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119/468

117 最終決戦に入ります

◆◇◆◇◆




 メープルは天才だ。

 彼女は天才だが、彼女が持っているのは運営の無料プレゼント機体。

 ――初心者用の機体。


 加速力も、旋回力も、火力もない。回復力しかない。無い無いづくしの機体。

 そんな機体では、彼女と同じくする天才3人が駈る特機から逃げ切れる訳がない。


 たとえメープルが頭一つ抜けた天才だったとしても、相手は3人。


 轟沈していくシプロフロート。


『楓!!』


 VRの余りのリアルさに、仮想現実だと言う事を忘れて叫んだリッカをアリスが宥める。


『リッカ大丈夫です! これはVRですよ、メープルさんは死んでません!』

『そ、そうだった――ごめん・・・忘れてた・・・』


 荒い呼吸のリッカ。

 そこへ、容赦のない爆撃。


『―――きゃあああ』『ぃぃぃぃぃぃぃ』


 スナークが、ナイト・アリスに爆撃を仕掛けながら、アリスに語りかける。


『アリス。分かっただろう、そんな弱小クランにいてどうする。戻ってこい』

『黙って下さいスナーク――いや、姉さん! そろそろ妹離れして下さい!』


 スウは既に知っていることだが、スナークが一式アリスの姉だというのは一般に初めて公表された。


 赤い閃光のアリスにして、モデルであり、歌手であり、声優であり――とにかく肩書の多い一式 アリス。


 スナークにしても、有名なFPSプレイヤーにして作曲家でありスタントマンまで出来る。


 クレイジーギークスのクランマスターが、スナークの妹だという事実が拡散されて大騒ぎになる会場と配信。


❝ふぁーーー!? スナークって一式 アリスの姉なの!?❞

❝つか、スナークって女性だったの!? 背ぇ高いし、声低いし男性だと思ってたwww❞

❝いやだって、スナークってあの体型と格好だもんw❞

❝顔変えアイテムで男にしてんじゃん❞

❝胸が姉妹だよな❞

❝二人共、お父さん似❞

❝ネタバレやめろw❞


『クレイジーギークスは、負けたクランに入る約束だったな。負けたら星の騎士団に入って貰うぞ、お前だけでも絶対にな。通信終わり』

『ふざけ――通信を切るな!』


 プロのFPSプレイヤーであるスナークの弾丸が、ナイト・アリスを襲う。

 アリスはバリアで防ぐが、もうシプロフロートは居ない。

 ひたすらバリアが削られていくだけで、回復は出来ない。このままではジリ貧。


 とうとうバリアが砕かれかけて、リッカメインのムシャ・リッカに変形。

 しかしリッカの姿が消えるような体術でも、相手の砲手である天才スナークの目からは姿を隠しきれない。

 このままでは、リッカとアリスには敗北が待っているだけだった。


 ここで、アリスは或る手を思い出す。


「リッカ、特機とはいえ、相手は一機です。分離して、スウさんに教えてもらったあの策を使いましょう」

「なるほど・・・」


 アリスとリッカが合体を解く。

 そしてアリスだけが、フラグメントに突っ込んでいく。


「笑止千万。合体機が弱体化して、しかも片方だけが突っ込んで来てどうする!」


 スナークが眼を鋭くする。


「油断するなジョセフ、相手も馬鹿ではない。なにか考えがある筈だ」


 ユーが笑った。


「その考え見せてもらおうか」


 ユーは迷わずアリスに突進、至近距離戦の距離まで来た。


 ショーグンの〈刀リボルバー〉と、フラグメントの足についた〈励起翼〉が切り結ぶ。

 分離した合体機のパワーでは、合体した特機のパワー――それも特機の特殊能力で強化された近接攻撃に耐えきれず、吹き飛ぶショーグン。


『どうしたどうした!』


 フラグメントの繰り出すブレイクダンスのような動きの蹴り技が、ショーグンに雨あられと降ってくる。

 一撃一撃が強烈な攻撃――硬いシールドを持つショーグンですら命中すれば、即シールドが砕ける。

 たまらずショーグンは、背中を見せて逃亡。


黯然銷魂(あんぜんしょうこん)。あの赤い閃光が、まさか尻尾を巻いて逃げるとはな!』


 ユーがアリスを追いかけだす。


『まさか、背中を晒して俺から逃げきれるとでも』


 確かにユーの操縦テクから、アリスが逃げ切れるわけがない。

 それでもアリスは、大きく円を描くようにして逃げ続ける。


