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10-2 スウさんありがとうございます

◆◇Side:八街 アリス◇◆




 わたしは、スウさんのやっている事の凄さをスウさんの視聴者に伝えてから正面を見ました。


 舞花やクランメンバーの周囲に乱れ舞う、グランド・ハーピィ。


 敵が多すぎる。


 なんて数・・・・数え切れない。


 なんで舞花がこんな目に。


 違う、わたしのせいだ。

 ワンピース一つで怒らなければ・・・喧嘩なんてしなければ――いつもみたいにわたしが舞花の側にいれば、異変に気づいた瞬間に撤退してた。


「お願い舞花、死なないで」


 わたしが胸を後悔で一杯にしながら祈ると、グランド・ハーピィが、おかしな撃墜されかたをしだした。


 スウさんは普通に〈汎用バルカン〉を撃っているだけなのに、撃墜した周囲の敵まで一緒に爆散していく。

 まるで範囲攻撃。


 これ・・・・まさか。


❝この子・・・・デブリまで利用して、敵を倒してないか❞


 やっぱり!


 ――あんな高速で動き回る相手に、無茶苦茶だ。――あんなのは偶然起きる物で、狙ってやれる事じゃない!


 わたしが驚愕に眼を剥いていると、スウさんがとんでもない飛び方でグランド・ハーピィの母船に飛びました。


 ――え・・・え・・・・このままじゃ敵の母船にぶつからないですか!?


 さらに〈臨界黒体放射〉を放って、その中に突っ込んでいきます。


 光で前が見えない!

 ぶ、ぶつかる!!


「〈励起翼〉」


 え、嘘、嘘嘘嘘!!


 何言ってるんですかこの人!?


 宇宙で戦闘機を使って、この速度で翼を相手にぶつける気なんですか!?

 しかも視界が閃光に包まれて、敵が見えないんですよ!?


 ――く、狂ってるんですか!?


 スウさんが強いのは知ってますけど――こ、これは流石に有りえませんよ!!


 あああ、加速したぁ――!!


 助けを求める相手、間違ったかもしれませんーーー!


「大丈夫。ルートは分かってる」


 ルートってなんですか!?

 この人、なに言ってるんですか!?

 だれか翻訳してくださいーーー!!


「狙うは、母船!」


 って、正面から凄まじいGが!


「くっ―――Gがっ!」

「ごめん、カメラマンさん我慢して・・・!」


 〖重力操作〗!!


「だ、大丈夫です。私には〖重力操作〗のスキルがあるので」

「―――よ、良かった。――じゃあ結構無茶なG掛けても大丈夫?」

「大丈夫です!」


 〖重力操作〗を使っても、まだキツイGが掛かってきます!


「イルさん、〈励起翼〉はいける!?」

『展開済みです、マイマスター』


 スウさんが、敵が折り重なり壁のようになった場所に突っ込んで行きます。


「そ、そこに突っ込むんですかぁ!?」


 わたしは恐怖のあまり、涙を流してしまいます。


❝隙間がないぞ!?❞

❝衝突する!❞


 スウさんがほとんど隙間がない敵や弾幕の間を、スワローさんで駆け抜けて行きます。

 しかも駆け抜けながら、翼だけ敵に当てて破壊していくんです。

 なにを訓練したら、こんな芸当が出来るようになるんですか・・・!?


 実際、どんな動きをしているんですか。


 わたしは宇宙空間に望遠気味に置いているカメラドローンの映像を確認します。

 すると、宇宙に光の帯が引かれていました。


 光の帯がぐねぐねと、宇宙に竜でも生まれているのだろうかという感じで。


「ほ、本当に頭おかしい軌道を描くんですねーーー!」

「え―――カメラマンさん、頭おかしい軌道とか言わないで!?」


❝いいや、これは頭おかしい❞

❝狂人軌道❞


 ほら、皆さんも同意見らしいですよ!

 

「視えた、母船」

「どんどん敵の数が増えてますよ!」

「イルさん〈臨界黒体放射〉のち、〈励起翼〉を思いっきり伸ばして!」

『〈臨界黒体放射〉発射。〈励起翼〉全力展開、イエスマイマスター』


 正面が〈臨界黒体放射〉の閃光に包まれます。


 閃光が止むと、今度は正面に暗闇がありました。


「え、なに!? ――さっきまで正面にあった、敵の母船は何処に行ったんですか!?」

「カメラマンさん、右!」


 スウさんの言葉にわたしは、カメラを右に向けます。


 そこには孔だらけの敵母船表面が、路面のように。


「もう〈励起翼〉で斬りつけてるんですか!? ――どうやって閃光の中、敵スレスレで急カーブしたんですか!?」

「距離と速度から計算!」

「あの一瞬で!?」


 爽波の首席は、頭の回転速度どうなってるんですか!?


