155 〈発狂〉デスロードをあっさりクリアします
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私はハイレーンの宇宙ステーションにある、VRトレーニングルームでVRを外しながらため息を吐いた。
理由は、
「簡単に〈発狂〉デスロードをクリア出来るようになっちゃった」
フェアリーテイルで〈発狂〉デスロードに挑んだところ、あっさりクリアできるようになったんだ。
あっさりは言い過ぎだけれど、50回に1回はクリアできちゃう。
んで手に入った印石が〈黄金律〉だった。
「イルさん、〈黄金律〉の印石ってどんな効果?」
司書姿のイルさんが出てきて、本を読む。
『〈奇跡〉や〈幸運〉の下位互換です。印石の出現率を上げる中では最低ランクの印石で非常に弱い効果です。ですが〈奇跡〉や〈幸運〉とは重複しません』
「じゃあ、誰かにあげようかな――〖サイコメトリー〗」
あれ?
「紐がない」
普通の印石と違って、私と繋がっている紐がない・・・。
運営がくれる印石って、やっぱ普通の印石と違うんだ?
「イルさん。この印石って、他人に譲渡できるの?」
イルさんが本を見ながら答えてくれる。
『できません、マイマスター』
・・・・じゃあ、この印石は私にしか使えないのか。残念。
そこでポンと手を打つ。
「フェアリーさんを複座にして、〈発狂〉デスロをみんなと一緒にクリアすれば良いんじゃん。ねえイルさん、二人でクリアしたらなにか貰える?」
『今は、〈黄金律〉が貰えます』
「よし、みんなに訊いてみよう!」
クレイジーギークスの面々に、チャットツールで「印石の出現率があがるスキル〖黄金律〗が取れるんだけど、欲しい?」と訊くと
全員から「「「ほしい!!!」」」と返ってきた。
星ノ空:スウみたいに印石出たら、どんだけありがたいかと何度思ったことか!
スウ:いえまあ、黄金律はそんなに確率上がるものでもないみたいないんだけど。
星ノ空:それでも欲しい!
リあン:何を隠そう、ウチはスキルを一つも持っていない! 最初に〈黄金律〉貰えると助かる。
コハク:私は〖サイコメトリーβ〗と、〖スコープ〗持ってるなあ。
星ノ空:あたしはこの間出た〖繁殖力強化〗と、スウに貰った〖強靭な胃袋〗&〖暗視〗だけ。
マッドオックス:俺は〖怪力〗と、〖遠見〗。スウから貰った〖暗視〗、〖強靭な胃袋〗だな。
リッカ:〖水作成〗、〖マッピング〗、〖超聴覚〗、〖強靭な胃袋〗、〖暗視〗。〖水作成〗以外、全部スウに貰った。
アリス:わたしは〖重力操作〗、〖真空耐性〗、〖透視〗、〖飛行〗、〖マッピング〗、〖超聴覚〗、〖強靭な胃袋〗、〖暗視〗ですね。――普通スキルって一個持ってたら良いほうなのに、9個も持ってます
リあン:アリス、なにその数・・・。
アリス:・・・スウさんがいっぱいくれるから、こんな事に。
さくら:僕は〖毒〗と〖毒無効〗ですね。
スウ:じゃあ、みなさんで〈黄金律〉取りに行きますか?
全員から「「「是非も無し」」」という答えが返ってきた。
というわけで、みんなを順番にフェアリーテイルに乗せて〈発狂〉デスロをクリアすることになった。
その時の様子はこんな感じ。
メープルちゃんとオックスさんは射撃が上手いから、手伝ってもらったら普通に楽だった。
リッカも結構射撃が上手くて、楽だった。
さくらくんは〈ドリルドローン〉を任せるとかなり助かった。
コハクさん、リあンさん、星ノ空さんはまあ普通。
大変だったのがアリス――詳しい話は、彼女の名誉のために止めておこう・・・。
で、一番楽だったのは・・・・・・・・命理ちゃん。
あの子、一人で外に出てボス倒してくるんだもん・・・。
みんな〈黄金律〉を手に入れたことで、ウチのクランでは印石狩りが流行した。
今日も大量のMoB――風スライムという体が気体で、宇宙でしか生存できないモンスターが大量発生しているという場所をストラトス協会で聞いて、クレイジーギークスで殲滅することにした。
この風スライムが、またひどく脆くて弱い。攻撃力も弱くて多分最弱のMoBなんじゃないだろうかという感想。
瞬く間に全部倒し終わり、みんなでドロップしたものを確認する。
さくらくん、アリス、オックスさんと、銀河のように輝く石を持ち上げる。
『出ました、〖空気砲〗です』
『こっちは〖怪力〗です』
『お、〖ショートスリーパー〗とか言うのが出たな。結構良いぞこれ』
