180 マイルズに押し付けます
空に出ると、たくさんの機体が周囲に浮かんでいた。
戦艦も5隻、空母も50隻は視える。
しかし、私達の視線の先に視えたのは底部の門ではなく、中層部の門だった。
どうやら、低部近くから時間を掛けて発進していては、作戦がバレるので中層部から下に進むらしい。
にしても、やっぱり天気が酷い。空は分厚い雲に覆われ、海は大時化。高い波がうねっている。まるで、無数の白い大蛇が体をねじっているようだ。
『では本命班、戦艦セレニティを旗艦として作戦通り進んで下さい。鶴翼気味の三列横隊でお願いします』
三列に並んだプレイヤー達が、弓なりに鶴が翼を広げたような形の陣形――鶴翼の陣になり進み始める。
本命の戦艦や空母、そして5000の戦闘機。
私達テイル小隊は、中央背後から進む。
そうして底部の門が見えてきた時、通信が来た。
『転移を検知、敵勢力来ます!』
門の前に転移してくるMoB。
『キューピィ無数に検知!!』
イルさんがメガネを掛けると、鳥の翼を生やした赤ん坊のような敵が、次々現れた。
今までのMoBはヘルメスとモータル・オーガ以外人に似ていなかったけれど、今回は人に似ている上に美しい容姿をしていた。その美しさが、さらに不気味だし手強そうに感じた。
手に持っている弓で弾幕を放ってくる。――弓なのに、360度に弾を放ってる。
アレックスさんが舌打ちする。
『やはりキューピィか、厄介だな』
マイルズが『ああ』と返した。
『上部も、相当苦戦しているようだ』
私は2人に尋ねてみる。
「キューピィってそんなに強いんですか?」
『強い。ハーピィのような小型タイプだが、火力と防御力が段違いだ』
アレックスさんが付け加える。
『あとはあの小ささだ。赤ん坊サイズで高速飛行するから、攻撃がなかなか当たらない』
確かにあれは当てにくそう。
――通信がくる。
『鶴翼の右舷左舷、前に進んで下さい』
右舷と左舷が前に進むと、双方接敵。――右舷も左舷も、ほぼ同時に交戦を開始した。
盾役がバリアで弾幕を受け止めながら、火力が後ろからキューピィを攻撃し続ける。ダメージを受けたバリアはヒーラーが回復する。
ここまでは良い、だけど海を練る荒波と風が戦いを邪魔している。
ここにいる人は、ガス惑星で戦った人がほとんど。でもそうじゃない人もいる。
『くっ、キツイ』
『なんて飛びにくいんだ!!』
初めて嵐の中で戦う人達が、かなり辛そうだ。
右舷と左舷が、転移してくるキューピィを包囲するため進もうとするが、上手く行かない。進める人、進めない人で隊列が乱れる。
だけど――これは狙い通り。
キューピィが、左右に戦力を集中させ始めた。
ハギモトさんから通信が入る。
『中央、突撃してください!』
『『『おぉぉぉぉぉぉ!!』』』
人型になっていたバーサスフレーム達が、一斉に飛行形態に変形。
全速力で飛び始める。
『テイルリーダーから各位へ、突っ込むぞ!!』
『『「ラジャー!!」』』
スロットルを思いっきり上げて、海面スレスレを飛ぶテイル小隊の6機。
流石に風が読みにくい。テイル系は翼が大きいから風の影響を受けやすくて、きついんだよね。私は複葉機形態だったフェアリーテイルの上の翼をパージする。
前も言ったけど、翼は下に付いている方が(低翼)、運動性が高くなって機動をしやすくなるんだよね。だからドッグファイトが最も行われた第二次世界大戦の戦闘機は、ほぼ低翼。
今日は、そんな低翼形態。
ウィンドウが開いて、マリさんの苦笑が視えた。
『スウちゃんは、みんなが飛ぶだけでも苦労してる中で、上の翼をパージするんだね』
「あっ、と・・・・はい。でも、マリさんだって低翼形態じゃないですか」
『ぼくはこんな作戦があるなんて伝えられていなくて、最初からこの形で来ちゃったからねぇ、選んだんじゃなくて仕方なくだよ』
通信から綺怜くんの辛そうな声がする。
『ほんと―――なんて飛びにくいんだよ! スウさん飛び方のコツを教えて!』
『もしかして綺怜くん、AIの補助を低くしてる? 最大にして。そしたら最適な翼の形状を選んでくれるし、AIと電子制御が飛行ルートも修正してくれるから――ただ綺麗なカーブしか描けなくなるから注意で』
『はい!』
綺怜くんがAI補助を入れると、彼の戦闘機が描く軌跡が綺麗な孤になった。
丁度、絵を描くソフトの手ぶれ補正付きで描いた線みたいな感じになる。
でも補助を入れると事故みたいなマニューバが出来なくなるし、激しい弾幕とかは避けれなくなるから、私は切ってることが多いし、使っても最低限にしかしない。
『綺雪ちゃんは大丈夫?』