『無駄だ、円を描いた程度。そんなドッグファイトのドの字も分かってないような動きで、俺から逃げられるわけがない』


 だがアリスの動きを見て、飛行機FPSのプロでもあるスナークが気づいた。


『まずい!! ユー躱せ!!』


 スナークの予想は当たる。

 フラグメントのサイドから、ダーリンが迫っていたのだ。

 ダーリンの放つ矢が、フラグメントに命中する。

 チャージ100%の強力な矢の一撃が、フラグメントのシールドの四分の一を削る。


 アリスとリッカは、アリスを囮にして、リッカが攻撃する形を取ったのだ。

 スナークが舌打ちをする。


『アリスがこんな作戦を知っている筈がない――誰だ、アリスにこんな入れ知恵をしたのは・・・・スウか!?』

『その通りですよ、姉さん。――これこそスウさんの教えてくれた、サッチウィーブ戦法です!』


 サッチウィーブ戦法は、昔のアメリカ軍が生み出した航空戦術である。

 2機1組で動き、2機の内1機が囮になり、相手の1機を効率よく攻撃する戦術だった。

 数的有利を利用した、非常に強力な戦術である。


 ショーグンとリッカが、互いに鏡写しにSか、二人で8の字を描くように――クロスする波のように飛ぶ。

 そうして波の軌跡が交差する瞬間、リッカが矢を放つのだ。


 攻撃できる瞬間は少ないけれど、奇しくもリッカの武器はチャージすることで威力の上がる弓だ。

 僅かな時間しか攻撃できないのは、むしろ好都合だった。


 リッカがわざわざ正面からユー達に迫り、弓を放ちながら告げる。


『幾ら弾丸を躱すお前でも――正面から狙撃され、そちらの速度とこちらの矢の速度が足し算されれば、到達時間が速すぎて簡単には躱せないだろう。それにわたしは、そちらの動きが何となく読める程度には武に習熟している』


 リッカの矢が、またもフラグメントに炸裂する。


『くっ、まさか分離状態にこんな強みがあるとは・・・!』


 だが、スナークが笑った。


『ふっ、ならこちらも分離だ!』


 フラグメントが赤青黄――3つの飛行機に分離する。


『合体メカのアニメとかに詳しくない姉なら、ワンチャン気づかないかと思いましたが・・・・気づかれましたか』


 アリスが呻いた。


『スウが言っていた通りの展開になったか』


 リッカの表情も固くなる。


『さあどうする? 3対2だぞ。しかもコチラは天才飛行機乗りのユーと、戦闘機の操縦に非常に長けた俺がいる』


 勝ち誇るスナークに、通信が聞こえてきた。


『ちがう、3対3だ!』

『なっ――』


 スナークが振り向けば、黒いスワローテイルが猛然と近づいてきていた。


 スナークは歯ぎしりをする。


『――っクラマスの奴・・・必勝の作戦だとか言って、負けたのか!! だが、どうやって〖読心〗と、〖騎士道〗を持ったクラマスを破ったんだ、スウの奴は!』


❝だってその子、人間か怪しいもん❞

❝でも確かにスウはおかしい。心読まれた位じゃ、なんともないとか何だよ❞

❝人間じゃないヤツの思考は、人間のウェンターには理解できなかったんだよ・・・❞


 スウが直ぐ様、黄色い機体フラグボトム――ジョセフに向かう。


『不味い、ウィークポイントを狙ってきやがった!!』

『俺、ウィークポイントかよ』

『お前はドッグファイトを、全くできないだろう!』


 そんな風にスナークとジョセフが言い合いをしている間にも、スウのバルカンの弾がジョセフのフラグボトムを撃ち続ける。

 砕ける、フラグボトムのシールド。


 ユーが嬉しそうに叫ぶ。


『――戻ってきたか、スウ!!』

「それ以上やらせません!」

『合体するぞ、このままではジョセフがスウに墜とされる!』


 瞬く間に合体を始めるフラグメント。


 けれどスウは、合体中というチャンスを逃す人間でもない。〈次元倉庫の鍵〉を開いて一斉掃射。

 フラグメントのシールドを砕いた。

 スナークが文句を言う。


『あまりロボットアニメを見ない俺でも知っているぞ――合体中は攻撃しないのが約束ではないのか!?』

「本当に知らないみたいですね。合体できないピンチは、合体メカのお決まりでしょう。攻撃されるようなタイミングで合体するほうが悪いんです。さあ、シールドが割れましたよ! そっちももうヒーラー機体が居ないんだからこれで終わりです。――もう一回、一斉掃射!」


