105 なぜかリッカさんに懐かれて、PvP大会が始まります
◆◇Sight:鈴咲 涼姫◇◆
「これが、スウさんが買った空母スターエッグですか。スウさんが空母に付けたIDはティンクルスターですね?」
「そうそう」
「フェロウバーグで開発された強力なバリアを持った特殊な空母で盾役にもなれるらしいですね。フェロウバーグに来ないと交換できないから、まだ他のプレイヤーは誰も持ってないと」
私が買った空母がハイレーンに納入された。
そこでクレイジーギークスのみんなで、ハイレーンの格納庫に集合した。
私が買った空母は、金の刺繍がされた細長い卵みたいな見た目だった。
正面中央に主砲、側面に副砲がついていて、後部下部がパカリと開いてそこからバーサスフレームが出入りする。仕組みはC-2輸送機に似ている。
サイズは、地球の原子力空母の半分くらいで200メートル。
でも、シプロフロートは大きさ的に入らないので、牽引する形になる。
内部は広く、居住スペースも十分。数十人が寝室とユニットバス付きの部屋で休める。
さらには、大きなロビーと食堂もある。
『動く大きな家(要塞)』って感じ。
私は、操舵してくれるというコハクさんたちに役割を尋ねる。
「じゃあ予定通りの配置でいいですか?」
「はい。
私、コハクが――艦長、兼、火器管制。
リあンが、レーダー管制&オペレーター。
星ノ空が、メカニック&バーサスフレーム誘導。
マッドオックスさんが、砲手&盾操作。
さくらくんが、操縦です」
「わかりました、今日のクラン対抗戦頑張りましょうね!」
私が拳を上げて気合をいれると、コハクさんが「頑張りましょう」と言ってから「そうだ」と尋ねてきた。
「居住区の部屋割りはどうしますか?」
言われて私は、ふと気になった。
「居住区? みんなここに寝泊まりするの? ――私も?」
私の言葉に対して、全員が一斉に〝「ん?」どういう意味?〟という顔をした。
私は若干、怯えながら続ける。
「だって、私が誰かと一緒に住むなんて・・・そんなの・・・」
私が怯えていると、リッカさんが私の眼をジッと見た。そして、やにわに手を挙げた。
「わたし、スウと相部屋がいい」
ちょ・・・ちょっとまって!?
すると私の顔を暫く見ていたアリスも、挙手する。
「スウさんとの相部屋は、わたしの物でしょう!?」
「なぜ」
リッカさんがちょっと憮然として、アリスに尋ねる。
「わたしが先に、スウさんと出会ったんですから!」
「そんな愚かな論法が成り立つなら、この世の全ての男女は幼馴染が好きだと言ったら、必ず諦めなくてはならなくなる」
確かに、それだと『負けヒロインが少くなりすぎる』。
というかそもそも待って、私はコミュ障なんだけど。
コミュニケーションに恐ろしいほど体力使うタイプなんだよ?
四六時中誰かが側に居るとか、好きな人でも結構キツイんだよ。
それに誰かと暮らすのはもう。
・・・・相部屋なんて。
私は慌てて提案してみる。
「あ、あー。えっと、機体が動くわけだから日当たりも何もないし、くじ引きとか適当――」
焦った私が提案しようとすると、食い気味に遮る声があった。
「くじ引きでいいけど、わたしは、スウと相部屋!」
あくまで相部屋を主張してくる。
まってまって、リッカさんって前まで私がアリスと仲良くしてると、結構敵意の視線を送って来てなかった!?
なのになんで、私と四六時中いたいなんて言い出してるの!?
――急にどうした、貴方の中で何のパラダイムシフトがあった!?
いや、心当たりは有るよ? ――リッカさんを助けたし。・・・・でも、あの一瞬で!?
リッカさんがまた私の眼を見てくる。
何かを見抜くような視線に私は眼を逸らす。
な、なんか今日のリッカさんおかしいよ!?