 スウさんは、そのまま母艦を撃破してしまいました。


(――やっぱり〝涼姫ちゃん〟はカッコイイ)





◆◇◆◇◆





 母船が沈むと、星の騎士団から通信が入って来ました。


『こちら、星の騎士団(ステラーリッター)所属空母ラストアンサー。救援感謝する。そちらの所属を明かされたし』


 スウさんが急に「私の所属?」とか言って悩み始めたので、わたしが先に声を掛けます。


「舞花、みなさん、大丈夫ですか!?」


 すると、舞花の驚くような声がまず返ってきました。


『・・・お、お姉ちゃん!?』


 その後、クラメンの声が聞こえます。


『あ、このフィルターの声はアリスさん! みんな、もう大丈夫だ! アリスさんが助けに来てくれたぞ!!』

『うおおおおおお!!』


 あ、これ勘違いしてる!

 わたしじゃなくて、スウさんがみんなを助けたのに。


「いや――舞花、みんな! 私が助けたわけじゃ――ちがいますよ・・・・!」


 その後一悶着あってから、わたしはスウさんに謝ります。


『というか、鈴咲さんがみんなを助けてくれたのに、わたしが助けたなんて勘違いさせちゃって、あとで言っときます』

『えっ!? そ、そういうのは、気にしないで・・・?』


❝スウたん、アリスたん。合体メカ探して、合体しよう。――真勇合体(しんゆうがったい)アリスウ❞


 スウさんとわたしが合体!?

 何を言ってるんですか!?


「し、しんゆう合体とか止めて下さい!」


 わたしが顔を赤くしていると、スウさんが空母ラストアンサーへ通信を送る。


「じゃあ、星の騎士団の皆さん。あとは雑魚を掃討するだけです!」


『アリスさんの機体に、もう一人いる?』

『アリスさんの補助パイロットさんか、頼む!』

『母船が消えても、俺たちにはグランド・ハーピィは厳しいんだ』


 スウさんが皆さんに返事をする。


「お任せ下さい! じゃあ私達が敵を引き付けるんで、広範囲の最大火力で敵を殲滅して下さい!」


『オーケー! 光崩壊エンジン出力最大へ!!』

『了解、光崩壊エンジン出力最大へ!』

『チャージ開始』『チャージ開始!』

『アリスさん、3分間敵を引き付けて下さい!』

『『『よろしくお願いします!!』』』

『お、お姉ちゃん・・・』


 まだみんな勘違いしているみたい。

 わたしはスウさんに頭を下げる。


「あ、あとで言っときますね」

「いや、本当に気にしないでいいから・・・」


 その後スウさんは、次から次へとグランドー・ハーピーを撃墜して行きました。

 わたしも全く手伝わないのは悪いので、射手として撃ちますが、見事に当たりません。

 ・・・わたしが撃つ弾丸って、何故か全く当たらないんですよね。


 なんでこんなに当たらないんだろう? と首を傾げた時です。

 舞花の機体――ロブが被弾しました。

 わたしは思わず悲鳴を上げていました。


「舞花―――ッ!!」


 コックピットが剥き出しに――不味い・・・! あの子を護る物が何も無い!

 舞花の前に、グランド・ハーピィが立ちはだかっています。


 舞花の表情(かお)が、凍りつきました。


 あんな所へ攻撃されたら、舞花が完全に消え去る。


 復活できるから大丈夫?

 ――違います、連合の復活というのはいわゆるスワンプマンです。


 死んだ後復活できたとしてもそれは本人ではない。――クローンみたいなモノです。

 あの舞花が死んだら、あの舞花は天に召される・・・!


