表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

173/459

171 助平な男

 リザードガングと、フロッグガングが尻尾巻いて逃げ出した。

 しかし・・・・


『お前、何をウチのクランメンバーに手を出しているんだ!』

「えっ」

『スケちゃん!』

『クランマスター!』

『ウチのクランメバーに手を出すって意味分かってるのか。このスケ――本名佐々木(ささき) 助平(すけべい)を相手にするってことだぞ!』


 どうやら、空挺師団第2小隊・紅蓮のクランマスターが来てしまったようだった。


(というか、えっ、なんでこの人いきなり本名を明かすの!?)と混乱するスウ。


「この佐々木 助平、逃げも隠れもしねぇ。どんな勝負からも逃げねぇから、どこからでも掛かってこい!」


 あ、そういう事!? 逃げないから本名明かすのね!?


 納得したスウは、慌てて否定する。


「あのっ、違います。このリザードガングって人と、フロッグガングって人が、先にウチのクランメンバーを襲ってたんです」

『そうです!』


 スウと、綺雪の言葉に慌てだすリザードガングとフロッグガング。


『おっ、お前スウ、バラすな! スケちゃんにそんな事が知れたら!』

『何しやがんだ、オマエ!!』


 とんでもない怒声が、通信から漏れる。


『なんだとトカゲ、カエル。あの人の言うことは本当かーーー!!』

『す、すみません!』

『ほ、本当ですーーー!』

「しかもお前、相手は女じゃねぇか! 後で鉄拳制裁だから覚悟しろーーー!」

『ヒッ―――。ス、スケちゃんの鉄拳はマジで鉄みたいだから、勘弁してくださいぃ!!』


(ちょ、ちょっと怖いけど、話は通じる人かな・・・)


 スウが空挺師団第2小隊のクラマスは、まともそうな人で良かったと安堵していると、スケという人の機体――ハンマーヘッドのキャノピーが突然開いた。


 〝空中で戦闘機のキャノピーを開ける〟などというのは、大変危険な行為だ。

 パイロットが外に吹き飛ばされかねない。


 戦闘機のコックピットと外気は、旅客機ほどの気圧の差はなくとも、それでも危険なことには変わりはない。


(全然まともじゃないぃぃぃ!)


 とんでもない行動に、スウはドン引き。


 でも、凄まじい突風も曝されているはずの佐々木 助平という男は微動だにしない。


 微動だにしないで、コックピットに起立をしている。

 やおら、佐々木 助平は頭を下げると、スウと綺雪のコックピットまで響くような大声で。


「すまなかったーーーーーー!」


 と謝った。

 突風の中で微動だにしないもの大概だが、コックピットまで貫通してくる大声というのも凄まじい。

 この佐々木 助平という男のフィジカルの凄まじさが知れた。

 

(全然まともじゃないけど、悪い人では無さそう)


