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162 最後の手段を使います

 20秒間、短いようで長い。


 アリスがバリアで弾幕を受け止め続けてくれる。


 アリスは周りの熱を黒体で吸収してバリアを回復しているから、アリスのバリアはなかなか破れない。

 それでも相手は狂乱レベルの弾幕だ。本来受け止めて耐える弾幕の量じゃない。

 だからだんだんとバリアが削られてきて、アルハナでも回復しきれずバリアが破れる。

 すると、すぐさまイダスとリンクスが弾幕を受けるため交代に入る。

 こうして20秒間なんとか凌いでくれた。

 ただ光崩壊エンジンはオーバーヒートが収まっただけで、本調子ではない。


 私はヒドラに向かいながらアリスたちに言う。


「みんなは弾幕の間隔の大きい後方で、シールドを回復して! アルハナ、アリスの回復をお願い!」

『了解ですスウさん!』

『お母様、承知しましたわ』


 私はヒドラの注意を引きつつ弾幕を躱し、さらにエンジンを回復する――同時にアリスのバリアの回復を待つ。

 30秒ほどして、アリスから通信が来る。


『こちらバリアが完全回復しました。準備オーケーです!』

「了解! 〈超臨界・黒体放射〉!!」

『〈超臨界・黒体放射〉。イエス、マイマスター』


 イルさんが腕を振るうと、フェアリーさんの身長の3倍は有りそうな極太の閃光が放たれ、収束していく。

 この光でヒドラの首を消し飛ばし、余波で傷口を念入りに焼くと、フェアリーさんのエンジンがオーバーヒートした。


 フェアリーさんの速度が鈍ると、アリスがすぐさまカバーに入ってくれる。


「これで首の2本目を落とせた。最後の中央の一本だけど――もし伝説と同じなら」


 私はフェアリーさんの回復を待って、〈超臨界・黒体放射〉でヒドラの首を吹き飛ばし、傷口を念入りに焼くけれど。


「・・・やっぱリ駄目だ」


 首が復活した。


 中央の首だけは、焼いても復活するんだ。


 アリスたちがバリアで守ってくれているなか考える。


 ヘラクレスはこの無限に復活する中央の首を、大岩の下に封印したんだよね。


 無限に復活する相手を封印して倒すっていう方法は、古代から語られている訳だけど。


 今は近くに大岩も無ければ、恒星とかブラックホールとかもない。

 なら、とりあえず悪さできなくすればいいんだけど。


「つまり逃げてもいいんだけど」

『マスター、できれば』

「銀河連合的には、そうだよね」


 私はあんまり遠くないところにある、中性子星を見る。


 中性子星はブラックホールほどの重力はないけど、かなりの重力がある。

 あれに捕まったらきっとヒドラは出てこれない。


「ちょ―――逃げるな!!」


 危険を察知したのか、ヒドラが逃げ始める。

 しかも毒液をバラ撒きながら。


 私は宇宙に大量の球体やら不定形やらと化した、液体を躱しながら飛ぶ。


 液体ってば、不規則な動きをするので躱しにくい。

 でも当たったら機体が大変な事になるみたいだし、必死で躱す。


 一応シールドを破られなければ、大丈夫だとは思うけど。


 宇宙だと熱を伝えるものがないので、液体がなかなか凍らない――あの液体の凝固点も分からないし。


❝液体なんか、よく躱すなあ❞

❝だけどフェアリーテイルの動きがもう、ハチャメチャだぞw❞


 縦になって前に進んだり、バク転しながら前に進んだり――地球じゃ飛行機は絶対できない動きを絡めつつ私はヒドラに近づいていく。


❝戦闘機が、跳ね回るパチンコ玉みたいな動きしてんぞ!?❞

❝しかも濁流みたいな突風つき❞


 逆に風があるから無茶な機動ができるまである。

 だけど、流石に躱しきれずレーザーみたいな液体がちょっと掠めた。


 割れるシールド、液体が付着。

 運がいいのか悪いのか、液体がくっついたのはワンルームの出っ張った部分だった。


「あああっ、ワンルームが毒液にぃ――!!」


 ばいばい、私のプラモデルたち、アリスの変な人形。(泣)

