139 掲示板で噂になります3
吹き飛んだ銀行強盗が、みぞおちを押さえ、悶絶しながら床を転げ回る。
すると他の銀行強盗の一人が、仲間がやられた事で、アルカナくんに拳銃を向ける。
――不味い!!
あの拳銃はマカロフだ――なら。
強盗が撃とうとした瞬間――私は〖念動力〗で、拳銃の安全装置を引き上げる。
マカロフには、デコッキング機能がある。安全装置を上げると、撃鉄が戻る。すると撃てない。
「――なにっ!? なんで・・・!!」
アルカナくんが床を蹴って跳ぶと、銃を構えていた強盗の顎に膝蹴り。強盗の歯が砕けるのが視えた。
なんて威力の膝蹴り――アルカナ君のスピードが凄まじい。
強盗が、顎を押さえながら転げ回った。顎の骨が砕けていそう。
残りの2人の――1人が私に銃口を向けてくる。
もう1人は、少しだけ札束が詰められたバッグを、銀行員さんに「寄越せ」と叫んでいる。
「こ、このガキもプレイヤーかよ!?」
いや、その子はただの銀河連合市民です。
「プ、プレイヤーめ! テメェ等ズリぃんだよ!! ――なんで今日に限って、こんな奴と出会すんだよぉ!! 来るな、ちくしょおぉぉぉぉ!!」
出会いたくなかったのは、お互い様。
強盗が私に銃口を向けようとしてくる。
相手が持ってるのはトカレフ――これやマカロフは日本でも、たまに押収される銃だ。そしてトカレフには安全装置がない。
私は半身になり、〝銃口〟を躱しながら胸のペンを引き抜く。
VRが地球の銃でも光らせて目視させてくれるけど、流石にこの距離の弾丸は躱せない。
でも、銃口なら躱せる。
相手が銃口を振り回す、それを私は躱し続ける。
それでも、銃口と私の体が重なる瞬間はどうしても出てくる。
だけど大丈夫。〖念動力〗で、銃の撃鉄を握り込んである。グロックみたいな銃は撃鉄がないし、スライドを握られても撃てるけど、マカロフは撃鉄が露出しているからそうはいかない。
でも相手の握力が結構凄かった。4本の指で無理やり引き金を引いてきた。
「このっ!!」
発砲音が響く。
――だけど私は力負けしそうになった瞬間に、姿勢を低くした。
あと、魔術も発動して空中に盾を生成した
「何なんだ! 何で鉄板が出てきたんだ!? ――何で銃弾を避けられるんだ!!」
相手が叫んでいる間に、私はさっき強盗に投げて渡した札束たちを〖念動力〗で相手の顔に貼り付けた。
アルカナくんが、札束を顔に貼り付けた強盗に足払い。
強盗は後頭部から床に落ちて、頭を押さえて転げ回る。
私は〖念動力〗で拳銃を取り上げる。
さらにペンを振りながら、詠唱開始。
「ἀτρά(原子) Ἅιρ(器) υφ(2) ροφ(6) ροτρο(生成) μαχά(メートル) ἄλφ (1) 【ω χάλυψ ω χάλυψ】(鉄よ生まれよ)!」
拳銃の銃口を、鉄で塞いでしまう。
「む、むぐ! ――むがぁ!!」
視界と呼吸を奪われた銀行強盗が、札束を引きちぎり始めた。
「お札の破損は――」
〖超怪力〗と〖念動力〗と〖前進〗で、自分を加速。
「――犯罪です!!」
飛び蹴りを敢行。あ・・・・私今、スカートじゃん。まあいいか、どうせ相手は視界を奪われていて見えない。
ラ◯ダーキックを、強盗の胸に炸裂させた。
当たった足に、何かが砕ける感触があった。多分、強盗の肋骨が砕けた。
泡を吹いて気を失う強盗。
「〖再生〗」
強盗の怪我を、一応治しておいてあげる。他の強盗の怪我もだ。
「うわぁぁぁぁぁあ! 何なんだよ、このガキ供!! 拳銃相手に、こんなの人間じゃねえよ!!」
最後に残った強盗が、バッグを抱いて出口に走る。
まあ、逃げるなら――見逃してあげよう。
どうせ銀行強盗したお金なんて、使えやしないし。
なんて思ってたら、
「来い、お前は人質――」
舞花ちゃんの腕を引いた。
この瞬間―――ヤツは、私の逆鱗に触れた。
「その子にぃ!! ―――手をッ!! 触れるなぁ!!」
私は魔術で自分の周囲に、無数の鉄球を生成。銀行強盗を指さして〖念動力〗で、強盗に殺到させる。
「え、なに、やめ―――!!」
強盗が、体中に鉄球の突撃を受け昏倒する。
「・・・・いらない事をしてくれて。・・・舞花ちゃんに手を出さなきゃ見逃してあげたのに」
見逃しても、お札の番号とかから警察に捕まるだろうし。
「まあ怪我の回復はしといてあげる。〖再生〗」
舞花ちゃんが目を瞠らせて、私の腕に抱きついてくる。
「す、涼姫お姉ちゃん・・・・すご、・・・生身でもこんなに強いんだ・・・・」
肉弾戦は不得意です。相手が弱かっただけ。
相手がみずきとかみたいな強さの人だったら、詰んでたと思う。
視る舞花ちゃんは、アルカナくんを見て瞳をキラキラ。
「アルカナくんもすんごい強さだったし」
だよねえ。あの強さには、お姉さんもビックリだよ。
振り返ればアルカナくんと銀行員のお兄さんが、強盗を縛り上げていた。
もう大丈夫かな。
銀行員のお姉さんが、私に駆け寄ってきた。
「あの、幾ら引き落とされたんですか?」
「えっと10万円です」
あ――別に、舞花ちゃんに10万円貢ごうとしてたわけじゃないからね!?
