146 トレジャーハントします
スウこと、鈴咲 涼姫です。
現在、41層の重要惑星ユニレウスの遺跡で発生しているゴブリン退治のクエストを受けてやってきました。
遺跡は滅びた街で、和風――というか、大正ロマンな見た目の町並みの遺跡です。
ジャングルに飲み込まれていて、その辺りはいかにも遺跡って感じ。
ちなみに配信中です。
「これ、本当の遺跡だからなあ――イルさん、ここって死体とかない?」
『ほぼ遭遇する確率はないでしょう。理由としてはMoBが完全に分解してしまうのと、1000年の間に風化してしまうのがあります――グールやスケルトン化されていなければですが』
グールはもうお腹いっぱいだなあ。
まあ、人が住んでて滅んだ場所ってのもアレなんだけど。
今日は珍しいメンバーで来てるんだ。私と、マッドオックスさんと、星ノ空さん。
バーサスフレーム戦より、肉弾戦が得意な二人。
――オックスさんのバーサスフレームの大砲の命中力は凄いけど。多分大砲同士ならメープルちゃんよりも当てるんじゃないだろうか。
そんなオックスさんが空さんの指を見て、疑問の顔になった。
「おい空、ネイルとかしててパイロットスーツ破けないのか?」
「それが大丈夫なんだよー」
まって・・・・空さん、ネイルとかして戦ってるんだ?
破れないのかぁ・・・・形とか合わせてくれるのかな?
というか、私なんかネイル自体したことないのにネイルしたまま戦うとか、さすがギャル。
そういえば現代地球ではテープとか接着剤でネイルをつけるらしいけど、超科学なら自由に着脱可能なネイルとかないのかな。
ちなみに二人の武器は、空さんがサブマシンガン(スコーピオンぽいやつ)の二丁拳銃。オックスさんはロケットランチャー(M202ぽい)にアサルトライフル(M16ぽい)を背中に背負ってる。ミニガン(大きな機関銃)的な物も〈時空倉庫〉に入ってるらしい。
オックスさんの装備がでっかすぎて、空さんのサブマシンガンの二丁拳銃だってごっついのに霞んで見える。
と、二人が前方に何かを見つけて、嬉しそうに大きな声を出した。
「おっ、MoBがいるぞ!」
「ゴブリンだ!」
木陰から出てきたゴブリンたちに、オックスさんがロケットランチャーを撃つ。
空さんが二丁拳銃を乱射。
「うわはははははは!」
「に゛ゃはははははは!」
空さんは昔の私みたいにパイロットスーツの上から服を着て、青いマント(光学迷彩機能付き)を着けてるんだけど。マントとスカートが、もの凄い勢いでひるがえってる。
3体いたゴブリンが爆散 & 蜂の巣。
❝この二人ヤベェ❞
❝容赦ねェ❞
あんまりな光景に、私がドン引いていると、空さんが急に下がって私の後ろに隠れた。
「スウ、オーガが出てきた! やっちゃって!」
「え、わた、私!?」
出てきたのは、普通のオーガ。ドミナントじゃない。
「うむ。スウ、頼んだぞ」
オックスさんも腕を組んで様子見。オックスさんのミニガンでやっちゃってもいいと思うんだけど。
とりあえず私はバーサスフレーム用の次元倉庫を開いて、念動力で162mmキャノンを取り出して一発撃ってみる。
オーガの上半身が吹き飛んで結晶化して消えた。
空さんが、私の後ろで呟く――耳に息が当たってくすぐったい。
「・・・威力、やば」
「やはり、生身でバーサスフレーム用の武器を使うのは反則だな」
オックスさんも、うなっていた。
❝チートだよなあ❞
❝どっちかって言うと、バグ利用じゃね❞
私は、〖念動力〗で162mmキャノンを仕舞いながら手をふる。
「仕様です。仕様」
「おっ、印石がでてるぞ! これは空のじゃないか?」
「ほんとだ!」
空さんが印石を持ったオックスさんに駆け寄ると、ヒトデみたいな形をしたドローンが、お姉さんぽい声で『空、〈繁殖力強化〉よ』という。
「おー!」
と言いながら、空さんは印石を砕いてすぐに使った。
あ、使うんだ?
「私、結局〈繁殖力強化〉の印石使わなかったんだよね」
リッカの親戚のお姉さんの役に立ったから、いいんだけど。
先日、無事御懐妊なさったらしくて、物凄く感謝された。生まれるのは来年の5月くらいらしい。
名付け親とか頼まれたけど、普通の女子高生に頼まれても困るんで丁重にお断りしました。
向こうからしたら、有名人に名付けてもらう感覚だったらしいけど。
こちら的には「なんで自分がこんなに有名人なのか」と首をかしげている内心はパンピーなんです。
空さんが大笑いする。
「ゔぁっはっは。子供大好きだから、欲しいからね!」
「相手がいないくせにな」
「うっさい!」
空さんが、オックスさんのお尻に回し蹴り。豪快な音と、爽快な笑い声を二人が挙げる。
仲いいなあ。
オックスさんが、百貨店という感じの建物を指差す。日本にある昔ながらの見た目なやつ。日本橋の高島屋みたいな感じ。
感じというか、実際百貨店だった場所らしいけど。
10階位ありそう。
この辺りは、見た目がどうも日本風なんだよねえ――日本人の血を引いてる人がいっぱい住んでたりしたのかな?
