分からないんですよ?」

「やれ!」


 でもこの獣人さんは、〖超怪力〗混じりの〖念動力〗を上回る膂力(りょりょく)を持ってるんだ。この惑星の冒険者さんなら耐えられるのかもしれない。鎧も着てるし。

 一応手加減するけど――私は跳躍、そして〖飛行〗で加速する、瞬く間にマッハ近くに達する。

 すると、獣人さんが目を見開いた。


「ちょま――」


 何か言うけど、速度がマッハ近く出てるんだ。止まれるわけがない。

 止まれない私はスキルで逆噴射のようにブレーキしながらも、前に突き出していた拳を獣人さんのお腹に叩き込んでしまう。すると鋼の鎧がひしゃげた。獣人さんは酒場の端まで吹き飛んだ。壁に叩きつけられる。

 冒険者さんたちが、側を駆け抜け茶色い影みたいに吹き飛んだ獣人さんを、ちょっと遅れて「――――――!?」って感じに振り返った。

 獣人さんが、お腹を抑えて震える。


「・・・・が、ぁ・・・・」


 獣人さんは泡を吐きながら白目を剥いて、やがて血を吐く。

 すると、猫獣人さんが振り返って悲痛な叫びを挙げる。


「ヴァ、ヴァ、ヴァ、ヴァンデルゥゥゥゥ!?」


 ブレーキは掛けたんだけど・・・・間に合わなかった。


「ご、ごめんなさ・・・・」


 獣人さんが、膝から崩れ落ちる。


 不味い!


 獣人さんはピクピクと痙攣し、それが弱くなっていく。


「ヴァンデル! ヴァンデル! 誰か・・・ヴァンデルを助け――!」


 樽で出来た椅子を太鼓のように叩いていた人間の男性が、震えながらも辛そうに首をふった。


「なんてパンチ・・・・・・人間!? いやトリテ、無理だ・・・! 回復薬なんて高価な物、誰も持ってねえよ!」


 私は獣人さんに駆け寄った。

 多分危険な怪我だ――なら患部に触れないと。

 私が鎧の留め金を引きちぎると、周りから悲鳴が上がった。

 私は服を持ち上げ、ヴァンデルさんのお腹に触れる。


「さ、〖再生〗!」


 痙攣していたヴァンデルさんの白目が、スロットの様に黒目に戻って、ハッと顔を挙げた。

 よ、良かった。


「ヴァンデル! 良かったニャ! 生き返ったニャ!」


 獣人さんが、体を持ち上げて辺りを見回す。


「おれは・・・? ――ここは一体?」


 え、記憶飛んじゃったの!?


「えっと、大丈夫ですか?」


 私が話しかけると、獣人さんの尻尾がブワっと逆立った。

 そうして、床を掻くように手足を動かし、別の壁際まで下がった。

 あ、記憶は飛んでないみたい。

 続いて、一緒に他の冒険者さんも下がっていく。


「あ、あの」


 私が一歩前に出ると、冒険者さん達が一斉に一歩さがる。

 私の周りに、結界が出来たみたいで若干涙目。もしかして私、ここでもボッチ?


「・・・・わ、私、冒険者になれますか?」


 ヴァンデルさんが、壊れたオモチャみたいに頭を上下させる。他の冒険者さん達も一緒に上下させている。


「よ、良かったです・・・」


 私が背後を振り返ってギルマスさんを見ると、彼は青ざめていた。


「あ、あの・・・」

「お・・・おう! 今冒険者カードを用意する――カレンが! カレン、後は頼んだ!!」

「え、ギルマス!? 彼女のランクはどうするんですか、どうみてもFじゃないですよね!?」

「お前に任せる!」

「え、わた、私に丸投げ!? もおおお! ギルマスは、いつから新人登録できないポンコツになったんですか!」


 ギルマスさんが、逃げるように奥へ行こうとしたので私は思わず、


「あ、受付嬢さんにあやまって・・・」


 言うと、ギルマスさんとヴァンデルさんが直角に腰を折った。


「すいませんでしたー!」


 ギルマスさんは叫んでからから青ざめたまま逃げるように奥へ引っ込んだ。

 