私も出たものを言う。
「私は、〖空気砲〗と〖怪力〗と〖ショートスリーパー〗が出ました」
あとなんか〈風スライムのコア〉とかいうアイテムも出てる。
『スウさん・・・』
『涼姫・・・』
『おいスウ・・・』
みんなの苦労を破壊していく私の印石のドロップ率に、周りがドン引いた。
「誠に申し訳ございません」
この狩り、私が参加しちゃうとみんなの邪魔になるから、いつもは補助(メープルちゃんのシプロフロートⅡを借りて回復)を行うだけで、狩りに参加しないようにしてたんだけど。
「たまにはスウも参加しないと駄目」ってリッカが言うから参加したんだ。
それでちょっと参加したら、この有様だった。
〖奇跡〗はやっぱりヤバイ。
でも今日は、みんなもいっぱい出た。
6時間狩りをして、一人印石が出る日があれば良いほうなのに、3人も出てる。
普通は何ヶ月も狩りをしても1個も出ないんだし、イルさんは出現率アップ効果が最弱だっていうけど。〖黄金律〗も凄い方なんだと思う。
多分一桁か二桁は、出現率がアップしてる。
〖奇跡〗は六桁くらいアップしてそうだけど。
するとリあンさんが叫んだ。
『なんでだよ、なんでみんな出てるんだよ! ウチだけ0だぞ!? 未だに1個もスキル無いの、私だけだぞ!!』
『キイイイ』とヒステリックな声が聞こえてくる。怖い怖い。
リあンさんの顔を映す、巨大なウィンドウが私の目の前に開いた。
何事?!
『スウ、あとで校舎裏! ウチの部屋に来ること!』
すると、コハクさんと空さんが騒ぎ出した。
『誰か、リあンを止めてください!』『アイツ、スウに襲い掛かるつもりだ!』
『この間、やっと楓ちゃんと引き離せたばかりなのに!』
え、襲いかかるって何!? またビンタとかされそうになるの!?
「わかりましたリあンさん! 今日出た印石は全部あげますから許して下さい!」
私は荒ぶるリあンさんに恐怖のあまり、すべて納めることにした。
すると荒ぶるリあンさんが、急にお鎮まりになられた。
『いや、そんな悪いってぇ』
穏やかな声が聞こえてくる。
だけど空さんがドスの聞いた声を出す。ドスきいてても可愛いけど。
『カツアゲしてんじゃねえよ、メガネ』
『あぁん? こちとらまだ1個も手に入れてねーんだよ、泣くぞ? 良いのか? お前が寝ようとしたら、横でずっと啜り泣くぞ?』
『最悪だ、止めろ!』
「だ、大丈夫ですよ。私はちょっと狩りをしたら出ますから」
私が困ったように言うと、命理ちゃんの声がしたのだった。
この狩りの間、ほとんど喋らなかった彼女が口を開いたことで、全員がすこしザワついた。
『というか、ずっと思っていたのだけれど――』
『命理さんが・・・・喋りました』
『久しぶり命理、生きてて良かった』
アリスとリッカが若干失礼な事を言う。そして、次の言葉を待つ沈黙が流れた。
『――スウに全部狩らせて、出た印石をみんなに配ればいいのよ』
『『『「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」』』』
声がハモる。
『『『「そっかあ』』』」
ただ、できればもっと早めに提案してほしかったなあ。
こうして結局全部、私が狩る事になった。
全員に〖空気砲〗と〖怪力〗と〖ショートスリーパー〗が行き渡りました、私を含め。
リあンさんの機体が諸行無常な表情で、虚空を視る。
『〖黄金律〗の意味』
コハクさんがバーサスフレームで、リあンさんの機体の肩を叩いた。
『世の中そんなモン』
『まあ、個人で狩りする時は役に立つし』そう続ける。
だけどリあンさんは首を振る。『ウチ、印石に見放されてる気がするんよなあ・・・』
リあンさんのバーサスフレームは、諸行無常な顔だった。
リあンさんには、優先的に余った印石を回そうかな。
そんな事を思って「〈繁殖力強化〉要ります?」と尋ねると、猛然と拒否られた。
『繁殖力強化されたら困る!』って修羅ってた。
超、怖かった。
「私も今は恥ずかしいけど、でもパートナーが出来たら欲しくなるとは思うので・・・、迷惑だったらすみません」
と言うと。
『はあ、スウちゃんはまだ純粋ねえ。まるで童貞』
『いや、流石に処女と言って下さい――あ、そうだ。今度研究所に探索に行くんですが、一緒に来ますか?』
『行く!』
こんな感じで、リあンさんと研究所に一緒に行くことになりました。