 スウは思って返す。


『い、いえ、大丈夫ですよ! ――というか危ないので早くキャノピーを閉めて下さい!』


 スウが返すと、頭を下げたまま助平が、


「ありがとーーーーーー!」


 と叫んで、キャノピーを閉めた。

 そうして通信ウィンドウを開いて、


『このトカゲとカエルの馬鹿二人は、俺が責任を持ってクランハウスへ連れて帰――』


 助平はスウと綺雪の名前を呼ぶためにIDを確認、そして綺雪という名前に気づく。


『なんだ、綺雪という名前は本名か? だとしたらその綺雪も、逃げも隠れもしないって訳か』


 すると綺雪が、手を顔の前でヒラヒラと振る。


『・・・いえ、そんな獰猛(どうもう)な生き方はしてません』

『違うのか、あと、そっち――ん!?』


 助平が自分の隣を飛ぶ、スウの名前を見て驚愕する。


 助平のハンマーヘッドが、急にハイ・ヨーヨーを開始する。左斜め上へ上昇しつつ、後ろに向かって旋回、背面飛行に入っていく。


 異変に気付いたスウ。

 何事かと思っているスウに、助平が謝る。


『スウ、突然、悪い、』


 理解したスウが、インメルマンターンで対応。正面へ弧を描きながら上昇していく。


『悪いのは、重々承知で言う』


 悪びれはあった。本当に悪いと思っている気持ちが籠もっていた。

 だが、


『俺と戦え!!』


 止められなかったのだ。最強を目の前にして、それに挑まずにはおれない――この助平という男は〝そう〟であった。

 するとスウは、


『正々堂々な挑戦なら、受けますよッ!』


 この言葉に、驚いたのは綺雪だ。

 普段優しく温和なスウの言葉とは思えない、好戦的な言葉だった。


『う、受けるんですか!? スウさんが!?』

『え・・・・? うん。あっ、もしかして綺雪ちゃんって、私が試合とか嫌いなタイプだって思ってた?』

『・・・・はい、争い事は全部嫌いなのかと』

『綺雪ちゃん、私ってね。元・FPSプレイヤーなんだよ』


 そう、スウだって元はFPSのトップ帯にいたプレイヤー。

 〝せいくらべ〟が嫌いではないのだ。


『迷惑なのとか、殺し合いはゴメンだけど――私と戦える人との試合なら全然ウェルカム。助平さん、シールドが割られた方が負けでいいですか!?』

『応! 俺はスケ、本名佐々木 助平! ――クラン空挺師団第2小隊・紅蓮の頭を張ってる!』

『私はスウです。配信者やってます――本名は勘弁してください』


 スウが何気なく言った先程の言葉に、綺雪が「ハッ」とする。


『〝私と戦える人〟? ――え、あの助平って言う人、スウさんと戦えるほど強いの!? ――変な名前なのに!?』


 若干、かなり失礼な綺雪であった。

 まず、スウがハンマーヘッドの背後を取る。

 リザードガングが憎々しげに呟く。


『スケちゃん、無理だよ・・・フェアリーテイルと、初心者クエストで貰えるハンマーヘッドじゃ性能に差が有りすぎる』

『いくらスケくんの腕がクラン最強でも、フェアリーテイルの加速と旋回力、それに上昇力が相手じゃ勝負にならないよ・・・!』


 リザードガングとフロッグガングの心配気な声に、助平は大声で返す。


『心配すんな―――!!』


 助平がフェアリーテイルに向かって真っすぐ飛びながら、操縦桿から手を離して腕を組んだ。


『スウ、今から俺の得意技を見せる』

『と、得意技ですか』

『そう、必殺技と言っても良い。必ず殺す技と書いて、必殺技だ――スウを殺しはしないがフェアリーテイルのシールドには死んでもらう』


 スウがゴクリと、硬いツバを飲む。


『スウ、お前の必殺技はなんだ』

『わ、私の必殺技ですか?』


(この人は、誰でも必殺技を一つは持っているみたいな調子だなあ)と、スウはちょっとたじろいだ。


 スケが腕を組んだまま、前をまっすぐ見据えながら続ける。


『スウ、必殺技の一つくらいは持っておくべきだ』

『そ、そうなんですか? ――じゃあ、あえて言えば、〈励起翼〉でしょうか?』

『それはフェアリーテイルの必殺技であって、スウの必殺技ではない』

『え、じゃあ・・・必殺技ではないですが・・・・得意なのはハイ・ヨーヨーでしょうか』

『なるほど。確かに、お前のハイ・ヨーヨーは完璧だ。機体に掛かるGを限界にして上昇カーブからの背面飛行、そこからの高速の刺し込み。あのハイ・ヨーヨーから逃げられる奴は、そうそう居ないだろう』

