115 ピンチが訪れます
ユーがギリギリでデブリとミサイルを躱して、機体を立てて逃げようとする。
ユーは、熱いため息とともにスウに語りかける。
『流石だ、スウ。ドラマティックな展開だ』
「その癖のある表現、鳥肌が立つんで止めて下さい!」
『君の思考は、誰より美しい』
「やめろおおおお!」
❝ちょ・・・ユーとかいう、コイツ誰ぞ❞
❝スウは、俺の嫁だ!❞
❝スウのガチ恋勢・・・❞
❝ユニコーン・希少種❞
❝REDリストだ、環境省に連絡しなきゃ(使命感)❞
「コメントお前ら、失礼だと思わんのか!!」
『しかしスウ、美しい思考だが、俺には通用しない』
ユーは宙返り反転、ミサイルを〈疑似・励起翼〉で薙ぎ払う。
そのままスウに一直線に向かってくる。
「ちょ、ぶつかる!」
スウは、ミサイルを破壊して迫ってくるユーに慌てて、上昇で躱した。
『確かに俺は、AIMでお前に負けている。AIMなどに興味がないからな。――だがスウ、お前は俺に勝てない――なぜなら、お前は俺を理解していないからだ。俺は、お前が美しい思考で回避すると知っていた。しかしお前は、俺のこの後を知らない。俺は、AIMの不足分を、お前への理解で補おう』
ユーが、逃げたスウの背後を取る。
「わああああん、寒イボがああああ」
『俺に勝ちたければ、俺を理解しろ。俺をお前の心の中に置くんだ』
❝イカれ切ったヤツだなもうwww❞
❝振り切りすぎててワロうwww❞
『俺はお前の心の一番深い所まで潜り込んで、動かない存在になりたい』
「手短に、死んで下さいー!」
『俺にはお前の未来が見える。なぜならお前を深く知っているからだ。オレの心の奥深くにお前が住んでいるからだ。昔の人も言っていただろう、敵を知れば100戦危うからず』
「その格言は、彼を知り己を知りです! 貴方はまず己を知れ! あと恥を知れ!」
『スウ、お前に比べたら俺にとって俺の存在なんてどうでもいい。それよりもお前が俺を知れ、そして俺を心の一番深い場所に住ませるんだ、さもなくば俺は殺せないぞ。俺はお前に知られるために、お前の敵であり続けよう――俺に勝つにはお前にとって、俺がお前より大切な存在にならないと無理だぞ』
「貴方だけは、ありえません!」
スウが、宇宙でトンボを切るように反転する。
「私に、ドッグファイトは無意味です!」
『ああ、知っているさ。俺はお前の理解者だ』
「理解者の使い方が、普通と違うんですよ!』
『さあ、お前も俺の理解者になるんだ』
「だれかー! この男の暴走を止めて下さいー!」
『俺を止めたければ、息の根を止めてみろ。お前という存在に、ときめいている心臓で、お前でリズムを刻んでいる俺の心の臓を止めてみせろ。スウ、俺を知り、お前で止めるんだ。お前にしか出来ない』
「滅っせよ!」
2機の戦闘機が翼をぶつけ合い、すれ違う。
離れると再び両者反転、翼をぶつけ合い――繰り返す。
宇宙空間で、翼で、剣戟が繰り広げられる。
ぶつかる度に、無重力でくるりと回る。
『なあ、スウ。俺たちは、まるで輪舞を踊っているようだな』
「この人の足を踏みたい!」
『そうだ、やってみろ。お前を想う男を、理解して、殺して、お前の心の中から消えない存在にするんだ。お前は死ぬまで、俺を胸に抱きしめて生き続けるんだ』
「とりあえず、アンタみたいな他殺志願者とは、VR以外では絶対戦わないからな!」
翼が切り結ぶ。何度も何度も、
❝何だこの光景・・・戦闘機の翼でチャンバラしちゃってるよ――いやダンスか?❞
❝こんなの、戦闘機の戦いじゃねえよ―――❞
❝ちっ、プッツン女とプッツン男め・・・❞
「なら、これならどうです!」
スウが、反転を行わず後退飛行で〈励起翼〉をぶつけようとする。
『いつか来ると、理解していた!』
ユーも後退飛行で、翼をスウとぶつけ合う。
だが、ここでフラグトップのバリアが砕けた。
『む・・・機体に対する理解が足りなかったか』
ユーが反転、空母に帰っていく。
「逃げる気ですか!」
『俺はまだまだスウを堪能したいが、このままでは勝負がつかない。邪魔が入って、他人にお前をつまみ食いされるくらいなら、俺が撃墜する。お前を理解し、お前に匹敵する操縦を持つ俺に命中力が加わったら、どうする?』
「まさか、合体!?」
『やっとか。お前が見てろと言うから待機してやってたぞ』