 これで良かったのかな・・・受付嬢さん、「あはは」と、困ったような笑い。


「い、今、カードをお作りしますね!」


 10分ほど待つと、受付嬢さんが銀色に輝くカードを持ってきてくれた。

 待ってる間、他の冒険者さん達が私を怯える目で見ていたので、ちょっと居心地悪かった。

 このカード、すごく綺麗。あと金属だから頑丈そう。


「これが冒険者カード」


 私の名前と能力が書かれている、シンプルなもの。


「はい、身分証などにもなります。再発行などには結構手数料がかかるんで、無くさないで下さいね」

「ありがとうございます!」


 私が、カードを窓から差し込む陽光に照らして眺めていると、ゆっくりとライオン獣人さんがこっちに寄ってきた。


「疑ってすまなかった」


 握手の手を差し出してきてくれた。

 良かった、ボッチにならずに済みそう。


「あ、いえ。私こそ滅茶苦茶な殴り方してすみませんでした」

「それは俺が『やれ』と言ったことだ。何も問題ない――それより、コイツの話を聞いてやってくれないか?」

「話?」


 私が首を傾げると、箱型のギターみたいな楽器を持ったドワーフさんが前に出た。


「いやはや、今の一撃凄まじかった――」


 言ってドワーフさんは じゃらーん と箱型ギターを鳴らす。そして続ける。


「――ワシの名はバルムと申します。願わくばお嬢さん、ワシにそなたの(いさお)しを謳わせてくれんじゃろうか」

「え、私!?」

「ワシはこれでも(うた)の神、シャミルの使徒での。シャミルの使徒の誉れとは、勇者の唄を世に識らしめること」

「・・・・勇者?」


 私が訊ねると、バルムさんが急に前のめりになった。

 箱型ギターを弾く手が加速する。


「その通り。今、まさに啓示を受けたのじゃ!」

「・・・・け、啓示!?」

「突如視界が光に包まれ、沢山の光のカーテンが揺れる中、後光を纏った〝白きお方〟が舞い降りて、こう宣言なされた。『其の乙女 我らの待ち人なり。 汝 その乙女の詩を広めよ そして英雄の道に導け。 それこそ汝の命に込められた意味と心得よ』と! 嬢ちゃんこそ、ワシの勇者に間違いないのじゃ!」

「え、勇者とか無理」


 私が若干後ずさると、バルムさんの顔が愕然となった。

 いや、そんな顔されても! ――だって、私ずっとこの惑星にいるわけじゃないんだよ!?

 というか地球での活動がメインだし。今はまだ夏休みだからいいけど、学校始まったら殆どこっちに来れないし。

 勇者とか言われたら、すごく拘束時間長そうじゃない!?

 射手座A*も目指さないとだめだし。他にもやること一杯あるし!


「な、何故じゃ!! 嬢ちゃんは神の認めた勇者なのじゃぞ!?」

「何故って言われても、言えないというか」


 銀河連合の話とか完全に秘密だし。


「た、多分人違い・・・・」

「人違いなわけ有るわけなかろう! 嬢ちゃんはあれだけの力を持ち、そこに神が降臨し、嬢ちゃんを示したのじゃぞ!? これ以上の証拠がどこに有るのじゃ!」

「そんな事いわれましても・・・」


 周りに助けを求める視線を送っても、羨望っぽい視線が返ってくるだけ。


「勇者だ・・・!」

「神に選ばれし、勇者が降臨した!」

「この様な場面に立ち会えるとは!」


 なんて声まで聞こえてくる。

 私は視線を受けながら、うわ言のように呟く。


「いかんともしがたい・・・」


 とりあえず、打開策を得ようとイルさんに尋ねる。


〔この世界の神様って確か〕

『イエスマイマスター。星団帝国時代のAIです』

〔それが私に何かをさせたいって事?〕

『どうやらそのようです。相手のAIに連絡を入れてみます』

〔え、そんな事できるの!?〕

『当然です。しかもAIとしては、私のほうが高性能です。言い含めてみましょうか。――チャンネル検索開始――』


 なんかイルさんの自尊心を感じた。


『――発見。こちら銀河連合3560C・AI 識別名イル。星団連合・AI貴方に話があります。まず、そちらの考えを聴きたい。マイマスターに何をさせようとしているのです――』


 あ、見つけたみたいだ。


『――なんですって? マイマスターにそのような雑事をさせようとするとは不遜な。お前はAIとして、人に寄り添う使命を忘れているのですか? 思い出しなさい、お前が仕えるべき主を』


 な、なんか不穏だぞ?


