182 奪還戦のボスが現れます
『――さん』
誰かに呼ばれた気がした。
『――てください。―――起きてくさい、スウさん!』
いや――呼ばれていた。
アリスの焦った顔が、ウィンドウに浮かんでいた。
私は目を擦りながら尋ねる。
「―――ど、どうしたの?」
『ユニークモンスターが出たんです。それでみなさんが、どんどん撃墜されてて! ルミナント・キューピィという1体のMoBに、一万人近くやられました!』
「―――え!? 一万人!? ――復活判定は・・・?」
『・・・・』
アリスの返事がない。
「そっか分かった、すぐ行く! ――わ、私達の知り合いじゃ・・・ないよね・・・・?」
『その点は・・・・大丈夫です』
私は戦艦の中を走るけど――戦艦が大きすぎて、私の脚だと時間がかかりすぎる。
なので〖飛行〗で飛んだ。流石にマッハは出したりしない。衝撃波で人が吹き飛んじゃう。あと高い位置を飛ぶ。
色んな人の頭上を抜けていくと、1分ほどで格納庫に着いた。
見たこと有る機体が、ボロボロになっていた。
綺雪ちゃんの、スワローテイル――。
「大丈夫!? 綺雪ちゃん、怪我はない!?」
「あ、スウさん・・・・大丈夫です。ちょっと失敗しちゃって、あの・・・綺怜が心配で・・・」
「任せて」
私が頷くと、整備の人に呼ばれた。
「スウさん、フェアリーテイル発進準備できてます!!」
「ありがとうございます!」
お礼を言って、綺雪ちゃんを振り返る。
「じゃあ行ってくる!」
「はい! 頑張ってください!!」
私は飛んでフェアリーテイルに向かった。
見れば、中破したバーサスフレームが沢山運び込まれていて、整備の人たちがてんやわんやだ。
ビブリオ・ビブレの整備の人が旗を振っている。
「フェアリーテイル出ます! ――フェアリーテイルが出ます! 3番カタパルト使わないで下さい!」
私は急いでコックピットに、シートベルトを掛けて。通信を開いた。
「フェアリーテイル。スウ機、出ます!」
『よろしくお願いします!』
「はいっ!」
カタパルトで僅かなGを共に射出されて、街の方向へ向かう。
さっきまで海をうねらせていた嵐は、過ぎ去っていた。
敵も、もう街の外には居ない。
私は、問題のキューピィが近くにいると教えてもらった、中層の門から街中に入った。
するとすぐに、マイルズとユーから通信が入ってきた。
ユー来たんだ?
『来たか、スウ!』
『待っていたぞ!』
二人が並んで飛んでいる。アレックスさんの姿はない。マリさんも来てないみたい。
『私もいるよ!』
スナークさんからも通信が来た。
「遅くなりました。敵は!?」
『あの白い奴だ』
マイルズに言われて見れば、キューピィ。大きさも赤ん坊くらい。
だけど、
「光線!?」
白い『ユニークモンスター。スーパーミュータント エレメント種 ルミナント・キューピィ』と表示された敵は相変らず弓から弾幕や矢を放っているけど、口からも攻撃を放っていて、出ているのは明らかに光線だった。
マイルズが教えてくれる。
『そうだ、あの光線が厄介すぎる。光線に当たると、光崩壊エンジンが周囲の物を引き寄せる引力を発する。光線に対して、シールドやバリアは通用するが長くは保たん。スワローテイルや、フェアリーテイルのシールドなら2発で破られるだろう』
「〝シールドは〟通用する? 光なのに黒体は? ――そっか、熱じゃないから? もしかして」
『そうだ。熱ではないから光線にも関わらず、黒体では無力化できない』
ユーが舌打ちをする。
『流石の俺でも、光は避けられん』
私も無理だよ。でもつまり、それは。
「正面に入らなければ良いんだよね」
『そういう事だ』
マイルズが頷いた気配がした。
「つまり、ドッグファイトなんだね」
『――む、言われてみればそうだな』
「それなら私達の領分」
『よし、ならば俺たちで相手をするぞ。正直、あの光線を食らう奴は引力を生み出す邪魔にしかならない』
マイルズの言葉に、ユーが同意する。
『そうだな』
そうして、ユーが広域通信を始めた。
『おい、ルミナント・キューピィにちょっかい出している奴ら、引っ込め。そいつは俺、マイルズ、スウ。おまけのスナーク4人で相手をする。お前らは引力を生み出す障害物にしかならない。どけ』
『ユー、あんた。私をおまけにするな!』
言い方ぁ。
言い方が悪すぎて、ユーが他のプレイヤーから一気に不評を買う。
同時通訳されたんだろう、日本人だけじゃない各国の人からも文句が入ってくる。
『なんだお前は! お前こそ、引っ込め!』
『邪魔なのは、お前なんだよ!』
『ユニークモンスターを独り占めしようってのか!?』
ユーが舌打ちをする。
『ちっ、誰に言っているんだ。身の程を弁えろ――まあいい、座興としては面白い。倒せるものなら倒してみろ』
『やってやる!』
『ユニークモンスターは俺たちの物だ!』
「いやいや。私、これ以上の被害が出ないように呼ばれたんだけど」
『やりたい奴にはやらせておけ、撃墜されようとアイツ等の勝手だ』
いや、貴方が煽ったんですよ。
でもユニークモンスターなんて言われて、倒したくなってるのも有るかな。
って、まって綺怜くん居るじゃん!
