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108 ストリーマーズとの戦いが始まります

「お帰り、香坂。どうだったアリスは」


 控室に戻ってきた香坂に、厳粛な雰囲気をまとう人間が話しかけてきた。

 話しかけてきた人物は、サングラスに指揮者のようなタキシードという格好だ。スナークである。


「誰だそれは」

「フラグトップの元・パイロットだよ。お前が今所属している星の騎士団の元・最高戦力だ」

「しらんな」

「クレイジーギークスの所に行ったんじゃないのかよ」

「行った、スウと会ってきた」

「奴か――奴はどうだ。調子は良さそうだったか? 体の調子を崩していてくれればいいんだがな」

「そんなスウと戦ってどうする」

「俺は奴と戦いたい訳でも、奴に勝りたい訳でもない。アリスを取り戻したいだけだ」

「そうか。素晴らしいことに、スウは健康そのものだったぞ」

「―――ちっ」


 スナークが、香坂を睨むように見る。


「お前の操舵技術は本物だ――それは認めている、俺でもお前には操舵では敵わない。頼むぞ香坂」

「俺を誰だと思ってる、スナーク」


 タキシードが、右手の平を肩まで挙げる。

 香坂は、彼女の手に軽く自分の手を打ち合わせた。


「お前と俺が組めば、本調子のスウでも、間違いなく凌駕できる」


 ニヤリと笑ったスナークが、ピアノでも引くように指を踊らせた。


「少し湿気が多いが、今日はいい音が出せそうだ」


 アリスと同じ血を引くスナークもまた、何でも出来るというタイプの人間だった。

 彼はFPS、戦闘、さらにはピアノまで得意とし作曲家もしている。アリスの歌の曲を作ったことも有る。

 すると、スナークが口ずさむリズムに気づいたように、奥に座っていたパーカーにネックレスを何重にも付けた肌の黒い男が、イヤホンを外して。

 リズムに乗りながら香坂に挨拶する。


「Hey,WBコーサカ(よう、お()ーりコーサカ)」

「ああ、ただいまジョセフ」

「Have you observed スウ, the opposing player?(敵チームのスウの観察にいってきたのか)?」

「どうだった?」

「素敵な女性だった。あれは間違いなく、俺と同じくらい操縦が巧い」


 香坂の言葉を、ありえないと笑い飛ばすジョセフ。


「それは流石にないだろう。世界の瑕疵(かし)みたいに上手い、お前と同じくらい操縦が巧いなんてヤツがいてたまるか。だが、今日の試合が楽しみだ」


 ジョセフが、不敵な笑みを浮かべて笑う。心底楽しみな様子だ。


 アリスは知らない。

 アリスが抜けた近距離火器管制を、カポイラ世界大会3位。ブレイクダンス世界選手権4位の男が担っている事を。


 再びワイヤレスなイヤホンで耳を塞ぎ、リズムに乗って踊りだすジョセフに、スナークが尋ねる。


「激しいダンスだが、何の曲を聞いているんだ?」

「『からくり創世記マテマキナ』のエンディングテーマ『色香匂へど、血に塗るを』」

「――それ、そんなに激しい曲だったか・・・?」

「オレのハートのビートが、MAXなんだ。丁々発止(ちょうちょうはっし)いこうぜブラザー!」


 だが、香坂が冷たく言い放つ。


「ロビーであまり暴れるな、他人に迷惑だ」

「「お前が言う!?」」




 ◆◇◆◇◆




 それは、スウ達の3回戦目の試合だった。


『まっとったで、この時をスウ!』

『待ってたわよ、この時をスウ!』


 音子と、ヒナの声が重なる。


 スウは、2人のあまりの迫力に「ひえっ」と、コックピットでたじろぐ。

 音子とヒナが、不敵にスウに語りかけた。


『まったく、ちょっと勢いのある新人が出てきたと思ったらなあ』

『伸びてきたら、先輩としてそのうちコラボでもしてあげようと思ってたらねえ』

『『助けてくれてありがとう!』』


「はい!?」


『うち―――あんなゴブリン(奴ら)に貞操奪われる位ならって、スワンプマンって分かってても――こめかみに銃口押し当ててたんやで・・・・そしたらコメントでウチの推しのスウが〝私がすぐ行きます〟って言ってるって流れてきて――惚れてまうやろ!?』

