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138 お祝い・・・します?

 いやまあ、前から友達だったらしいけど。


「でゅふふふふふ」


 私は神奈川に買った家のダイニングのソファに寝転がり、隠し撮りしたアリスの写真を見ながら微笑む。


「この人、この人、私の友達」


 真っ昼間にソファの上で、天井に写真を掲げ、足をバタバタさせる。


 世界中の人に叫びたい。

 「この人、私の友達なんですよーーー!」と。

 私はいま間違いなく「世界の中心で ユウジョウを叫んだ のけもの」だ。


 けれど世は無常、お腹もすく。そうして冷蔵庫にあんまり何も無い事を思い出す。


 自分のだけじゃなくて、アルカナくんとリイムの分も買わないとだし。


「買い物に行くかなあ――よし、友達が出来たお祝いでケーキとか食べよう!!」


 ウキウキ気分で、出かけることにした。


「アルカナくーん、出かけるんだけど――」




「勲功ポイントも随分貯まったなあ」


 私は家から食材の買い出しに、近くの業務スーパーに向いながら、VRウィンドウを開いて現在のポイントやクレジットを確認していた。


 ラリゼルガの遺跡探索、大会賞金、ボス攻略の報酬と、大きなポイントが立て続けに入ってきた。


 現在、銀河クレジット約2800万、勲功ポイント約1000万である。


 ふとVRの向こうで、大人っぽい格好をした女子小学生が、お母さんの手をしっかり握って歩いている。

 手を ぎゅー ってしてピッタリくっついて、お母さんを頼りにしてる。

 凄く大人っぽく見える子でも、やっぱり子どもなんだなあ、可愛いなあ。

 家族っていいなあ、なんて思いながら報酬の使い道を考える。


「ステータス上げるかなあ」


 あと、バーサスフレーム用の時空倉庫にある武器も、フェアリーテイルの火力にはちょい火力不足感じるから、更新しようかなあ。


 などと考えに浸っていると、後ろから声がした。


「歩きVRはだめですよー」


 私はびっくりして、すぐに謝罪を口にする。


「あっ、ごめんなさい!」


 謝りながら振り返ると、知ってる中学生。


「あと、小学生を変な眼で見てちゃだめだよ、お姉ちゃん」

「え!? 普通に微笑ましく見てただけだけど!? ――」


 きょ、挙動不審だから!? 眼が挙動不審だから犯罪者係数が上がってるとでも言いたいの!?


「――舞花ちゃん久しぶり!」


 アリスの妹、八街 舞花ちゃん。

 可愛いと美人を、足して割らない子!

 アルカナくんも舞花ちゃんに頭を下げる。


「ご安心ください。涼姫様はわたくしがお守りしております。あと、涼姫様は確かに子供好きですが、ただの愛情でございます。ただ幸せを願っており、害意は一切ございません。悪意に慣れた方だと想像出来ないほど、善意に満ちています」


 舞花ちゃんがちょっと慌てる。


「え、あ、・・・なんかごめんなさい。――えっと、お姉ちゃん久しぶり! ペンタポットだよ! ・・・・そうだよね。スウお姉ちゃんは、普段怪しい動作してるけど、見ず知らずの私を必死で助けてくれる人だもんね。ごめんなさい」


