161 三裂星雲に行きます
「スズっち助かるわ! 沖小路宇宙運輸は現状、航宙タンカー2隻と航宙輸送艦1隻でやりくりしていたのよ! それをさらに3隻もくれるなんて!」
「え? 3隻?」
何で1隻増えてるの?
「そうそう、なんだかユタ中将という方が、指名クエストをこなして貰ったからって」
「あーーー! ユタ中将が融通してくれたんだ? 気が利くなあ、あの人」
「スズっちがしてくれたこの出資は、全て貴女に還元させてもらうわ! あの航宙タンカー2隻と航宙輸送艦1隻は、日本円にしたら150億円を下らないのよ!」
やっぱり高いなあ勲功ポイント。
1ポイント10000円だっけ。
確かに戦闘機とか考えたらそのくらいするんだよね。地球でも1機、100億円や200億円するし。
地球とFLでは生産力に差があるとは思う。
だけどスワローさんが10万ポイントで最弱。それでも最速の機体だし10億円はしても可怪しくないよね。
その後継機のフェアリーテイルが1000億円だし・・・。
いや、でも勲功ポイントは単純に円換算できないからなあ。
拳銃のニューゲームが5万勲功ポイントしたりするけど、銀河クレジットだと10万円くらいだったし。
地球でも拳銃は、数万円から――数十万円くらいだし。
ただシールドドローンが10万勲功ポイント(10億円)したり、バーサスフレームの武器1個が、スワローテイルより高かったり。勲功ポイントは本当に単純計算出来無さそう。
クレジットは値段がきっちり、日本円換算ができるんだけど。
勲功ポイントはなんていうか、ゲーム的なご都合な値段というか。
しかしフーリ、150億円の価値を私に還元するつもりなの・・・? 流石に大丈夫・・・?
いや、150億円の投資の還元だから150億円以上になって返ってくるのかな。怖い。
私はフーリに念押ししておく。
「ゆっくりでいいからね?」
「そうね。とりあえず株は渡すけれど、すぐに全ては還元出来ないわ。とりあえずスズっちさんから貸与という形でお願い。でもこれで益々商売を広げられるわ――FLから持ち込まれる資源は、世界が求めているのよ」
そんなやり取りがあったその日、アリスとリッカから「45層が開通したんで行かない?」という連絡が来た。
「もちろん」と返して出発。
やってきた45層。ここはもう三裂星雲の中だ。
銀河連合がワープ装置を設置したんだ。
100光年離れているのにどうやって移動してワープ港を作ってるのかと思ったら、エネルギー消費が馬鹿でっかい次元折りたたみワープというのが有るらしい。これはワープ港無しでワープできるそうな。
プレイヤーがワープ港を使ってやってるワープは、ワームホールを使ったもの。こっちはそんなにエネルギーがいらない。
にしてもさすが星雲の中。周囲の光景は、地球から視える宇宙空間とはまるで違う。
恒星が出来る過程で吹き出したり、集められたりしているガスが、赤やオレンジのマーブル模様になり、発光したりしている。
さらに雷みたいな物がそこらかしこで輝いている――龍が駆けるような閃光が幾つも見えた。
比較的熱の少ない場所を飛んでいるけど、フェアリーさんの外は数千度から数万度。酷い場所は100万度を超えるんだとか。
