153 落ち着く(?)家が手に入ります
◆◇Sight:鈴咲 涼姫◇◆
「クエスト報酬の2万クレジットと、4500勲功ポイントです」
41層、元・星団帝国の首都があった惑星ユニレウスに作られた基地兼町カリーン。
私達は、どんどん発展していく町のストラトス協会で受けたクエストをクリアして報告に来た。
私達と言っても、私、リッカ、オックスさんという珍しいメンバーで。
ちなみに、リッカは一昨日の試合で左腕の二の腕の筋断裂という大怪我を負ったので、私が〖再生〗で治療した。
選手生命に関わる大怪我だったらしい。私は超慌てて治した。
リッカの高校の剣道部の顧問の先生は、驚愕して何度も私にお礼を言って来た。
リッカは「さすがスウ、便利」と言ったので、ほっぺたを摘んでこねておいた。本当は滅茶苦茶痛いし不安だったくせに――軽口を叩くとか、あのチビっ子は、まったく。
「3日掛かってこの報酬って、本当に普通のクエストの報酬は安いんだね」
「当たり前だろう。しかも今回のクエストはクリアに1週間くらい掛かるクエストだぞ、3日でクリアしたという事は凄まじく破格なんだ」
「というか、1週間掛かっても割が良い方」
私はざっと計算する。
「あー確かに、3日で20万円プラス勲功ポイント稼いでるって、日本の感覚で考えたら異常ですね。クリアに1週間掛かっても1日28000円も稼いでる計算だし」
「1週間かかっても、その調子で1年稼げば年収1千万だ。さらに税金がないんだぞプレイヤーには」
私は、ずっと年上のオックスさん相手なので敬語で返す。
「しかも今は夏休みですが、学校行きながらクリアできそうな勢いでしたよね――本当に割が良いなあ――みんなが私の稼ぐクレジットとか、勲功ポイントに驚いていた意味がわかりました」
するとリッカとオックスさんの声がハモった。
「「やっと理解したか」」
呆れたように溜息を吐いたオックスさんが、ウィンドウを開いて確認する。
「しかし割は良いが、それでも目標に届かせるのはなかなか大変だったな」
「でも目標にはとどいた」
さすがリッカ、オックスさんにも敬語を使わず我道を征く。
「だね」
言った私は知らない人とぶつかりかけて、急いで衝突を回避した。
するとオックスさんが、呆れた。
「避け方が、まるで弾丸を躱す時のフェアリーテイルだったぞ」
リッカが何度も頷く。
「よい、入身だった」
え・・・・私、そんな変わった避け方したの?
ぶつかりかけたプレイヤーもちょっと苦笑いをしていたので、慌てて頭を下げておいた。
にしてもぶつかりかけるのは仕方ないと思うんだ。
私は周囲を見回して、機械と中世ヨーロッパの町並みが融合したような街中を視る。
「人が多い」
中世ヨーロッパの町並みに有りそうな建物から、パイプが〝わらわら〟生えていたり、巨大な歯車がもっさり突き出ていたりする風景を、沢山のプレイヤー達が行き来している。
「家も多いし」
さらに地平の方にはプレイヤーたちの家が、思い思いのデザインで建てられている。
「仕方ないだろう、この惑星は今大人気だからな」
「そうなんですけども、人酔いしてしまいそうです」
オックスさんの言う通り、この惑星は今、プレイヤーたちに大人気なんだ。
この惑星ユニレウスは、連合主惑星並に人間が住みやすい環境であるにも限らず、連合領域ではないので、居住が自由。
もちろん連合の管理下にある惑星なので、流石に登録無しで住めるほどじゃないけれど、土地取得にほとんど条件がない。クレジットさえ払えば幾らでも土地が買える。
銀河連合が土地の登録は管理しているものの、居住申請の容易さは銀河連合領域に比べれば雲泥の差だ。
MoBには気をつけないといけないけれど、それ以外はただの快適な惑星。
立ち入り禁止区域もないので、この惑星を拠点に活動しようという集団や個人も居るほど。
そのせいで、街の周りの土地なんかは争奪戦が起きている。
