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133 「誰か」の記憶を観せられます

 ◆◇◆◇◆




「『知らない天井』というヤツですね」


 わたし、八街 アリスが目覚めると、つなぎ目一つない天井。

 〝そして天井自体が光る〟という光源が見えました。

 明らかに、銀河連合の病室です。


 夢を見ていました。

 幼い頃、まだ日本に馴染めず、泣いてばかりだったあの頃。

 初めて涼姫に助けられた、あの日の夢を。

 涼姫に、可愛いって言えなかった後悔と共に。


「とりあえず、あの世という訳ではなさそうです」


 また、涼姫に可愛いって言えなくなる所でした。


「アリス!!」


 すぐさまわたしに抱きついてくる、女の子が一人。

 泣き崩れた顔が見えました、配信前にわたしがしてあげたお化粧がドロドロじゃないですか。

 ちゃんとしていれば、涼姫ちゃんは可愛いんだから。


「涼姫ちゃ・・・・涼姫」


 わたしが言い間違えそうになっているのにも気づかず、涼姫はわたしに抱きついて泣いています。

 見回せば、みずきを始め、クレイジーギークスのメンバーにウェンターさん、アン姉さんや舞花、わたしの知り合いの星の騎士団の人たち。

 若干、病室の人口密度が高いです。


「アリス、アリスよかったよぉ!! アリスぅ・・・・」


 姉が、先に涼姫にわたしに抱きつかれて、手をわたしの方に伸ばしたり引っ込めたり挙動不審な動きをしています。

 わたしは姉に困った笑いを返して、涼姫に尋ねます。


「わたしは生きてますから、涼姫が助けてくれたんでしょう?」


 涼姫が首を振ります。


「わ、私の力じゃ、アリスを持ち上げられなくて、命理ちゃんが」

「なるほど・・・・。あ、それにわたし、お腹を大怪我していたはずなんですが――銀河連合が?」


 涼姫が、また首を振ります。


「危険な状態だったから、急いで〖再生〗で。――それに、銀河連合のデータベースっていうのが破壊されてて、アリスの肉体を再生できなかったらしくて。・・・・間に合ってよかった」

「そ、それは・・・・ありがとうございました。かなり危ない所だったんですね」


 お腹の傷とか、死んじゃうような話ですし。

 やっぱり涼姫は、何時だってわたしのピンチを救ってくれるんですね。

 でも、本当に生きてて良かったです――だって、また言えるんですもん。


「涼姫、」

「な、なに?」

「かわいい!」

「わ、私、お化粧も化け物みたいになってるし、鼻水もでてるのに! ・・・・だから女の言うかわいいは信用できないんだよぉ!」

「あはは、涼姫は本当にかわいいですって」

「嘘つけ! 誰にでも〝かわいい〟って言うんでしょ、この女たらし!」

「涼姫にだけですよ。わたしが、こんなにかわいいって言うのは」

「嘘つけーーー! 顔洗って、お化粧落としてくるー!」


 涼姫は頬を染めて叫び、病室を出て行きました。

 わたしはちょっと苦笑いになります。


(涼姫・・・・いつか気づいて下さいね、自分の持つ・・・とびきりの素敵さに)


「――あっと、そうだ。早く視聴者さんにも無事を伝えるために、配信をしないと。皆さん心配してるでしょうし」


 涼姫の背中を見送ったわたしは、視聴者さんに無事を伝える配信を始めました。




◆◇Sight:鈴咲 涼姫◇◆




 私はジゴロの魔手から逃れて、病室を出て手洗い場で顔を洗う。

 学校にあるような横に長い手洗い場。

 ――というか、アリスの病室にも手洗い場はあるのに、飛び出してきてしまった。


「まったく、アリスは・・・病み上がりの癖に、私を落とそうとしてくるなんて。大体、私はアリスに化けさせてもらえないと、どこも可愛くないでしょ」


 私が文句を言っていると、スマホが震えた。


「あっ、アリスの配信開始のお知らせだ。タイトルは――【無事です】生きてます【ご心配おかけしました】。そっかみんな心配してるもんね」


 アリスが配信を開始すると、すぐさま大量の❝生きててえらい❞のコメントが。


「ほんと、『生きてて偉い』だよ」


 私がぼそぼそ言っていると、ふと『〖サイコメトリーω(オメガ)〗』という声が聞こえてきた――え、誰!?


 突然()()()()()()()()()()――えっ、なにこれ、なにこの光景、誰かの記憶?!