「リ、リッカさん・・・どこでも」
「あとそろそろ『さん付け』を止めて」
リッカさんはまるで悟りを開いたように無表情だが、強い圧を感じた私は怖くなって頷く。
「じゃ、じゃあリッカ」
リッカが、僅かに口角を上げた。
様子を観ていたコハクさんが、アリスに振り向く。
「アリスさんはどうしますか? 一番仲が良いみたいですけど」
「一番仲がいい」の所で、リッカが口を尖らせた気がした。
アリスが唸る。
「うーん、――そうですね。できれば相部屋が良いです」
なので正直な気持ちを吐露する。
「相部屋は、私には無理だってぇ・・・人が近くにいると、神経使うんだよぉ」
私、他人に見せたくない生態が多すぎるんだよぉ。
すると、アリスが寂しそうな顔をする。
「わたしでも駄目ですか?」
「なんでそんなに、私と一緒にいたがるの?」
「スウさんと一緒にいると、私は幸せになるんです!」
「いやいや・・・。というか私は、空母で一緒に暮らすだけで結構ギリギリだよ」
するとリッカが〔まあこの二人なら、二人共で問題ない〕とかボソリと言って、
「じゃあ三人部屋!」
と、主張するんだけど。
――そうは言われましても、3人部屋はないんですよ。
するとメープルちゃんだった。
「お姉ちゃんは、私とでしょ」
メープルちゃんが、リッカを引き寄せる。
暴れるリッカ。
「いやだ、お前とだけは嫌だ。口うるさい、嫌味、絶対に嫌だ!」
リッカは大暴れだけど、関節を極められて押さえ込まれる。
あのリッカを押さえ込むとか、メープルちゃん怖すぎ!
コハクさんが苦笑いする。
「パイロットの人は、すぐにバーサスフレームに乗れるように格納庫近くが良いと思いますし」
「あ、そうか――じゃあ私とアリスとリッカとメープルちゃんは後方だね」
「当機も、スウと相部屋がいい」
そうか、命理ちゃんも居た。
するとコハクさんが首をふる。
「もう、スウさんは取り合いになるんで、スウさんは一人部屋で」
「えええ、スウさんと一緒になれそうだったのに!」「やだ!」「スウと一緒がいい」
アリス、リッカ、命理ちゃんが主張するけど、コハクさんがピシャリと言う。
「雁首並べた頭でスウさんの事も考えてあげて下さい。スウさんは他人と居ると気を使って疲れてしまうタイプでしょう。私達のメイン戦力なんですから、常にフルパフォーマンスを出せるように計らってあげて下さい!」
悪いけどごめん。コハクさんの言う通り、相部屋は精神が保たない。
みんな渋々という感じで頷いた。
よ、よかった。
「じゃあウチが部屋割り決めちゃうわ」
言ってリあンさんが、部屋割を決めていく。
「パイロットと逆に艦長のコハクは前だね、その後はオックスさん。うちはスウの正面の部屋。で、その左右がさくらくんと星ノ空」
すると星ノ空さんが、ツッコミを入れた。
「しれっと、スウとさくらくんを自分の近くに据えてんじゃないよ」
「何言ってんだ、お前も隣だぞ」
「怖すぎるんだよ、お前! ――部屋割はあたしが決める!!」
星ノ空さんがなんだか熱くなっているので、私は両手で「押さえて、押さえて」としながら、おずおずと提案する。
「へ、部屋なら、一杯ありますし。やっぱり、くじ引きとかでも」
大量に部屋が余るんだ。
すると、赤縁メガネのリあンさんが「やれやれ」を肩をすくめて首を振った。
「スウさんは、バカだなあ。いくら部屋が有っても、君は一人なんだよ」
え? 首を傾げていると、星ノ空さんが私の肩をガシリと掴んでくる。
「いいか、スウ。あの眼鏡と二人きりになるなよ? 絶対だぞ!?」
「え、な、なんでですか・・・」
「あれはな、老若男女、肉食草食、童貞処女、なんでも食っちまうプレデター。――いや、エイリあンだから」
エイリあン――?
私が困惑していると、コハクさんが顔を背けるのが見えた。
トレードマークらしい、大きなリボンが不安げに揺れた。
「見ろ、第一被害者の目が口ほどに語ってやがる!」
よくわからないけど、とにかくクジ引きで部屋割を決めるのは危険な行為らしい。
部屋割は、星ノ空さんが決めることになった。
私の部屋は右がアリス、左がリッカ、正面が命理ちゃんになった。
リあンさんだけは隔離されるような部屋割になった。
「この部屋割りはなくね!?」
リあンさんの叫びは却下されて、部屋割りは決定したのだった。
◆◇Sight:三人称◇◆
ハイレーン・クリスタル・コロセウム。
ハイレーン首都の西側に作られた、巨大なドームスタジアム。
透明な屋根を持ち、ローマのコロセウムに似せて作られたこの建物は、海の水平線を一望できる高台に作られている。
収容人数15万人を誇るこの建物が、今日の試合会場だ。
内部に入ると、既に超満員。今日のチケットを買ったらしいNPPさんや地球人さんたちで溢れかえっていた。
彼らのお目当ては、
「スウの試合楽しみだよな」
「対人戦だと、どんな戦いをするんだろうな?」
「え――私!?」
隣に立っていたリあンさんが笑う。
「そりゃスウさんでしょ。スウさんは、自分が最強プレイヤーとか呼ばれてるの忘れてない?」
「いやでも、NPPさんまで私に注目してるの・・・?」
試合はVRで行われるため、すり鉢状の底には沢山のVRチェアが置かれ、上空に展開されている巨大ウィンドウが、すでに熱い試合を映し出していた。
「ん? あれ? そういえばみんなは?」
私は周囲を見回すけど、アリスもリッカも他の人もいない。
いつの間にか、リあンさんしかいなくなってる。
私が「みんなを探しに行きましょう」と言うと、リあンさんが急に私の左手首を握って、壁に押し付ける。
え、なに!?
