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131 ボス討伐? します

 結ばれた腕がピクピクしてる。


 私は反転して翼を付けたことで使えるようになった、〈臨界・励起翼〉で腕を切り飛ばす。

 様子をみた空母に張り付いているプレイヤーさんが、広域通信で反応した。


『よし、みんなあのやり方で――』


 しかし、戦闘機に乗っているプレイヤーさんから返事が返ってくる。


『この嵐と弾幕の中で、出来るわけねーだろ! だいたいスウのあの飛び方なんだよ、強すぎる風を逆手に取って、わざとバランスを崩して空戦機動化してんじゃねーか』


 でも別の反応を示した三人も居た。


『まあ、出来るな』

『お前らには、エレガントなスウの真似は出来ないだろうな』

『自分も出来ますね』


 マイルズとユーさんと柏木さんが、私の真似をして腕を玉結びにする。

 流石の三人だった。


 私はフェアリーさんの機体をフリスビーのように回転させ、〈粒子加速ヨーヨー〉を主に使って広範囲の腕を一気に切り落としていく。


 こうして私と、マイルズ、ユーさん、柏木さんで半数の腕を破壊し、他の人々が半数の腕を破壊した。


 ウェンターさんから司令が掛かる。


『よし、弾幕が止んだ。全機体、本体に火力集中!!』

「りょっ!」

『オーバー』

『ああ』

『おけぇ』

『了解しました』

『おっけー』

『わかったわ』


 様々な返事と共に繰り出される、全員が持てる最大火力をドライアド本体に叩き込む。

 こうして吹き飛んだ本体の中から――

 ――核が出てきた。


 みんなが焦りだす。


『核!? まさか――あれを壊さないと、復活する!?』

『でも、もう真空回帰爆弾はないんでしょう!?』

『ちょっと、謎運営ぃぃぃぃぃぃ!!』


 大丈夫、予想通りだ。

 そして真空回帰の武器なら、もう一発撃てる。

 もしかしたら連合も予期はしていたのかも知れない。

 もう準備も済んでいる。


「命理ちゃん!」

『ええ』


 命理ちゃんが、フェアリーテイルの上で四つん這いになった。


 彼女の背中に生えた翼のようなモノ、それが紫電を発する。


 私は命理ちゃんが核に〈真空回帰砲〉を、確実に当てられるように機体をドライアドへ接近させながら、嵐を切り裂く。


「〈真空回帰砲〉発射、お願い!!」

 Copy(了解)