『まってたぜ、兄弟。俺は戦闘機の戦いが苦手だからやる事がなかったんだ。――フラグサイドも、フラグボトムも戦闘機形態しかないからなあ』
ユーの乗るフラグトップが人型に変形。
足が股割りの様に開いて、腕に変形する。
フラグトップが開いた股の部分に、フラグボトムが突き刺さって足になる。
後方から飛んできたフラグサイドが分離、各種武器や、各所を補う鎧になって全身を覆った。
出現するのは、青いデルタ翼を背負った武者のような――赤鬼のような人形機体。
『『『神合機フラグメント、これより無礼つかまつる!』』』
ユーが、スナークに尋ねる。
『これは言わないといけないのか?』
『先人が決めた、決まり事だ』
『そうか』
ジョセフがコックピットでリズムを刻みながら、嬉しそうに笑う。
『いいじゃねーか、こういう決めゼリフが気分を高揚させるんだ。活溌溌地挑むぜブラザー』
『じゃあ、いつも通り俺が飛行を』
『俺が、腕と肩の射撃を』
『俺が、足での接近戦を』
ユー、スナーク、ジョセフと確認しあって、タイミングを合わせる。
『『『行くぞ!』』』
フラグメントが、スウに一気に迫ってくる。
「―――のっ!!」
スウがバルカンを掃射する、フラグメントを完璧に追っている――が、
「この距離で躱された!」
150メートル以下という至近距離から放たれた弾丸も、ユーによって避けられてしまう。
❝流石にあのユーってヤツには、スウでも簡単に当てられないか・・・!❞
フラグメントが、ドロップキックのような姿勢で、つま先に青く発光する〈励起剣〉を作り迫る。
バーサスフレームは黒体塗料で熱は吸収できるが、〈励起剣〉は物理的にも十分攻撃力がある。
スウは上昇で躱そうとするが、フラグメントの腕から発射されたバルカンがスワローテイルの腹を狙いすまして命中する。
「―――っ!!」
❝あのスウが、簡単に被弾した――!❞
❝まずいまずい、流石のスウも特機に乗った3人相手じゃヤバイぞ!!❞
❝って、このジョセフってヤツ――カポイラの世界3位の男じゃねーか!❞
❝銃火器を担当してるスナークって配信者、戦闘機FPSゲームのプロだぞ! あとピアノも上手いとかスタントマンもできるとか、なんか色々できる完璧超人❞
スウはスナークを思い出す――何度も見たスナークの配信を、FPSで戦った時の強さを。自分はレースで勝てたけど、スナークは飛行機の操縦だって一級品だ。そのスナークすら操舵を預ける、ユーの圧倒的操舵技術。
スウは複雑なルートを通るジェットコースターのような動きで、バルカンを躱しながら逃げる。
「スナークさん、流石に強い! 相変わらず――いや、前より!!」
❝スウがここまで、変則的な動きするの初めてだぞ❞
❝しかしスウも、逃げるのが精一杯で背後を取られてる!❞
ユーがスウを追いかけながら、静かに言う。
『量産型スワローテイルが最速なのは、あくまで一般機の中でだ。特機には、いかにスワローテイルでも速度で勝てない』
実際スワローテイルの特機、聖蝶機スワローテイルも量産型スワローテイルの1.5倍の速度を持っていた。
『さらにここ、宇宙空間では、人型機も飛行にデメリットがない』
一気に追いついてきたフラグメントから、オーバーヘッドキックのような振り下ろす蹴りが、スワローテイルに迫った。
「不味い――」
間一髪で、機体を倒して躱す、スウ。
「――この3人――強すぎる―――!」
スウが左側の透明板を叩き割って、リミッターを外す。
スロットルを全開に。
『速くなったか――だが、無駄だ!!』
ユーも、フラグメントのリミッターを外してしまう。
スウは、追い迫るフラグメントを何とか振り切ろうとするが――どの様に飛んでもユーは、スウを捉えてついてくる。
「くっ、Gがっ―――! もう〖伝説〗を使うしか――でも、〖伝説〗を使ってでも、あの3人相手じゃ勝てる方法が思いつかない――」
ユーが優しく語りかけて来た。
『スウ。一世代も前の機体な上に、最弱である量産機でよく頑張った。お前は凄いよ、人々の期待を背負って疲れただろう。レース大会の時もそうだ、あんなに皆の期待を受けて重荷も感じただろう。だが俺達三人に負けてしまっても誰も文句謂わない。敗北して、楽になっていいんだ。俺ならお前を倒してやれる』