『まあ、だいたい後ろを取れますね』

『そう、ドッグファイトは後ろを取るもの――だが、俺はもっと男らしいのが好きだ』

『え、まさか貴方の必殺技って・・・・』

『もちろん、真っ向勝負(ヘッドオン)だ!』


 ハンマーヘッドがフェアリーテイルの、真正面から突っ込んでくる。


『ちょ・・・・!』


 本来、ヘッドオンは非常に危険な行為である。

 相手を破壊しても、破片が飛んでくるのだから。


 だから普通は、ヘッドオンは避けるものだ。


『こちらの機体の性能の足りなさは、ヘッドオンで補う!』

『正面から戦うことで、こっちの速度を利用するって訳ですか!?』


 スウが〈汎用バルカン〉を連射する。

 弾丸の速度、スウの戦闘機の速度、相手の戦闘機の速度――全てが合計されているのに、躱し切る助平。

 助平からも弾丸が飛んでくるが、スウも躱し切る。


 リザードガングが唖然とする。


『ヘッドオンの時の弾丸って、自分のと敵のが混ざって訳わからなくなるんだが・・・あの二人よく判別できるな・・・』


 スウも、助平に感心する。


『避けますね・・・』

『そっちもな!』


 スウが照準を僅かにずらした。


『ですが、芯を捉えた攻撃はどうしますか? ――回転する飛行機の中心を撃たれたら避けられませんよ。横滑り(スリップ)の機動でも、翼が広い飛行機だと躱しにくい!』


 スウが〈汎用スナイパー〉で、ハンマーヘッドの芯を捉えた弾丸を放つ。

 横転では躱せない一撃だ。


 また、機首上げでも躱せない――機首上げは機首が持ち上がるのではなく、尾翼が沈むのだ。

 機体の後ろが下がって、その後、機体全体が上昇していく。だから、飛行機の動きが弾丸の軌道に被ってしまう。


 機首下げ――これも飛行機の尾翼が浮く動きだから、躱せない。


『ス、スケちゃん!!』

『当たる!!』


 ところが、ハンマーヘッドの機体全体が急に沈み込んで、スウの弾丸を躱した。

 スウの弾丸が、ハンマーヘッドの上をかすめて飛んでいく。


 綺雪と、リザードガング、フロッグガングが驚愕に眼を見開く。


『え、なんで!?』

『な・・・なんだ今のスケちゃんの動き!!』

『か、躱した・・・? あんな動き、見たことない』


 スウが(タネ)に気づく。


『スポイラーで躱しましたか』


 PvP大会賞品である改造の時、スウもフェアリーテイルに追加注文したスポイラー。


 スポイラーは揚力を失わせ、飛行機を沈み込ませる装置だ。

 これと同時に全ての水平の動翼を上に上げれば、飛行機はかなり一気に沈み込む。


 スウもまた、今助平が行った動きをするために、フェアリーテイルにスポイラーを追加注文した。


『あまり舐めるな、スウ!』


 今度は助平が、ガトリングを放ち始める。こちらも芯を捉えた攻撃。


『なら私は――』


 するとスウは、フェアリーテイルを左に横転。フェアリーテイルを横倒しにして、


『はいぃぃ!?』

『なんだよそれ!?』

『ちょちょちょ、なにやってんだ、スウは!?』


 フェアリーテイルの動きに驚愕する綺雪、リザードガング、フロッグガング。

 なぜならフェアリーテイルが横倒しのまま、左右に移動し始めたからだ。

 横倒しのフェアリーテイルが、〝レレレ〟の動きをしている。


 これは、今助平のやった躱し方の応用だった。

 動翼を上げ下げして、左右に動いている。

 スウが大型化した動翼たちの効果が、覿面に出ていた。


『やるな、スウ!』

『そちらこそ! ――ですが、』


 スウが「ふふふ」と笑う。FPSで勝ち確になった時の表情だった。


『私にヘッドオンを挑んだのは間違いでしたね。この機体には〈励起翼〉があるんですよ――さっき私の必殺技だって言ったじゃないですか!』


 フェアリーテイルの4枚の翼が輝き出す。

 そして、フェアリーテイルとハンマーヘッドがすれ違う瞬間。


『その翼、貰いました!! ――シールドだけじゃ済まないかもしれませんが、良いですよね!!』


 スウが叫び、2機が交差するようにすれ違った。


『えっ』


 スウが相手の被害を確認するため後ろを振り返って、眼を丸くした。

 ハンマーヘッドの翼は無事。翼どころかシールドすら破れていない。


『なんで・・・?』


 するとリザードガングだった。


『スウが驚いてやがる。ザマァないぜ。スケちゃんは今、上下の二枚の翼の間に、ハンマーヘッドの翼を滑り込ませたんだよ』

『な―――っ』


(互いに物凄い高速で飛んでいるのに、すれ違う瞬間にそんな繊細な飛び方を・・・)


 スウがもう一度後ろを振り返る。


(やはり・・・この人は、強い)


 スウは、助平に宣言する。


『なら、翼をパージします。そうすればこちらの戦闘機の性能が変わります』

『変身か』

『違います』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