103 空中補給します
「え、宇宙で空中補給ですか? ――いや、空中補給じゃないんだろうけど」
「はい。航宙補給と呼んでいます――スウさんならできますか?」
私は、アイビーさんに尋ねられていた。
「出来ない事はない。と思いますけど」
「ちょっと、宇宙の何も無い空間から帰ってくる艦があるんですが・・・・その推進剤の残量が不味い状態らしく・・・この後入る、ガス地帯を抜けられるだけの量がもう無いらしいんです」
「曳航とか、人員を他の船で輸送は駄目なんですか?」
「結構大事な艦なんで、艦にも帰ってきてほしいのです。曳航してもいいですが、沢山の艦が必要になるほど大きいんです。そこでスウさんがバーサスフレームで乗り込んで、乗組員の代わりに補給をしてやってあげてくれませんか。結構ボロボロで戻って来るみたいで。メイン操舵手が怪我をしている上に、相対速度制御装置も破壊されているらしく、さらにはエンジンとかも幾つか失われた状態で――これが艦の現在の様子です」
アイビーさんが、私に艦を簡略化した図を見せてくる。
確かにでっかいし、ボロボロだ。
「なるほど、了解です」
「先ほどクエストから帰ってきたばかりなのに、こんな事を頼んですみません」
「いえいえ、問題ないですよ」
私の視界に、
『クエスト〝ボロボロの艦と乗組員を救え、 『奇跡の航宙補給作戦』!〟を受けますか?
⇨はい
いいえ』
と表示された。
もちろん、⇨はい。
私の隣で紅茶を嗜みイギリス淑女になっていたアリスが、カップを静かに置いて私に向き直る。
「あの・・・・待って下さい、スウさん」
アリスが艦の図を見ながら、頭痛がするかのようにこめかみを押さえた。
「この艦、相当ひどい状態ですよ? 左右のエンジンの出力は違うし、逆噴射がほとんど利かない状態じゃないですか――滅茶苦茶難しい依頼だと思うんですが・・・何を〝ちょっと、おつかいにいってくる〟みたいな感覚で受けてるんですか」
❝だよな、俺ならもう諦めるレベル❞
❝どうすんだよ、こんな状態の艦で、ツルツルの宇宙空間での空中補給とか・・・・でっかい艦がぶつかったら、大惨事だろ❞
❝地球でもくっそ難しい空中補給を宇宙で、・・・・しかも艦の状態が最悪のをなんとかしろとか、おかしい。アイビーちゃん言ってる事、おかしすぎるから❞
「それでも、スウさんはなんとかしてくれちゃうんですよ」
アイビーさんのハツラツな言葉に、
「スウさんは便利道具じゃないんですからね・・・そこだけは間違わないで下さいね」
アリスの辛辣な言葉が掛かった。
アイビーさんが「オホホ」と掠れた声で笑って、「さ、さあスウさん行きましょう」と私を案内し始めた。
という訳で私はアイビーさんの指揮する戦艦に揺られ、ワープのち、亜光速で目的の戦艦の近くへ。
『じゃあスウさん、後はよろしくお願いしますね』
「はーい」
私はアリスとアイビーさんに見送られ、スワローテイルでボロボロの戦艦に着艦。
タラップを降りると、沢山の兵士さんに迎えられた。
「た、助けが来た!」
「もう帰れないと諦めていたのに!」
艦長らしき人が私に近づいて来ると、帽子を脱いで、握手の手を差し出してくる。
私が握り返すと、艦長さんの笑顔がちょっと曇った。
「あ、あの・・・助けは有り難いのですが・・・・貴女は一体・・・? それから迎えは1艦だけなのですか? ――1艦でどうやって、この大型戦艦をガス嵐の中を、曳航するのですか?」
「あっと、いえ曳航はしません」
私の言葉に、兵士さんたちがザワついた。
「補給して、そのままこの艦に自力で帰ってもらいます」
私が告げると、艦長さんが叫んで、帽子を取り落とした。
「なっ!? 航宙補給を行う気ですか!? この艦の状態で!? ―――ふ、不可能だ!!」
館長さんが頭を抱えて、青ざめる。
「アドミラー准将・・・・! ポンコツだポンコツだとは思っていたが、よもやこれほどとは!!」
あ、アイビーさん、連合でもそういう認識なんだ。
❝アイビーちゃん、連合でもポンコツ言われてて草❞
❝俺等の予想は当たっていたな❞
「まあ、大丈夫ですよ。ブリッジに案内して貰えますか?」
「ま、まさか・・・・貴女が操舵するつもりですか!?」
「はい、そのために来ましたので」
その後、航宙補給開始。
兵士さんたちが絶望の顔で前方を見ている。
「おい、本当に向こうの戦艦が、航宙補給ホースを出してきたぞ」
「無理だ! 補給口に合わせられる訳が・・・・訳が・・・わけ――・・・・あれ? え、もう相対速度が揃った?」
「まてまてまて、相対速度制御装置壊れてたよな? てか、相対速度制御装置より早くね?」
「じゃあ、左右の出力が違うエンジンはどう・・・・あれ、航宙給油ホースが真ん中にきて・・・・ドッキングしちゃった・・・・あ、普通に補給始まった」
私が今期の覇権アニメの主題歌の鼻歌を歌っていると、補給が終わった。
「よし、もう大丈夫ですね」
「ほ・・・本当に補給しちゃった」
艦長さんが私に向かって、呆然とした目を向けてくる。
「貴女は一体・・・・」
言って、VRのスイッチを押したのだろうか、耳の辺りを探った。
「・・・・あっ・・・!」
驚愕に目を見開いた後、
「スウ!!」
そんな言葉に、周りの兵士さんたちもVRを点けだした。
「うわっ、スウだ!!」
「ほ、本物だ!! 『銀河より親愛を込めて』を所持している!!」
「ア、アイビー提督、ポンコツとか言ってすみません! 狂陰を寄越してくれたんですね――狂陰なら出来るわけだ!! というかアイビー提督は狂陰にツテがあったのか!? さすがアイビー提督!!」
なんかこの艦長、手首にベアリング仕込んでるけど、それはともかく。
兵士さんたちが大騒ぎするので、私はちょっと居心地悪くなった。
なので「じゃ、じゃあ、私はこれで」と、艦を出ようとしたんだけど。
「お礼をさせてくれ!」というマッチョメンたちに捕まって、パーティーとか言う災害に放り込まれた。
そういうのは、陽キャだけでやっちくりー!