 わたしが青ざめていると、スウさんが歯の間から鋭い息を吐きました。


「―――ッシ」


 そうして、足を床に叩きつけます。


「――うぉおおおおおおおおお!!」


 モニターに映るスウさんの瞳の光が消えたのが分かりました。

 

 スウさんの腕が素早く動きます。

 

 〈励起翼〉、加速リミッター解除、三択ブーストの加速。


 わたしは、スウさんの凄まじく正確で機敏な動きを見て驚きつつも、いつ強力なGが襲って来ても耐えられるように〖重力操作〗を準備します。

 ――もしもの時はスウさんに〖重力操作〗を掛けましょう。


 スウさんよりわたしのほうが筋力があるので、ある程度Gに耐えられます。


「称号発動―――〖伝説〗!! いっけぇええええええええええええ―――ッ!!」


 さらなる加速感を、身体に受けました。

 す、凄まじい加速――こんな加速、感じたことが有りません!


『マザーに追いつけない!!』

『ママ、はやすぎる!!』


 ドリルドローンも付いてこれないようです。


 シートが動いて、わたしとスウさんが寝転ぶ姿勢になりました。


 並行モード、体験するのは初めてです。

 わたしはここまで加速したことがありませんし――こんな速さはコントロールできない。


 スワローさんの色が、黒から白銀に変わりました。

 すごく奇麗。


 スウさんが目を剥き出して、舞花に向かいます。

 すごい、これだけの速度を出しながら、ギリギリのGに抑えている。

 流石としか言いようがありません。


 でも、別のグランド・ハーピィの一機が、スワローさんの前に立ちはだかろうとしました。


「邪魔だ、―――どけぇッ!!」


 スウさんが〈汎用バルカン〉でグランド・ハーピーを撃って、宇宙空間に弾き飛ばします。

 お手玉かパチンコみたいにされて、飛んでいくグランド・ハーピー。


 するとスウさんがかなり無茶なカーブをしました。


 ここだ――!


「〖重力操作〗!」


 わたしはスウさんにスキルを掛けました。


 代わりにわたしは思いっきり腹筋と下半身に力を入れます。

 それでも、わたしでは筋力が足りず一瞬ブラックアウト。

 ですが、ブラックアウトからは直ぐに回復したみたいです。

 景色があまり変わっていません。

 だけど、舞花の姿がだいぶ近くに視えてきました。


 舞花は、脱出用転移装置があるシートのサイドレバーを引いています。

 でも転移が行われない。


(脱出できないの・・・!?)


 ―――こ、このままじゃ、舞花が殺される!


 すると、舞花の声だけが通信から聴こえてきました。


 なにか普段は明るい舞花らしくない、硬くて重い声でした。


『お姉ちゃん、ごめんなさい――』


 なんですか? その声・・・。


『――私、あのワンピースがお姉ちゃんの大切な思い出の品だなんて知らなくて・・・』


 お父さんに聞いたの?

 ―――でも、そんなのは、もうどうでもいい!!


 わたしは、いつの間にか身を乗り出していました。

 貴女が生きていればわたしはそれでいいの!!


「舞花! ―――いいから、もう怒ってませんから! 諦めないで!!」


 ――遠くの舞花の涙を溢れさせた笑顔が、わたしの方を視ました。


『お姉ちゃん―――大好きだから。ずっと、ずっと・・・』

「・・・舞花、そんなのわたしも同じです! ―――だから生き残って!!」


 舞花からの通信が切れた。


「スウさん、舞花を助けてぇ―――!!」


 舞花が姿勢を正して、死を受け入れるように目を瞑りました。


「まかせて!!」


 私が叫んでいると、スウさんが咆哮を上げました。


「間ぁにぃぃ合ぁぁぁえええぇぇぇええええええぇぇぇぇぇぇ―――ッ!!」


 空気をビリビリと震わせる程の大声、気弱そうなスウさんの物とはとてもは思えないような。

 ――獣の様な雄叫び。

 

 舞花を狙うグランド・ハーピィが、口のようなものを開きます。

 ――口の中で、エネルギー体がわだかまっている。


 舞花の身体が、緊張に固まります。


 スウさんが〈汎用バルカン〉を連射。


 完璧にグランド・ハーピィに命中します。――だけどハーピィを倒しきれない。

 お手玉されているグランド・ハーピィは、舞花を狙ったまま。


「しつこいんだ、お前ッ――消えろ! ――その子は、()らせるかァァァァァァァ―――ッ!!」


 スウさんが、驚くほど乱暴な言葉を発しながら、スワローテイルの翼をグランド・ハーピーにぶつけました。


 真っ二つになるグランド・ハーピー。


 ――やった―――!!