スウが稲妻のように飛んでも、急旋回しても、後ろ向きに逃げても、
「振り切れない!!」
フラグメントが肩から放ったキャノンが、スウに直撃する。スワローテイルのシールドが破壊された。
スウが弾かれてコントロールを失い、宇宙空間でビリヤードの玉のように転がった。
フラグメントが、転がるスウに回り込んだ。
『スウ。俺が今、楽にしてやる』
◆◇◆◇◆
『面ェェェェェェェェェェェェン!!』
フラグメントがスワローテイルを蹴り上げようとした刹那、〖重力操作〗で、フラグメントを引き寄せながら〈ソード・リボルバー〉を振り降ろすナイト・アリス。
莫大な重量と化した一撃が、フラグメントの頭に叩き込まれた。
まだ回復しきっていないバリアが砕かれ、シールドまで砕かれた。
『邪魔をするな、雑魚!』
『変形、ムシャ・リッカ! ――――雑魚? 誰に向かって口を利いているッ!』
ムシャ・リッカが一回転。
『消え――た?』
『下だ、躱せユー!』
『見えねえのか!? ブラザー!』
『立花放神捨刀流――七教――天燕」』
ジョセフはギリギリで足を使い、リッカの攻撃を受け止めた。
フラグメントの特殊能力で強化されている蹴り。
だがリッカは相手のパワーを物ともせずに受け流し、返す刀を相手に走らせる。
スナークが腕で防ごうとする。スナークは、鼻で笑う――
『ただの燕返しだろ!』
――が、
『アマツバメは、天空にて最速也! 小手ェッ!』
廻る太刀が真っ直ぐに迫るという、手品のような一撃がフラグメントに迫る。
『なん――』
腕で止めようとしたが、スナークは武術家ではない。正しい受け流しの仕方など知らない。
切り飛ばされる、フラグメントの腕。
『なんだ、この女――剣道家か!?』
『Damn!!』
❝まじかよ・・・・相手はFPSプロとカポイラ世界3位と、スウ並の操縦者だぞ・・・!?❞
「立花は地上最強也。我らに挑みたくば、世界一になってから出直してこい!」
アリスが乾いた声を出す。
『ふふふ・・・リッカを普通の女の子とか思ってると、酷い目にあいますよ・・・』
スウが間一髪で救い出されて、逃げながら喜んだ。
「さ、流石リッカ!」
リッカが、背後を飛ぶスウに振り向かずに声をかける。
『スウは空母の援護に回って。合体メカは、合体メカで相手をする』
「うん、ありがと!」
しかしユーはスウにしか興味がない、遠ざかろうとする蝶に手を伸ばして追いかけようとした。
『まて、スウ! 俺以外を相手にするな!』
そのユーの前に立ち塞がる、リッカとアリス。
『行かせない』
『女の子1人に、男性や大人が3人も寄ってたかって、お仕置きしてあげますよ』
ユーが、憎々しげにムシャ・リッカを睨んだ。
『邪魔する気か』
アリスが朗らかに尋ねる。
『あら、やっと私の声が聞こえたみたいですね』
『ああ、敵だと認識した』
『自分勝手な耳をしてますね、本当に』
ユーは事もなげに返す。
『当然だ、俺は我儘を通す力を持っているからな』
『この人は本当に気に食わない』
アリスが叫ぶと、リッカがムシャ・リッカを回転させて姿を霞に変えた。
空母ティンクルスターは星の騎士団のクランマスターウェンターを始め、火力×3人、ヒーラー×3人――計7機にかこまれていた。
そして左舷から炎を吹き出していた。
コハクが、呆然と呟く。
『もうだめ・・・・』
轟沈していくクレイジーギークスの空母。
リあンが肩をすくめた。
『まあ、アリスさんやリッカさんと協力して、トップクランの人達を6人も落としたんだから』
星ノ空が、頷く。
『よくやったほうかな。さくらが操舵手じゃなかったら、ここまでもたなかったよ』
『すみません、力及ばず』
さくらがうなだれると、星の騎士団のクランマスター・ウェンターから通信が入ってくる。
『強かったです。こちらは16人なのにそちらは9人。戦力差を感じさせませんでした』
『言ってくれる』
マッドオックスが、悔しそうに笑った。
5人の視界に全速力でこちらに向かってくる、単葉形態のスワローテイルが映る。
必死な彼女を見つめながら、5人は轟沈判定を受けた。
コハクから、最後の通信が入った。
『スウさん、あとはお願いします・・・』
「うん! 任せてみんな!」
スウがオープン通信で、星の騎士団に挑戦状を叩きつける。
「ウェンターさんたち、私が相手ですっ!!」