 命理ちゃんの口から放たれる、猛烈な閃光が核を撃ち貫く。

 ウェンターさんが驚いた声を出す。


『あ、あったのかい・・・? 真空回帰――砲?』


❝そうか、命理ちゃんも持ってたよな、真空回帰の武器❞

❝運営、真空回帰爆弾一発だけしか渡さないとかどういう事だよ❞

❝アイビーたんだと、うっかりって言うのがあるかも❞

❝あり得る❞

❝あり得る❞


「あり得る」


 私が視聴者と一緒に納得していると、核の有った場所にまた核が出現した。


「え、ちょ・・・もう真空回帰砲は撃てないよ!?」


 命理ちゃんの真空回帰砲は60万秒に1回。およそ1週間に1回しか撃てない。


『いや、あれはボス・コアだ。あれを壊せば41層以降が開放されるんだ。壊した人物は一人だけ、特殊な称号も貰える』


 あ、30層のボスの時に知らなくて壊せなかったやつなのかあ。


 星間ノーツの旗艦デュランダルに衝突して、デュランダルが轟沈したやつ・・・。


 私が自分の記憶に怯えていると、ウェンターさんの機体が私の方を見た。


『今回の貢献賞はどう考えてもスウ君だ。やってしまってくれ、スウ君。みんなも問題ないよね』

『問題ない』

『エレガントなスウの当然の権利だ』

『もちろんですよ』

『うん』


「え、いいんですか? 他にも活躍してた方一杯いましたけど」


 私は言ったけど、みんなから『OK』が返ってきた。


「じゃあ、ゴチになります」


 みんな問題無いみたいなので、私は言ってから〈黒体放射バルカン〉一発で撃ち抜いた。


 ガラスのように砕けて消えていくボス・コア。


 VRから頭に響く声。


『40層ボス、ユニークモンスター・ドライアドを討伐しました。クエスト〝精霊の包容〟をクリアしました。

銀河クレジット1000万。勲功ポイント250万を入手しました。

41層から50層までが開放されました。

ボスを倒した事で、★1 コモン称号:〖前進〗を手に入れました。

加速度5%上昇。

ボス・コアを壊したことで、★★★3 レア称号:〖開放者〗を手に入れました。

銀河連合の上層部で憶えが良くなる』


 なんだろう〖解放者〗って・・・また、完全にNPPさんたちの心の持ち様というか・・・。


「みなさん、有難うございました! 〖解放者〗という称号が貰えました!」


 通信から拍手が聞こえてくる。

 しかし、終わったものの相変わらずの嵐なのでみんなさっさと帰りたいはず。

 なんて思っていると、ウェンターさんの声が聞こえた。


『よし、じゃあ帰ろうか!! うちのクランハウスで祝賀会をするから、良かったらぜひ』


 こうして戦いは終わり、私達もティンクルスターに向かって飛行。


 リッカとアリスも合体を解いて飛んでいる。

 そんな風に帰還体勢に入っていると――急に嵐が止んだ。


「え――?」


 驚いて周りを見回すと、硫化硫黄で満ちた黄金の空に、一人の人物が浮いていた。


「人? NPP?」


『こんにちは、プレイヤーのみなさん。ボクの名前はハンプティダンプティって言いうんだけど。みなさんには、ここで死んでもらうね。あ、今回死んだら復活は無しだよ』


「は?」


 少年だった、卵の殻のような物を被った。


『スウさん危――』


 アリスが言って、通信ウィンドウが私の視界の端に開く。

 フェアリーテイルを突き飛ばしたアリスの機体が、一筋の閃光の様な物に串刺しにされる。

 大事な機能が破壊されたのか、ガス惑星の地面の無い重力の底に落ちていく、アリスのニュー・ショーグン・ゼロ。


「え――アリス!?」


 何が起こったのか理解が及ばず、アリスのニュー・ショーグン・ゼロがガスの渦に落ちていくのを見て私は、一瞬、呆然とした。

 でも、すぐにアリスの状態に気付いて、私はアリスを追って、重力の底に向かって加速。


 な、なにこれ? なにが起きた?


 ショーグンのシールドに反応が無かったから、あの閃光は熱攻撃じゃないの?


 黒体塗料で、熱攻撃は効かないんじゃないの?


 閃光は熱じゃないの?


 なぜ、アリスが落下してるの?


 なんで、アリスの機体が撃墜された?


 アリスが私を庇った?


 というかあの卵の殻を被った少年は、何者?


 頭が混乱して状況が把握できない。


 駄目だ、アリスに追いつけない――このままじゃ、アリスがガスの中に消える。


 アリスの機体の先を見れば、大量の渦巻きが見える。まるで地獄の底みたいな光景。


 視界の端のアリスのウィンドウを見ると、アリスは血を流しぐったりとしていた。そうして、うわ言のように何かを呟いている。


 私は自分の体に悪寒が走るのが分かった。


 耳の中でノイズのような物が聞こえるほど、明らかに血の気が引いた。


 リミッターを解除して〖伝説〗を使う。三択ブーストも当然、加速にした。貰ったばかりの〖前進〗も使った。

 それでもアリスに追いつけない。


 うわ言をつぶやくアリスが、何かを握っている。

 ホワイトラビットの人形だ。

 アリスが私に助けを求めている!


