178 後半戦に備えます
通信が終わると同時に、私はティンクルスターに着艦。
みんな既に帰ってきていて、ハイタッチとかをしあっている。
リッカは、アリスが背が高くてうまくハイタッチできないでピョンピョンしてる。かわいい。――でもアリスさん、ドS出てます。
リッカが急に、つま先だけで大きな跳躍を繰り出しハイタッチをし終えると、アリスがちょっとビックリしてから私の方にやってきた。
「おかえりなさい」
「ただいま」
言ってハイタッチ。
「ご飯、銀河連合に配られて来ましたけど、食べます?」
「うん、食べて寝る」
「寝るんですか」
「私、食べた後は寝ないと集中力切れるんだよね。消化にエネルギー使うからかなあ?」
「へー・・・引きこもりなのに、まるでアスリートみたいな事を言うんですね。消化とか、そういう面も考慮されているんでしょうか?」
「どうなんだろう?」
アリスに若干失礼をかまされつつ、一旦配信を終えてから昼食も終えて、暫く寝る。
その後、突入15分前にスマホのアラームで起きた。
眼をイコールマークみたいにしながら擦っていると、視界にウィンドウが開いた。
『41層開放記念イベント、第四章 〝残暑の折に失礼します。首都突入!〟に参加しますか?
⇨はい
いいえ』
ほんとこのクエスト名の酷さは何とかならないのかな。
「⇨はい ――」
そろそろ準備しようと、私はパイロットスーツに着替え直して配信再開、格納庫に向かう。
すると、空さんが整備ロボットの上でハンバーガーみたいなのを食べながら手を振った。
「フェアリーテイルの整備、終わってるよー!」
「ごめん、任せちゃって」
「んにゃ、ほぼオートメーションだから。あたしはなんもしてない」
空さんが言って「に゛ゃははは」と笑う。そうしてジュースをストローで吸った。
でも、ご飯遅れたみたいだしなあ。
「にしてもこれ美味しいね、マックみたい」
「私は和食にしちゃって」
「あれま。一口食べてみる? ――――また赤くなっちゃって、女の子同士で一口やり合った事ないの?」
「な、なにそれ・・・」
空さんが大笑いしながら、整備ロボをバシバシ叩いた。
「ほい、ポテト」
「あ、ありがとう」
私はこちらを向いたポテトを啄んで、お礼を言う。
「頑張ってね。――そういえば各方面のエースが発表されてたけど、スウはしっかり入ってたよ。ま、撃墜数が少ないんでランキングの下の方だったけど。防衛機構引きずってたし、集中砲火受けちゃったんだから仕方ないよねえ。スウと同じく防衛機構引きずってたマイルズはランキング入ってなかった。むしろ本当のエースはランキングの下か外にいそう」
「あー、なるほど」
私はFPSプレイヤーのくせに「ランキングに入ってれば嬉しいなー」くらいなんだけど。マイルズが入らなかったのはビックリ。
「でも――」
言って、空さんが目の光の消えるような不機嫌そうな表情になって、声を低くする。
「『どうでもいい』――とか、あの人は言いそう」
空さんがマイルズのモノ真似をしたんで、私は思わず吹き出してしまった。
コメントも笑っている。
「確かにマイルズは、私より更にランキングとかどうでも良さそう(笑) 強者の余裕っていうか!(笑)」
❝wwwwww❞
❝星ノ空、マイルズのモノマネうめぇwww❞
❝イケメン星ノ空www❞
私も、肺から吹き出る空気が抑えられない。
「ぶふふふふふふ」
「目の隈が足りないか」
「あははは」
すると一つのコメントが流れた。
❝Hey. Hosino sora,you.(おい。星ノ空、貴様)❞
「やば、マイルズ見てんじゃん・・・」
私が青ざめて言うと、空さんは「ぶほっ」と、ハンバーガーを吹き出した。
「よし、整備終わり! 私もスタートスターに乗るねー」
あ、空さん逃げた。
まって、こっちは逃げられないんだよ!
