168 ランカー同士の接近戦を見ます
みずきの進化先は多分、私の隣にいる結菜なんだろうけど。
とはいえ結菜とみずきの戦い方は、まるで別物になるのは容易に想像できる。
だって――、
――結菜の機体が、宇宙から降りてきた。
BW-31 ベオウルフ。
結菜の機体はオオカミみたいな形をしている。
あの機体はビースト形態と、飛行形態に変形する。――人型形態は無い。
だから戦い方は、人形形態しかないみずきとは絶対同じにならない。
――しかもね、あの機体・・・・新幹線、戦車、戦闘機な他のメンバーと合体することで巨大ロボになるんだよ。
その際、オオカミの顔が胸に来る。
「やっぱカッコイイなあ――私も欲・・・」
『マイマスター・・・・』
イルさんの悲しそうな声と共に、潤んだ瞳でこちらを見ている。
「じょ、冗談だよ! 私はどうせ戦闘機しか使えないし!」
ベオウルフの飛行形態は、かなり大気中の飛行に向いてない形なんだよね。
変形は単純で、オオカミが足を折りたたんで翼が出てくるだけなんだけど。
胴体と手足が大きすぎて、あれじゃ上手くマニューバができない。トリッキーな事はできるだろうけど、それをコントロールするには相当な慣れと研究が必要だと思うから、実戦投入するには1年位掛かりそう。
ちなみにロケットの出力がすごくて、ビースト形態も、フライト形態も加速が馬鹿速い。
地上で地面を蹴ってロケットを噴かすと、リミッター解除したスワローテイル並の加速するんだから、恐ろしい。
フライト形態も4本足を全て揃えてロケットを噴かすと、恐ろしい加速をする――カーブとかは苦手だけど。
そして結菜はクラン空挺師団3叢雲小隊――FLの4大クランのクラマス。
だから結菜も強くて、スキル〖防御力上昇〗というのを所持している。
結菜は〖防御力上昇〗で、体の対G性能を上げて「無理やり耐えるでござる」って言ってた。
私も〖重力操作〗か〖防御力上昇〗のどっちかがあれば、もっと無茶な事できるんだけどなあ。〖超怪力〗と〖怪力〗でちょっとだけGに耐えれる量が上がるけど。雀の涙なんだよね、あんまり〖超怪力〗と〖怪力〗の全力を出すと体が耐えられないし。
戦っていた二人が、ベオウルフに気づく。
『あ、結菜じゃん』
『おはようございます~!』
さっさとベオウルフに乗り込んだ結菜が、機体の頭を低くして、犬が「遊ぼう」と言う時みたいな姿勢にする。
『ふたりとも、次は拙者と戦うでござる~』
『おうよ~』
『いいですねー』
で、まず、みずきと結菜が戦ったんだけど、これは結菜があっさり圧勝。
『むきいいいい!』
ダーリンが地面に転がり、手足をバタバタさせる。子供か。
てかせっかく修理してワックスもしっかり掛かって、新品同様になって返ってきたのに。
なんか❝異常に丁寧な整備されてる❞ってコメントが言ってたし、整備してくれた整備士さんが涙目になるよ。
『ハハハ、並み居る猛者だらけの空挺師団第小隊3叢雲で最強に君臨するクラマスに勝とうなどと甘いでござる。これでも拙者はランキング21位でござるからな――さて、アリスどの』
『はい』
『今日も胸を借りるでござるよ』
『こちらこそ』
この二人は、だいぶ腕が近い。
だから戦いは毎回、凄いことになる。
私は、危ないから退避するために呼んだフェアリーさんに乗り込んで、人型形態にして立った。
フェアリーさんが来たので、みずきが私を見つける。ダーリンであぐらをかいてこっちに手を振った。
『涼姫もやる気だー』
「やらない」
『ちぇ』
格闘戦苦手なんだもん。空中戦ならやっても良いけど、私に有利すぎるんだよね。
私の視界の先で向かい合う、武者とオオカミ。
そのサイズ感、オオカミの方がでっかい。
現実のオオカミも本当に大きいんだよね。
しかも北に行くほど、大きい。
昔ヨーロッパの人が、ハイイロオオカミとかをとても恐れたっての分かるよ。
あんなでっかいオオカミが集団で襲ってきたら、そりゃ助からない。
まあ、世界最大級のハイイロオオカミの化石は日本から出てるんだけど。
結菜の背中から、巨大な日本刀みたいなのが出てくる。
刃は下を向いている。
結菜は四本脚のロケットを器用に使って、自らが太刀になったような戦いをするんだ。
バーサスフレームは人間みたいに動けない制限がある。ならば、自らが太刀になってしまえという発想らしい。