 眼下に私とアリスがみえた。

 フェアリーテイルのワンルームを見下ろしているような視点だった。

 ――ほ、ほんとに誰の記憶!?

 なんて思っていると、いつの間にか私の視界が、光景の中の私の視界になっていた。

 光景のフェアリーテイルはワープ航行中だ、どこかに急いでいるのだろう。


 光景の中の私は震える唇で、アリスに告白する。


「・・・と、友達になってください!」


 アリスが、ちょっと泣きそうな顔になる。


「そんな風に、思ってたんですか」

「と、友達に・・・なって・・・ください!」


 千切れそうな、私の声。


「ほんとうに、――最初の印象どおりです」


 私はアリスを抱いていた。腕の中のアリスの体から急速に失われていく、体温。


 光景の中の私が、胸をえぐられたかのような痛みを憶えながら、心の中で叫ぶ。


(ケロベロスの〖再生〗さえあれば!! ――あの時、逃げずにケルベロスさえ倒せていれば、もしかして。――間に合って、お願いだから、間に合って!!)


 腕の中のアリスが、眉尻を下げて泣きそうな顔で笑う。


「・・・・・・その言葉を胸に抱いて死んでいけます。次のわたしはきっと、貴女と友達から始められますよね」


 アリスが拳を突き出してくる。光景の私は、一瞬意味が分からなかったけど、アリスが拳を振って私の拳をみた。


 理解した私は、自分の拳をアリスの拳にあわせた。


「どうか、次のわたしをお願いしますね。――わたしの友達」


 アリスが私の拳を解いて、指をからませてくる。

 そうして色を失った唇で呟く。


「おやすみなさい」


 アリスの小さなつぶやきが、わたしの耳を(つんざ)いた。


「い、いかないで、アリス!」

「すぐに目を覚ましますよ」

「いかないで――、アリス!!」

「寂しい思いはさせません」

「ちがう、ちがう、そのアリスは今の貴女じゃない!!」


 絡んでいたアリスの指の力が抜けていく。


「お願い、いかないで、いかないで―――ッ!!

「―――笑って? 私は、かわいい、貴女の笑顔を、見なが、ら死にたい・・・・」


 私は息を切らすように胸を揺らしながら、震える表情で笑顔を作る。


「・・・・ありが・・・とう・・・・・・涼姫―――大・・・好き」


 アリスの身体から、完全に力が抜けた。


 私の腕に、アリスの重さがより強く掛かる。


 急速に失われていく、腕の中の熱。


「アリス? ねえ、アリス? ――おねがい、アリスやめて・・・? ―――アリス・・・」


 私は身体をのたうたせ、アリスの身体に抱きついた。


「――――――――――――アリスッ!!」


 アリスの身体が、光になって私の腕の中から消えていく。


「・・・・なにこれ? えっ――まさか―――!! や、やめて、アリスを持っていかないで、アリスを消さないで!!」


 アリスの身体に、重さがなくなっていく。


 光になっていく。


「やめて、やめて!! やぁめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 私はねじれるように、躰を伸ばして天井に吠える。


 気づくとアリスの重さが消えて、沸き上がる蛍のような光に包まれていた。


「返せよ、アリスを返せよぉ、アリスを返せよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 唇を噛みちぎり、歯ぎしりしながら、震える顔で窓の外の宇宙を睨んだ。


「変えなきゃ、こんなの――変えなきゃ。変える、変えてみせる―――ッ!!」




 光景が消えた――途端、私は凄まじい吐き気を憶えて、そのまま手洗い場に思いっきり嘔吐した。

 あの光景の私が感じた凄まじい悲しみと後悔に同調して、嘔吐が耐えられなかった。


「ォ―――オぅゲぇぇぇ」


 アリスが死ぬ瞬間なんて、・・・なんて最悪な光景を見せるんだ。


 今の光景、今回のボス直後の光景っぽかった。――今の記憶の世界のデータベースって言うのは壊れてなかったみたいだけど、なんなんだ本当に最悪だ。

 というか・・・ケルベロスがやたら私との戦いに執着したのって・・・・まさか。

 ――アイリスさんが、どこかでこんな事があったのを知っていて?


 ケルベロスが私との戦いにこだわり、なんとしても私に〖再生〗を手に入れさせようとしたのは、アイリスさんを元に戻す為に必須のスキルだからだと思ってた。

 でも、本当は・・・・。

 そしてあの時ケルベロスから逃げていたら、相手が追いかけて来なかったら――、アリスは・・・今日。

 ・・・・私は、寒気のするような事実に身を抱いて震えた。


 ――優しいアイリスさんの事だから、〖再生〗を私に渡そうとしたのは、十分あり得る。


 お陰でこの私は、アリスの死を回避できた? ――回避できたんだよね!?