「〖念動力〗〖超怪力〗!!」


 私はスキルでショーグンを掴んだ。

 だめだ、止まったけど重すぎる――持ち上げられない。


「持ち上がれ、持ち上がれ、持ち上げろぉぉぉぉぉぉ!!」


 私の咆吼に反応した声があった。


『〖念動力〗』


 命理ちゃんの声だった。アリスのショーグンが持ち上がり始めた。


『大丈夫、スウ。貴女には当機がついている』

「あ、あり、ありがとう!」


 リッカの叱咤が飛んでくる


『落ち着け、スウ。光線なんか避けられないだろう、逃げたほうが良い! 今は逃げることを考えるんだ!!』


 リッカのダーリンが、ショーグンを抱えて運び出す。


『そうだ。完全に想定されていない状況だ、みんな逃げるんだ!!』


 ウェンターさんが叫んでいる。


『ティンクルスターのバリアで盾を張ります! 皆さんワープに移行して下さい!!』


 コハクさんも叫んでいる。


 私は、僅かに戻った思考に怒りが混じるのを感じた。


 アリスを命理ちゃんに預け、目を剥いて、卵の殻を被った少年にフェアリーさんを突進させる。


「私がアイツを食い止める、みんな逃げて!!」


 イルさんが何かを言い出す。


『マイマスター、アドレナリンの異常値を検出。冷静と集中を欠いています』

「黙れ、イル!!」

『マ、マイマスター・・・』


 マイルズとユーが私の前へ飛んでくる。


『馬鹿か、いつもの冷静さを取り戻せ!! 一式 アリスは無事だ!!』

『スウ、今のお前は美しくないぞ』

「邪魔だ、どけ!!」


 私はフェアリーテイルを回転させて、二人の間を抜ける。


『ちっ、こういう時にはアイツの操縦技術がネックになる』

『おいマイルズ、協力してスウを止めるぞ!』

『オーバー!』


 少年が私に指を向けようとする。

 さっきの閃光か――確かに幾ら私でも、光の速度で迫る攻撃は避けられない。けど、その指先なら避けられる!

 私は少年の指先の線を避けるように、機体を回転させる。


「お前だけは、赦さない!!」


 少年が閃光を放つが、私には当たらない。


『あはははは、避けるんだ? スッゴイねぇお姉ちゃん!』


 少年が殻の中で笑っている。

 その時、〖第六感〗が反応した。

 少年の姿が消えた。


「!?」


 次の瞬間、巻き起こる衝撃。

 命理ちゃんが、フェアリーテイルを蹴りつけていた。


『冷静になって、スウ。冷静になれば負ける相手じゃない』


 少年が突然、別の場所に現れて閃光を放つ。錐揉み回転をするフェアリーテイルの横を、閃光が掠める。

 命理ちゃんが蹴ってくれなかったら、閃光が当たる軌道だった。

 今の少年の動きはワープ? いや――波紋とかなかったし、高速移動?

 私が疑問に思っていると、少年の興味が命理ちゃんに向かった。


『おや? お前は、成田 命理じゃないか』

『当機を知ってるお前は、誰?』

『この声を聞いても分からないのか?』

『そんな声は、知らない』

『お前・・・・そうか! やったのか、全力戦闘を!』



 アハハ、アハハハハ、アハハハハハハハハ!!



 少年のけたたましい笑い声が辺りに響いた。


『本当にやるとか、お前はバカかよ。それも相当全力をだしたみたいだな』

『全力? 何の話?』

『僕がお前にプレゼントした風邪だよ』

『風邪?』

『免疫を抑えたら、記憶と感情を失うウィルスだ。僕は忠告したぞ? だけど、力への欲望が抑えられなかったらしいな』

『――お黙りなさい!!』


 急にクナウティアさんの声が、フェアリーテイルから響いた。


『お前のような輩が、命理さんを欲深い人間かのように言うのは絶対に看過できません!』

『お前は、クナウティアか。――どういう意味だ』

『命理さんは、お前が人類の記憶と思考を収めたサーバーを壊した後の〝大敗北〟の時、沢山のデータノイドの方たちのヒューマンチップ(人間)を持ち帰るために、自らの記憶と感情を失うと分かっていながら、全力で仲間を守ったのです。命理さんは力への欲望が抑えられなかったのではない――人々への愛が抑えられなかったのです!』


 この言葉に、プレイヤーたちがざわついた。


 私の視界のウィンドウで、リッカも口元を抑えている。

 だから命理ちゃんに感情がないの―――? 機器が壊れたわけじゃなかったの―――?

 しかし、少年はクナウティアさんの言葉が気に食わなかったようだ。


 少年は鼻で笑って続ける。


『その物じゃないか、争が始まるいつもの理由だ』


 けれどクナウティアさんは「違う」と、言う。


『ハンプティダンプティ、もしも人の本性がお前の言う通りだったとしても、命理さんが銃を向けた相手は、人じゃない、MoBです! だいたい人々を攫って行くお前らと、それを防ごうとする私達を同じにしないでください。真逆です!』

『MoBが人じゃない? 機械生命体を名乗る奴等の親玉が、随分自分勝手な定義をするじゃないか。――それより聴け。僕達は、この銀河の正統な後継者を保護している』

『正統な後継者?』

『この宇宙で唯一の人類である、アイリスの子供だよ』


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