太陽の表面温度が6000度だからとんでもない。
黒体塗料で熱を吸ってるんだけど、瞬く間に機体にエネルギーが溜まってしまう。
エネルギーが溜まりすぎると機体が熱暴走するので、放出しながら飛んでいる。
放出しているエネルギーだけで、ずっとエンジンを動かせる。まあ推進剤は必要だけど。
そして恐ろしいのが、宇宙空間なのに水素とヘリウムの突風が吹いているということだ。このガスも推進剤にできるので、なにも消費しないで飛べる。
風があまりにも強すぎて、飛ぶのが凄く難しい。
ただガスを機体の方向転換に利用できるので、一応翼は着けてきた。単葉機形態。
「アリス、リッカ―――ここ、怖すぎない?」
私が結構近くにある、目を焼くような閃光を放つパルサー(遮光フィルターがあっても眩しい)を見ながらを言うと、リッカが通信で叫んだ。
『スウ助けて!! 飛ばされてコントロールが取れない!!』
言われて見れば、リッカが輝く大赤斑みたいな物に吸い込まれて行ってる。
「ちょ!!」
大慌てでリッカの後ろに回り込んで、腕を伸ばして掴んで飛行。
機体を安定させてあげる。
『た、たすかったあ――死ぬかと思った・・・なんなのここ、本当に宇宙空間!? ――ていうか暴風は、もうボス戦でお腹いっぱい!』
アリスが必死で機体を操作しながら、通信してくる。
『これ、ドライアドのときより酷くないですか!? 嵐の中って言うのも生ぬるい――まるで濁流の中ですよ、これは―――!』
ちなみに命理ちゃんはいない。なんかコハクさんと空さんにどうしても付いてきて欲しいと言われたらしい。
なんでもドミナント・オーガが出た場所にいくんだとか。
確かに命理ちゃんが居ないと、アレには勝てない。
❝これでも飛びやすい地域って、マジカヨ❞
❝やばいとこに行くと、数千万キロの風が吹いてるらしい。俺のクラメンが泣きながら帰ってきた❞
❝数千万キロとか、それは飛ぶとかそれ以前の話なんよ。シールドすら秒殺だろ❞
❝俺、絶対45層には近づかない!❞
❝こんなん、一般プレイヤーが行っていい場所じゃねぇよ!!❞
❝スウかマイルズかユーが居なかったら、こんな場所飛べるか!❞
❝それか大型戦艦で無理やり飛ぶか・・・・だな❞
❝でもこの45層はさ、凄い印石を持つヤツが居るって噂なんだよな❞
❝え、まじで・・・・❞
❝ヒドラって言うらしい。めちゃくちゃレアなMoBらしいけど❞
❝ヒドラかあ――ヒドラって言ったら多頭のドラゴンだよな――なあそれって〝アレ〟じゃね?❞
〝アレ〟?
❝スウたん! 前、前!❞
「え・・・・前?」
コメントに首を傾げながら視線を前に移すと、3つの首を持つドラゴンのような緑色の生き物らしき物がこちらに近づいてきていた。
ただ、首の先っぽに頭がない。代わりに大量の牙が生えた口があった。
ていうかミミズみたいな首をしてる。
なんだろう。よくゲームにでてくる、でっかいワームとかあんな感じ。
要約すると、凄く気持ち悪い。
「ひぃっ!」
で、3首のドラゴンの頭上に表示される『レアモンスター ヒドラ』の文字。やっぱりコメントが言う通り、レアモンスターなんだ?
