154 生産職「農業」をします
◆◇Sight:鈴咲 涼姫◇◆
とある日、私は湿地の一部を買って畑に変えていた。
「あ、リバードマンさんたち。ここ畑に変えていいですか?」
「リッカの友ならば許そう!」
なんてやり取りもあった。
農業開始だ。といっても耕したりするのは私じゃない。
超科学の超機械、超耕戦士コンバインW。
コンバインって名前なのに、トラクターだってこなせちゃう。
この人型農耕ロボを「Let'sコンバイン」と起動すれば、後は全てオートメーション。
シロウトで知識もない私でも、畑づくり余裕。
ただシロウトでもなんとなく、元・湿地だから保水力が高そうで「水はけの悪さとか大丈夫だろうか?」なんて心配したけど、コンバインWの戦力の前には赤子の手をひねるような容易い問題だった。
しかもコンバインWはいい面は活かしてくれる。
湿地なのだから、元は水が循環していた場所。土には、山から運ばれてきた栄養がたんまりと染み込んでいる。
なんてったって耕した次の日には、雑草だらけになっていた位なんだ。私はアレを見た時驚きのあまり、目を丸くしたよ。
そんな話をみんなにしたら、農業に詳しいらしいさくらくん曰く、地球でも夏ならこんな感じになるらしい。
さくらくんはFLの農業に興味を持ったらしく。私の畑予定地にやってきて、土を持ち上げて「見事な黒土ですよ!」と驚いていた。
訊けば黒土は、〝土の皇帝〟とよばれる凄い土らしい。
地球なら、この土がある場所は世界の食料を支えているんだとか。
ちなみに彼は〖毒無効〗持ちなので、思考加速の植物の事を教えてあげた。
すると〖毒無効〗の手に入れられる場所を教えて貰えたんで、取りに行った。
サンドワームという、砂漠惑星に居るMoBが持っていた。でっかい芋虫みたいなのが地中から飛び出してきて、ビックリした。
ちなみにサンドワームは〈毒〉の印石も出すらしいんだけど、出なかった。かなりのレアなのかな?
印石のお礼に、私がさくらくんに「植物が育ったらおすそわけするね」って言ったら「FLの農業に興味があるから自分も畑を作ってみる」って返事が返ってきた。
「さくらくん、この場所ってもしかして当たり?」
「当たりも当たり、大当たりですよ! 水源も近くにありますし、農業をするのにこれ以上の環境はありません! 湿地を選んだのが良かったですね!!」
その後、私とさくらくんで周囲を調べると、湿地の湖底だけではなく湿地の南側にも黒土が大量に広がっている事に気づいた。
さくらくんはその辺りの土地を買って、農業をしてみるらしい。
私は(黒土ラッキー)と思いながら畑を作る。
――といっても、全部コンバインWがやってくれるので、私はやることもない。
アニメをスマホで見ながら「湿地を揺るがすコンバイン」と歌ったり、湿地のロッジの2階からオックスさんが釣りをして、クロコダイルを釣り上げたのに眼を丸くしたり。
その日はクロコダイルが食卓に上がったり。
ちなみに味は、硬い鶏肉だった。
(きっと図鑑のティラノサウルスに羽毛が生えたのは、この味のせいだな)とか思ったり。
そんな自堕落LIFEを楽しんでいると、三日目には見事な畑が出来上がっていた。
ほんと、地球の農家さんに怒られそうな程のお手軽さだった。
あとはコンバインWのドローンが管理してくれるらしい。
AIによるスマート農業を推進している、農林水産省もビックリなオートメーション農業だ。
植えたものは勿論、思考加速のステータスアップをしてくれる植物。
あと、前にマイルズと行った惑星で採った芋。
で、ロッジで寝て起きたら――次の日、大変なことになった。
コンバインWが収穫した芋が、山積みになっていたのだ。
「な、何事!?」
驚く私に、コンバインWが教えてくれる。