オックスさんが私に尋ねてくる。
「このビルのゴブリンを掃除すれば良いのか?」
「らしいです。ここから、ゴブリンがいくらでも湧いてきて調査の邪魔らしくて」
「そういうクエストね。じゃー、行くかー!」
え、空さん・・・・クエストの内容を今まで知らなかったの?
クエストの内容知らないでここまで来るとか、生き方が猛将すぎない?
空さんが軽快なステップで百貨店に入っていく。
「あの・・・ちょっとは警戒したほうが・・・・」
私が言うと、中から ガッシャーン パララララ ドカーン という音がしてきた。
私とオックスさんが、急いで空さんを追う。
中には、倒れたゴブリンの中央で、おでこの煤を腕で拭いて荒い息を吐いている空さんが居た。
銃撃戦をして、さらに手榴弾を投げたらしい。床や壁に弾痕があって、爆発した黒い痕もあった。
倒れていたゴブリンが、砕けて消える。
「びっくりした~。いきなりゴブリン10匹居たわ」
オックスさんが呆れた声を出す。
「スウの警告が聴こえなかったのか」
「ん?」
「聴こえなかったんだな」
1人でゴブリン10匹をあの短時間で全滅せしめるのは、もう女子高生とは思えない戦力なんよ。
ちなみに空さんは高校2年生らしい。先輩です。
産まれも育ちも渋谷で、高層マンションに住んでるらしい。
陽キャでなきゃ、外も歩けない場所じゃないの渋谷って。
常におしゃれな格好でないと、不審者として警察に取り締まられそうで怖いんだけど。
ちなみに、流行の発信地ニューヨークには「ダサい服で外出しちゃ駄目」って法律が存在するんだとか。そんなの想像しただけで震えてくる。
私なんか渋谷に住むとか考えただけでも目眩するのに、星ノ空さんは産まれるとかヤバすぎ。
ちなみにオックスさんは夏場付近は沖縄に住んでるらしい。海の家を経営してるんだとか。なるほど、海が似合う。と思ったら海が開いていない時期は長野に住んで、民宿&スキーロッジという宿を経営してるらしい。
いや、あの人はマッ◯マックスとか北斗◯拳とかFall◯utな世界に住んでるって言われても納得できるけど。
最近はクランハウスのバーもやってる訳で、正直バーの方が儲かるんだとか。海の家とかスキーロッジは好きでやってるから止めないらしい。
だから春と秋はバーメインにしようかと思ってるらしい。ちなみにバーでは焼きそばが一番人気メニュー。本当においしいんだ、これが。
さて、内部の探索を開始。私はピストル・カービン・ニューゲームを胸に抱えて内部を歩いていく。
でも、バーサスフレームで建物を吹き飛ばせば、ゴブリンの巣なんて一発だとは思うんだけど。
2人が「SF百貨店だし、いいものがあるかも知れない。内部を探索したい」と言うので生身で探索しつつゴブリンを駆除する方針。
――にしても私はCARシステムな構えで、カービンを大事そうに抱える格好なんだけど、空さんとオックスさんの泰然自若さがヤバイ。
空さんは、二丁のマシンガンを両腕で掲げてVの字に構え。
オックスさんは、ロケランを担いで悠々。
私が百貨店の壁に沿うように歩いてるのに、通路の中央をのっしのっしと歩く二人。
勇ましすぎて怯える。
威風堂々と歩くオックスさんが、急にロケランを構えた。
「前方にゴブリンがいるぞ」
空さんが、すぐに射撃を始める。
「BANG! BANG!」
巻き起こる爆炎、硝煙。
二人共、すんごい楽しそう。
瞬く間にゴブリン討伐完了。
ゴブリン涙目。
こんな調子で危なげなく進むと、いろんな商品が見えてくる。
「この辺りは婦人服売り場だねぇ――殆どがボロボロになってて、使い物にならないなあ」
言った空さんが触れると、布が崩れたりする。
まだ着れそうなのもあるけど、探すのが大変そう。
オックスさんが、まだ着れそうな袴っぽいのを見つけて、つまんで興味なさそうに言う。
「婦人服売り場ばかりだな。1階から3階まで、殆ど全て婦人服だぞ。紳士服はどこだ」
「でも婦人服といっても、SFな和風も有って面白くね?」
空さんが興味深げに見回している。
確かに肌の露出が多めな着物とかもあって、面白い。
私も見回していると、見つけた。
「ネイルサロンがある・・・・だと?」
私は英語でネイルサロンと書かれた店に入ってみる。
そして私が想像していたものが、本当にあった。
「あの、着脱可能なネイルがあったんだけど」