❝スウ、楽しそうだったな❞
「え、えへへ」
私は誤魔化すように笑った。
するとマイルズのコメントが表示される。
❝気を抜くなよ、都市の内部は広いが遮蔽物が多い。飛行機は飛びにくいぞ❞
「う、うん。ありがと?」
❝そろそろ出るので、ボクも戦闘機に乗る。戦場で会おう❞
「りょかい」
お・・・怒られなかった? いや相手は怒ってたけど――むしろ優しくされた・・・・やっぱ紳士?
作戦時間になり、クレイジーギークスのみんなが集まってくる。
「よし、行きますか」
アリスがいうと、リッカがお腹を押さえる。
「お腹いっぱい」
「おねえちゃん、3パックとか、食べ過ぎだよ!」
心配するメープルちゃんに、リッカがピースを返す。
「旨かった。全種コンプ」
リッカ、3パックも食べたの!? 眠そうだし。
「戦ってる時、寝ないでね?」
私は、目をこするリッカを心配する。
「その時は、操縦をアリスに一任する」
「・・・・勘弁して下さい」
アリスが額を押さえた。
「お兄ちゃん、食べ過ぎ!」
「もごもごもご(だって美味しいんだって、綺雪)」
こっちもか・・・。
「コハク食べるの遅い!」
「もごもごもご(仕方ないじゃん、リあン!)」
「流し込め!」
大丈夫か、クレイジーギークス・・・。
みんなそれぞれ、自分の機体に乗り込む。
ここからはティンクルスターのバリアも重要そうなんで、さくらくんがティンクルスターの操舵になるらしい。
オックスさんは、ティンクルスターから砲撃。
コハクさんが、まん丸なメカ、スフィアⅢに乗った。
宇宙での活動を極限まで考えた結果まん丸になったという、見た目に対して質実剛健な機体。まあ、そのため地上ではちょっと飛ぶのが苦手。地上ではもっぱら手足のロケットで飛ぶ機体。
ちなみに丸い部分は胴体兼頭。ほんと見た目が可愛い。
手足が生えて、正面がパカッと開いて色んな武装が出てくる、ガシャコンガシャコン切り替えるのは「男の子ってこういうのが好きなんでしょ」って言いたくなる。
ちなみに私は好き。
そしてテイル小隊にはさくら君が抜けた代わりに、綺怜くんが加入。
綺怜くんが、自機のアーマーテイルに乗り込む。
アーマーテイルは、両手に盾を付けたスワローテイルみたいな見た目。
変形状態でも、盾は前面を両手の盾で守るように構えている。
アーマーテイルはスワローテイルの亜種で、速力と旋回力と防御力が有る代わりに攻撃力がほぼまったくない。
〈励起翼〉もないし、〈臨界励起(黒体)放射〉もない。
有るのは〈汎用バルカン〉と、〈黒体放射(励起)バルカン〉あとは〈励起剣〉のみという。男らしいマシン。
ちなみに綺怜くんと綺雪ちゃんはやっぱり小学生で5年生らしい。あとメープルちゃんとさくらくんが中学3年生。
メープルちゃんとさくらくんは、そろそろ受験なんだよね。
なので「AIに教えてもらったほうがいいよ。あとシミュレーターの中で勉強するといいかも」というと「あーーー!」と2人で納得してた。
空さんは今回は整備士として空母に残るらしい。さっきスタートスターに乗るとか言ってたのに。
さて、いよいよ出撃。
『ナイト・アリス出ます!』
『ふああ』
アリスとの合体機に乗ってるリッカは欠伸してるし、本当に大丈夫かな。
「テイル小隊出ます!」
『スワローテイル出ます』
『ふああ』
こっちもか・・・。
私達は3機で空へ出た。
空に出てみれば、もう戦いは始まってた。
街の入り口で〝ドンパチ〟が始まっているようだ。
この空中都市は、正十二面体のそれぞれの面の真ん中に街への入り口がある。
つまり十二個の入り口がある。
その中で、まずは真上の面を攻撃。
だけどこれは囮、敵勢力を十分引きつけたら本命の5000人が真下に回り込んで突入。
で、私達と綺雪ちゃん、綺怜くんは本命組。
『遅いぞ、スウ』