 え、怪しい動作ってなに・・・? という疑問は、なんとか振り切って、私は朗らかに答える。


「見ず知らずじゃないよ、アリスの妹だし」

「うん、ペンタポット! 本名は八街 舞花。八番目の街に舞う花です」

「凄くいい名前だね。私は鈴咲 涼姫だよ。鈴が咲いて、涼しい姫――なんだこれ」


 いえ、とってもきれいな名前ですし、全く文句はありませんけど。


 ちなみに舞花ちゃんとは、よくチャットツールで会話してる。

 ただ、地球で会うのは初めて。


「あはは! やっぱり配信中のスウさんと同じで面白い! 鈴が咲くって鈴蘭かな? 涼しい姫は氷のお姫様!」

「なるほど、そうとも言えるのかな?」

「鈴蘭って妖精が持ってそうだね!」


 そういえば、そんなランプも前に観ましたっけ。


「舞花ちゃんは・・・・フェアリーさんとか呼ばないでね?」

「嫌なんだ? じゃあ、涼姫お姉ちゃんって呼んで良い?」


 うおっ、こんな可愛い子が私を本名で「涼姫お姉ちゃん」って呼んでくれるとか、はなぢが出そう。


「も、もちろんだよ! 私は舞花ちゃんって呼ぶね」

「うん! ――で、こっちの男の子は? 護衛って言ってたけど」

「わたくしは涼姫様の護衛、アルカナ・フェルメールです」

「アルカナ君かあ! よろしくね!」

「はい。よろしくお願いします」


 舞花ちゃんの元気な挨拶に、アルカナくんの丁寧な返事。


 舞花ちゃんが私に尋ねてくる。


「涼姫お姉ちゃんは、今からどこかに行くの?」

「業務スーパーに行こうと思ってたんだけど。その後アルカナくんと、ケーキを食べる予定で――あっ、せっかくだし、舞花ちゃんもケーキ食べる? 友達が出来たお祝いなんだ、奢るよ」


 お姉さんが、貢ごうか?


「・・・・友達が出来たお祝い? めでたいことですけど・・・・あまり聞かないお祝いですね」

「え、そ、そう? ――生まれて初めて友だちができたから・・・・嬉しくて」

「涼姫お姉ちゃん・・・」


 うわ、中学生に憐れむ表情で見られてしまった。


「いや、でもさ、ほら、アリスだよ! 君のお姉ちゃんが初めての友達なんだよ!!」

「お姉ちゃんが初めては、大金星ですね! ――でも、私はとっくに二人は友達だと思ってたんですが」

「そ、それはアリスにも言われた」

「ですよね? ――でもお姉ちゃんと涼姫お姉ちゃんが友達になったなら、私にも正式にお姉ちゃんが増えた訳だし、それは凄くおめでたい。私もお祝いしないと! 」


 え・・・? アリスと私が友だちになったら、私が正式に舞花ちゃんのお姉ちゃんになった・・・?

 ・・・・どういうこと? ――結婚した訳ではないのよ?


「じゃ、じゃあ奢るね。お姉さん、これでも結構お金持ってるんだ!」

「あはは。なんか駄目な大人みたいなこと言ってる! 近くに美味しいお店があるんですよ、そこに行きましょう!」


 舞花ちゃんが手を握ってくる。

 あったかい、柔らかい、いい匂い、整う。


 私が女子中学生の手で何かを整えていると、舞花ちゃんが私の手を引いた。


「こっちこっち!」


 ああ、人を駄目にするクッション並みに人を駄目にする女の子だわ、この子。

 この子に貢げるなんて、素晴らしい。

 

 私は駄目になっている脳みそを、センターポジションに戻そうとする。――今日は貢ぐんじゃなくて、お祝いだって。

 え、お前は元々駄目だろう? 残酷な現実を突きつけないで。


「じゃあそこの銀行で、ちょっとお金おろしてくるから待ってて」

「はーい」


 少年を背後にはべらせ、さらには女子中学生に貢ぐために、お金をおろす女子高生。


 業が深い。


 違うって、お祝いだって。


 舞花ちゃんが銀行内のちょっと離れた場所で、座って待っている。


 アルカナくんは、私の横に立ってる。


 札束を数えていると、銃声がした。


「え――銃声?」


 ここ、日本だよ? ・・・・――日本だよね?


 日本で銃声とか有り得るの?

 

「金をこのバッグに詰めろ! ――妙な真似をするなよ!!」


 声の方を向くと、真っ黒なマスクとサングラスをした男3人が拳銃を銀行員の女性に向けて威嚇してる。


「全員手を挙げろ!」


 え、なにこの状況。――銀行強盗?


 私・・・・なんでこんなありえない状況に遭遇してんの。

 ど、どうしよう、警察に連絡する?


 私はバッグの中のスマホを〖念動――あ、駄目だ。スマホって指で触らないと操作できない!


