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163 告白されます

 ロッジの自室のベッドの上で目が覚めた。


 窓の外は真っ暗だった。相変わらずカエルがゲロゲロうるさい。


 お腹の上にはリイム、布団の中にはマンドレイクのドラ子が入り込んで眠っていて、窓枠からカエルのケロりんがお手々とあんよをお腹の下に仕舞って、心配そうにこっちを見ていた。


 多分、私が気を失った後アリスがワープで惑星ユニレウスに運んでくれたんだと思う、それで安全な湿地のロッジまで連れてきてくれたのかな?

 なんでアリスがワープしてきたかと思うかというと、あの場にアリスの機体しか動ける機体が無かった居なかったから――ワンチャン、イルさんの自動操縦があり得るけど。


 私は上半身を起こそうとする。ケロりんが頭に飛び乗ってきた。リイムが顔をもたげ、ドラ子が私の太ももの上に来てモゾモゾする。


 あれ・・・まって、もう一つ来た――これは、アリスの変な人形! なんで・・・?


 浮かれたモモンガが、横から殴られたような人形が私の胸の上に来た。私の胸は、物を支えるくらいには膨らんでいるので、その上でモゾモゾするモモンガ。

 なんで、この子はあの爆発で生き残れたの?

 ――あ、そうか。


 アリスがイントロフレームを、内部に仕込んでたっけ。

 なるほど・・・必死に掴まって来たんだね。


 私はおもわず、頑張った変なぬいぐるみが愛おしくて撫でた。

 まてよ――という事は、もしかして。


 私が首を巡らせると、私のプラモもこっちに跳んできた。


 私のおでこに突っ込んでくる。

 もちろん私の運動神経ではキャッチできない。

 ちなみにワンルームに設置していたプラモは超でっかいし、硬いので、もはや衝突事故。


「あだぁ!」


 超痛い。でも良かった。

 そうしてプラモを抱きしめようと、体を起こすと、体中の筋肉が物凄く傷んだ。


()・・・・っ!」


 ――酷い筋肉痛みたいだ。でも、生身で戦ったりしてないからこの程度で済んだのかな? ――Gには耐えたけど。


 〖再生〗で治そうかと思ったけど(ほっといた方が、筋肉付きそう)って思って止める。

 ただ、目から出血してたそうなんで、そこだけは〖再生〗を使っておく。目は大事だからね。


 目に〖再生〗を掛けて、痛む筋肉を揉んでいると、ノックがあった。「どうぞ」というとアリスだった。


「良かった、目覚めたんですね」

「ご、ごめん。運んでくれたんだよね」

「いえいえ、スウさんに何事もなくてよかったです。にしてもあの〈アイアン・ノヴァ〉という武装は本当に危険ですね――名前はシンプルなくせに」


 (アリス、私が起きたらすぐさま来たなあ)と思って見れば、部屋にショーグンのドローンが浮いていた。なるほど。


「ご飯用意してますけど、食べられますか? 調子が悪いならお粥を作ってきますが」

「あ、気にしないで。体の調子は戻ってるよ、ひどい筋肉痛くらい――それも〖再生〗使えば治りそうだけど、あえて筋肉付くのを期待して治さないだけだから。だから普通のご飯で」

「筋肉痛ですか――じゃあ、一緒に食べましょう。お鍋ですよ」

「やった! ――アタタ」


 嬉しくて腕を上げて喜ぶと、ちょっと痛かった。

 お鍋は、多分胃に優しめなのを選んでくれたんだろうなあ。アリスは、相変わらず優しい。時々ドSだけど。


「あと、涼姫の配信はわたしが終わらせました。涼姫は寝顔配信は嫌ですよね」

「そなたは命の恩人じゃ」

「あはは」


 頭にケロりんを乗せ、足にマンドレイクをじゃれつかせながら食堂につくと、水菜をつまみ食いしているみずきがいた。


「みずき・・・・」


 アリスが呆れた声を出した。


「も、もごもご」


 みずきが何やら言い訳をしているようだけど、飲み込んでから喋りなさい。

 お肉ではなく、野菜に手を出したのはみずきなりの遠慮だろうか?