 私は泣く泣く、ワンルームをパージした。


「VR外で、初めてワンルームを失ったあ――お前だけは許さないぞ、ヒドるぁ!!」


 怒りに任せてヒドラになんとか追いつく。

 すぐさま〈粒子加速ヨーヨー〉を射出。


 慣性を殺さず、滑り込むようにヒドラの周囲を廻り、〈粒子加速ヨーヨー〉を巻き付ける


「よくも、私の大事なプラモデルと、アリスの気持ち悪い人形を―――!!」


『酷いですスウさん!』


 私はフェアリーさんを人型形態にする。

 そしてヒドラを、引っ張――引っ張・・・・。―――引っ張れない。


 ヒドラがすごい力で抵抗してる。


 確かに質量的にもフェアリーさんでは勝てない。


『アリス、こっちに来れる?』

『えっ――私が、ですか・・・? ――が、頑張ってみます』


 ナイト・アリスがゆっくり恐る恐ると、近寄ってくる。

 バリアも駆使しながら。


 ヒドラがアリスに向かって毒レーザーを撃ちそうになったら、私は「なにすんじゃ」と、口(?)を蹴って止めさせる。


 やがてアリスも到着、フェアリーテイルとナイト・アリスでヒドラを中性子星に運んでいく。


「イルさん、中性子星にこれ以上近づいたらバーサスフレームでも脱出できないライン、〝脱出限界点〟みたいなのを、可視化できる?」

『イエス、マイマスター』


 私の視界に、ワイヤーフレームのような脱出限界点が表示された。


「じゃあアリスの視界にもお願い」

『イエス、マイマスター』

『ありがとうございます』

『*ワタシ ニモ ヒョウジ サレタゾー*』

「じゃあ、二人共あのラインを越えないように、ヒドラを投げよう」

『了解です』

『*コレガ ホント ノ ライン コエ カァ*』


 いや、越えちゃ駄目なんだって。 

 という訳で私とアリスは〈粒子加速ヨーヨー〉を持って、ヒドラを振り回す。

 そうしてジャイアントスイングのようにして、中性子星にヒドラをぶん投げ――えっ。


 私が〈粒子加速ヨーヨー〉のワイヤーをパージしようとした瞬間。

 ヒドラが思いっきりワイヤーを引いてきた。


 ま、不味い!!


 私は〈粒子加速ヨーヨー〉のワイヤーをパージしながら、ナイト・アリスを蹴り飛ばす。

 〝脱出限界点と逆側〟に。このままでは私とアリスが、脱出限界点を越えてしまうからだ。

 そうすると、フェアリーテイルはナイト・アリスを飛ばした反動で、より脱出限界点に引き寄せられ――凄まじい勢いで加速が付き始める。

 フェアリーテイルが、一気に中性子星に引っ張られる!


 私はフェアリーテイルのスロットルを全開にするけど、前に進まない。

 どんどん後ろに引っ張られていく。


『スウさん!』

『*スウ!!*』


 脱出限界点を越えてしまった・・・!

 ヨーヨーは切り離したけど――不味い、もうどうやってもバーサスフレームじゃ重力の井戸から抜けられない。

 こ、このままじゃ・・・・死・・・?


