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子連れ魔術師は今日も編む〜出産して魔力と職を失った魔術師、子の父親から逃避行〜  作者: wag


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番外編1

たくさんの方に読んで頂いて、感無量でございます。

御礼といたしまして、番外編をお送りします。

よろしければお付き合いのほど、よろしくお願いします。

「ママ、パパ、行ってくるね」


「ああ、楽しんでくるんだぞ」



あれから5年が経った。


マテオは先日8歳の誕生日を迎えた。

2年前に産まれた妹も連れて、お祝いの家族旅行中である。



「では、お預かりしますんで」


「よろしくね、イアン」



マテオとイアンの遠ざかる背を見送り、ハルバートとアメリアは顔を見合わせた。



「全然振り返らなかったわね」


「ああ、大きくなったもんだ」



旅の目的地としてやってきたのはあの南の港町だ。


きっかけはハルバートがマテオに話して聞かせた寝物語だった。


「以前、大きな外国の船に乗ったことがある。

 すごくかっこよかったぞ」


「へえ!どれくらい大きかったの?」


「うーんとだ。

 たくさんの人が長い航海を暮らせるように、

 色んな部屋が作ってあるんだ」


ハルバートは自分の本を棚から出してきて、帆船の挿絵があるページをマテオに見せた。


「これが帆。風の力を使って進むんだ」

「魔術じゃないの?」

「ああ、魔術じゃない、本物の風の力だ」

「すごい・・・!」


マテオの、ハルバートそっくりの瞳が憧憬に輝いた。


それからというもの、マテオは昼間でも自分の蔵書を引っ張り出してきて、船に関するページを読みあさった。お風呂の中に葉っぱと枝とハンカチで作った自作の船を持ち込んでは、ふうふう吹いて水面を滑らせたりしていた。



「夢中だな?」


「ええ、夢中ね」



その様子を見ていた両親は思い立ったのだ。

本物を見せてやりたい、と。


ハルバートは旧友イアンに手紙を書いた。

王都や服飾の街で度々会ってはいるものの、イアンは今や港町の商人ギルドの幹部となっており、互いの忙しさで最近は少しご無沙汰だった。


『マテオに帆船を見せてやりたい。

 君の住む街に家族旅行に行こうかと思うんだが、

 近々帆船が見られる日はあるだろうか』


返事はすぐに来た。


『我が港町に船がない日なんてありゃしないさ。

 家族みんなでいつでもおいで』


そうして二人で休みを取り、子供たちを連れてやってきたのである。




街に着いてすぐ商人ギルドに寄り、イアンと落ち合った。


「スポンサー様にひれ伏したまえよ、魔術師諸君」


とハルバートの首に腕を回し、まったく変わらぬ軽い調子で接してくる。久々に会ったが、時間を感じさせない態度がハルバートを安堵させた。


身分も実績もあるハルバートにこうまでズケズケ来る人物は少ないため、その底なしの明るさにいつも救われるのだ。                                           


「ああ、ありがとう、イアン」


思ったまま正直に返すと、イアンは途端に居心地の悪そうな顔になる。


「なんだよ、素直に喜ぶなよ」


「でも実際宿を取ってくれたろう?

 帆船の見学だって取り付けてくれて」


「そんなの俺がやりたくてやってんだよ!

 いいから今日はもう宿で休め!

