186 クランマーク
◆◇Sight:鈴咲 涼姫◇◆
「クランマーク?」
「そう、考えてみませんか? この前の首都奪還の時、ビブリオビブレがお揃いのワッペンを服に縫ってたじゃないですか。あれいいなぁって」
「なるほど、いいね・・・こう戦闘機乗り達が同じマークを付けたヘルメットやジャケットで暁をバックに滑走路を歩いていくシーンとか、想像するとカッコイイよね」
「なるほど、それは映画みたいですね。今度みんなでPV撮って、動画をアップしましょうか」
「イイね・・・それ」
・・・というわけでクランマークを決める事にしたんだけど。
「問題はモチーフだね」
「・・・ギークを絵にするのは難しいですし」
「それは止めないか?」
「では、やっぱり蝶でしょうか? いや・・・・刀?」
「うーん、クランのみんなにも相談してみようか?」
「ですね」
私達はスマホでみんなに相談を開始。
コハク:スウさんのサインを書くとか
スウ:あの手抜きサインを?
リあン:[画像]
スウ:シルエットにしてますが、これパンツですよね?
リあン:っち、バレたか
さくら:さくら花びらとか・・・・いえなんでもないです。
リッカ:立花家の家紋でも描くか?
メープル:本家さんに迷惑だから止めなさい、お姉ちゃん!
などと「あーでもない、こーでもない」とチャットをして結局問題は家までお持ち帰り。
そうして夜、晩ごはんを用意しながら、リイムにつまみ食いをされて「ハッ」となる。
「そうだ、リイムだ!」
「コケ?」
スウ:クランマーク、リイムとかどう? グリフォン!
リッカ:おっ、いいね
アリス:なるほど、リイムはクランのマスコットとして人気ですし。グリフォンはカッコイイし、ピッタリですね。
リあン:いいね、私がイラスト描くよ
スウ:プロのリあンさんが描いてくれるなら、有り難いです!
こうして、なんだかヨーロッパのどこかの紋章にありそうなクランマークが出来た。
このデザインを元にレプリケイターでシールや、地球の業者さんにワッペンを作って貰ったりして、ジャケットに縫い付けたりやヘルメットに転写をしました。
ヘルメットは、透明じゃないやつを銀河連合から別口で買った物。
このヘルメットは、防御力あんまりないのでPV撮影専用。
さらにクランマークワッペンをクランハウスで売ると、売上好調。売上はクランのみんなに分散。
一応、偽クランメンバーとかやられないように、グリフォンの向きが左右逆。
さらにPV撮影。
クラン・ストリーマーズに借りた地球の空母に似た空母の甲板を、クレイジーギークスで歩く。PVはこれをスロー再生するところから始まる。
その後、クレイジーギークスが各々の機体に乗って発進。
発進シーンはパース付けて、バリる感じでカッコよく。
そこから私とさくらくんが並んで飛んで、互いにサムズ・アップして散開。
途中、オックスさんが私のバイクでハイレーンのハイウェイを疾走するようなシーンを挿入。
その後、ストリーマーズの人とドッグファイト。
私、さくらくん、綺雪ちゃんで、ストリーマーズを涙目に。
そしてストリーマーズの人型機の人に対して、クレイジーギークスの人型機組とのバトルを描く。
私達が、ストリーマーズに「普通に戦って」と言ったら、普通にアリスとリッカが無双。
ストリーマーズ、さらに涙目。
最後は、ブルーサーマルに乗って駆け上がって行く綺雪ちゃんを映してEND。
みたいなPVになりました。
BGM提供スナークさん。
バリバリのハードロックをかましてくれました。
後日、PVのコメント欄にユーの❝なぜ俺も誘わなかったんだ! 素晴らしいテクニックで彩ってやれたのに!❞なんて妄言があった。
綺雪ちゃんは「助平お兄ちゃんも、誘えば良かったですねー」なんて、危険な台詞をぶっ放していました。
◆◇Sight:三人称◇◆
夏休みの剣道部。
百合ヶ浜と爽波は爽波の学校に泊まり、合同合宿をしていた。
体育館に爽波の顧問の声が響き渡る。
「休憩に入れー」
爽波の顧問の男性教諭は言った後、百合ヶ浜の顧問の女性教諭になにやら声をかけて体育館を出ていった。
そんな様子を剣道の女子部員たちが、白い目で視る。
男子たちは能天気に防具を脱ぎ始める。
「やっとかー、夏あっちぃー」