ちなみにコンバインWは、AI搭載で受け答えしてくれる。
『この植物――通称デカ芋。学名デカクローサムは巨大で大量な葉により、光を非常に効率よく取り込み、土壌の栄養素と混合。瞬く間に多くの芋を付けます。害虫にも強く、また小型のトマトのような実も着けて、こちらも旨味成分を多く含みます。デカ芋は現・旧人類の食卓によく登ります。実はソースの原材料などとして活躍します』
そういえば昔、地球でもトマトとじゃがいものキメラ――ポマトっていうのが作られてたなあ。遺伝子的に近いらしいんだよね、トマトとじゃがいも。
にしても――私は収穫物を見上げて、呆れる。
「一夜で100倍くらいに増えてるじゃん。こんなの地球の食糧問題とか一発で解決しそうなんだけど・・・・――あ、でも土壌の栄養使い切っちゃわないかな?」
『栄養素を使い切る危険性は非常に高いです。――が、この惑星のハベスという植物は土壌の回復作用を持つ植物で、デカクローサムとハベスを交互に植えることで土壌が回復します。ハベスは、茶の原料として銀河市民に親しまれています』
「何というご都合みたいな植物。そのハベスという植物はどこに有るの?」
凄そうな植物だし・・・・どこかの研究所に取りに行かないといけないとかかな。
『マスターの足元の草が、ハベスです』
「まjd」
私に踏まれてぺしゃんこになった植物は、ミニ紅葉みたいな葉っぱの草だった。
「このデカ芋とミニ紅葉、凄いけど・・・・配信でどうすべきか視聴者に相談してみようかな」
というわけで配信開始。
「どうしたら良いと思います?」
❝巨大な農場で育てて、輸出したら?❞
「やっぱり、それが一番ですよね。地球で育ててもらうのも良いと思うんですが」
❝そんなヤベー芋、地球で育てたら侵略的外来種まっしぐらだと思う❞
「ところがこのお芋、土壌の栄養使い尽くしすぎて自然ではなかなか広がらないらしいんですよ。管理してあげないと、すぐに繁殖が抑制されるらしいです」
❝じゃあ地球で育てるのも有りなのかなあ❞
なんて配信をした次の日。
スマホに連絡が入っていた。
食料に困ってるらしい国の大統領さんで『スウ殿。是非デカクローサムの栽培実験を我が国で行わせて貰いたく――』といった内容だった。
私が作った植物でもないし、国の大統領さんが言うなら断る理由もなし。
で、飛行機に乗ってその国まで運ぶ事になるんだけど、その時また大変なトラブルに巻き込まれる。
どんなトラブルかなんとなく予想がつくとは思うけど、それはまたその頃に。
で、その国では「デカクローサムとハベスの発見者」という称号になっていて歓待された。
通された部屋もすごい豪華に飾られて、目が眩しいくらいだった。
さらに、地球では学名を「スズサキクローサム」と「スズベス」に変えようと言うんだけど、本名バレるの困るし、本当の発見者に悪いし。デカクローサムとハベスのままでお願いした。
で、「黒土も輸出して欲しい」と言われたけど、こちらは頑張ってみますと返事だけしておいた。
さすがに広大な土地を買い取らないと駄目だし、そのための資金がない。
黒土で儲けたお金を、銀河クレジットに変換できないと話にならないよねぇ。
そんな風に思っていた数日後、私はテレビに出ていた。
『来ました! あの方がハイレーン側から友好大使として指名を受けたスウさんです!』
そうです。友好大使のお仕事がついに来ちゃったのです。
今って、友好大使になって1ヶ月と半くらいかなあ。
頭の中は終始、
(早く終われ早く終われ早く終われ早く終われ早く終われ)
この始末だった。
緊張と不安で、他のことが考えられない。
ちなみに配信もしている。
まず、ファンタジーの司祭か女神みたいな姿のクナウティアさんが熊狩総理と握手。
――ん? あの格好・・・・どこかで?