連合も星団帝国が突破できなかった50層に近く、なにより嘗ての星団帝国の首都がある惑星という事で、この惑星の開発に積極的で様々なクエストを出したりしているので、連合側からも、今この惑星は熱い。
私達にとってもこの惑星は活動拠点に丁度いいので、ここに第2の拠点を持とうという話になった。
ただ今回はクランハウスじゃなくて、仲の良い者同士という話。
私は当然、友達であるアリスと同居。
アリスだけは私を追い出さないって思ってる・・・。だから、信じられる。一緒に住めるかもしれない。
・・・・だから。
ただアリスとだけ一緒――という事にはならなかった。
リッカが「自分も一緒に住む」と主張しまくって、命理ちゃんも「当機もスウたちと一緒がいいの」と言ったので、私、アリス、リッカ、命理ちゃんの家にする事になった。
リイムは自動で私とセット。
私もリッカと命理ちゃんなら信じられる。
ちなみにリッカの妹のメープルちゃんは、最近仲いいリあンさんと住むらしい。
でもリッカ、あんなに私達と住みたいって言うなんて、もしかして私が好き? 好き? ――違うか、アリスと親友だもんなリッカは――そっちか。
でも「リッカにも友だちになって下さい」って言ってみようかな。
いや、私的にはリッカは友達だと思ってる。
じゃああとは、リッカが私を友達だと思っててくれたら友達になれるんだよね? ・・・――聞く?「私達、友達?」って。
でも・・・・もし・・・それで、中学時代みたいに「は(笑)」とか返ってきたら。
私は、胸を抑えて痙攣した。
(まって・・・・これまだ「友達になって下さい」の告白の方が、難易度低くね!?)
私がいつの間にか上がっていたハードルを見上げていると、私達の目的地〝連合土地管理局〟の前で頭を抱えているプレイヤーがいた。
私は、痙攣を抑えながら彼らをなんとなく眺めていた。
サングラスを掛けた男性プレイヤーが、ウィンドウを見ながら叫んでいる。
「やべーよ、もう町の周り殆ど埋まっちまってるよ!」
サングラスのプレイヤーの相棒らしい男性も、叫んだ。
「マジじゃん、いそいでクレジット貯めないと!」
ふっふっふ貧乏人は大変だなあ。こちとら高給取りでね。
私もウィンドウを開いてみる。
「ん?」
え、なにこれ。町の周りが、プレイヤーの土地を示す青で埋め尽くされているんだけど。
スクロールすれどすれど、青青青。
「え、土地もう空いてなくね?」
リッカもウィンドウを開く。
「空いてないね。みんなお金持ちだなあ」
私は拡大してスクロールしまくる。
「ない、マジで空いてないよ。このままじゃ不便な郊外になるよ」
オックスさんは元々郊外狙いなので、落ち着き払っている。
彼は、バイクを乗り回せればどこでも良いんだとか。
この前も、いかついオフロードバイク(未来仕様)を乗り回して、あちこちに冒険に行ってた。
リッカが指と目を、早送りのように俊敏に動かしていたと思ったらピタリと止まった。
「――いやまてスウ、あいてる」
「ほ、ほんと!? リッカ!!」
「湿地のど真ん中が」
「いや、人の住む場所じゃないよ・・・・そこ」
だが私達は、そんな湿地のど真ん中に家を作ることとなった。
ゲロゲロゲロゲロゲロゲロゲロゲロ
湿地の中、そんな場所に住むプレイヤーが居るわけもなく。
ゲロゲロゲロゲロゲロゲロゲロゲロ
買い手は私達だけな寡占の状態で、閑静な住宅。
ゲロゲロゲロゲロゲロゲロゲロゲロ
「カエル、うっさいわ!」
「ウルサイですねえ」
全然、閑静じゃない。
アリスが、優雅に緑茶を飲みながら「ほう」と息を吐く。
さすが英国淑女アリス。吐く息にまで気品が見える。
ゲロゲロゲロゲロゲロゲロゲロゲロ
にしても落ち着いて漫画とか読みたいのに、カエルが滅茶苦茶ウルサイ。
「発情すんな!」
私は、江の島の東で最も騒がしい海岸――夏の由比ヶ浜より発情してウルサイ湿地に文句を言っていた。
芸術とリア充は爆発しろって教えたよね!?