 あ、いや隣に鶏の骨があるな。


「じゃあ、わたしたちも食べましょうか」

「うんうん」


 私が返事して席につくと「何を食べますかー?」と、アリスが最初の一杯目はよそってくれる。


「鶏肉!」

「わたしも鶏肉!」

「コケー!」


 リイムは相変わらず「コケー」とか鳴いてるけど、ニワトリではない――たぶん。

 鳥類同士(上半身)だけど、私達も哺乳類を食べてるわけなので。細かいことを気にしないでおこう。

 アリスが、肉食系な私とみずきに野菜も添えてお肉を入れてくれる。

 リイムには大好きなお野菜。

 お鍋に落下すると危ないので、ケロりんは私の頭から机に移動。


「「「いただきまーす!」」」


 さっそく三人で食す。

 ちなみにアリスが、ケロりんとマンドレイクの分も小皿に分けてあげていた。熱いんでふーふーしてあげてる。

 私はまず、白菜を一口。

 白菜の旨味ってこう、コンブや魚からは取れない旨味が有るよね。この旨味が好きなんだー。


「うん、白菜に鶏のダシが利いて美味しい! お肉は当然美味しい!」

「涼姫が作り置きしてくれている出汁も入ってますからね」

「あっ、あれ使ったんだ」

「涼姫の出汁は、料理人も狼狽(ろうばい)しますよ。最初に涼姫の出汁を使った料理を食べた時思いました。昔の人が『美味しい料理はほっぺが落ちる』って表現してますけど『本当に、ほっぺたが落ちそうになる感覚ってあるんだ?』なんて。あんなまろやかな出汁はどうやって取るんでしょうか」