『はい、風が強いほうが風の声がよく聞こえます!』
何故か、綺雪ちゃんは風が強い方が上手く飛ぶ。
今も振り返ってみれば、風でサーフィンでもするかのように飛んでる。
完全に天才の所業。
マイルズとアレックスさんが、綺雪ちゃんを褒める。
『綺雪は大したものだ』
『ああ、嬉しい誤算だ。思った以上の戦力になる』
綺怜くんが二人の言葉に、悔しそうにした。
『くそっ、なんで綺雪ばっかり・・・・!』
するとマリさんが笑った。
『あはは』
私も『ふふっ』っと、笑ってしまう。
マイルズも『クックック』と、アレックスさんも『ふははっ』と笑う。
『笑わないで――』『お前。ボクたちについて来れる事が、どれだけ凄いことか理解出来てないだろう』
悔しそうに言う綺怜くんの言葉に被せてマイルズが、諭すように言った。
マリさんも、可笑しそうに言う。
『そうなんだよ、ぼくら全然手加減せずに飛んでるのに、君はついて来てるんだよ』
私も優しく言う。
『綺怜くん、ここに居るの、本職3人とランカー1位と5位、化け物って呼ばれる何かと、天才だよ』
アレックスさんが、ウィンドウを開く。
『坊主。ニュービーマークが取れてないって事は、1ヶ月も経ってないんだろう。誇れ、お前は凄い』
『そう・・・・なの?』
❝この嵐の中であの速度で飛ぶ、このメンバーについて来れるだけでマジでやばいよな❞
❝俺、3年やってて、今もイベントに参加してる。殆ど動いてないのに、普通に水没したwww 今、スウたんの正面で水没したのが俺ワロwww 誰か助けてワロwww❞
❝ワロてる場合かwww 今水中戦が得意な奴が助けに行ってるからwww❞
❝でけぇイソギンチャクにもぐもぐされてるから、早くしてワロwww❞
❝ちょwww おまwww❞
❝奇襲部隊に選ばれる猛者でも、このザマよワロwww❞
私は綺怜くんにコメントを読んであげる。
『そっか、俺って結構やるんだ?』
綺雪ちゃんが、綺怜くんに不満げに言う。
『ていうか、お兄ちゃんは得意なの空手じゃん』
初めて知る事実に、私はちょっとビックリ。
「あれ・・・そうなの?」
綺怜くんの訓練相手は、リッカとアリスがほぼやってたからなあ。
『うん、空手の初段なんです。先生に受けの天才って言われてました――それで先生は、本当に強い人は、攻撃より受けが上手いって言ってました』
アリスとリッカ、綺怜くん。もしかして武術家同士、通じるものが有ったのかな。
「じゃあ、綺怜くんは盾役ってもしかして向いてるの?」
『向いてると思います』
マイルズの微笑むような声が聞こえてくる。
『綺怜、盾役はお前だけだ。期待しているぞ』
『は、はい!』
私にはシールドドローンがいるけど、盾役としては弱いんだよね。
アレックスさんが、ウィンドウを消して言う。
『さあ、弾幕に入るぞ、気張れ!』
眼の前に広がってくる、弾幕の迷路。
『――テイルリーダーより、マイルズへ――先導しろ!!』
『ラジャ』
『スウ、殿を頼む。俺はマイルズの後ろ。綺怜、綺雪の順に俺の後に着いてこい!』
『てことは、ぼくがスウちゃんの前だね!』
私達が会話をしている間に、マイルズがロールをしながら上昇し、戦闘機を逆さにして弾幕を見回し降りてくると、弾幕の迷路に突っ込んでいく。
私達はマイルズ、アレックス、綺怜くん、綺雪くん、マリさん、私と一直線になり、その後へ続く。
すると綺怜くんと、綺雪ちゃんが感動の声を挙げた。
『すっげぇ、マイルズさんの後ろに続くと、まるで弾幕の方から俺たちを避けてるみたいに見える!』
『さっきスウさんと防衛機構と戦った時もそうだったよ。ほんと凄いよね!』
マリさんが楽しそうにする。
『楽ちん楽ちん』
私も頷く。
「す゛っ゛と゛こ゛の゛ま゛ま゛か゛い゛い゛」
するとマイルズが、棘のある圧を放った。
『おいスウ。街の中では、お前が先頭をやれ。全員が通れる隙間を探すのは大変なんだぞ』
「嫌゛ー」
『テイルリーダーよりマイルズへ。お前がずっと先頭に決まってるだろ』
『ボクがやっても、スウがやっても変わらないだろう。ネガティブ』
「リーダーに従ってくださーい」
『くっ』
めんどくさがりの私に、何を言ってるの。
私がマイルズを言い負かしていると、知らないインド人さんから通信が入ってくる。
同時翻訳が彼の声で聞こえてくる。
『テイル小隊と呼べば良いのか? 現在ワープゲートを開く準備を開始する寸前だ。ゲートを開くまで、3分掛かる。その間、天装機ポータルは動けない。防衛を頼む』
『了解。――テイルリーダーより綺怜へ、というわけだ。天装機に迫る弾幕を消してやってくれ。俺たちは邪魔なキューピィを倒す』
『わかりました!』