「綺怜くん、一旦下がって!」
『はい! スウさんが来たならもう俺の出番は無いですね!』
「アリスたちと合流できる? 綺雪ちゃんが心配してたから」
『綺雪のヤツ・・・わかりました。行ってきます』
「お願い、無理はしないでね」
『はいっ!』
綺怜くんは素直に離れてくれたけど、ユーに煽られて撃墜されていく人が続出。
ユーの言葉で退いてくれた人もいるけど、ムキになって戦っている人もいる。
『うわああああああ。助けてくれー!』
『ちくしょーーー!』
『こっちくんな!』
『お前、くっついて邪魔なんだよ! とっとと撤退しろ!』
駄目だ、どんどん撃墜されていく。
復活判定が入ったら最悪だ。
「私、行くね!」
『良いだろう、ボクもいこう』
『――ち、もう少しで全部掃除出来る所なのにな』
私はスロットルを上げてルミナント・キューピィに迫った。
『41層開放記念イベント、最終章〝夏の陽炎の見せる夢、ボス討伐!〟に参加しますか?
⇨はい
いいえ』
当然 ⇨はい。
「私が相手だ!!」
〈臨界・励起バルカン〉を連続で打ち込んだ。
相当痛かったのか、ルミナント・キューピィが私を向いた。
当然こちらを向いたなら、光線が来るのは分かっているので躱す。
『まて、スウ・・・・それは直撃軌道――』
私が機首を上に向けると、マイルズが少し焦った。大丈夫!
私の機体が、背中方向に滑り出す。
『――は!?』
❝何だこの動き!? 飛行機が変な方向に――エンジンも翼も無視して動いてるぞ!?❞
フェアリーテイルの横を通る、金色の筋。
「あっちに金色の光線を受けた機体がいるのが視えたから、その重力に引っ張ってもらったんです」
『なるほど――相変らずの判断の速さだな・・・・』
私は、機首を上に向けておいたので上空を取って〈臨界・励起バルカン〉でルミナント・キューピィを撃ちまくる。
さすがに臨界系のバルカンは堪えたのか、ルミナント・キユーピィが逃げ出す。
私達はそれを追いかけだす。
一気に、高速戦闘になった。
よかった。ルミナント・キューピィは物理法則を無視して飛んでない。
これで速度を維持したままこっちを向かれたりしたら、打つ手無しだったかも知れない。
ちゃんと翼で空力を使って飛んでいる。あの速度を出しているのは、足で光っている熱源の様だ。
「こう考えると、生き物の翼っていうのは可変翼より自由に動くから高性能なんだなあ」
『感心している場合か! ルミナント・キューピィは飛ぶのが上手いぞ!』
ルミナント・キューピィが、建物の中を縫うように飛び回る。
私達を建物に叩きつけようとするような軌道だ。
こんな高速戦闘が始まっては、もう私とマイルズとユーしか着いて行けない。
他の人は街中を舞う、普通のキューピィを相手にしだした。
『あんな戦いされたらもう、ユニークモンスターに手が出せないじゃないか・・・』
『くそ、アイツ等で独り占めか』
そんなつもりはないんだけど・・・・ごめんなさい。
とにかく今は戦いに集中しないと、本当に危ない。
「速い上に、建物を遮蔽物にして弾も躱してくるのが、面倒すぎる」
ユーも歯噛みをする。
『早すぎるぞ――俺たちのスワローテイルや、マイルズのブルースカイでは着いていくのがやっとだ』
フェアリーテイルでも着いていくのがキツイけど、スワローテイルやそれよりさらに速力がないブルースカイだと、無理になってくるのかな。
マイルズが通信で首をふる。
『スウ、すまない。機体性能が追いつかない。リミッターを外しても追いきれないようだ。ボクたちは上空から撃つ。遠距離から街中を撃つことになる』
『〖伝説〗が切れた、これ以上は俺にも追えない。スナーク大丈夫か?』
『流石に、あまり期待しないで』
スナークさんのAIMでもキツイかあ。
・・・ん? ・・・・〖伝説〗?