「色んなののマネしてるだけだよ。あとは愛?」

「あ、愛ですか」

「料理は愛を込めて作ると、なんか美味しくなる気がするんだよね」

「それは、有るかもですね」


 「うんうん」と返しながら、白米に出汁の効いたお野菜をドッキングさせて食べる。

 スープが程よくお米に絡んで、幾らでも行けそう。

 私は白米を ザクザク っと、かき込む。

 お鍋のオン・ザ・ライス最高。

 みずきがポン酢に、鶏肉を浸しながら呟く。


「二人共料理上手くて、幸せ」


 アリスがみずきに差し出された空になったお茶碗を受け取り、ご飯をよそいながら苦笑い。


「みずきも料理の勉強したらどうですか、みずきの切った食材は断面が見事で美味しいですし」


 ほんとみずきが切ると、食材が切られたことに気づいていないんじゃないかって思う程見事なんだ。

 多分、食材の細胞が一切潰れていない。


「わたしは食べる専門。でも、お刺し身なら作るよ任せて」

「あそこまで見事に切られると、ただ切るだけで芸術ですからねえ・・・」

「本気を出せばまな板も切れるぞー」

「まな板のお刺し身は食べないから要らないです」

「アリスの胸はまな板だからなあ、共食――痛ひゃい痛ひゃい」

「みずきも胸は、わたしと変わらないじゃないですか!」


 アリスはみずきのほっぺを、上下に振っていた。


 ぷにぷにぷにぷに。


 まあ私達が料理する時も、食材を切るのはみずきにやってもらってるし。


 こうして食事をすすめていると、ふと私はアリスに尋ねたかった事を思い出す。


「そうだ、アリス。顔を誤認させるアイテムってどこで手に入るの? 連合のショップに無いんだよね」


 この間知らない人に絡まれたので欲しくなったのだけれど、ハイレーンのプレイヤーに用意された南大陸の街を探し回っても無かったし、禁止区域に出向いても売ってなかった。

 アリスがシラタキを ちゅるん と吸い込んでいたのを、飲み込んでから答えてくれる。


「あー、あれは公式のトップにありますよ」

「公式のトップ?」

「〈アバター変更〉って奴です」

「ア、アバター・・・?」


 自分の体だけど・・・アバター――あいや、そういえばアバターって神の化身って意味なんだっけ。

 うーん三種族さんからしたら自分たちを作ったホモサピエンスは、神みたいなモンかもしれないのかなあ。

 アリスとかチグは、私の神だけど。ヨグ・アリースと、チグ・ソトース。


 私はウィンドウを出してチェックしてみる。


「あ、今灰色になってる。購入できないみたい」

「売り切れなのかもしれないですね。じゃあ、私のをあげましょう」

「――え!? いいの!?」

「私は姉のをクレジットで買います。姉は複数持ってるはずなので」

「た、助かるよ!」

「待ってくださいね」


 アリスが言って、〈次元倉庫の鍵〉から口元のマスクのような物を取り出す。


「マ、マスク型なの!?」

「はい。これで顔と声が変更されます」

「なるほど――で、でもそれを使うってことは、ア、アリスと、か、間接―――」

「気になりますか?」

「そ、そんな事ないけど!」


 みずきがポン酢を入れ替えながら「ふ」っと笑う。


「真っ赤になって、小学生」

「そんな事無いけど!」


 アリスが笑ってマスクを渡してくる。


「じゃあどうぞ、洗ってあるので」

「ウ、ウンありがとう」


 早速着けて、顔を変えてみる。


「変身!」

「変身って・・・」

「小学生か」


 鏡で見ると、知らない美人になっていた。ちょっとしたアイドルクラス。

 額の縦線とか、視線がキョドってクルグルしたような瞳もなくなっていた。


「こ、これ最高・・・もう外さない」

「いえ、外して下さい」


 アリスが呆れた。

 まあ、外さないとお鍋食べれないから外すわけだけど。


 私が鶏肉を菜箸で取っていると、急にアリスがジト目を私に向けてきた。


(え、何、お肉食べ過ぎ!? ご、ごめんなさい!!)


 慌てて、隣の水菜を取ろうとすると、アリスが溜息を吐いた。


「涼姫、なんで自分が食べているお箸で取らないんですか」

「え―――?」

「わたしとみずきは、自分のお箸で取っているのに」

「そ、それは・・・・その」

「また、すずさ菌ですか」

「ぅ」


 図星だった。私は昔「菌、菌」言われたのがトラウマになっていて、他人を自分の菌に触れさせたくない。


「涼姫特有の、妙な逆潔癖症はそれが原因ですか」


 するとみずきが私の腕を むんず と掴んで、私が口に放り込んでいた箸を持たせ、お鍋に突っ込んだ。

 そうして掻き回した。

 私は言葉が出ないで、ただあえぐしか無かった。


「あ、あ、あ・・・」


 みずきが少し厳しめの声を出す。


「涼姫、視てて辛いぞ。止めて欲しい」


 アリスまで、ちょっと怒ったような声を出す。


「そうです。菜箸や網杓子(あみじゃくし)を使うのがマナーな時もありますけど、今はこっちがマナーです」

「ぅ、ぅぅぅ、・・・・ごめんなさい」

「分かれば良いのです」


 ――二度とすずさ菌なんて言いません。


 二人共、本当に有難う。


 私は感情を抑えられずに、思わずポロポロと涙をこぼしてしまった。


「ありがとう・・・・ありがとう・・・・」


 言って涙が抑えられない私に、二人は驚いて立ち上がった。


「えっ、えっ、泣くほど怖かったのか!? ごめん!」

「だ、大丈夫ですかスウさん!」

「違うの、嬉しくて、ありがたくて――本当にありがとう」


 するとリッカとアリスが顔を見合わせ、眉尻を下げこっちに来た。

 そうして左右からぎゅーっと抱きしめてくれた。


「辛かったな」

「私達がいるから、もう大丈夫ですよ」

「うん、うん。二人共―――本当にありがとう、ありがとう」


 こうして私は、しばらく涙があふれるのが止められなかった。

 すると、みずきが私の泣き顔を両手で挟んで自分の方に向けさせた。


 みずきの真剣な顔が、滲んで見えた。


「――アリスが言ってたけど。涼姫は友達だって言わないと、友達だって信じられないのか?」

「―――えっ、あ、それは・・・」

「はぁ―――まったく、優子とは真逆な奴だよ」

「ゆ、優子?」

「わたしの友達。いいか? ――わたし、立花 みずきは涼姫を友達だと思ってる。涼姫は?」


 私の目から涙がピタリと止まり、見開かれた。


「と、友達!! 私も、みずきを友達だと思ってる!!」

「まあ、当然だな。ここで『違う』とか言ったら、立花流が炸裂するところだった」


 突然の恐怖で、私は片言になる。


「ト、トモダチ! オレ リッカ トモダチ!」


 私が震えながら怪しいランゲージを繰り出していると、みずきが吹き出して、アリスにも嬉しそうな笑顔が咲いた。

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