飛んでいくと、青い機体に言われた。
「あ、マイルズ――今日はラプターみたいな機体じゃないんだね」
『アレは合体しないと本領を発揮できないが、合体するとでかいからな、動きづらい』
マイルズが今乗っている機体は、F/A-18ホーネットみたいな見た目。
ザ・戦闘機って感じ。ホーネットは多用途戦闘機だけど。
マイルズが今乗っている機体の名前は確か――BSー24 ブルースカイだったかな。
米海軍曲技飛行チーム『ブルーエンジェルズ』の機体もホーネットなんだけど。
ブルースカイって名前のせいか、真っ青に塗られていてそっくりになってる。
綺雪ちゃんがマイルズに尋ねる。
『なんか変形しにくそうな飛行機ですね』
『よくわかったな。この機体に、人型モードはない』
『マジですか・・・尖ってますね』
『逆噴射用にロケットが前後するんで、足は出るがな』
私は、マイルズの言葉に首を傾げる。
「そうなんだ?」
やっぱエンジンだけでも、可変になるのは人類の夢だよねえ。などと私が人類の夢に思いを馳せていると、マイルズが後方のロケットエンジンを前後にガシャガシャ動かす。
マイルズの機体が前後に行ったり来たり。
危ないなあ・・・。
そうして編隊飛行で街へ向かっていると、マイルズの隣に、美女の踊り子の絵を機首の辺りに描いたブルースカイが飛んで来た。
美女のブルースカイのパイロットが話しかけてきた。パイロットは、男性のようだ。
『よう、アンタがスウかい?』
「えっ、はい。そうですが・・・。貴方は?」
『おっと申し遅れた。俺はマイルズと分隊を組んでいるアレックス・バーミンガム』
「そうなんですか、はじめまして宜しくお願いします」
『ところで、スウさんよ。――マイルズの奴、なんでブルースカイに乗り換えたと思う?』
「えっ、なんでですか?」
『スウに――』『Shut up!!』
『アハハハハハハ!』
え、なに・・・?
「えっと、アレックスさんもやっぱり凄かったり?」
私が尋ねると、男性の声が困惑の色を含んだ。
『え、俺のことしらないの!?』
私も困惑しながら返事をする。
「えっと・・・・」
するとマイルズが『クックック』と笑う。
『ザマァ無いな、5位』
『マイルズ、てんめぇ』
『この馬鹿はアレックス・バーミンガム。ランキング5位という微妙な男だ』
『馬鹿とか微妙とか、うるせえよテメェは! せめてなんだ、日本語だと――そうだ、絶妙と表現しろ!』
5位で絶妙は、どうなんだろう。でも、
「5位は、十分凄いと思いますが・・・」
『分かる!? やっぱスウクラスだと分かるんだって!』
するとマイルズが、アレックスさんという人を煽る。
『ちなみに1位と2位の間には1000万ポイントという開きがある。つまり5位とはその程度だ』
『お前、いい加減にしろよ!?』
綺怜くんが、二人の会話を聞いて興奮した声を出した。
『え!? 1位と5位って、じゃあStella Forceのマイルズさんとアレックスさん?!』
アレックスさんが、戦闘機の機首を上げ下げして頷いた。
頷くなら通信ウィンドウ開けばいいのに、やっぱりこの人も只者じゃないなあ。
『この坊主は、見どころがあるな』
ちなみにコメントが、
❝また男が増えた!❞
❝だれよその男! いや、アレックスだけど❞
なんて事になってる。
アレックスさんが急に『そうだ』といって提案してきた。
『共同戦線張らね?』
「共同戦線ですか・・・? いいですけど」
『じゃあ俺リーダーね』
「はい」
するとマイルズが、溜め息を吐いた。
『おい・・・馬鹿にリーダーを任せて良いのか』
『なんかさっきテイル小隊とか言ってたし、俺等も今からテイル小隊で』
「わかりました」
『ではテイルリーダーより各位へ! 戦艦グロウモリスで待機せよ!』
「了解であります!」