「まあ、そのうち慣れますよ。日本人は虫の声を気にしませんからね、かわずの声も気にならなくなるでしょう」
「なんでアリスは、純製日本人の私よりカエルの鳴き声気になんないの!?」
「侘び寂びですよ」
そういえば虫の声を左脳で処理するのは、遺伝的要因より文化的要因が強いって研究があるんだっけか。遺伝子関係なく、日本で暮せば虫の声が聞こえてくるんだとか。
つまりアリスは金髪碧眼なのに、一重で激日本人体型の私より日本人!?
確かに騒いでいるのは私だけで、見回せば命理ちゃんなんか、窓枠に乗った小さなカエルの鼻をつついて。
「カエル――ふふっ」
とか笑ってる。
みずきに至っては・・・。
「さあ来い!」
「我が、かわず新天流の太刀の錆にしてくれようケロ」
なんか、外の湿地の浅い場所で両生類のアニマノイドさんと剣術の修行にいそしんでいる。
ちなみにこの惑星には1000年前に行方不明になった種族さんたちが、各地にちらほらいるらしくて、ここの爬虫類や両生類の獣人さんたちも1000年ぶりに連合と再会した野良獣人さん達らしい。
まあ――彼らはもうこの星に根付き、この星と共に生きていて、連合とかどうでもよくなってるっぽいけど。
ちなみに見た目は、ワニやらカエルやらトカゲやら居るけど、二足歩行の爬虫類か両生類でヤバイ。完全にリザードマンでヤバイ。ちなみに彼らは自分たちをリバードマンって呼んでた。
みずきとカエル獣人さんの間で、竹刀が激しく交差する。
私は恐々としながら呟く。
「竹刀とはいえ、防具無しでよくあんなに激しく打ち合えるなあ・・・」
「ですよねえ。あれで小手とか当たった日には」
「いったーーーーい! いたいいたいいたい!」
涙目で手首を押さえてぴょんぴょん飛び跳ねる、みずき。
言わんこっちゃない。私はインターハイのデジャヴュをみながら呆れた。
だがそれくらいでへこたれないのが、みずきだ。
「もう一本!」
みずきは気迫を放った。なんか、凄いオーラみたいなのが激しく吹き出した気がした。
怖い、集中線みたいなのが見える。
しかしあのカエル獣人さん、みずきから一本とるなんて凄いな。
猛然と打ち合うみずきとカエル獣人さんを囲んだリバードマンさんたちの男衆が、2人へ熱い歓声を送っている。
「いけーみずき!」
「やっちまえ、トウドウ!」
「覇級・水斬大海嘯!!」
「龍王・天上天下唯我独尊剣!!」
「オラオラオラオラ――」
「ケロケロケロケロ――」
なんかみずきが、スキルと剣術を混ぜたオリジナル技を繰り出した。
さらに迎え撃つカエル獣人さんの竹刀が、光って――
「あそこだけ、世界観が違う」
「完全に、人外の粋に達してますね」
やがて試合が終わり、肩を組んで笑いあう2人。
「いやー、この竹刀ってのはよきものケロ」
「今度地球からいっぱい持ってきてあげるよ」
「それは助かるケロ! こっちでも竹という植物に似たヤツを探してみるケロ」
「じゃあ作り方も教えてあげるよ」
「頼むケロ」
あははは ケロケロ
なんか熱い友情生まれてない? 私より先に。
「『友達になったのか? 私以外のヤツと――』」
「涼姫、それは流石に独占欲やばいんで止めましょうね」
私が口を尖らせていると、口をとがらせる本家――上半身が鷹で、下半身がライオンなリイムがドタドタと走ってきた。
私が足音に気づいて振り向くと、リイムが私の胸に体当たりしてきた。