リあンさんが凄く私の目を見てくる。
これって、まさか―――
(カツアゲですか!?)
ここは校舎裏じゃないのに!! 階段でリあンさんの下を歩いた訳でもないのに!!
私が怯えてるのに、リあンさんは視線を外さない。
これ・・・古語で言う、ガンを飛ばすってやつ!?
西ではメンチを切るとか言うやつ!!
私は身体と眼球を震わせ、涙目になる。
リあンさんの視線が飛んでくるから、正面が見れない!
怯える私を観て、リあンさんが思惑通りみたいな顔をした。
こ、殺され―――息を詰まらせていると、別の方から名前を呼ばれた。
「やあ、スウさん」
私は天の助けと、そっちに向き直る。
なんか後頭部の後ろで、リあンさんの平手打ちが壁に衝突する音がした。
ビンタするつもりだった!
私は、恐怖のあまり、声の方へ走っていく。
「こ、こんにちは!」
天の助けの人物に、急いで頭を下げた。
後ろで舌打ちが聞こえた。怖い怖い怖い!
そうして、
「先に控室に行ってるわ」
という声がして、立ち去る気配がした。
リ、リあンさんって私と同じ様な人種だと思ってたのに、不良とかなの!?
「お邪魔だったかな――」
「いえ、むしろ助かりました!」
「そっか、それは良かった。初めまして、僕のIDはウェンター。星の騎士団のマスターをやっているんだ」
バリバリの金髪にした、男性。
ピーンときた。
コイツァ、陽キャの匂いがプンプンするぜぇ。
「な、なんでしょう・・・」
当然、私は再び怯える。
一難去って、また一難・・・。
「僕はアリスの入っていた元・クランのクラマスなんだけど」
まさか! この人もスナークさんみたいに!?
「か、返しませんよ!! アリスは返しませんよ!!」
「その気持ちはわかるよ、アリス君は本当におしい人材だ。人柄も、人気も、パイロットの腕も最高だ――だけど、本人の意思を曲げてまでクランに戻れなんて事を言う権利は、僕にはない」
よ、良かった。この人、ちゃんとした人だ。
まるでスナークさんがちゃんとしてないみたいな言い様だな、これ。
「で、では、拙者に何用でござるか?」
「なんで急に武士になってるのかは分からないけれど。今日の戦い、お互いに全力を出し切ろうと言いたかったんだ」
え――何。
もしかして神様、爽やかを具現化しちゃったの?
ウェンターさんが微笑む。その笑顔を見て私は、目を腕で覆った。
「ま、まぶし!!」
やばい、影は光に照らされると消えてしまう!
光の笑顔が、この世の闇を全て打ち払うかのような勢いで私を襲う。
『スウの 化けの皮が 剥がれた。 スウは なんと 萌え豚 だった』
えっと、こういう時は握手すれば良いのかな?
「は、はい」
私は言って、健闘を誓うように前足を出した。
ウェンターさんは私のそれを握り返して、すずさ菌を受け取る。
「あっさり握り返してくるんだ・・・胸を借りに行きます」
「僕は、君に胸をかせるほどの余裕はないよ。だけどこっちも優勝を2度経験している決勝常連組だ。じゃあ、決勝で会おう」
「ブゥ・イエッブゥ!」
「あはは、相変わらず可笑しな人だ。そうだから、惹かれたんだろうね。アリス君がそっちを選ぶわけだ」
え「そうだから、引かれた」? ですよね!!