『もうほんと、死んで地球に戻るしか無いって思ってたら、〝任せてください、今すぐ行きます!〟。〝ヒナさん!! 助けに来ました!〟って、私に、新しい性癖の扉を開かせる気!?』


『『スウさん、本当にありがとう!』』


「う゛ぇ゛!?」


 スウは困惑で、身を守る仕草に入る。

 他人に感謝される事が、むしろ怖いのだ。


『そんなスウはんやけど!』

『そんなスウさんだけど!』


『『お願いがあります!』』


 スウは恐怖のあまり、キョドりながらも辛うじて返事をする。


「は、はい・・・」


『前のレースで分かったと思うけど。このクラン、ストリーマーズは、配信者クランだって知っとるやろ?』


「イ、イエス」


『だからのお願いなんやけど』


 ヒナがセリフを繋ぐ。


『こっちの出場メンバーに、自己紹介をする時間を与えてあげてほしいの!』


「・・・・あ・・・」


『頼む!! スウの配信で宣伝させたってくれ! みんな配信者としてやってくために、必死なんや』

「そ、それは――はい、ぜんぜんどうぞ。むしろ協力させて下さい」

『流石スウや、全然繋がりもないのに伸ばしてあげたい思うんやな!?』

『そういう所だぞ!』


 音子が背後を振り返って、促す。


『じゃあ、ちゃっちゃと自己紹介しいや! 自分ら!』


『ありがとうございますスウさん! わたし達から行かせてもらいます! MalchiLeyd(マルチレイド)プロダクション所属、市原(いちはら) のべる です!』

甘凍(かんとう) マイル であります!』

財重(ざいしげ) あるま ッス!』

坂月(さかづき) ねんど お見知りおきを!』

『4つの機体が合体する、光神機モールスに乗っています! 宜しくお願いします!』


「みなさん、レースに参加して下さった方々ですね。甘凍 マイルさんは確か10位!」


『憶えていたのでありますか!』

「はい、操縦が凄かったんで」

 

(特機を持ってるのか・・・手強そう。甘凍 マイルさんの操縦技術は相当なもんだったし)


 スウが相手の戦力を分析していると、次のメンバーが自己紹介を初めた。


『スウさん失礼します! 杏桃あんもも騎士(ナイト)と、』

『タンク先生です。タンクの解説動画出してます。タンクに関しては正直スウさんにも負けません!』

『スウさんはそもそも、タンクじゃないからな!』

『『ナ…ナンダッテー』』

『という感じで配信させてもらってます!』


「タンク先生のタンク講座のショートは、見たことあります。為になりました。自分以外の役割の人の考えも分からないと駄目なので」


『おおっ、お目が高い!』


(タンクさんかあ。強い人は本当に強くて、鉄壁なんだよね。そしてタンク先生は講座系の実力者――ただ、タンクに関しては、ウチにはトップ16に入る実力のアリスがいる・・・・)


『こっから空母の乗組員や!』


『スウさん、ファンの皆様はじめまして! 生chu~♪(なまちゅー)ですー。なまちゅと呼んで下さい!』

『カイトだー』

『エンター・トラブルっす』

『ウチ等毎日、ハイレーンのグルメ配信してます』

『主に酔っ払い配信です』

『酔拳です。よろしくお願いします』

『酔拳はマジやでー、コイツ等酔っ払いやけど、普通に強いから注意やー』

『唐揚げレモンです。他人の唐揚げにレモンを掛ける配信してます』

『変な奴や!』


「たまに配信みて笑わせてもらってます」

『有り難いです!』

「いえ、いつも楽しませてもらってます」


(空母は、早めに落としたいな)