「クナウティア銀河連合代表、ようこそ日本へ!」
周りが真っ白になるほどフラッシュが焚かれる。眩しい。
次に、私が熊狩総理大臣と握手。
うわ。フラッシュで、視界が光に覆われる。有名人たちはこんな眩しい中で、よく色々見失わないな。私は今正に、自分を見失いかけているのに。
「スウさん、よくやってくれました!」
手をすんごい強く握られ、大きく上下にシェイクされた。手が手首からすっぽり取れそう。
熊狩総理は、はちきれんばかりの笑顔を私に向けている。
喜びのオーラがダダ漏れ。眼力すごいです。なんだろう、笑顔の金剛力士って感じの人だなって印象を受けた。
クナウティアさんが、集まった記者の人に宣言する。
『我々はこれを機に、日本とハイレーンの国交を結びたいと思っております。すでに様々な交渉は行われておりますので、今回の3日間で最終調整を行い、国交樹立調印を行いたいと思います』
というか、クナウティアさんの姿、どこかで・・・どこかで・・・。
――あっ、イントロフレームの伝道師アンドロイドです、エワンさんの機体フェイテルワンダーに似てるんだ!
うーん、フェイテルワンダーだってクナウティアさんをモデルにしてるのかな?
熊狩総理が言葉を発する。
「これより会議に入ります」
にしても・・・。
(フェイテルリンクって、絶対ゲームじゃないじゃん!)
ゲームと国交って、どういうことだよ!
心のなかで叫んだ。
まあ、そういうフィクションもあったけども。
もちろん本当には叫べませんけど。
私はその後、なんか記者会見に引っ立てられた。
ただし私が拒否しまくったせいで、すこし普通とは違う感じの会見になった。
だって一般的な、質問される側が大勢の記者の前に座らされてみたいな形って謝罪会見のイメージ強すぎて、嫌なんだもん。
それとなく伝えたら、ヒーローインタビューみたいな感じにされた。
ほら、青と白の背景にスポンサーの文字がいっぱい並んでるようなあんなの。
今回は日本政府とか神奈川県とか、そんな文字が並んでたけど。
マイクは向けられてないけど、沢山の記者が私の前に並んで質問してくる。
「スウさん。今回、日本を――いえ、世界を歴史的瞬間に導いた人物としての感想をお願いできますか」
「えっと、こんな小市民が世の中のお役に立てて光栄です」
「それは日本人代表としてやり遂げたということでしょうか!」
え、全然ちがうけど。
でも、イエスマンの私は否定しない。
「じゃあ、それで」
今回は、フーリが私のマネージャーとして仕切ってくれてる。
「では次の記者の方」
「スウさん。これから日本や世界は、どう変わると思われますか?」
そんな事訊かれても・・・・一介の女子高生に、分かるわけ無いじゃん。
「えっと、ハイレーンと地球の皆さんで色々変わると思います」
「つまりそれは、我々の努力次第で素敵な未来になるよという事でしょうか!」
まあ、そんな感じかも。
「じゃあ、それで」
「では次の記者の方」
「これから大使として、どのような活躍をなさるつもりですか?」
むしろ私が聞きたい。大使ってなにしたら良いの?
「えっと、例えばどんな活躍をしたら良いんでしょうか」
「それは、どんな活躍でもして見せるという意思表明ですね!」
「それは違います」
これは、はっきりさせておいた。
こんな風に和気あいあいと会見は進んだ。なんのハプニングもなくて、良かった。
このあとクナウティアさんは総理と、私の生まれ故郷神奈川の鎌倉市に見学に向かうらしい。
私の同行は何とか拒否した。フーリに「この友好大使、機能してなくないかしら」と心配されたけど、私の対人能力はすでに限界を突破していたんだもん。
短いですが、今日はもう一話あります。