今後の生活費とかも含めて降ろしたんだよ!?
銀行員のお姉さんが持っていたお札から10枚を取って、私に渡してくる。
「じゃあこちらを、どうぞ。それからお名前は?」
え、別に目立ちたくてやったわけではない。
「拙者、名乗るほどの者ではござらぬ」
「なぜ急に時代言葉になったのかはわかりませんが――この後、警察が事情聴取すると思うので・・・――」
あ、そういう意味!? ―――私は自分の顔が熱くなるのがわかった。
すると、お姉さんが頭を下げてくる。
「――でも、本当に助かりました。銀行員もお客様も誰も怪我しませんでしたし。私なんか撃たれた時、死んだと思いました。あの時、椅子で護ってくださったんですよね?」
「は、はい、一応・・・」
キョドる私をみた銀行員のお姉さんが、首を傾げる。
「なんだか――勇敢な方かと思ったら・・・・いえ――事情聴取とかめんどくさいとは思いますが、やはり避けられないと思うんですよね」
「――ですよね」
本当にめんどくさいけど・・・・逃げるわけには行かないよね・・・。
ちなみにアルカナくんも銀行員のお兄さんたちに、「ありがとう」「君すごいな」とか言われている。
私は、お姉さんに本名とか諸々告げて、
「じゃあ用事があるんで、事情聴取とかは連絡下さいって言っといて下さい」
「はい」
アルカナくんと舞花ちゃんとケーキ食べてお祝いをするっていう、特大イベントがあるんです。
私は舞花ちゃんとアルカナくんの手を引いて、外に出る。
出ると、一台の白いバン。
すぐさま乗り込むためだろう、ドアが開いたままになってる。
中には拳銃のマガジン。
明らかに強盗の車。
私は〖念動力〗でドアをしめ、鍵をロック。さらに鉄を被せておく。
そして尖った鉄の棒を生成して飛ばして、タイヤに突き刺しパンクさせておいた。
すると、遠くからサイレンが聴こえてくる。一瞬「パンクさせたから!?」とかビクッとなったけど、銀行強盗を捕まえに来たんだろう。
なら、舞花ちゃんとケーキを食べるのを邪魔されてはたまらない。
私は舞花ちゃんをお姫様だっこで抱えて、空へ飛翔した。
アルカナくんは、私の背中に念動力で固定。
舞花ちゃんが、嬉しそうに微笑む。
「あははは!! 凄い、飛んでる!! 涼姫お姉ちゃん、こんなの本当にスーパーヒーローじゃん!」
するとアルカナくんが申し訳無さそうな声を出した。
「本当に、涼姫様があそこまで肉弾戦までできるとは・・・護衛形無しです」
「いや、アルカナくんがいなかったら危なかったよ」
「それはないと思います。恐らく涼姫様は一人で乗り切れたと思います」
「いやいや拳銃相手だったし。――そうだ、舞花ちゃん――美味しいのって、どこのお店?」
「あそこのピンクの屋根」
「おっけー」
こうして、その日は至福の甘味を堪能しました。
警察の事情聴取はめんどくさかった。
その後「スウ、お手柄!」とかいうニュースがあちこちを騒がせて、これでさらに面倒くさくなった。
あと舞花ちゃんとデートしたのが、アリスにバレて「むっす~」とされて「わたしと友達になったお祝いなら、妹じゃなくて、なんでわたしを誘わないんですか!」と言われ、一緒にケーキを食べに行くことになった。
リッカも「ケーキ! ケーキ!」と騒ぎだしたので一緒に行くことになった。
◆◇◆◇◆
【41層】フェイテルリンクレジェンディア・オンライン総合【開放】
最先端アースノイド:41層開放されたな
最先端アースノイド:さっそくプレイヤーが乗り込んでる。俺も乗り込んでる
最先端アースノイド:うちのクランの奴が、41層で適当に亜光速航行しまくって迷子になって、MoB以外の謎の宇宙生物に襲われ脱出用の転送装置で帰ってきたわ。機体ロスト。
最先端アースノイド:宇宙で適当航行は、あれほどやめろと・・・
