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98 18体の防衛機構と熾烈な戦いを繰り広げます

「イルさん、<臨界黒体放射>!」


『イエス、マイマスター』




❝そうか、宇宙空間なら<臨界黒体放射>が使える!❞


❝範囲攻撃ができる!❞




 ここなら水中と違って、<臨界黒体放射>の威力はマックスだ。


 ――だけど、




❝おい、嘘だろ―――?❞




 極太の閃光は敵のシールドに阻まれて、連結球体に傷ひとつ付けられなかった。


 こいつ等、水中遺跡で出会った防衛機構よりも強力なシールドを持っているらしい。


 でも、別に大丈夫。


 今のは、確認と牽制。派手な武器で気を引いただけ。




「こい―――っ!」




 連結球体18体が、一斉にわたしに向かって飛んでくる。さらに弾幕を放ち始めた。


 18体も居て集まっているせいか<発狂>デスロ、第5ステージ並だ。


 幾ら身体強化やスキルが有るって言っても、あんなのと一回しかチャンスのない実戦で〝普通に〟戦う気にはなれない。




 私は回転するドラムのような遺跡の方へ、飛ぶ。


 そうして、ドラムの曲面を沿うように飛んだ。


 半径1キロの遺跡だから、その周囲の長さはおおよそ6キロもある。




 連結球体は全長100メートルはありそうだけど、それでも私の後を追ってくる形になる。




 更に思った通り連結球体は、遺跡を傷つけないように――遺跡に当たらないような弾幕の放ち方しかしない。


 そりゃそうだよね、この遺跡を護ってるんだから。


 この状態なら、ドラムの曲線を利用したら、私に弾幕は飛んでこない。


 しかしドラムの周囲もただの曲面ではなく突起が結構多いから、それを躱しながら飛ばないといけない。




❝うお―――っ、安置作りやがった!❞




 私は〖マッピング〗スキルを使ってから、スワローさんをとんぼ返りさせる。


 そうして逆噴射で後ろ向きに飛びながら、速度を緩め曲線から飛び出して、汎用スナイパーを撃つ。




 撃ったら速度を上げてすぐに、曲線に隠れる。


 


 FPSでいう、高台で頭1個出しの要領。


 これを延々と続ける。




『なるほど』


『すごい』




 リッカさんとメープルちゃんの驚きの声。




『そっか・・・・なるほどです・・・』




 アリスが呆然と呟くと、リッカさんとメープルちゃんが戦いに参加しようとするような声を挙げる。




『わたし達もあれでいける?』


『ああすれば良いんですね』




 しかし、アリスは首を振って否定した。




『あれはスワローさんの加速力だからできる芸当です、わたし達の機体だと逃げ切れない。・・・特に私は接近戦しかできないし――それになにより、』




「〖マッピング〗」


『〖マッピング〗の無いメープルちゃんにはきついでしょう。しかも私とか、ツルツル滑る宇宙であんな高速で移動しながら、背後から迫る障害物は避けられる気がしません・・・・リッカはどうですか?』


『ムリ』




❝宇宙空間で逆向きに飛んでるのに、マジでなんで障害物に当たらないんだよ、あの化け物❞




『――本当に、なんで当たらないんですか・・・・訳がわからない、ほんとにスウさんにしか出来ません・・・』


『ムリ』


『やっぱり・・・・すごい人なんですね、スウさんって』




 私は〖マッピング〗に映る映像の角度を変えて、俯瞰(ふかん)――上から見た形にする。敵の位置も赤く表示されて完全に分かる。これなら2Dシューティングの要領で行ける。




「よし、1機撃破」




❝落とした!❞


❝早々と、あと17機!❞




 私は、後ろ――つまり進行方向を振り向く。

 目視で確認。




(来た)




 〖マッピング〗で見えていたんだ。――逆走してきた連結球体が3体、私の背後から顔を出した。




 私は後退飛行のまま、スロットルを全開にする。




❝背後から敵が来てるのに、背後に向かって加速すんのかよ!!❞


❝どうするんだ!❞




 これでいいんだ。これなら、さっきまで戦っていた連結球体は完全に曲線の影に隠れて攻撃できない。


 後ろの三体に集中できる。


 そして3体程度の弾幕なら―――!