 リサには言ってあるから!」


「ああ、そうさせてもらうよ。ありがとう」


「そうだ、マテオ!明日はよろしくな。

 期待して待ってろよ」


「うん、楽しみにしてる!」



今回の旅行にあたり、イアンは本当に良くしてくれた。

宿の手配に支払い、見学させて貰う船への交渉、

外国語通訳としてのマテオの引率まで請け負ってくれたのだ。


なお、まだ妹が小さいためアメリアとハルバートは宿周辺でのんびりする予定だ。


「親元を離れての冒険ってのも大事だろう」


「ああ。それに、何かあったらドー・ドーが知らせてくれる」


マテオの足下で尻尾をちぎれんばかりに振っている小さな犬に目をやる。


「お?これは新顔だな?」


「ああ。『銀の隊』が世話してた子犬でな。

 たまたま彼が連れて遊びに来た時、マテオに懐いたんだ」


「ぎ、『銀の隊』ってことはまさか・・・」


「ああ、ドー・ドーは魔獣だよ。

 どうやら母親とはぐれた幼体らしく、

 成体の姿がどうなるかカイン殿も知らんらしい」


「おいおい、恐ろしいな」


「なんせ知能が高いし、カイン殿仕込みの躾もバッチリだ。

 ああ、船は犬は駄目か」


「いや、多分大丈夫だぜ。念のため抱っこしていきな」


あの船長は動物好きだからな、とイアンは笑う。




その日は懐かしの『リボンと道』に泊まり、やって来たイアンとリサを交えて食事をした。あれから入った女性のレセプションスタッフがとても出来る人だということで、リサはずいぶん楽が出来ているらしい。


ハルバートたちの席に入り浸りのリサに向かって、


「ちょっと!少しは仕事してくださいよリサさん!」


と檄を飛ばす、よく日に焼けたアッシュグリーンの短い髪が印象的な女性だった。



ここで以前に酒を飲んだ時にはずいぶん荒れていたし、ここをきっかけに『空飛ぶ商人』をやったのだったな、と感傷深く思い出す。あの仕事をしていた期間の思い出は、ハルバートの心の中の大切なものを格納する場所にしまってある。


変わっていく街の中で、変わらず迎えてくれる旧交に、実に酒が美味い夜であった。



ーーーーーー



という訳で、マテオは本日、ひとり(イアンとドー・ドーはいるが)での冒険である。



『こんな街があるんだ。どうしよう、わくわくする』



街を歩きながら、マテオはまず港町の開放的な空気に驚いた。

海沿いのベンチに上半身裸で昼寝をしている男性や、起きてきたままのパジャマのような姿で日向ぼっこをする人なんて王都にも服飾の街にもまずいない。


「あのおじさんたち、怒られないのかな」


「ああ、怒られないぞ。

 人に迷惑かけなければこの街は寛容だ」


隣を歩くイアンが言う。


「この先はもっと面白いぞ。テントマーケットだ」


街の大きな通りの両端にずらりとテントが並び、たくさんの人が行き交っていた。


「うわぁ!何が売ってるの?」

「大抵何でも。

 マテオ、何か欲しいものか食いたいものあるか?」

「お腹すいた!何がいいかなぁ!」


マテオはイアンとテントをめぐり、見たこともない太さの大きな腸詰めを買った。

パリッと弾ける皮の食感と溢れる肉汁のうまさに、マテオは悶絶した。


「どうしようイアンおじさん、僕もうここに住みたい」

「はは、いいんじゃねえか。おじさんとこ来るか?」

「来るなら家族みんなでだよ。

 ママがいないと意味ないからね」

「はは、マテオはママが好きだからな。

 帰りにお土産買っていくか?」

「うん!」


そうして腹が膨れたところで、ついにお目当ての帆船にやってきた。


「大きい・・・!すごい、端っこがあんなに遠い!」


海風に銀色の髪をかき回されながら、長いことマテオは船を眺めた。

夢中になりすぎて、いつの間にか口がぽかんと開いている。


「すごいだろ。これはな、東の国の船だ」

「そうなんだ!あの旗は東の国の旗?」


船先にたなびく大きな旗を指して言う。


「ああ。実はな。

 この船には以前、君のパパも連れてきたことがあるんだ」


「え!パパが話していた船ってこと?」


「ああ、話していたのか。

 そうだ。船体も同じ、なんなら船長も同じだ。

 我が国の大恩人さ」


イアンは船体の隣をゆっくり歩きながら、マテオに語って聞かせた。ハルバートと出会い、魔虫の被害の年に一緒に食糧支援に動いたこと。空飛ぶ商人のこと。その食糧の都合を付けてくれたのがこの船の船長だということ。