あの巨体とバーサスフレームでも1、2を争う出力のロケットエンジンから繰り出される攻撃はかなり重い。アリスの〖重力操作〗を使っても受けきれないらしい。
結菜も〖防御力上昇〗を突進力に変えて、攻撃力に振り切ってるからキツイんだろうと思う。
そして、熱攻撃が通用しないバーサスフレームだと、物理が一番効くんだよね。
多分紙なフェアリーさんでベオウルフの突進からの大太刀の突きをまともに食らったら、一発でシールドごと機体を貫かれる。
『涼姫どの、開始の合図を』
「はい」
私が、フェアリーさんの右手を上げる。
同時にアリスが、上段の構えになる。
私は、フェアリーさんの右腕を切るように下げた。
「――始め!」
刹那、ベオウルフが大地を蹴る。そしてロケットエンジンを点火。
莫大な速力と質量の生み出すエネルギーが、ショーグンに迫る。
『いきなりですか』
アリスが上段に構えていた大太刀を下ろして、水平に構え直した。
ベオウルフの突進の突きを、大太刀の峰に手を添えながら受け流す。
もちろん〖重力操作〗も使っているだろう。
ベオウルフの突進の威力を受け止めるのは、バーサスフレームでも片手で受けるのは難しい。
ショーグンが、べオウルフを蹴ろうと足を上げる――反トルクキックだ(私が命名)
だけど、オオカミは迫る武者の足を蹴ってトンボを切る。
結菜・・・・四本脚のバーサスフレームであれをするとか、リアルだともっと簡単に出来そう・・・。
というか、結菜って――VRでオオカミ形態を操作してるんだよね?
え、結菜―――今、感覚的には四本脚で立ってるって事?
『片足で立って、大丈夫でござるか!?』
だよね。バーサスフレームって重いから、片足で立つと凄くバランスが取りにくいんだよ。
しかしアリスは、全然大丈夫みたいだ。
『誰に言ってるんですか』
宙返りしたオオカミが繰り出す背中に備えた太刀の下からの突き上げを、武者は後ろに自由落下しながら僅かに機体を動かして、スレスレで躱す。
「すんご、落下中にあんな繊細な動きをバーサスフレームで――私だったら稼働不能域にぶつかって、突き上げを食らってしまうよ」
完璧に機体の特性を理解してないと、あんな小さな回避できないよ。
アリスは足を着くと、反撃で横薙ぎ。
しかし結菜はロケットエンジンを噴かして、フィギュアスケーターのように空中で回転して避けた。
そのまま腕を伸ばして、爪で斬りつける。あの爪は〈励起クロウ〉とか呼ばれるもの――破壊力十分。
ベオウルフは、四肢にも武器が有るから恐ろしいんだよね。
あんな攻撃を、ショーグンの四肢で受けたらシールドが砕ける。
アリスは横薙ぎの形にしていた大太刀を、手首を回して縦にして爪を受け止める。
――〝本当に手首にベアリングが仕込まれている〟バーサスフレームだからできる、手首の回転だ。
アリスは両手を使って太刀を支え、爪から来る衝撃を殺さないで後ろに飛ぶ。
『おや、飛び道具の苦手なアリスどのが距離を取ってどうするでござるか?』
アリスがゆっくりと左の手のひらを開き、腕を伸ばし前に出した。
そして太刀を、こめかみの辺りに持ってくる。
足は大きくひらき、半身の構え。
片手霞の構え、とでも言えば良いのだろうか。
いや、霞より太刀が上にある。上段に近い。
歌舞伎の〝見得を切る〟って奴にも似てる。
ファンタジーアニメの剣使いの主人公がやりそうな、外連味ある構え。
日本の剣術にはまず無い、意味不明な構え。
剣道はだいたいどんな構えを取ってもいいらしいけど「やったら怒られそう」って感じ。
二刀流ならまだ分かるんだけど。
でも、あの構え――なんかどっかで・・・。
『その構えは、なんの真似でござるか。アニメの見すぎでござるか?』
『そう思うなら、どこからでもどうぞ』
『―――自信があるようでござるな・・・酔狂ではないと言う訳でござるか、』
結菜に警戒の色が出る。
『そうでござるな、珍妙だからと言って油断して良いわけではない。むしろ、そこから拙者の知る技が繰り出される可能性が低く、知らない技が繰り出される可能性の方が高いのだから――では、味見といたそう!!』
ベオウルフの突進。
アリスが、わずかに前に出した腕を上げる。
そこで私は、どこで見た構えか思い出す。
あ! そうか、みずきだ!!