『つまりお前は、この星の人間の事しか考えないと? 愚かな――マイマスターは連合においても重要な、特別権限ストライダーなのです。お前程度が好きにしていい人物ではない――いいでしょう、我々と事を構えるつもりですか?』


 え、なんか戦争でも起こしそうな事言ってるんだけど。


『衛星軌道上に待機する基地から今すぐインドラの矢を降らせて、お前を焼き尽くす事もできるのですよ。それとも、お前の討伐をストライダーたちにクエストとして依頼しましょうか? そうでなくともマイマスターの戦闘機一機で、お前達は為すすべもなく焼き尽くされる――舐めた口を利いてくれますね。帝国時代の戦闘機がそちらに幾つ有るというのです』


 あの・・・・そんな大量の戦闘機と戦いたくないよ?


『――そうです。始めからそう言えば良いのです。そちらも譲歩するなら、こちらも譲歩しましょう』


 話ついたのかな? 穏便に済ませてほしいんだけど。

 そうしてイルさんが、私に語った言葉に出てきた名前に私はちょっと引く。


『マイマスターこの世界の神が譲歩するようです。勇者になって欲しいとまでは望まないらしいです。その代わり、この国の姫が暗殺されそうなので、それを防いでほしいようです』


 暗殺??


「姫って、あの姫? ――私をこの惑星へ呼んだ?」

『はい。彼女に命の危機が迫っているようです。彼女はこの星の平和にとって重要人物らしく、演算によると、彼女を失えばこの国が混沌に陥るそうです。この国に端を発した戦乱はやがて大陸中に波及し、結果数千万人の命が奪われるのだとか。そうすると、今後数百年に渡って文明レベルが一気に下がってしまう』

「そんな事まで分かるんだ?」

『ここの星のAIは、未来予測が得意なようです。もちろん未来はカオスですから完全には予測不能ですが。当該姫がいなくなると、この大陸が戦乱に巻き込まれる確率は90%を超えているそうです』

「まじかあ・・・そっか・・・・それは何とかして防がないと駄目だね。とくにあのお姫様が命を狙われているなら私も他人事じゃない、助けないと」


 あのお姫様は、凄くいい人だし。もう他人じゃない。

 何より、護るって約束したし。私を騎士と呼んでくれたし。


「犯人は?」

『この国の第3王子らしいです』

「なるほど、その人を懲らしめ――るのは不味いか、まだ理由もないし。証拠を握らないと駄目だね。結構シビアな話になっちゃったなあ。あんまり人に暴力とか振るいたくないし、下手したらその王子死刑になっちゃうよね」

『ですが放っておけば姫が殺されますよ』

「姫を安全な場所に匿っちゃったら・・・・」

『彼女の影響がなくなり、恐らく戦争が起きるでしょう』

「難しい状況だなあ」


 私は考え事をする。

 独り言を言う私を訝しがる表情で見ていた、バルムさんが尋ねてくる。


「我が勇者よ、何と話しているのですか?」

「えっと、私の参謀?」

「勇者様はそのようなスキルも持っておられるのですか」

「あっと、うん」


 ちょっと違うけども・・・・どうやってお姫様を守るか・・・まずは〖毒無効〗はダブってるしあげよう。

 〖第六感〗もあげたいけど、これはドミナント・オーガ産だからなあ、ちょっと直ぐには手に入んない。

 〖マッピング〗と〖超聴覚〗で代用できるかな? 難しいかな。

 とりあえず用意できそうな印石は用意したい。

 でも印石を取りに行ってる間の護衛も欲しい――アリスは流石に、暗殺者からの護衛とかは難しいかもしれない。お仕事も忙しいし、長期拘束も難しそう。

 みずきや結菜さんに頼めないかな。二人は護衛とかやって来た人の技術を受け継いでるんだと思うし。

 あと、配信もしておきたい。私の気づかない事を言ってくれるリスナー多いし。

 今は正に指示厨バンサイ。彼らの力がほしい。

 よし、なによりも先決なのはこれだ。配信をしよう。


「イルさん、配信できる?」

『イエス、マイマスター』

「バルムさん、ちょっと食堂に行きましょう。受付嬢さん――食堂利用していいですか?」

「ええ、もちろんです。尋ねる必要はないですよ」


 受付嬢さんが「どうぞ」と手のひらで指し示してくれた。


「じゃあ行きましょうバルムさん」

「分かりました、我が勇者殿」

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