「え、マジで!?」
「酸素を接着剤にできる器具付き」
酸素の結合のしやすさを利用してるみたい。
「なにそれ、超科学すぎ! うわ――本当だ、凄お! これは便利だ! 貰っていい?」
「どうぞ、どうぞ」
ネイルなんてしないし。
空さんがさっそく爪に超科学ネイルを着けて、ライトに透かす。
「スウありがと、これマジでいいね。地球でデコってもらおう」
「いいものなの? 私わからなくて」
「なに、ネイルやったことないの? じゃあ、今度一緒にネイルサロンいこうよ」
私はネイルをした自分をイメージしてみる。
モノクロームな格好なのに、爪だけがやたらギラギラ。想像して、たじろいた。
私の普段着に・・・・多分ネイルは合わない。
「いや私、きっと似合わないんで・・・やめとくよ」
「なんでオシャレしようよー!」
その・・・・私もオシャレしてるつもりなんだけど、空さんのおしゃれは方向性が私には向いてないというか。
ほら、音楽の方向性みたいなヤツで解散する人たちも居るんだし、オシャレの方向性もあるかもとか。
「端的に言うと、もっと目立たないオシャレが好きというか・・・」
「目立たなきゃ、オシャレじゃなくない?」
やっぱりオシャレの方向性が違いすぎる。
あと体育の授業で外れちゃうかもだし、ネイルすると料理できなくなるらしいし。
「あの、私、料理しないと」
「あー、そっか。スウは料理するもんね」
私が赤ベコみたいに頷いていると、オックスさんが奥へ入って行った。
「こっちは下着売り場だな」
「あ、女性用じゃん! オックスさんは見ちゃ駄目!」
空さんが瞬間移動するみたいな動きで、オックスさんの目を塞いで言った。
下着売り場かあ。
私も入ってみる。
――空さんに止められないよ? 一応、女だからね? 才能が有るかは知らないけど。
未来の下着は、なんか凄い。
ホログラムとか――いやまて、それは履いているの?
あと、ボタンを押すと再利用できるインクみたいなのが張り付く、形状記憶インク下着とか・・・・記憶形状インクっていうのは凄いけど――ボディペイントとどう違うの?
私が倫理観の迷宮に迷い込んでいると、オックスさんが何やら気づいた。
「別に俺も娘の下着を買ったりするんだがな。まあいい。――お、向こうにジュエリー店があるじゃないか」
手を離されたオックスさんが、通路の向こうを向きながら言った。
宝石店をみて、空さんの目が、宝石のように輝く。
「マジで!? あれって、貰っていいの?」
「いいらしいぞ」
「おおっしゃあああ!!」
空さんがジュエリー店に走り、オックスさんが後をついていく。
やがて二人はショーケースを銃の底でぶっ叩いて、中の宝石を掻っ攫って行く。
・・・・やってることの見た目が、完全に強盗なんよ。先日の銀行強盗を思い出してしまう光景だよ。
まあ実際、私ら遺跡荒らしなんですけども。
蔦が張ってなかったらもう、宝石店への押し入りにしか見えなかっただろう。
風聞が酷いんで、私は服でも漁ってようかな。
あ、この形状記憶インク下着、インクを収納すれば下着の汚れが剥がれるのか・・・・いいかも・・・何個か貰っておこ。
❝スウ、その下着使うつもりか!?❞
❝おい、スウがどの下着を持っていったか――あ、使えねえカメラマンだなおい!❞
私は〖念動力〗で、私を映すイルさんを回れ右させた。
私が下着を時空倉庫に放り込んでいると、空さんが私を見てキョトンとした。
「スウは宝石要らないの?」
「そっちは、なんか・・・エグくて・・・」
「なにそれ? スウの取り分、ほい」
空さんが、アクセサリーを一掴みして投げてくる。
この光景見たことある。
アニメで山賊がやってた。
「なんか、妙なこと考えてない?」
「そ、そんな事ないです。空の姐御」
「思いっきり考えてんじゃん(笑)」
空さんが「ゔぁははははは」と笑う
オックスさんが〈時空倉庫の鍵〉を閉じてロケランを担ぎ直す。
「おし、取るもの取ったし行くか」
「トルの字が」
「トレジャーハンターと言ってくれ」
まあ住んでた人の子孫すらいない、1000年前の遺産だしなあ。
この建物の条件だと、日本ですら遺失物として届けたら100%貰えそうな感じする。
星団連合の法律でも、持ってって良いらしいしなあ。
こうして私達はゴブリンを倒しながら、おもちゃ屋、本屋、家具屋、楽器屋と荒らし回った。