(――舞花は、舞花は無事ですか!?)


 私が舞花を探していると、


『ま、舞花ちゃん、―――今すぐ空母に戻って!』


 そ、そうだ、空母に戻ってもらわないと!

 わたしは完全にパニックっていて、一番にすべきことを忘れていました。

 すると舞花の戸惑った声が返ってきました。


『え、誰――助かっ―――? あっと、――は、はい!!』


 でも戸惑いながらも舞花は空母に向かいました。


 良かった・・・本当に良かった。

 わたしは安堵のため息と共に、眼から涙が溢れてくるのを感じました。


「―――舞花・・・舞花・・・・」


 嗚咽が抑えられません。


「・・・・良かった。スウさん、ありがとうございます・・・ありがとうございます―――」


 スウさんが、私を振り返りました。


「大丈夫!? カメラマンさん! ――ごめん、とんでもない飛び方をして! Gは――身体はなんともない!?」


 スウさんはもしかして、わたしが一瞬ブラックアウトしていた事に気づいていたんでしょうか――戦闘機にもバックミラーは有りますし。

 この人は感謝の言葉より、わたしの先に身を案じてくれる。

 わたしは立ち上がって、尊敬するクラスメイトに抱き着きました。


「―――それより妹を助けてくださってありがとうございます!! Gなんて問題ないです!!」

「そ、そっか良かった、ごめん。舞花ちゃんを助けたのに、八街さんになにか有ったら・・・って・・・良かった」

「いえ! 謝らないで下さい!! それより舞花を救ってくれて、本当に有難うございます・・・っ!! もう少しで、舞花と喧嘩したままになる処でした」

「・・・・うん、八街さんの妹さんが助かってくれて、本当に良かった」


 スウさんが抱き返してくれます。

 温かい―――安心する。

 やっぱりこの人は、わたしのヒーローだ。

 わたしが安堵していると、バックミラーに影が。


「あっ! ――後ろから、さっき弾いて躱したグランド・ハーピィが来ます!」

「――不味いっ!」


 ここからもスウさんは見事な手際でハーピィを撃墜しながら、囮をこなしていくのでした。


 敵を全滅させるとラストアンサーのブリーフィングルーム兼映画館に呼ばれました。


 なので、舞花とみんなを助けたのはわたしではなくスウさんだと説明しました。


 すると、みなさんがスウさんに頭を下げました。


「アリスさんじゃなくて、もう一人の(かた)が助けてくれたなんて!」

「お、お姉ちゃんより強い人がいたなんて・・・」


 頭を下げるラストアンサーの艦長山下さんと、スウさんに抱きついている舞花。

 というか舞花は、なぜスウさんに抱きついているんですか?

 また怒りますよ?


「だからスウさんが助けてるんだって、何度も言ったじゃないですか!」


 スウさんがわたしを諌めてきます。

 でも、スウさんもスウさんです。

 わたしの妹にデレデレするのは止めて下さい。


 スウさんも舞花も、わたしのなんですよ!?


 スウさんが恥ずかしそうに慌てます。


「皆さんも気にしないで下さい! やち――カメラマンさんもまた舞花ちゃんと喧嘩になったらどうするの」


 それはそうです・・・。


 わたしがちょっと黙っていると、スウさんが自分の顔を見ている舞花に気づいて、顔を揉み始めました。

 スウさん、なんか変な事を考えてそうです。 


 わたしは人の内心を読むのが得意なので、なんとなく分かります。

 スウさんが自分の顔をこねているのを眺めていると、舞花が要らないことを言い出しました。


「ねえ、スウお姉ちゃんって・・・お姉ちゃんのスマホ――」


 わたしは、急いで舞花の口を押さえます。


「むごっ」

「シーーー!!」


 な、何を言い出すんですか、この子は!

 出会ってあんまり経ってないという事になっているわたしが、出会って数日でスウさんをスマホの壁紙にしてるなんて知られたら、わたしがスウさんを遠くから見てるキモい女子だってバレるじゃないですか!!