ヒドラが三本の首の真ん中をのけぞらせたのち、突き出すように前にだすと、牙だらけの口から、レーザーのような物を吐いてくる。
でも、レーザーにしては速度が遅い。
いや、あれはレーザーじゃない――水みたいな何かだ。
それだと、黒体塗料が吸収してくれない。
――水レーザーは、リッカの方へ向かった。
リッカの機体は回避型の機体だ、シールドはあまり厚くない。
「リッカ、避けて!」
流石のリッカ、反応がいい。私の声より早く、回避行動に入っていた。
――だけど星雲の中に起こるの風のせいで機体バランスを崩し、水みたいな何かがリッカの機体の右腕を襲った。
ダーリン・インフィニティの右腕が、吹き飛ぶ。
『ミスった! ――もう暴風の中での戦闘は、コリゴリなのに!』
衝撃で、ダーリン・インフィニティが回転しながら吹き飛ばされる。
というか、重力があって安定しやすかった惑星内での暴風より、重力がなくて安定しにくい宇宙空間の暴風はむしろ厄介。
ただガスが濃いので、飛行機の舵が使えるのは有り難い。
ヒドラがリッカに追撃をかけようと、仰け反る。
「出てきて、リンクス、イダス!!」
私はフェアリーさんの中から、シールドドローンを呼び出す。
『母さまどうした』
『よんだでありますか? 母上!』
「イダス、リッカを護って。リンクスはアリスを護って!」
『任せろ、母さま』
『承知であります、母上』
二人は、リッカとアリス飛んでいく。――かなり飛びにくそうにしてるけど、私が接続してアリスとリッカの近くまで飛ばせてあげると、アリスとリッカの護衛に入ってくれた。
私は、リンクスがリッカに向かっていた水のような物を弾き飛ばす光景を見て安堵する。
にしても、なんだかリッカの機体の様子が可怪しい。
動きが随分鈍い。弾き飛ばされて回転してるんだけど、それも収められてない。
「リッカ、どうしたの――早く姿勢を戻さないと・・・・!」
『*ソ、ソレガ ナンダカ キタイ ノ ヨウス ガ*』
リッカとの通信が変だ、ノイズだらけになってる。
『*ドウシヨウ スウ、ウマク ウゴカナイ!*』
き、機体の様子がおかしい!?
通信も滅茶苦茶だ。
私はそこで思い出す、ヒドラの伝説を――毒!?
ヒドラといえば、ヘラクレスをも殺してしまった毒だ!
不味い、この嵐の中で機体の操作が出来なかったら死んでしまう!
「アリス、リッカと合体出来ない!?」
『あっ――そ、そうですね! リッカ合体出来ますか!?』
『*ヤッテミル・・・!*』
私は念のため、リッカの方へ飛ぶ。
「出てきて、ポルックス、カストール!」
私は更に、ドリルドローンを呼んだ。
すると、イダスが少し不満を洩らした。
『母さま、俺達だけで――!』
「イダス、今はそんな場合じゃない!」
2人のドリルドローンが、ゲートから飛び出してくる。
『マザーどうした!?』
『ママ、どうしたの?』
「リッカとアリスを護って!」
『わかった!』
『りょうかい!』
リッカのダーリン・インフィニティが分離して合体パーツになる。
だけど、上手くアリスにくっつけないみたいだ。
やっぱり駄目なんだ!?
『*ダメ、ウゴカナ――スウ、タスケ――*』
私は、すぐさま近づいてリッカのコックピットがあるパーツを掴む。
『*――ア、アリガトウ!*』
兎に角リッカのコックピット部分だけでも、アリスにくっつけないと。
「アリス、手動で合体いける!?」
『行けます! ドッキングコネクタを出しますんで、はめ込んで下さい!』
「わかった! ――合体してショーグンまで調子悪くなったら迷わずワープして逃げてね!」
『りょ、了解です!』
背中に飛び出した電車の連結器みたいな部分に、リッカのコックピットがある部分をはめ込む。
そうしていると、ヒドラから飛んでくる水――いや、毒。
毒レーザーは絶え間なく連射される。
さらには弾幕まで飛んできた。
毒レーザーはイダスが、弾幕はリンクスが、受け止めてくれた。
だけどシールドドローンは、バーサスフレームのバリア程の耐久力はない。
彼らの耐久力は、ちょっと硬めのバーサスフレームのシールドくらい。
本来シールドはバリアと違って、弾を受け止めるものではない。誤って被弾したときのための保険のような物。