「へえ!じゃあ、御礼を言わないとね!」


「そうだな。船長も君に会うのを楽しみにしているよ」


そうして乗り込み口に到着すると、


「マテオ、ドー・ドーを抱っこしな」


と言い残し、イアンは乗り込み口を守っている男に話をしに向かう。

おいで、というと大人しく腕の中におさまってくれるドー・ドーを抱え、マテオは外国語を話すイアンを憧れの目で見つめた。


「おーいマテオ、いいってよ。

 ドー・ドーも連れてきな」


「ありがとう!」


御礼を言うと、くしゃりと日に焼けた目尻を細くして、船員は笑ってくれた。


たったそれだけなのに、またひとつ冒険をした気がして、

マテオはもう嬉しくて仕方がなかった。


船の中は、香りのついた煙のような、知らない匂いがした。

装飾もマテオの知るものと違い、どこか幾何学的で格好が良い。

歩く度にほんの少し重心がずれるような、わずかな心地よい揺れにマテオは感動した。


『僕、海の上に浮いてるんだ』


またぽかんと口を開けて船内を眺めていると、

まずは船長室へと向かい、船長室に挨拶をすると促された。


案内された重厚な扉の奥から、長髪を編んだたくましい男性が迎えてくれる。


「ようこそ」


とマテオに微笑み、ドー・ドーの頭を優しく撫でてくれる。

マテオは頑張って、先ほどイアンに教えて貰った東の国の言葉で、


『ありがとう』


と船長に伝えた。船長は嬉しそうに笑い、デスクから何かを持ってきた。


「あ、それ!」


船長が持ってきたのはランタンだ。魔石のスイッチを入れるとシェードに細やかなレース模様が浮かび上がる。


「この船長はな、君のママの作品の大ファンなんだよ」


イアンはそういうと、ほら、と船長室内を指してくれる。

よく見ると、船長室の室内灯はすべてアメリアの作品だった。


船長はマテオに握手を求め、マテオの分かる言葉で、


「君のママは素晴らしい魔術師だ」


と褒めてくれた。マテオは誇らしくて誇らしくて、船長の言葉に強く頷いた。



その後は船長自ら船の案内をしてくれる。

操舵室、船員たちのハンモック、碇に繋がる太い太いロープ。

ひとつひとつ噛みしめるようにマテオは目に焼き付けた。



「さあ、甲板へ出るぞ」



晴天の日差しを燦々と浴びる甲板では、船員たちがのんびりと休んでいた。

皆マテオに挨拶してくれ、ここでならドー・ドーを降ろしてもいいと言ってくれた。


嬉しそうにドー・ドーは飛び出し、走り回っている。


「これが帆柱だ。

 東の国の神聖な森で育った、強い木を使ってる」


縦に並んで三本立つ大きな帆柱に向かい、船体の至る所からまっすぐ何本ものロープが張られている。


「綺麗。帆を張った姿はもっと凄いんだろうなぁ」


思わずうっとりとため息が出る。


「この船は明日出航だ。見送りに来よう。

 帆を張った姿も見られるぞ」


「本当?!嬉しい!」




ーーと、その時。


ゆらりと海面がひとつ大きく揺れた。


「おお・・・珍しい、大きく揺れたな。

 大丈夫か?念のためドー・ドーを・・・」


イアンが言いかけたそのとき、


ザバン!!!!


と大きな音を立てて、甲板に何かが叩きつけられた。


ドー・ドーがマテオの腕に収まり、マテオはイアンの腕に収まる。


何が起きた?!と動揺する船員たちの視線の先には、



「クラーケンだ・・・」



巨大なイカの脚が張り付いていた。 



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