 しかし、舞花がわたしの手の中で〔もう言わないから! 聞かないから!〕と叫んでいるようなので、手を離します。


 わたしが手を離すと、舞花はまたもスウさんの顔をしばらく見詰めて頷きます。


「・・・・やっぱり、間違いない」


 確信したようですが要らないこと言ったら、今度ばかりは本当に許しませんからね・・・。




 こうして舞花は助かり、わたしに日常が戻ってきました。


 事件があった日の夜、わたしはリビングでソファに仰向けに寝そべり、タブレットPCでスウさんの初配信を眺めていました。


「あっ、また変なドリフトしました。・・・なんなんでしょう、これ。――ロケット噴射もしてませんし、機体はどこも動かしてないのに、機体が僅かに回転してます」

「お姉ちゃん、お風呂いいよー」


 お風呂から上がった舞花が髪をバスタオルで拭きながら、リビングに入って来ました。

 わたしはもう少しアーカイブを確認したいので、頭を裏返すようにソファの肘掛けにぶら下げて、日本酒を飲んでいたお父さんを見ます。


(あー、またお風呂の前にお酒飲んでる――お母さんに「危ないでしょ!」って怒られるよ?)


「お父さん、先入ってー」

「ん!? ――おー!」


 お父さんが「やばっ!」という顔をした後、日本酒を棚に静かに仕舞ってリビングを出て自室に向かいました。

 舞花がドライヤーを机に置いて、近寄ってきます。


「お姉ちゃん、なに視てるの?」

「スウさんの配信」

「あ、この前の配信のアーカイブ?」

「そうそう」

「私も視る!」


 言った舞花が、寝転んでいるわたしに覆いかぶさって来ました。

 舞花、それは「寝転ぶ」ではなく「ボディプレス」と言うのです。


 舞花の鏡美お母さん譲りの大きめの胸が、お父さん似のわたしの胸の上で潰れます。


(―――くっ。スウさんにしても、舞花にしても・・・!)


 わたしはタブレットPCを横にして、舞花と二人で視始めました。

 すると舞花が、スウさんが何をしていたのかを初めて目撃して、驚きを顕にし始めます。

 例えば〈臨界黒体放射〉を放って、グランド・ハーピィの群れに飛び込んでいくシーン。


「――えっ、〈臨界黒体放射〉の光で前が見えない・・・〈励起翼〉って、まさか・・・」


 光に包まれる画面、真っ白で何も視えません。


「う、うそうそうそ・・・!」


 白が晴れると、無数の小型機と弾幕。


「ひ―――っ」


 あんまりな光景に、舞花が小さな悲鳴を上げました。

 〈臨界黒体放射〉で敵を貫いて出来た空間も、カーテンが閉じるようにグランド・ハーピィが殺到してきて、瞬く間に閉じます。


 舞花が、タブレットPCの画面にホラー映画でも映っているかのような表情で、わたしに尋ねてきます。


「スウさん、ここに突っ込む気なの!?」

「そうなんだよね」

「むりむりむり!!」


 流石姉妹、私がストライダー協会のモニターで、初めてスウさんの操縦を見た時とそっくりの反応ですね。


 画面に高速で迫ってくるグランド・ハーピィと弾幕が、コックピットの側をかすめて行きます。

 ほとんど隙間がないそこを、スワローテイルが回転とドリフトを繰り返しながら縫っていく。


 さらに母艦を〈励起翼〉で真っ二つに。


「つ、強すぎない?」

「意味分かんないでしょ」


 その後、舞花が被弾してピンチになります。

 画面の中のわたしが悲鳴を上げると、スウさんが吠えました。


「間に合えー!」と。


 そんな声に、舞花が小さく震えました。

 やがて、妹は鼻をすすります。

 みれば舞花の目に、涙が溢れていました。


「私、もう諦めてた」

「だったね」

「こんなに必死で助けようとしてくれてたんだ・・・」

「そう、だよ」

「命掛けで」


 わたしが舞花の頭をゆっくり撫でていると、画面の中のスウさんは、稲妻のようなカーブをしていました。


 舞花が瞳から雫を溢れさせながら、わたしの胸に顔を埋めました。


「ごめんなさい、ごめんなさい」


 わたしは、舞花の頭をゆっくり撫でたまま返します。


「生きててくれてありがとう」

「うん・・・助けてくれて、ありがとう」

「お礼はスウさんに、ね」

「うん」


 スウさん、本当にありがとうございます。

 わたしは今回、妹の――舞花のかけがえのなさを、思い知りました。

 そして、スウさんのお陰で失わずにすみました。


 わたしは舞花を抱きしめます。


「大好きだよ、舞花」

「わたしも・・・お姉ちゃん」


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