❝ちょワロwww 後ろ向きに飛んでるのに、あの数の弾幕にかすりもしねえ!❞


❝フィギュアスケートみたいに滑りながら、全部躱していくワロwww❞




 私は再びスワローさんをとんぼ返りさせて急速反転、背後から来た連結球体に向かって突っ込む。


 そしてすれ違いざまに。




❝衝突する!❞




『スウさん!』


『スウ!!』


『危ない!』




「<励起翼>!!」


『<励起翼>』




 私は、らせん状に迫ってきていた連結球体の長い身体を翼で掠めて飛んだ。


 一気に球体を破壊していく。




「2機目!」




❝まじかよ❞


❝リアルに「ふご」とか変な声漏れた❞


❝滑る宇宙で、あんな紐みたいな奴の側を、ドリフトで完璧に沿って飛ぶとか(草)❞




 再び急速反転してドラムの曲線に隠れて、後退飛行を開始。連結球体をスナイパーで狙撃していく。




「3機目っ」




❝もう本当に、無茶苦茶だわ・・・!❞




 こうして、20分ほど撃墜を続けた。


 連結球体が高い位置を取ったりしたけど、それも速度を上げて躱したり。


 時折背後を取ってくる連結球体も、躱しながら。




「――10機目!」




❝もう、残り8機!?❞


❝早え!❞




 しかし、その時首筋に悪寒。


 〖第六感〗に警告。




「後ろ!? ――」




 いや、マッピングに映っていない。


 じゃあ――ドラムの中!?


 思った通り、ドラムから寄生虫が頭を出すようにウネウネと連結球体が顔を出して私に迫っていた。 


 


 避けられる!?


 間に合う!?


 私は操縦桿を、思い切り引く。




 ――駄目だ、当たる!!




「3択ブースト!!」




 私はなんとか3択ブーストで、ぶつかった弾幕に耐えるけど、機体が弾かれておかしな回転をしだす。




 アリスの悲鳴が私の耳をつんざく。




「スウさんんん―――ッッッ!!」




 不味い、連結球体の尾に当たる!! ――その時、私の頭上から声がした。




「〖念動力〗」




 声と共に、私に迫っていた連結球体がメキメキとひしゃげていく。


 私は爆散した連結球体の中を、発生したデブリを躱しながら、姿勢を取り戻したスワローさんで貫いた。


 振り向けば、複座シートで目を覚ました命理ちゃんが居た。




「あ、ありがとう、命理ちゃん。起きたんだね―――」


「スウ、おはよう」


「おはよう、ほんとに助かったよ!」


「スウには、当機が指一本触れさせないわ」




 なにそれ、口説いてるの?