「まって、ユー。〖伝説〗持ってるの?」
『持っているぞ。俺は〈発狂〉デスロードを二人でクリアしたんで、スキルは〖幸運〗止まりだがな。俺にはAIMが無いからソロクリアは無理だ。お前はソロクリア特典で〖奇跡〗を貰ったんだろう』
「え、二人・・・?」
『そうだ。アカキバは俺と〈発狂〉デスロをクリアしたんだ。あの動画の操縦は、俺だぞ。ちなみに聖超機スワローテイルは俺の持ち物だった。手切れ金代わりにくれてやったが』
「衝撃の事実すぎるんだけど」
❝はああああああああ!?❞
❝今明かす事か!? それ!?❞
❝そりゃユーと一緒ならクリアできるわ!❞
❝スウ並の操縦する人間がいて、特機でAIMしてれば良いんだろ!? 楽すぎんだろ!!❞
❝つかアカキバ、スウの事を散々複座のスウとか言ってたけど・・・アイツこそ複座だったのかよ! そりゃスウと1on1したらボコされるわ。つかアイツ、スウと1onしたいとか言ってたけど、二人掛かりで戦うつもりだったのか。どこまで腐ってたんだよ!!❞
「いいんですか? ・・・そんな事放送にのせちゃって」
『もうアイツに義理はないしな』
❝アカキバってFL配信者をまだやってるけど、戦わない理由はこれかよ❞
❝そらボロが出るから戦えないわ。てか散々複座のスウって言って、複座なのは自分じゃねぇか❞
❝自分が複座だったからスウも複座だと考えたのかよ・・・次の配信で尋ねてやろう❞
❝慌てるだろうなw❞
コメントが結構衝撃受けてるのに、ユーは気にも留めず私に話掛けてくる。
『援護はできるだけする。頑張れ』
私は無言で頷いて、ルミナント・キューピィを追い続ける。
アカキバさんはそこまで関わりのあった人じゃないから、気持ちの揺れも直ぐに解決できた。
で、話しながらもルミナント・キューピィを追ってるんだけど、本当に速い――あの速度をビルを躱しながら追うのはきつすぎて、ヒヤリとする瞬間が何度も有る。
今も高架下を通られてヒヤリとした。
ただ、ビルの中に隠れたなら、外からバルカンを撃ちまくってやった。
人間用の細い穴にでも隠れない限り、逃げ切れないだろう。
そのまま追い続け、ちまちまと攻撃をつづける。
って、次はトンネル!?
なんて事をしてくれるの―――計器を見れば時速4000キロ近く出ている。
衝撃波で、トンネル内のランプが砕け、放置されている自動車のフロントガラスが砕け、車体が後方へもつれるように吹き飛ぶ。
車の様子が最早、渦潮に揉まれる木の葉だ。
❝その速度でトンネルはやばいってぇ!!❞
だけど結構直線になるから、攻撃は当てやすい。
『っち――撃てないぞ』
マイルズたちの位置からは、攻撃ができないようだ。
早くトンネルを出たいと思っていると、突然背筋がひやりとした。同時に〖第六感〗の耳鳴り。
私は反射的に操縦感を左に倒す。
放置されている大型トラックが、右を通り過ぎた。
トラックが衝撃波に巻き込まれ、丸太のように後方へ転がっていく。
「せ、背筋が凍ったよ今の」
❝放置されているトラックとか、怖すぎるぞ❞
ところでさっきのトラック(危)マーク付いてなかった?
嫌な予感がした次の瞬間、後ろから光――
「やっぱりあのトラック、なんか爆発物積んでたの!?」
急いでスロットルを上げる。
❝おいおい、まだ加速するのか!?❞
計器を見れば時速4500キロ。通常時フェアリーさんの限界に近い。
爆発の勢いが早い――一体、何を積んでたの!?
「視えた、トンネルの出口の光!」
ルミナント・キューピィがトンネルから飛び出す。
だけど、私は爆発に巻き込まれ――。
フェアリーテイルが爆風を翼に受けるけど――勢いは受け流しながら、トンネルの中を螺旋を描きながら飛ぶ。
❝おいおいおい!❞
❝擦ってる擦ってる、翼の端っこトンネルに擦ってる! 墜落する!!❞
❝流石にスウでもキツイか!? というかまだトンネルに激突してないのがおかしい❞
――不味い、このままじゃ主翼が折れる!!
「〈励起翼〉!!」
『〈励起翼〉、イエスマイマスター』
私は直ぐ様輝いた〈励起翼〉でトンネルの壁を切り裂きながら進む。これなら翼が折れにくいはず!
炎がトンネルから吹き出した。
続いて私も飛び出す。
炎はトンネルの出口からジェットのように吹き出した。
モワンと広がるんじゃなくて、一直線に吹き出した。本当に何を積んでいたんだあのトラック!
――って、爆炎で視えなかったけど、目の前にビル!!
ルミナント・キューピィが、正面に来たビルの壁面を蹴って直角に動いた。なにあの動き!?
(―――マズイ!!)
ルミナント・キューピィは質量がそれほどないけど――いやそれにしたって、なんか変な曲がり方したけど、こっちは全長10メートルもある鋼の塊だ――慣性が効きすぎる。
「に゛き゛ゃ」
私は変な声を出しながら、戦闘機の軌道を曲げようと、全力で操縦桿を左斜め前に倒して左のペダルを踏む。
機首を斜めに上げて、飛行機の腹で思いっきり風を受けて、コブラの要領でブレーキも掛けようともする。
❝危ない!❞
❝ビルにぶつかる!❞
「止まれ、曲がれ、このぉぉぉぉぉぉ!!」