❝なんだあのイケメン。あれが星の騎士団のクランリーダーか❞
❝かろうじて致命傷で済んだ。俺はもう駄目だ❞
❝頼むスウ、俺たちの敵を取ってくれ❞
❝俺のクラン、一回戦で星の騎士団とぶつかるんだよな❞
❝ご愁傷さま❞
❝やだやだ、負けたくない!❞
❝相手はクランメンバーの人数が2000以上の超大手だぞ、持ってる兵器の質が違う。海兵隊のクランとかでも百十数人しかいないから、兵器に関してはアメリカと自衛隊が戦争するレベルの戦力差があるんだぞ❞
❝アメリカも自分たちが自衛隊程度の戦力で、アメリカ並の戦力に挑むことになるとは思わなかっただろうな❞
❝いやどうかな。確かに兵器はすごいんだけど、星の騎士団の主力が全部空母クラスにでてるらしい。空母クラスは出場クラン多くて、国ごとに別れてるから❞
❝んで、軍隊系は戦艦クラスにしか出てない❞
❝星の騎士団の主力は、軍隊系と当たらないのか❞
❝戦艦クラスはなんかもう、各国の代理戦争の様相を呈してるぞ❞
❝怖っ❞
❝でもなんで星の騎士団は、そんなに空母クラスに掛けてるんだ?❞
❝そりゃ、クレイジーギークスと全力でぶつかるためだろう❞
❝マジカヨ、戦艦クラスのほうが賞品良いんだろ?❞
❝勲功ポイントも、買える土地のサイズも段違い❞
❝なのに空母クラスに全力掛けてくるとか、星の騎士団――本気だな・・・❞
❝よし、俺ちょっと今からバチカン市国人になってくる❞
❝人数少ないから勝てるってか?w 流石にあの辺りは、他の国に混ぜられてるよwww❞
星の騎士団さん、そんなに私達に本気になってるの?
なにこれ、スポーツ物みたいな展開になってる!?
それに星の騎士団が本気で来てくれるなら、勝ちたいな・・・。
盛り上がるコメントを読んでいると、呼ばれた。
「おい、スウ」
なんだか訊いた事がある声で振り返る。
そこに居たのは、うちの学校の生徒だった。
以前、私と八街さんにコラボを申し込んできて、私の肩を握りしめて流血騒ぎにしてくれた人物だ。
全体的に、顔のパーツが真ん中に寄った感じの顔つきの男子生徒。
IDは猿権かな。
「えっと、猿権さん? 何の用でしょう」
「お前の所と俺のクランが、一回戦でぶつかるんだよ」
「あ、そうなんですか。よろしくお願いします」
奇しくもコラボって形になるのかな?
「でだ、お前ら負けたら俺らのクランに入れよ」
「嫌ですけど」
「俺が負けたらお前らのクランに入ってやる」
「絶対、嫌ですけど」
「どういう意味だよ、お前」
その喋り方とか、暴力的で苦手なんだもん。
「勝負に乗る理由がないです。何の得もないし」
「俺が入るって言ってるのに、テメェ・・・・じゃあ」
彼は私に近づいてきて、私にしか聞こえない声で言う。
〔勝負を受けないなら、お前と八街の本名を、今ココで叫んでやっても良いんだぞ〕
アリスの本名? 私は青春スポーツ物に憧れて熱くなっていた頭が、急に冷えて、冷たい怒りが湧き上がってくるのを感じた。
「へえ――」
なんとなく私は、自分の瞳から光が失われた気がした。
「――アリスに危害を加える気なんですか?」
「勝負受けろよ」
私は彼の眼を凝視する。
私を血まみれにしても気にしない。
だけどアリスに危害を加えるつもりなら、赦さない。
私は彼の目を凝視したまま笑顔で返した。
「良いですよ」
すると。なぜか明後日から反応した人物がいた。
「なに、クレイジーギークスに勝ったらクレイジーギークスがクランに入ってくれるんか!?」
音子さんだった。
この人は、またややこしい事を言いだす・・・。
すると、周りのプレイヤーまで騒ぎ出した。
「おい、クレイジーギークスに勝ったら、クレイジーギークスがクランに入ってくれるらしいぞ!」
「とんでもない賞品来た!」
「おいおい、スウもだけど一式アリスもいるんだろ!? リッカも登録者数120万人だ、さらに30万超えの配信者だらけ。そんなのが入ったら、トップクランの座は約束されたようなもんじゃん! 俺の過疎配信も伸びるかな!?」
「正直ハイレーンの土地より嬉しい!」
ややこしい事にしてくれて・・・。
見れば、リあンさんを引き連れたコハクさんがこっちにやって来ていたらしく対応してくれているの任せてもいいかな。
とにかく、あの猿権って人だけは絶対に赦さない。