「イルさん、亜光速航行は!?」

『マイマスター。ガスの中や、1G以上の重力下では亜光速航行は使用できません』


 だ、駄目なのか。


「そうだ、〖伝説〗――いや、まてよ・・・」


❝ヤバイヤバイヤバイ!❞

❝スウが死ぬ!!❞

❝脱出転移を、早く!❞


『スウさん、転移を急いで!!』

『*スウ ハヤク!!*』


 いや、まだ方法はある! ――ならいま〖伝説〗を使うのは不味い。


「アリス、思いっきり離れて!!」

『え、わたしはここで何とか・・・そ、そうだ、〖重力操作〗!』


 駄目だ、アリスの〖重力操作〗の力じゃ気休めにもなってない。


「アリス、後で私を引っ張って貰うから、お願い離れて! アリスがそこにいたら最後の手段が使えない!!」

『さ、最後の手段!?』

『*アリス イソイデ ハナレヨウ*』

『わ、分かりました!!』


 私はアリスが十分離れたのを確認して、イルさんにお願いする。


「イルさん。アイアン・ノヴァ、使用の承認を」

『つ、使うのですか? マイマスター』

「アレを使わないと、もう逃げられない」

『了解しました。銀河連合、こちらAI・ID――』


 アイアン・ノヴァ――これはフェアリーテイルに搭載された、最強武器。


 強力な光崩壊炉を搭載した爆弾の炉を暴走させ、小規模ながら超新星爆発を起こすというもの。


 40層ボスでコレを使わなかったのは、攻撃範囲が大きすぎて使えなかったから――あと・・・フェアリーテイルまで巻き込まれる危険性が有ったから。


 でもここなら、中性子星の重力がある程度被害を押さえてくれるはず。


『マイマスター承認されました、アイアン・ノヴァ使用しても構いません』

「よし、じゃあ行くよ。アイアン・ノヴァ、エネルギー充填開始」


 アイアン・ノヴァは、光崩壊エンジンの力で暴走させる必要がある。


『充填開始10%――20%――』


 中性子星に向かう速度が、どんどん上がっている――というか自転にも引っ張られて始めてる。


 あの星1秒間に何周してるの!? 数百回は回転してるでしょ!?

 ――そんな遠心力に巻き込まれたら、私、バーサスフレームごとスパゲッティーみたいに引き伸ばされちゃう!!


(お願い、急いで!)


『100%――120%――アイアン・ノヴァの光崩壊炉、臨界を超えました――暴走開始!』

「よし、射出!」

『アイアン・ノヴァ射出』


 私はフェアリーテルの腕から出てきた、丸いカプセルのような爆弾をぶん投げた――カプセルは中性子星に向かってどんどん加速していく。中性子星に吸い込まれていくヒドラの近くまで来た。


 私はじれったいので、〈汎用スナイパー〉を使い、爆弾を狙撃。


 瞬間――閃光が放たれた。


❝え、なにこの光❞

❝大丈夫か!? やばくない!?❞


 さあ、逃げるぞ。


「〖前進〗―――!」


 スキルで加速しつつ、フェアリーさんの左側にあるプラスチックのような物を叩き砕いて中のレバーを引く。


「リミッター解除!!」


 久々に感じるような、強烈なGが襲いかかってくる。


 フェアリーさんの高価な重力制御装置でも、Gが抑えきれていない。


 背後から閃光。


 フェアリーさんが白い光の中に呑まれ、凄まじい振動が伝わってきた。


 私はフェアリーさんの翼で、爆発の勢いを受けて――


「うわわわわわわわわわ」


❝画面の揺れが酷い・・・!❞

❝削岩機よりも揺れてる!❞


 よ、よし、中性子星からすごい勢いで離れていってる!

 瞬く間に、脱出限界点を脱出。


『スウさん!』

『*スウ!*』


 アリスとリッカの歓声。


 だけどまだだ、ここからはアイアン・ノヴァの爆発から逃げないといけない。

 背後からは、青い光の塊が迫ってきている。


「〖伝説〗!! 〖超怪力〗〖怪力〗」


 フェアリーさんの色が白から、白銀に変わる。


 スワローテイルの通常時の4.5倍という恐るべき出力で、加速し続ける。

 さらに爆風での加速も加わっている。


 一応〖超怪力〗〖怪力〗で体の対G性能を上げるけど、こんな加速には雀の涙。


 徐々に青い炎の塊から、距離が離れていく。

 だけど大きな加速をすれば、Gも大きく増えていく。


 パイロットスーツの雪花が、激しく収縮する。


 まだ宇宙を漂っていた、ヒドラの毒液に追いついてしまった。躱すのが、きつい。


 回避運動をすると、頭に血液が足りなくなったり、過剰供給されたりする。

 ――視界が黒くなったり、赤くなったり。


 意識を、失いそうだ。


 イルさんが、真剣な表情になる。


『マスター耐えて下さい! 今気を失うと、毒液に即衝突です!』

「う――う、うん!」


 アリスとリッカの、不安気な声が聞こえてくる。


『スウさん! 急いで!』

『*フェアリーテイルガ、ヒカリ ノ ナカ ニ ノマレテル! イソゲ!*』


❝怖すぎる❞

❝なんだよこの光と振動―――!❞

❝黒体塗料が無かったら、もうとっくに機体が溶けてるだろ・・・❞


 今も逃げてるアリス達が、だいぶ近い。

 あそこまで行ければ!