そんな物で攻撃を受け止めている2人が攻撃を受け止め続けるのは、かなりきつい筈。
『母さま、急いで――保たない!』
『母上、きついです・・・』
イダスとリンクスが、辛そうな声を出す。
二人には黒体がないから、熱を吸収してシールドを回復したり出来ない。
私はステータスを上げた時に買っておいた、バーサスフレーム用のパーツを呼び出す。
「アルハナ出てきて!」
時空倉庫から出てくる、1つのピンク色のドローン。
『お母様、わたくしをお呼びでしょうか?』
「アルハナ、リンクスとイダスのシールドを回復してあげて!」
『おまかせください』
アルハナが、リンクスとイダスのシールドを回復しだす。
アルハナはシールドやバリアを回復してくれる、ヒーリングドローン。
瞬間回復量はヒーラーのバーサスフレームほどではないけれど、それでもシールドの持続力を延ばしてくれる。
アリスが苦笑いする。
『スウさん・・・・いつの間にヒーリングドローンなんて用意してたんですか。というか、私も買った方が良いかも知れませんね――私にもバーサスフレーム用の〈時空倉庫・大〉があるんですから』
『*コノ ジュンビ ノ ヨサ サ、サスウ*』
リッカが、また変なことを言っている。
シールドドローンと、ヒーリングドローンが耐えてくれている間に、私とアリスとドリルドローンでリッカのパーツを集めてショーグン・ゼロにはめ込んだ。
ドリルドローンはパーツが吹き飛ばされない様にしてるだけだけど。
ただし、リッカの破壊された腕のあるパーツだけは別。なんか侵食されてるみたいで、パーツ全体の色が緑色になってた。あれは捨てた方が良さそうなので無視。暴風に飛ばされ、宇宙の彼方に消え去った。
合体を終えると、アリスのナイト・アリスがバリアを張って前に出た。
『合体してもショーグンが変になったりはしていませんね。よし、じゃあ――イダスくん、リンクスくん、交代です! アルハナさん、私のバリアの回復を!』
『かしこまりましたわ』
『アリスさんの補助に回る!』
『回るであります!』
アルハナがアリスの背後に周り、イダスとリンクスはムシャ・リッカの周りを回り始めた。
『*ヨクモ ヤッテ クレタナ!*』
リッカがダーリンのパーツについているバルカンで、ヒドラを攻撃し始めた。
アリスは遠距離攻撃が苦手なので、バリアで毒を受け止めている。
私はフェアリーさんで、弾幕を螺旋に躱しながらヒドラに突っ込む。
ヒドラも、伝説通りなら不死身だ。
❝この暴風の中で、よくもあんな弾幕を躱せる――❞
❝スウなら、ドライアド戦で慣れたもんでしょ❞
「正直この戦場は、ドライアド戦より厳しいです」
❝まじかよ・・・❞
❝・・・・45層だもんな❞
❝やっぱ40台の中層ともなれば、キツくなってくるのかな・・・❞
私は〈臨界・黒体放射バルカン〉を放って、ヒドラの首を切り落とした。
すると伝説とおなじく、首が増えて再生する。4本になった。
ヤバイなあ、これ。
伝説では、ヒドラの首の切った部分を焼いたら復活しなくなるんだっけか。
でも〈臨界・黒体放射バルカン〉で焼いたくらいじゃ駄目っぽい。
実は、フェアリーさんの武装で、ドライアド戦でも使ってないものが1つある。
それは〈超臨界・黒体放射〉だ。
〈超臨界・黒体放射〉は名前の通り、凄い〈臨界黒体放射〉。
その代わり、一発撃つと20秒間エンジンが止まってしまう。
危なすぎて、ドライアド戦では使わなかったんだけど。
私は、ヒドラの首を〈超臨界・黒体放射〉で吹き飛ばしながら、念入りに焼く。
よし、首が再生しない。
毒レーザーが減った。
ここから、20秒間〖念動力〗や〖超怪力〗などで少しづつ機体をコントロールして躱さないといけない。
あとは動翼はまだ動くから、宇宙空間を満たしているガスを利用して方向転換したり、わざと嵐に身を任せて飛ばされなから、弾幕を躱す。
ヒドラの弾幕は〈狂気タロース〉のクラスで、避けるのが初見だと結構きつい。
「くっ、っう――つぅ!!」
私がかなりギリギリで躱していると、私の前にアリスが立ちふさがってくれた。
ナイト・アリスのバリアがフェアリーテイルの前に輝く。
『スウさん、守ります!』
「アリス、ありがとう!!」