 私が青ざめたまま震えていると、アリスの配信から声が聞こえて来た。


『え、黒い妖精?』


 私が手洗い場の上のに置いたスマホを見ると、アリスが病室の何もない宙空を指さしていた。


 リッカが尋ねる。


『――ん? どうしたアリス?』

『なんだか、蝶の羽根を持った黒い妖精が・・・・。え、視聴者の皆さんには視えないんですか!? ―――いえ、ここに居ますよ、黒い妖精が、ほら!』

『いや、何も見えないぞ?』


 リッカの疑問の声、病室にいる他の人も首を傾げている。

 周りの反応で困惑するアリスに、撮影しているショーグン・ドローンが告げる。


『姫、MoB反応じゃ』

『えっ!? ――この妖精、MoBなんですか!?』


 アリスの戸惑いの声が挙がった。

 そしてアリスは、妖精から話しかけられているのか、何かを呟き出す。


『へっ、何を? ――「私にはもう要らない」? 「変えられなかった」? 「託す」? 「あなたには必要」!? ――な、何を言ってるんですか!?』

『姫、印石が出たようじゃ』

『あ、妖精が消え――えっ!?』


 アリスの配信から、印石が病室の床を転がる音が聞こえてきた。


『あっ、不味い、ベッドの下に!! どこいったんですか!?』


 ――えっ、見失っちゃったの!?


『〖透視〗―――あっ、ここですか。良かった有りました』


 私は、胸を撫で下ろす。

 そうか、アリスには〖透視〗があった。探し物とかに便利そうだなあ。


『こんな真っ黒な印石あるんですね・・・・なんの印石でしょう? ――ショーグン、何の印石ですか?』

『〈時空回帰〉。時間を巻き戻す印石じゃな』

『はぁぁぁぁぁぁ!?』

「ええええええええええええ!?」


❝❝❝んじゃそらあああああああああ!?❞❞❞


 私含め、みんな一斉に大騒ぎ。そらそうだよね、時間を巻き戻すとかチートもいい所だし。


 ショーグンの声が続く。


『ただし、使用できるのは一度だけ。一度、時間を巻き戻したと同時にスキルは消え去るようじゃ。戻せる時間は僅か10秒』

『な、なるほど・・・・それでも凄まじいスキルですね・・・とにかく急いで石を砕きましょう。無くしたら大変です』


 モニターをみると、アリスが印石を砕いていた。


 画面の向こうでは、黒く発光するという意味の分からん現象が起きていた。


「アリス、本当に凄いスキル手に入れたなあ。――それにしても」


 私はアリスが口にした、妖精が発した言葉らしき物を呟く。


「『変えられなかった』・・・・か」




~~~


以前は、この話の前に「憧憬」という話が挿入されていました。

現在は7-2話、以下のURLに移動しています。

最初の配信で助けられた星の騎士団の女子中学生、舞花(ペンタポット)が、アリスの妹であるという設定になってない時点で読んでおられた方は、恐らく「憧憬」を読んでないはずだと思います。


第7-2話 憧憬

https://ncode.syosetu.com/n0664js/9/


前半の喧嘩のシーンは、元はありませんでした。

結構重要な情報が書かれているので、お手数ですが読んでない方は読みに戻って貰ったほうがよいかもしれません。


また、最初に助けられた中学生がアリスの妹だという話に書き換えてある話は7話~10-2話です。

7話のURLは以下です。


https://ncode.syosetu.com/n0664js/8/


お手数掛けて、本当に申し訳ないです。

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― 新着の感想 ―
追加されてたとこ読んでなかったから分からんかったけどこんな事があったのか… 黒の妖精はアリスが死んだ世界線のスウっぽいな(妖精だし) 時空回帰が残ってるなら占い師からの確定した予言を回避では無いけど無…
[良い点] 色々と気になる描写やこの先不安となる点は多くありますが、何にせよ一先ず今回はアリスさんが無事で何よりで。 [気になる点] スウさんの印象が(根っこの部分は同じだと言うのは勿論分かるので…
更新お疲れ様です。 ……アカン。只の(?)激ムズステージ攻略から一転、情報の洪水どころかTsunamiが押し寄せて来とる!? 取り敢えずスウちゃん(と、もしかしたら極一部の地球人も?)は、古いゲーム…
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