「――命理ちゃんって、やっぱり強いんだね」


「これでも、星団帝国の最先端テクノロジー兵器だったのよ。スウ、スワローさんのハッチを開けて。当機は外で戦うわ」


「そっか生身で戦うんだもんね。でも、大丈夫?」




 命理ちゃんが、ピースしてくる。




「よゆー」




 確かに命理ちゃんは今までも、宇宙空間で生身で戦ってきたし。でも、いつも心配なんだよね。




「気をつけてね?」


「任せて」




 言って命理ちゃんが外へ飛び出していく。




 彼女は宇宙空間で一体の連結球体に取り付くと、球体に拳を撃ち込んで、中身を次から次へと引き出していた。




❝ちょwww 命理ちゃんコエエwww❞


❝あんなヤバイ相手と、素手で戦ってるwww❞




 私も負けてらんないと、連結球体を打ち倒していく。




「残り7機」


「6」


「5」


「あと4機!」




 敵を打ち倒しながら、ドラムを一周回って、命理ちゃんを降ろした場所に戻って来た。




 見えてきた命理ちゃんは、破壊された連結球体に立ってこっちを観ていた。


 彼女は突き出した両手で三角形を作り出した。まるで照準だ。




 私が「何をするんだろう?」と思いながら飛んで、命理ちゃんを避けるために機体を倒して左に飛ぶと。




 命理ちゃんは「いないいないばあ」をするように、顔を隠した。


 そのまま背中を丸めてお辞儀するように身をかがめる。


 すると、命理ちゃんの腰に機械の柱のようなものが沢山生えて、翼のようになった。


 やがて命理ちゃんが顔を晒すと、口から閃光が漏れている。




 命理ちゃんが四足歩行の獣みたいな姿勢になると、腰の翼が紫電とともに発光した――すると命理ちゃんの口の中にどんどんエネルギーのような物が溜まっていく。




 そうして通信から『<真空回帰砲>発射』とか、ヤバそうな武器名が聞こえた。




 命理ちゃんの言葉とともに、宇宙空間に紫電を放つ真っ黒な帯が放たれた。


 これが前に命理ちゃんの言ってた「真空なんとか」っていう最強武器かな。


 その一撃で、あっさり連結球体が3体、跡形もなく消え去った。




「残り1!」




 私は逆噴射をやめて、最後の一体に真正面から突っ込む。




 黒体放射バルカンを連射しながら、ヤツに接敵。


 そうして励起翼で叩き切った。




「おわりっ!」




『ほ、本当に全滅させてしまいました・・・』


『ドアがスウを人間って言ってたけど、診断ミスなんじゃない?』


『あはは・・・・』




 イルさんが私にお知らせを入れる。




『銀河クレジットが700万。勲功ポイントが350万振り込まれました』




「バカ高ッ」




 私は驚くけど、しかしアリスが・・・。




『クレジット700万、1億ポイントの案件なら当然というか』




 いやでも、日本円換算7000万円ですよ?




「うーん・・・・あっ、そういえばイルさん。なんで今回は報酬入ったの? 前に防衛機構を倒した時はなかったのに」




 執事姿のイルさんが資料を見ながら、報酬が入った理由を教えてくれる。




『防衛機構は人類の兵器であり、モンスターではありません。ですから前回は報酬が出ませんでした。しかし、今回は銀河連合の依頼なので報酬が発生しました』




「あーなるほど」




 私は納得しつつ、宇宙空間で待っている命理ちゃんへ飛んで、ハッチを開けると命理ちゃんが帰還した。




「おかえり!」


「ただいま」




 私はコックピットシートで振り返って手を揚げて、命理ちゃんとハイタッチした。


 命理ちゃんは、スワローさんの複座シートに腰を掛けながら「私にもクレジット200万と、ポイント100万が入ったわ。あまりクレジットが稼げていなかったから困っていたけれど、これでスウのヒモも卒業ね」と頷いた。




 命理ちゃんにも、ちゃんと報酬が発生して良かった。命理ちゃんも暮らさないとだし。


 今まで通り、私が生活費出しても良いんだけど自分で稼げた方が良いもんね。




 しかし今もらった勲功ポイントだけでも、空母を買えそうだなあ。




「にしても命理ちゃん、あの<真空回帰砲>ってなんか凄い強そうだね」


「強いわ。物質を宇宙誕生前の真空――虚数エネルギーに相転移させる攻撃よ。私のは出力が低いので、帝国時代の航宙艦船ほど大きな破壊はできないけれど。それでもあの位の威力はでるわ。ただ60万秒に一度しか使えないのだけれど」




 〝宇宙誕生前の真空に戻す〟ってなにそれ――おっとろしい攻撃すぎる。




「60万秒ってどれくらいの期間だっけ?」


「おおよそ一週間よ」


「クールタイム長いなあ」


「クールタイムってなに?」


「いえ、なんでも無いです」



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― 新着の感想 ―
 私は、後ろ――つまり進行方向を振り向く。 マッピングで俯瞰視点できてるから振り向く必要無いんじないか?
やっぱり紙装甲はキツいなぁ…第六感と超絶反応速度があってもカバーしきれないイレギュラーがあると後がなくなる。 命理ちゃんの活躍が配信デビューした訳だけど、この強さはアレなプレイヤーが目をつけてないから…
更新お疲れ様です。 真空回帰砲の概要怖過ぎィ!? でも昔はこのレベルの武装がないと普通にダメだった時代なんですよね…なるべくこれが必要になる機会には遭遇したくないですなぁ。そんなんばっかりだったらア…
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