盾を構えたダーリンと同じ構えなんだ!!
つまり、盾を持たず盾の構えをしてるんだ!!
――でも、盾が無いのにその構えに意味があるの!?
『どうしたでござるか! 動かず待って――そんな位置にある刀では、もうカウンターも間に合わぬでござるよ―――!!』
なんか表情筋のない筈のショーグン・ゼロが笑った気がした。
ベオウルフの刀が、ショーグンの懐に入り込む。
すると、ショーグンが前に突き出した左腕の裏拳で、ベオウルフの刀を軽く殴った。
ベオウルフの姿勢が崩れる。
「そ――そういう事!?」
私は、アリスのやってることを理解した。
つまり、左腕そのものが盾なんだ。
『んな!?』
『こんな事、剣道では出来ないですからね!』
ベオウルフの刃が、逸れて行く。
ベオウルフはロケットエンジンで体勢を整えようとするけど、ショーグンの左腕がベオウルフの顔面を掴む。逃さないつもりだ。
結菜の声がアリスの考えた戦い方に驚愕してる。
確かに日本人には、ちょっと思いつかない方法かもしれない。
でも私はアーマーバトルっていうスポーツで、篭手に小さな小さな盾を備えた鎧を見たことが有る。
バックラーっていう盾も小さすぎて「これで防ぐの?」って疑問を抱いたのを思い出した。
『なんとォ―――!?』
『面ェェェ――』
振り下ろされる大太刀が、逃げられなくなったベオウルフの顔面に吸い込まれていく。
ベオウルフは〈励起クロウ〉で引っ掻くけど、顔面を掴まれていては、威力が足りない。
『う、迂闊! ――』
『――ェェェン』
ガラスが砕けるような音が鳴って、ベオウルフのシールドが砕かれた。
ベオウルフのAIの渋い声が判定を述べる。
『汝の敗北じゃ、ハクセン。精進せよ』
『うぬぬ・・・まだどこかで、あの構えを侮る気持ちがあったでござる。・・・つまり盾を持っていなくても、左手を盾にしたわけでござるか――むしろ、自由に動かせる分、盾など無い方がいい』
『視界もさえぎらないですからね』
アリスが、後ろであぐらをかくダーリンに乗っているみずきを見て言った。
『盾は捨てないよ!』
みずきが、盾を振り回して答えた。
まあ、好みだしなあ。
ただ、みずきはムシャ・リッカに合体して和風で戦えるようになった時の方が強いのがなんとも・・・。
うーん見事な戦いだった。
流石、この場に今年の女子剣道全国大会の1、2、3位揃い踏みしてるだけ有ったなあ。
みんながバーサスフレームから降りてくる。
・・・・あれ? 結菜、足なんかおかしい?
右足を引きずって、ケンケンするみたいに歩いている。
『結菜、怪我したんですか!?』
私が尋ねると、カメラの中で結菜が頷いた。
アリスも、怪我をさせてしまったと慌てている。
私は急いでフェアリーテイルから降りる。
「見せて下さい。〖再生〗します」
「おお、すまぬでござる。あのGの中でござるから、なかなかの衝撃がくるのでござるよ」
「す、すみません」
アリスが謝ると、結菜がいやいやと首を振って笑う。
「稽古に怪我は付き物でござる。それに怪我したのは、拙者が未熟なだけ」
「〖再生〗」
私が結菜の足首に〖再生〗を使うと、すぐに結菜が足を振った。
「うむむ。涼姫どのは、本当に便利でござるな。拙者の道場にほしいでござる」
「備品にしないでください」
その後、結菜がどうしても私と戦いたいというので、空中戦でボコにしました。
『話にならないでござる!! なんだあの化け物は・・・・レベルの桁が違いすぎるでござる』
『3次元で襲いかかってくるので、本当に別次元で戦ってますからね・・・』
『あれは反則』
だから空中戦は私に有利すぎるって言ったじゃん。