『こっから個人バーサスフレーム乗りや!』

『ダンです』

『この子がウチ等の秘密兵器やで! 登録者数30人やけど!』


「と、登録者数30人ですか・・・・」

『レースでは直ぐに音子さんに抜かれて良いところ見せれませんでしたが、今日は戦いなので、良いところ見せるつもりです!』

「お、お手柔らかに・・・」


(登録者数30人かあ・・・でもなんかこの人だけ凄く安定した飛方してる。間違いなく、実力が知ってもらえないで伸びてない派だと思う。それからダンさんって、レースで一瞬1位とったんだよね。音子さんに抜かれたけど――それでも最終順位は5位。音子さんも戦闘ではダンさんに敵わないみたいな事言ってたし、秘密兵器か――実力者のニオイがプンプンするね)


 要注意人物かも。


人理樹(じんりき)ちいと。俺は今日、スウさんに勝つために来た! ガチ勢なんで、期待してろよ!』

『イキってるけど、実力は本物や! スウも注意やで!』

「こちらも、お手柔らかに」


(宙返りした――綺麗な宙返り。たしかに強そう)


『こっからは回復役!』


『スウ様、ファンの皆様、回復役のトロネアです。トロって呼んでくださーい』

『同じく回復役のモス・生糸です。モスって呼んで下さいー』

「トロさんとモスさんですね。お互い、頑張りましょう」


(回復役も、悪いけど手早く沈めさせてもらいたい)


『他にもいっぱいウチのクランには配信者がおるから、みんな見に来たってや!』


「えっと、こっちから誘うのは苦手だけど。お誘いが来るなら、私も出来るだけコラボしますね」


 音子が嬉しそうに返し、ヒナが開始を促す。


『言質取ったで! ほんま頼むわ!』

『じゃあ、そろそろ始めましょうかスウさん』

「はい」


 盛り上がる、スウとストリーマーズメンバーを遠巻きに眺めていた、アリスとリッカが口を開いた。


『さっきから聞いてれば、スウさんスウさんって――』

『忘れてない? わたしたちも居るんだよ』


 音子とヒナが、アリスとリッカに向きなおった。


『――な、なんやこのプレッシャーは・・・』

『FLのベスト16人に挙がる、閃光のアリス・・・』

『そして、彼女に匹敵すると言われるリッカやな―――』

『大男を取り押さえたり、投げ飛ばしてた子ね』

『あの子、武家の家系らしくて中学剣道大会の優勝者らしいで』

『リアル強者なの・・・?』

『しかも彼女の後ろにいる妹の方が、リッカより天才らしいわ』

『なんでスウの所に、そんなに化け物ばっか集まってるのよ・・・』


 アリスのニュー・ショーグンが刀を、リッカのニュー・ダーリンが剣を構える。


『じゃあ、いきますね』

『覚悟』


 ショーグンとダーリン。

 武者と騎士。

 赤と白の閃光が、恐るべき速度で空を駆ける。


 今回のステージは、見た目も環境も地球のグランドキャニオンにそっくりのステージだ。


『面ぇぇぇぇぇぇん!!』

『胴ぉぉぉぉぉぉお!!』


 瞬く間に切り裂かれていく、クラン〝ストリーマーズ〟の機体。


『杏桃 騎士でしたー。今後ともよろしくお願いしますー!』

『タンク先生の次回作にご期待下さいー!』


『ちょ、タンク2人、瞬く間にやられてどーすんねん!』


 スウに撫で斬りにされて、轟沈する空母。


(まじか・・・・タンクは真っ先に堕としたいとは思ってたけど。・・・アリスとリッカ、あの2人つんよ)


 数秒で空母を轟沈させた自分のことを棚に上げ、スウは、アリスとリッカの強さに驚く。


『生chu~♪ ありあしたー!」

『カイト、みなさん後は任せた~!』

『エンター・トラブルでしたー。最早これまでー!』

『からあげレモン。やっぱり僕には、他人の唐揚げにレモンを掛けることしか出来ませんでしたー!』


『空母あっさり落ちるなァァァ!』

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