「塚原さん! さっきの試合なんですが!」
各々、休憩に入る生徒たち。
体育館を去ろうとする塚原に、慌てて駆け寄り、手ぬぐいを頭に巻いたまま質問する百合ヶ浜の女子もいた。
百合ヶ浜は女子校である。当然部員も全員女子だ。
なので爽波の剣道部の男子が百合ヶ浜の生徒と話そう物なら、爽波の女子に白い目で見られていたが、塚原だけは別だった。
百合ヶ浜の部内どころか爽波の男子ですら敵わない立花 みずきを、勝率6対4で圧倒する塚原に、百合ヶ浜の女子が剣道の質問をするのは仕方ないと爽波の女子も理解していた。
「ああ、あれは明鏡止水って奴だよ」
とんでもない返答を事も無げに返した塚原に、百合ヶ浜の女子生徒は眼を丸くした。
そんなやり取りを、正座して防具を外しながら見ていたアリスが、隣のみずきに質問する。
みずきが手ぬぐいをたたみながら、アリスを視る。
「明鏡止水のやり方?」
「はい。みずきも塚原部長みたいに明鏡止水になれますよね? 正しいやり方とか有るんですか?」
「明鏡止水なら、アリスもなれるんだろう?」
「たぶん一応。――でも、正しいやり方ってあるのかなと」
「あー。そうだなぁ・・・・我を捨てて、世界を丹田に映し・・・・」
そこで、アリスが首を傾げる。
「あ、あれ?」
「どうした?」
「我を捨てるんですか? ――我になるんじゃ」
「我に・・・なる?」
そこでみずきが怪訝そうな顔になった。
アリスは自分がどうやって明鏡止水に入っているのかを、みずきに告げる。
「我だけになって、世界という雑念を忘れ――」
「まてアリス。・・・それは・・・なんだ?」
「えっ・・・・なんだって・・・自分になる方法です」
「そういえば・・・前に言っていたな・・・自分になる方法を、涼姫に教えてもらったって」
「はい、これが明鏡止水なんじゃないんですか?」
「ちがう、断じてちがう。それは明鏡止水なんかじゃない。明鏡止水は我を空にし、世界と一体になる方法だ。百歩譲って我になるというのは構わない。だけど、世界が雑念なんて・・・それは、なにか・・・怖いなにかだ」
そこでみずきが真剣な目になり、俯いて考える姿勢になり呟く。
「アリス・・・・時々、思ってたんだ」
「は・・・はい」
「涼姫のゾーンは、アリスが言う通り、明鏡止水なのか? って」
「た・・・確かに今のみずきの話を聞くと・・・・涼姫のゾーンは何か別物に思えますね・・・」
「それじゃあ、涼姫のゾーンは・・・・一体何なんだ?」
アリスは思う。
(みずきが明鏡止水に入ると、綺麗で澄んだ瞳になる――まるで底まで見える陽光降り注ぐ湖のような・・・・だけど、涼姫がゾーンに入ると目の光が消えて・・・底しれない夜の海のような瞳になる――)
「アリス、涼姫のゾーンの真似は止めろ、立花流のやり方を教える。涼姫にも教えたいな・・・・だけど・・・立花流のやり方は、涼姫には・・・身に付けられない気がする・・・・危険に身を躍らせる機会が多い涼姫にとって、ゾーンは必要不可欠だ。どうしたものか―――」
「・・・涼姫」
アリスは今日も宇宙にいるはずの涼姫を想って、天井を見上げた。
◆◇◆◇◆
「はい、ここにクランマークのデカールを貼ります。レプリケイターで作りました」
その日、涼姫はフェアリーテイルのワンルームで、プラモデル制作配信をしていた。
❝クランマーク決まったの?❞
「ですです、リイムです。グリフォンです」
❝クランのPV見たよ、滅茶苦茶かっこよかった! ストリーマーズ泣いてたけどな(草)❞
❝俺もクレイジーギークス入りてぇなあ。配信者になったら入れてくれるかな❞
❝・・・理由が不純だなあ❞
「お湯を用意して・・・と、ここ結構凹凸があるし、難しいんですよね。失敗しないようにゾーンに入りますね」
❝デカール転写くらいで、ゾーン入りすなwww❞
❝もう、ゾーンのバーゲンセールだなワロw❞
「入れ、ゾーン」
涼姫の瞳の光が消えた。
簡単にゾーンに入る涼姫。
プロのスポーツ選手でも、こんなに簡単にゾーンに入れるだろうかと言う程、見事に、手軽に入る。
フェアリーテイルは宇宙の黒を飛ぶ。
なにもない、涼姫の鼓動しかない。
まわりには、光も、空気すらない。
深淵の暗闇を。
孤独に。