 畳み掛けてフラグメントを破壊しようとするが――


『〖次元防壁〗』


 スナークの声で、フラグメントの周囲を覆う、謎のバリア。

 スウの攻撃が謎のバリアに防がれる。


「な、なにこれ!? 〖次元防壁〗!?」


 スナークが笑った。


『惜しいな、あと一歩だったのにな。――だがウェンターを倒した攻撃程度では、フラグメントは墜とせないぞ。特機と〖次元防壁〗――機体強度が違う』

「スキルでバリアなんて―――ずるい! ――でも、つまり私とアリスやリッカの攻撃を合わせれば、その機体を落とせるだけの火力が生み出せると―――?」

『どうだろうな?』


 するとジョセフが説明してしまう。


『おいおい。明朗闊達(めいろうかったつ)堂々行こうぜブラザー。そうだ、2機の火力を以てすれば落とせるだろうな』

『ジョセフ・・・・お前、バラすな・・・!』

『けど、できるかな? リッカとアリスは俺たちに追いつけねぇぜGuy's!! サッチなんとかってのは、こっちが囮を追いかけられないとできないんだろう? もう、こっちは追いかけたりしない』


 スウは「この人は女性でもGuyと呼ぶらしい」と理解する。


「なるほど、じゃあアリスとリッカをそちらに追いつかせてみせますよ!!」

『できるものなら!』

『ジョセフ、お前ちょっと黙れ!』


 するとユーまで、ジョセフに賛同した。


『いいやまてスナーク、面白い。俺をリッカや、アリスの間合いに追い込む気か? スウ、俺を相手にやれるものならやってみろ!』


 スウがフラグメントに向かう。

 だが、フラグメントは後ろを取らせない。

 並走する。


『どうしたスウ、並走でどうやって追い込むつもりだ?』


 フラグメントのバルカンが、スウに飛んでくる。

 スウはバルカンを躱そうとして、むしろアリスとリッカから離れてしまう。

 歯噛みする、スウ。


(――どうすれば、この人達に勝てる?)


 スウが思考している間にムシャ・リッカになったリッカたちの機体が弓を放つ、時折フラグメントに命中しかけるが、サイドや背後からでは、殆どはユーのテクニックで躱される。

 命中すれば次元防壁は揺れるが、破壊するまでには至らない。


 スウは、状況を整理しだす。


(分断された今のままじゃ、1vs3か2vs3のままだ。なんとか私達3人が力を合わせて戦闘に参加しないと、この人達には勝てない。どうやって3vs3になる? ――)


 そうして気づいた。


(そうか!)