「ママ。どーん」とでもいいたげに眼をキラキラさせて、翼をバタバタさせている。
リイムは新しいお家が嬉しいのか、カエルの声で興奮しているのか、ずっと楽しそうにロッジの中を走り回っている。
ちょうどさっきまでは、二階に冒険に出かけていたと思ったんだけど、帰ってきたみたい。
ただ、リイム君。君はもうボーダーコリーくらいのサイズになっているからママに全力体当たりされると貧弱なママは、結構なダメージを喰らうから手加減してね。
「お帰りなさい、勇者様」
頬をなでなでしてあげると、椅子に座っている私の膝の上に乗ってきて、腕の間からスポっと顔をだした。
そうして、頭頂を私の顔にこすりつけてくる。この辺りは猫科の本能が出てそう。
アリスがほんのり緑色な夏みかんを剥きながら、リイムに尋ねる。
「リイムも食べますか? 夏みかん。果物、好きですよね? わたし、実は夏みかんって初めてなんですよね。――みかんって、冬だけじゃないんですね」
「コケ~!」
雑食だけど、果物と野菜が好きなリイムは「たべる~!」とでも言いたげに鳴いた。
で、アリスに夏みかんを一房口に入れてもらう。
アリスは微笑みながら、自分でも夏みかんを口に入れた。
次の瞬間アリスとリイムの目が、同時に真ん丸になった。直ぐ様2人で、思いっきり目と口をつむる。
アリスは拳をギューっと、リイムは翼をバタバタとしている。
「すっぱぃぃぃ!!」
「コッケェェェ!!」
「夏みかん、酸っぱいよねぇ」
私は苦笑い。涙目になったアリスが、私にも食べさせようと腕を伸ばしてみかんを一房口元に押し付けてくる。
私は問題なく、みかんを口に入れて咀嚼。
「うん、美味しいね」
「涼姫は、その酸っぱさが大丈夫なんですか!?」
「私、たまにレモンを丸かじりするくらい、柑橘系大好きだから」
「さくさんクイーンですか」
「・・・嫌な称号を増やさないで」
(あとアリス、柑橘類の酸味成分はクエン酸だよ)
リイムが夏みかんを問題なく食べる私を「ママ、凄ェ!」的な感動するような目で視てくる。
そうしてアリスに向き直ると、果敢に「アリスさん、もう一個下さい」と挑んで、また翼をバタバタさせるのだった。
リイムくん、ママの膝の上で大暴れされると、羽根がガシガシ当たって痛いです。
その後、リイムは大暴れしたせいで抜け落ちた羽根を何枚か「ママあげる~」とクチバシで持ち上げて来た。
そう言えば鳥が羽をあげるのってプロポーズって話を聞いたことあるけど、まあそんな深い意味はないんだろうけど。
私が、
「ありがとー」
といって、私の髪に差すとリイムは嬉しそうにくるくる回って――飛んだ!?
その日、初めてリイムが宙を飛びました。今日は記念日になりそう。
あとリイムに貰った羽根は造花を合わせてレプリケーターで加工して、上品な髪飾りにしました。
出来上がった髪飾りをリイムに見せると、彼は凄く嬉しそうに、私の周りを飛び回っていました。
まあこの髪飾り、ドレスや振り袖にしか合わせられないような派手さなんで、着けるのはたまにかな。またはFLにいる時だけね。
普段から地球でこれを付けて街を歩く勇気は、ママにはありません。
しかしこっちに泊まっちゃうと、アルカナくんが神奈川の家に一人になっちゃうんだよね。
こっちに泊まる時はアルカナくんに連絡したり、こっちに連れてきて一緒に泊まったりしようかな?