『はい!』
『イエッサー!』
『・・・・お遊戯じゃないんだぞ』
私達は、呆れるマイルズを無視して戦艦グロウモリスに入った。奇襲のために、戦況が動くのを待つ手筈になっているんだよね。
なので戦艦に向かったけど、格納庫には既に機体がいっぱい。
私がフェアリーテイルで入ると、格納庫にいた人達の視線が一斉にこちらに向いた。
フェアリーテイルに絡む視線を感じながら降りると、ザワザワしてるのがわかった。
戦艦内はすでにプレイヤーでごった返している。
色んな国の言葉なので、流石にわからない。
そうだ、買っておいた地球言語用・自動翻訳を使ってみよう。
「イルさん、言葉を翻訳できる?」
『了解しました』
私が球体ドローンなイルさんに頼むと――すごい、翻訳された会話が相手の声で日本語になって聞こえてくる。相変わらずの超科学だなあ。
えっと、
『スウだ』
『スウが入ってきた』
『あれがスウか』
『思ったよりも華奢だな』
『本当に若いぞ』
『あんなのが強いのか?』
そうなんじゃないかと思ったけど、滅茶苦茶私のこと話してる・・・。
視線が痛いのでワンルームに閉じこもろうと私が踵を返すと、マイルズに首根っこを掴まれた。
「この後簡単な事前説明がある」
「しくしく」
さらに聞こえてくる翻訳。
『マイルズ・ユーモアだ』
『小さいぞ』
『コンパクトだ』
「マイルズ、ざまぁ」
「?」
いや、首かしげないで。コンパクトとか言われてなんとも思わないのか、この人は。
私は尋ねてみる。
「マイルズは、自動翻訳を使ってないの?」
「一応使っているぞ。まあボクはマルチリンガルだがな」
一体、何ヵ国語を話せるんだろう。
「そういえば、戦闘機のパイロットって頭いい人多いんだっけか」
――戦闘力だけで飛び級したんじゃないんだね。
私が廊下をマイルズに引きずられていると、学生服の女の人が見えた。
あ、あれって・・・マリさん!?
前も着ていた有名アニメの学生服だ。――なんか撮影会始まってるし。
でも撮影したい気持ちは分かる。マリさんすごく可愛いもん。
私がスマホを取り出して、マリさんに向かおうとすると、マイルズにまた首根っこを引っ張られた。
「混ざるな」
「でも、ミニスカートだよ!?」
「・・・・なにが『でも』なんだ・・・」
手足をジタバタさせていると、マリさんと目があった。
「スウちゃん! 久しぶり!!」
「お久しぶりです!」
私とマリさんが挨拶を躱すと、周りが騒ぎ始めた。
『おお、スウだ』
『本物だ』
プレイヤーさんが、私を写真に収め始めた。
あ・・・まって撮られるのは苦手なの――。
「撮って良いのは、撮られる覚悟のある奴だけだ」
マイルズに正論で殴られた。
でも私まだ、マリさんを撮ってないし・・・・未遂だし――だからって私は「撮らないで下さい」とか言えない。
「まあ、勝手に撮ってやるな」
あ、マイルズが注意してくれた。
大丈夫かな、喧嘩とかにならないかな。
『おっと、すまない』
『可愛かったんでな』
『頼りにしてるぜトップガンたち』
おお、みなさん紳士的。
「任せろ」
なんか皆さんが私の方も見ているので、私はその視線を受け流すようにマイルズを視る。
「任せた」
「お前と言う奴は―――」
マイルズが溜め息を吐くと、マリさんが私に声をかけてくる。
「スウちゃんもぼくを撮りたいの?」
「ぜ、是非!」
「スウちゃんなら大歓迎! ――その代わり、スウちゃんとぼくで並んだ写真も撮らせておくれよ。ぼくが君の大ファンなの知ってるよね?」
私はマリさんのワンルームの天井に貼られた大量の自分の写真を思い出して、若干怖じけるけど、マリさんを撮りたい欲で恐怖を抑えた。
「え、えっと―――じゃあ、はい」
「ありがとう! 嬉しいな」
そうして撮影会が終わり、ブリーフィングを受けた。