◆◇Sight:三人称◇◆
アカキバが、ハイレーンの連合基地で土下座をして、香坂 遊真に謝っていた。
「頼む香坂、もう一度コンビを組んでくれ! 俺が悪かった! 今後はお前の名前も出す! お前のことも周知させる!!」
「そうか。――で? 俺は名声などに興味はない。俺が欲しいのはロマンティックな少女だけだ。――だから俺は、俺以外でスウに敵対した者を赦さない。お前はスウを貶めた、殺そうとした・・・敵だろう? そして俺は最後の忠告をしたよな、けれどお前はそれを聞かなかった。あの時点で、俺にはお前と居ても駄目になる未来が分かった。俺は、お前と居たら損になる」
「だ、だけど! チャンスくらい――」
「もう全ては遅い、何を言っても無駄だ。お前の程度が知れた」
アカキバを押しのけて、香坂 遊真が去っていく。
アカキバは、香坂 遊真を引き留めようと強引に吠える。
「だけど俺はお前の聖蝶機スワローテイルを持っているんだぞ!! 俺は返さないぞ!?」
「そんなもの、俺にはもう要らない。くれてやる」
そもそもアカキバは、聖蝶機スワローテイルをロストしている。
スウに破壊され、回収もできず、極寒の惑星に放置されたままだ。
ここで格納庫に、ヘリコプターの胴体だけのような機体が入ってきた。
「ほら、代わりが来た」
中から降りてくる、金髪の男性。
頭上のIDはウェンターとある。――彼は尋ねてきた。
「貴方が香坂 遊真さんですね」
「ああ」
アカキバがたじろぐ。
「こ、こいつ、日本最大級のクラン星の騎士団のマスターの・・・・」
ウェンターが香坂 遊真に握手を差し出すと、香坂 遊真がその手を取った。
ウェンターは香坂 遊真の眼をみて頷く。
「では、貴方に預けます――アリス君がかつて乗っていた、神合機フラグメントのメイン機体――フラグトップを」
「いいだろう。俺はその代わり、約束を守ろう」
ウェンターが香坂 遊真との約束を確認する。
「お願いします。必ずクラン対抗戦で――」
「クレイジーギークスを下し、星の騎士団へ優勝を」
アカキバが青い顔になり、冷や汗を流し始めた。
「ウェ、ウェンター――2000人のクランのマスターが――フ、フラグトップを香坂にだと!? 特機を預けるってのか!? ――何だそれは、そんな虫の良い話を信じるのか!? 香坂!! ソイツは嘘を吐いて」
香坂 遊真は振り返り、呆れたように言う。
「どんな人間でも、お前の言葉よりは信用できる」
言って、香坂 遊真は踵を返した。
「なんでだよ、行かないでくれ! こんなに頼んでるのになんでだよ! ――頼む戻ってきてくれ!! 俺はお前がいないと!!」
「なぜ2000人も仲間がいる場所を選ばないで、つまらない人間が一人しか居ない場所を選ぶ必要がある? 少し前まで、お前は周りには、お前の軍団の仲間やそのファン含め沢山の人々がいた。それをお前は自ら軽視し、破壊し、失ったんだろう。そして今だに、お前が好き勝手やった結果の悪評で、お前の周りに人は集まらない――お前は、俺の足手まといだ」
ウェンターは香坂 遊真と会話している人物を一瞥して、首を傾げた。
「だれだろう?」と。
(まあ、いいかと)ウェンターは思って、香坂 遊真を連れて行く。
「では行きましょう、戦艦にフラグトップを駐機しています。早速試運転でもどうぞ」
「そうだな。俺はスウと飛びに行く。その為には勝ち上がれるだけの強い味方が必要だ」
「スウ」という言葉に、アカキバが青ざめる。
「スウ」――彼にとって自分を撃墜して、前の自分が死ぬ原因を作った恐ろしい人間の名前だ。
スウに全くその気がなく、アカキバを助けようとすらした事実があったとしてもだ。
アカキバの身体は、最早「スウ」の名前を聞くだけで震悚をきたす。
そして実際にスウの実力はバケモノ並み。
小型犬程度のキバしかもたない自分は、どうあがいても被捕食者。
アカキバが、狼のキバが顔面に咬みついてくる幻影を見て、恐怖のあまり転んで尻もちを着いた。
それほどのトラウマをアカキバは受けていた。
香坂がアカキバに背を向けたまま、ウェンターの機体からでている階段を上り中に入っていく。
震え上がっていたアカキバが「ハッ」っとして、ころんだ姿勢のまま香坂の背中に這い寄って、悲痛な叫びが掛かる。
「まってくれ香坂、俺はお前が居ないと、まるで戦えないんだ!!」
香坂の背中は、機体の中に消えていく。
「まってくれ香坂 遊真!! 行かないでくれ香坂 遊真!! 頼む、俺を見捨てないでくれ!! 香坂、香坂―――香坂 遊真ァァァァァァッ!!」
香坂 遊真の姿はアカキバに目もくれず、消えた。