「確かに私一人じゃあの人達が力を合わせると、勝てない――でも、これなら!」


 スウが反転――そして彼女が展開した行動に、この試合を見ているほぼ全ての人間が驚愕した。


『『『なに?』』』

❝えっ?❞


 スワローテイルが、ムシャ・リッカに〝腕を伸ばした〟。

 中途半端な変形で、飛行形態のまま――腕だけ動かしてムシャ・リッカを掴む。

 そして、高速飛行を始めた。


『な、なんですかこれ』

『スウが私達を飛ばしてる―――?』


()()?❞

❝そうか、腕で掴んで運ぶ合体だ! これならスウの操縦と、アリスとリッカの攻撃力が生きる!❞

❝ここで、3人で合体するのかよ!❞

❝こんなのVRとリアルを、同時に操作できるスウにしか無理じゃんワロwww❞

❝これで、3対3になるぞ! ――相手の3人が力を合わせればスウも負けるけど、スウも同じく3人になれば――アリスやリッカと力を合わせれば、勝てるかも知れない!❞

❝スウ、アリス、リッカの力を一つに!❞


『なんて事をしやがる!』

『はっはっは、奇々怪々! やるなGuy's!』


「名付けて、ムシャ・リッカ(エス)です!」


❝自分をSって略しちゃう所が、凄くスウwww❞

❝控えめに言って、控えめすぎw❞


 ユーがニヤリと笑う。


『なるほど合体メカの3対3という事か。しかし、これでハンデなしとは行かないぞ。こっちは特機対してそちらは、通常機で3機分の重み――』

「〖伝説〗!」

『そうだったな! スウ、お前はそうだった!』


 通信からユーの嬉しそうな声が漏れてきた。


「――それにここは宇宙です。直進加速に関してはむしろ3機分の推進力で速いですよ!」

『機体のハンデすら無くなった! だが、後ろは取らせないぞ!』


 リッカの底冷えするような低い声が、ムシャ・リッカSの横を、嬉しそうに並走するユーに掛かる。


『今はもう、合体メカだって事を忘れてないか?』


 リッカが、横を飛ぶフラグメントを弓で撃った。

 充填されたエネルギーで放たれた、巨大な矢が炸裂して、スナークの生み出した次元障壁を揺らす。

 スナークが舌打ちをする。


『ち―――っ、お前らに出来る事をコッチに出来ないとでも!!』


 スナークは右腕に付いたバルカンを放つ――が、スウは避けてしまう。

 スナークがユーに文句を言う。


『もう少し当てやすい飛び方をしろ!』

『お前が俺に合わせれば良い』

『なんだと!?』


 フラグメント内部で、天才たちの衝突が起こり始めた。

 その隙を、スウとリッカは逃さなかった。


『リッカ!』

『応!』


 スウは〈励起翼〉の右だけを展開。

 特機化したスワローテイルの凄まじい出力で、横滑りが起きる。


『立花放神捨刀流。参の秘剣――小太刀二刀流(こだちにとうりゅう)継木の木立(つぐきのこだち)


 タイミングよくスワローテイルがムシャ・リッカから手を離すと、霞のように姿を消したムシャ・リッカが逆手に持つ、2本の短い刀を燕返しのように動かした。

 つまり二刀流による、燕返し。


(うわっ、宮本 武蔵さんと、佐々木 小次郎さんのコラボ!)


 スウが脳内で余計な妄想をしている真横で、まず鋭い3連撃が次元障壁を破壊。

 そうして、最後の1撃が繰り出される。


『小手ェェェェェェ!!』


 切り飛ばされるフラグメントの右腕のバルカン。

 リッカは最後の一撃をそのまま伸ばして、コックピットまで破壊しようとするが、火力が足りない。


『届かないか!』


 だがフラグメントのメンバーを混乱させるのには、今の一撃で十分だった。


『〖次元障壁〗! ――くそっ!! ユーなんで避けねえ!!』

『見えねぇんだよ、あのリッカとかいうガキの動きは―――! スウ以外に、あんな化け物がいるとは』


 ジョセフが蹴りを繰り出すが、リッカは小太刀で受け止める。


『ヒュー――なんだこの少女の動きは、モーションキャンセルでもしてるのか?』


 スワローテイルが再びムシャ・リッカを掴んで、有利を取るためフラグメントから離れていく。

 アリスが宣言する。


『両腕のバルカンがなくなりました。これでもう、そちらは並走しながらの攻撃ができませんね!』

『いいや、そうでもないぞ――ユー正面を奴らにむけろ!』


 スナークが言うと、ユーがムシャ・リッカSにフラグメントの正面を向ける。

 フラグメントが、ムシャ・リッカSに正面を向けたまま慣性だけで横向きに飛ぶ。


 大気中なら長時間は不可能な飛び方だが、ココは宇宙空間なので無茶な飛び方も出来る。

 フラグメントの肩の大砲が放たれる。


『無駄ですよ、こんな連射の効かない攻撃がスウさんに当たる訳有りません』

『――くっ』


 ユーは好き勝手に飛ぶが、スウはリッカが狙いやすい軌道で飛ぶ。

 スウと心を合わせたリッカの弓は、フラグメントを捉える。

 そこからはフラグメントだけが、攻撃を受ける展開になるのだった。

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― 新着の感想 ―
アリス成長回のフラグ? 射撃は当てない、近接戦はリッカ、飛行はスウ。 本当にどうしよう
ちなみにスウがやった擬似合体は、イメージ的に背中に張り付く感じと手を繋いでぶら下がる感じのどっちでしょうか?
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