最先端アースノイド:40層のボス攻略に参加したやついる? 50層のボス攻略参加したいんだけど。ボス攻略はじめてだけど
最先端アースノイド:行った行った。第一形態で撃墜された。50層のボスが初体験は止めたほうが良い気がするぞ。40層より更に危険が予想されるとかヤバすぎ
最先端アースノイド:俺も行った。最後の強風までは粘ったんだけどな、あの中は飛べなかった
最先端アースノイド:お前最後まで粘ったのかよ、スゲェな。エースって呼んでやるよ。
最先端アースノイド:実際最後まで残った31人は、全員エースと呼んでいいよもう。俺が許す
エース:ありがとう
最先端アースノイド:早速名前がエースになってるwww
最先端アースノイド:つか最後の暴風の中、飛べた人間いるのかよ
最先端アースノイド:いるから41層が開放されたんだよwww
最先端アースノイド:上位勢しか残ってなかったよな
最先端アースノイド:スウあたりは人外だから人間の数に入らない。AIも疑ってたし。
最先端アースノイド:一応人間って言われてたじゃねーかwww
エース:スウのペイント弾の機転は、ナイスだった。詰むところだった
最先端アースノイド:今回、スウいなかったら攻略できてなかったよな? 第三形態があるなんて誰も知らなかったし、命理の真空回帰砲を準備してなかったら、また攻略失敗だった。
最先端アースノイド:てかボス倒したあとがヤバすぎ。何あのガキ、復活出来ないってなんだよ
最先端アースノイド:そうそうアレ大丈夫なんか?
エース:あれは怖かった。復活無しとか、チビッた
最先端アースノイド:チビんなエースw
最先端アースノイド:いやでもまあ、復活無しとか黒体貫く閃光とか、しゃーないわ
最先端アースノイド:アイリスって誰? 最後の人間とか言ってたけど
最先端アースノイド:命理ってNPPが助けたがってる、マザーMoBのコア
最先端アースノイド:え。マザーMoBのコアって人間なん?
最先端アースノイド:ゲームの設定エグイって
最先端アースノイド:つかさあ、もうゲームとは言えなくなってねーか
最先端アースノイド:いや、デスゲームではある
最先端アースノイド:俺もう戦闘したくないんだけど
最先端アースノイド:しかも次の層、多分やばい。帝国時代でも50層で詰んだらしい。
最先端アースノイド:え。じゃあ次は、ガチでクリア不能な可能性のある層なのか?
最先端アースノイド:そもそも50層ボスはレイドができないボスだって噂がある。帝国時代の情報によると、まず少人数でボスにたどり着かないといけない機構があるから到達できる人数が限られてしまって、少人数専用みたいな話が上がってる。
最先端アースノイド:危険に見合った報酬は手にはいるんだけど、そろそろ危なすぎて着いてけなくなってきた。
最先端アースノイド:もう戦い続けられるのは命知らずの荒くれ者か、猛者かって感じになってきたな。
最先端アースノイド:特に生身の戦闘が、転送装置無しだから怖すぎる。
最先端アースノイド:50層ボスは、生身専用だって噂もあるんだよなあ。
最先端アースノイド:いやいや、何その冗談。
最先端アースノイド:この状態で攻略続けてる奴ら、マジでスゲーよ。俺はもう無理、20層より下は怖くて行けない。マジな話、エース頑張ってくれ
エース:オレ、そろそろ機体を良いのに買い替えないとキツイんだよ。
最先端アースノイド:普通の人間は無理して深い層なんか行かなくていいよ、20層位までとかが程々に儲けられる限界。
まあ、上層とかなら問題ないかもだけど。
最先端アースノイド:配信者とかも殆どが中層辺りまでしか行かないし。
最先端アースノイド:まあ40層でも一桁が1、2、3の上層辺りはレジャー感覚で行けるだろうけど。
最先端アースノイド:上層、中層、一桁が1、2、3とか何?