 〖念動力〗じゃ動かせない・・・・文明の利器が裏切ってきた。


 スマホ側を動かしてもいいけど、手を挙げてるしなあ。


 アルカナくんが私を庇う位置に立って、警戒を露わにする。


 私は、とにかく先に舞花ちゃんに逃げてって視線で示すけど、彼女は怖いのか固まってしまっている。


「アルカナくん、舞花ちゃんを連れて逃げて」

「申し訳有りません、わたくしは涼姫様の護衛です。それに涼姫様なら、彼女に何が有っても〖再生〗できるので、涼姫様をお守りしたほうが彼女も安全です」


 いや冷静だな――正直、君にも逃げてほしいのだけれど。


 銀行強盗が、私達――客にも拳銃を向ける。


 銀行強盗は4人いる。


「お前らも動くなよ、お前らは人質にするかもしれねえからな!」

「そこのガキ、その金もこっちに寄越せ!」


 私に怒鳴ってくる銀行強盗。


「あ、えっと、はい」


 私は言いながら、備え付けの紙袋に札束を入れて下投げで渡す。

 その時、銀行員のお姉さんが動いたのを強盗は見逃さなかった。


 多分、警察に連絡を入れるボタンとか押そうとしたんだとおもう。


「そこのアマ! 妙な真似はするなと!!」


 強盗が発砲。

 まずい―――〖念動力〗!!


 私は〖念動力〗で椅子を銀行員のお姉さんの前に動かして、銃弾を防いだ。


 銀行員のお姉さんが、恐怖でうずくまって耳を押さえた。


 〖念動力〗を使う時には手が光るんだけど、それは見られなかったようだ。


 強盗が目を見開く。


「なんだ・・・・椅子が、勝手に・・・」


 そして強盗は、なにかに気付いたような表情で辺りを見回した。


「ス――スキルだな! 誰が使いやがった!!」

「スキルだと!? こんなかに、プレイヤーが居るのか!!」

「プ、プレイヤーだと!? ――や、やべえ・・・・う、動くな!! お前ら絶対に動くなよ!!」


 銃を振り回すようにして、銀行強盗が辺りに向ける。


 別に動かなくても〖念動力〗は使えるんだけども。


「どいつだ、いまスキルを使ったやつは、どいつだ!! お前か!? ――」


 銀行強盗が、順々に銀行員や客に拳銃を突きつけ尋ねていく。


「――お前か!!」

「くそっ、どいつだ!! 出てこい!!」

「銀行員を守ったって事は、そういう性格の奴か! ならこうしてやる、出てこないと――」


 銀行強盗が客を見回して、舞花ちゃんの方向をみて止まった。


(―――まさか、コイツ)


「このガキが――」


 強盗が言いながら、舞花ちゃんに近づく。


 それだけは、絶対にさせるか!!


「私だ―――!!」


 私は怒声で宣言した。


「私がプレイヤーだ! その子は関係ない、手を出すな!!」

「お前か!!」


 強盗が銃口を私に向ける――


「ついてないぜ。俺も、お前もな。――ったく――」


 強盗が、銃口を私の頭に向けたまま歩いてくる。

 不味いな・・・頭を撃たれて即死させられたら、流石に私も死んでしまう。


 私がどうするか考えていた時、アルカナくんが動いた。


 アルカナ君が、両手を翼のように広げた低い姿勢で――まるで飛ぶように強盗に迫る。


「・・・・――なっ、なんだこのガキ!!」


 アルカナくんが恐るべき速度で、強盗の懐に入った。


 アニマノイドさんって、基本的に人間よりはるかに強い。


 アルカナくんが肘を前に突き出しながら突進を止めず、銀行強盗の胴に肘をめり込ませ吹き飛ばした。


 アルカナくんの体重が軽いとは言え、世界レベルの短距離スプリンターみたいな速さの体当りの肘打ちを受けたんだ。

 ただじゃ済まない。

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更新お疲れ様です&明けましておめでとうございます! せっかく『キマシタワーパーティー(仮称)』を開催しようとしたのに、無粋な奴等だぜクソが…!!(憤怒) 俺もお前もツイてない、ねぇ…。スウちゃんを殺…
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