『爆発本体、来ます!』


 さらなる振動が襲ってくる。

 熱は怖くないけど、衝撃波が怖い。


「雪花、バーサクモード!」


 私はパイロットスーツの特殊機能を開放。

 私の体のすべての能力が、2倍になる。

 ―――Gがマシに感じられるようになった。


❝おいスウ、目から出血してるぞ!❞ 

❝そのパイロットスーツ、マジで大丈夫かよ!?❞


 初めて使うからわかんない!

 私は腰のペンを取り出す。


原子(αλγ) 器よ(λκλ) (ͷφ)(ϡϟ) 生成(ρτρμα) キロ(φρδ)(αλϝ ͱ) 【|鉄よ、生まれよ《Σίδερο, γεννήσου》】!」


 私は雪花で上げられた能力も使って、できるだけ遠くに、鉄を大量に作り出す。


「右の〈粒子加速ヨーヨー〉射出!」

『〈粒子加速ヨーヨー〉射出。イエスマイマスター!』


 ヨーヨーのマイクロブラックホールでヨーヨーを鉄にくっつけて、引き寄せながら加速。

 さらに、


「アリス―――!」

『―――はい!』

「左〈粒子加速ヨーヨー〉射出!」

『〈粒子加速ヨーヨー〉射出。イエスマイマスター!』


 私が射出したヨーヨーを、アリスが掴んで引っ張ってくれた。ナイト・アリスのバリアの内側に逃げ込む。


 私は、その勢いのままナイト・アリスを掴んで飛ぶ。


 リッカのうめき声が、通信から漏れた――Gがきついんだ。


 アリスは〖重力操作〗があるけど、リッカは無い。

 でも、ここまでくれば・・・衝撃波も中性子星の重力で届かないと思う。


 少し、速度を落とす。


 アリスが弱まった衝撃を、バリアで受け止めている。

 まだ機体の揺れはあるけど。


 しばらく飛んで、私は背後を振り返った。


「ワンチャン、ヒドラもアイアン・ノヴァで倒せなかったかな?」

『ヒドラの生存確認――しかし、重力の井戸からは逃れられないようです』


❝じゃあ、重力の底で崩壊と再生を永遠に繰り返すのか・・・❞

❝ヒドラ「シテ…コロシテ」❞

❝感情があったらそんな感じだろうなあ・・・❞


 私は、雷鎚を放つ爆発の中心を眺めた。


「これ40層ボスで使わなくて本当によかった」

『こんなの使ったら、味方に絶対被害でてましたよ』


 リッカが感情なく言う。


『*アカンヤツ*』


❝なんてモンを装備してんだよフェアリーテイル。おとぎ話とかいう、可愛い名前なのに❞

❝これが量産機とか笑えない❞

❝今調べたんだけど、フェアリーテイルの持ち主が、スウ以外に2人いるんだけども❞

❝いや、1人はロストしてるぞ、スワローテイル以上の紙装甲だからなあフェアリーテイル❞

❝こんな爆弾、ポンポン撃たれたらたまんないぞ❞


 私は一応、補足を入れておく。


「さっきスワローさんが『承認されました』って言ってたんですが、〈アイアン・ノヴァ〉は連合の承認がないと使えないんです」


❝そうなのか❞

❝それにしたら、えらい承認早かったな❞


 私も(そういえば早かったなあ)と思っていると、イルさんがさらに補足してくれた。


『マイマスターは准将並の特別権限がありますし、NPCの印象が良くなる称号が2つもあります。またアインスタです。被害予測範囲に人が側に居ない場合、ほぼ素通しで承認が降ります』


 また出てきた、アインスタって言葉。


「だからそのアインスタってなに・・・?」

『マイマスター、銀河クレジット100万、勲功ポイント50万が振り込まれました。ヒドラの本体を消滅させたことで、印石が出たようです』


 あ、これ、答えてくれないやつだ。


「なんの印石?」

『〈無敵〉と、〈毒無効〉と、〈自動再生〉です。〈自動再生〉はアリスさんの物です。――ですが、中性子星に落下してしまったので、回収が不可能です』

「あ、回収が不可――」


 その時だった、雪花のバーサクモードの効果が切れた。


 私は、意識を失った。

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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 アイアンノヴァ初御披露目でしたが…まぁ(使用状況がアレだったとはいえ)予想通り激ヤバ兵器でしたね。そりゃ承認いるわ…。 しかし自動再生が中性子の坩堝にひと○君人形、もといボッシュ…
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