最先端アースノイド:例えば31層の1の部分、この一桁の部分で敵の強さが変わってくるんだよ。数字が若いほど楽。0はボス層だから別。
最先端アースノイド:1、2、3の上層はアトラクション感覚でよし。4、5、6の中層はパンピーだとキツくなってくる。7、8、9の下層と、0のボス層はガチで危険、ここはエースたちに任せようぜ。
最先端アースノイド:猛者&上位勢と、一般プレイヤーはステータスとかスキルとかもだんだん格差出てきてるよなあ、最近
最先端アースノイド:追いつけなくなってきてる
エース:オレも
最先端アースノイド:エース、おい
最先端アースノイド:早いとこ上位勢に追いつかないと、差が埋められなくなるんじゃね・・・?
最先端アースノイド:てかこの前のクラン対抗PvPってさ、スウと戦う奴ら全員高速戦闘しだすんだけど、なんで?
最先端アースノイド:それしかスウの攻略方法がないんだよなあ。足止めて戦うなら、スウをまたたく間に墜せるAIMが無いと無理。でなきゃ直ぐ様距離離されて、正確無比な狙撃が来る。
最先端アースノイド:でも躱すんだぜアレ。躱せないような撃ち方しないと駄目なんだろ・・・? それが出来ないならドッグファイトに勝つしか無い。
最先端アースノイド:そしてスウはAIMもドッグファイトも化け物じみてる・・・と
最先端アースノイド:ムリゲーやん
◆◇Sight:三人称◇◆
卵の殻を被った少年が、かつてベクターの戦艦だったものの残骸の中で、アンティークチェアに腰掛けていた。
彼は肘置きに肘を突いて、銀河の中心に座する巨大な穴に話しかける。
「アイリス、君を救おうなんてバカが現れたよ」
少年は肘を突いたまま くつくつ と笑い肩を揺らした。
「どうせ、ここまで来れないのにさ。――特に次の層は突破不可能だ。星団帝国も、銀河連合の前身も抜けられなかったんだ。――50層はバーサスフレームの力を借りれない。なのに音速で飛ぶ相手や、バーサスフレームを超える戦闘力を持つ竜が居る。極めつけは、50層のボス、〝絶対強度〟のニュークリアパスタ・ゴーレムだ。これをどうやって抜ける」
暗く寒い真空で、少年が忍び笑いをする。
「さらにその後のボスも強敵だらけ。
60層、停止のアテナ。
70層、覚醒・ヴィーナス。
80層、タイラント・ケルベロス。
90層、ベクター。
――ここまではザコが少し強くなったようなボスばかりだったが、50層からは一筋縄ではいかないぞ。特に70層はレシプロ機くらいしか飛べないし、80層に至っては金属すら持ち込めない。科学の力でなんとかしているお前らが、どうやって抜けるつもりだ? ――さらに90層以降は、もはや戦争だ」
少年が再び忍び笑いを漏らしていると、彼の耳に通信が聴こえてきた。
『エクトロ、地球への座標固定はまだか』
「ボクをその名で呼ぶな。今のボクは、ハンプティ・ダンプティだ」
少年の横に、通信ウィンドウが開く。
現れたのは、貴族のような格好をした男性のデータノイドだった。
男は、少年が見ていた物を知り嘲笑するように嗤った。
『今度は、そのマザーMoBがお前の母親代わりか?』
少年が椅子を蹴って激昂する。
「黙れ!! ボクの母親をマザーMoBにしたお前たちを、ボクは絶対に赦さない」
貴族のような格好の男は、激昂する少年を睨む。
『我ら宇宙軍も、お前のした事を許しはしない。――こちらにマザーMoBアイリスを転送する手引をしたお前をな。――それよりさっさと地球に座標を固定しろ。さもなくばお前を抹殺せよと命令が来ている。不可避の終焉と、永遠の勝者が、いつでもそちらに行くぞ』
「1100年前星団帝国を震え上がらせたベクターのトップエース、不可避の終焉ルジェルナ。そして、無敗の指揮官――永遠の勝者アスラムか・・・・確かに奴らが送り込まれたら、MoBとボク等だけでは厳しいな。だが座標固定はまだ無理だ、少し時間がかかる」
少年は、はぐらかすように通信に返した。
『とにかく早くすることだ』
通信が切れる。
少年が椅子に座り直して、肘置きに肘を突いて、宇宙の穴を眺める。
「本当に来れるなら来てみろ、スウ。少し時間をくれてやる」
少年の声は、誰にも届かない。




