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子連れ魔術師は今日も編む〜出産して魔力と職を失った魔術師、子の父親から逃避行〜  作者: wag


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「婚約者にお戻りを教えてくださらないなんて、

 酷いんじゃありませんこと?」


とある雨の日、王都中が虫の竜迎撃に追われる最中。

王都魔術師ギルドの一室で、

ダフネはハルバートに対峙していた。


「・・・あなたとの婚約は白紙になったはずだが」


ハルバートは表情を動かさずに返す。


「分かってますわよ」


先ほどの台詞を吐くのは2回目だ。

砂の国から帰ってきたハルバートに、同じ台詞を投げた。


「案外わたくしに同情してくれる人がいるのね。

 すんなり通してくれたわ」


「で、何の用だ」


「・・・ハルバート様、お恨み申し上げますわ。

 あなたが私を拒んだせいで、すべてを失いました」


「あなたの境遇には同情する。

 だが僕が君を受け入れる理由にはならない」


きっぱりとした拒絶に、ダフネは鼻白んだ。


「ところで、あなたの思い人とはどうなったのです?」


「答える義務もない」


「・・・知りませんわよ。

 あなたが迎え撃つあの竜、

 呪いの姿だと言われているのはご存じ?


 ・・・あれがもしわたくしの呪いであったなら、

 真っ先にあなたの思い人を捕らえに行きますわ」


はぁ、とハルバートは息を吐く。


「何が望みだ」


「・・・最後にもう一度お聞きしたいの。

 本当にわたくしを拒んでよろしいの?

 あなたのせいで、不幸になる女を見殺しになさるの?


 酷いじゃありませんか。

 あなたが私と結婚さえしてくれれば、

 あとはどうとでもしてくれて結構ですのに」

 

ダフネはあえて調子良く、歌うように言った。


「私、そこそこ家の仕事もできますのよ。

 家は私に任せて魔術師の仕事をしてくれて結構。

 愛人だって、破産しない程度なら囲ってくれていい」


悪くないでしょう?

と、小首をかしげてアピールする。


無駄なあがきだと分かっていた。

だが、きっと彼に会うのも最後だと知っていたから。


「だから、結婚しませんこと?

 ダフネを見捨てないでくださいまし」


ダフネは笑う。

一縷の願いを篭めて。



「・・・何を言うかと思えば」


ハルバートはゆらりと歩き、窓の桟にその身を凭れさせた。


そして瞬時に、その姿を変えた。


「・・・貴女は」


茶色の髪を結い上げた、

かつてダフネの計略をことごとく邪魔した令嬢。


「ごめんなさいね、

 私はハルバート・イーヴランドではないわ。

 そしてこの姿もまた、仮の姿」


「・・・最後まで邪魔をするのね、あなた。

 名乗りなさい。

 会ったらただじゃおかないと思ってたの」


令嬢はふわりと笑った。


「私は魔術師、『金の隊』フリッカー。

 ごめんなさいね、邪魔をして。

 これでも『蒼の隊』には期待しているのよ。

 こんなくだらない事で潰されても困るの」


ダフネは息を飲んだ。


「・・・そう。残酷なのね。

 最後に彼に会わせてももらえないなんて」


「あのね。

 『幸せ』には、自分でなるものよ。

 誰かに『幸せにしてもらう』つもりなら、

 あなたは父親と全く変わらないわ」


『ごめんな、ダフネ』


ダフネを自らの糧としか見ていなかった父親を捨てたばかりのダフネには、その言葉が刺さった。


「・・・確かにそうですわね。

 私は彼を、幸せのなる木だと思ってた」


「もったいない。

 自分で作る幸せほど得がたいものはないわ」


そういってフリッカーはダフネの肩を叩いた。


「がんばんなさい」


と。


ーーーーーー


遡ってしばらく前。

単騎隊が勢揃いしたアメリアの家にて、


「わ、わたしもやるんですか!?」


家族揃っての招集を受け、

アメリアは驚愕した。


先ほどハルバートに容赦のない拳を浴びせられたはずの『金の隊』フリッカーは不敵に笑い


「いや、どちらかと言うと、

 アメリア嬢『が』やるんだ」


と宣った。


『紅の隊』ジル・ロウリーズが補足する。


「今回俺たちは二つのことを為す必要がある。

 ひとつ、竜の殲滅。

 ふたつ、虫を操る『本体』のあぶり出し」


ずずっと茶を飲むと、


「ふたつ目に関してはカインの馬鹿が覚えてれば良かったんだが」


「ごめんねぇ」


カインも同じように茶を飲み、へにゃりと眉を下げて笑った。


「で、だ。

 恐らくだが、竜の近くに犯人はいると踏んでる。

 そして残念ながら魔術師だろう。

 こっちの情報は筒抜けと思っていい。

 

 が、そこを逆に利用する。

 

 俺と『金』が犯人を揺さぶる。

 想定外のことばっかりしてやる。


 その間に『銀』、お前は犯人を探せ。


 で、竜はアメリア嬢と坊主、君らに任せる。

 『蒼』はふたりのサポート役だ」


「え?え?なぜ私なんです? 

 なんでマテオ?

 なんでハルバートがサポート???」



アメリアは全力で首をひねる。


「アメリアさん、

 あなたの火魔法の網、見せてくれる?」


はい、と答え、ふわりと両手いっぱいくらいの広さに網を広げて見せる。


「うん、これこれ。

 多分あの虫の竜を被害なく葬るには、

 これが一番いいわ」


「で、でも、私魔力があまりなくて、

 そんなに大きくはできなくて」


「魔力はだいぶ回復しているでしょう?

 それに坊ちゃんと一緒にやれば、

 彼の魔力も借りられる。

 『蒼の隊』は護衛よ。姿は変えてね。

 妻子の護衛なんて、腕が鳴るでしょう」


「む、無理です! 

 私にそんな、単騎隊みたいなこと」


「できるわ」


フリッカーは断言した。


「できる」


ジルも頷く。


「やってくれるよね」


カインがなぜかウインクする。


「・・・悔しいし憎らしいが、

 俺もアメリアなら出来ると思う。

 安全は俺が保証する。

 君もマテオも必ず守る。

  

 やってみないか」


四人の単騎隊に外堀を埋められ、

アメリアは渋々頷いたのだった。



ーーーーーー


王都の見晴らしの良い時計台の上で、

ハルバート、アメリア、マテオの三人は戦況を見守っていた。


ハルバートは赤髪の姿で、マテオを片腕に抱いている。

城壁の手前では、地面から生えた蛇のようなものが竜を追い回している。



「どうなってるのかしら」


「あれで攪乱中だ。

 ちなみにあれを出しているのは、

 俺の姿をした『金の隊』」


「ええっ」


「そろそろ次が来るぞ」



ピーー、と甲高い声が聞こえ、

森のほうから大量の鳥魔獣が飛来する。


「凄い!鳥さんたくさん!」


「カイン様ね」


普段魔獣を見る機会のないマテオも大騒ぎである。

幸いなことに、彼はこの事態に怯えることなく、

まるでハイキングのようにキャッキャとはしゃいでいた。


「アレである程度虫の数は減らせるだろう。

 そろそろ犯人があぶり出せるといいんだが」


「ねえ、あれグリフォン?絵本で見た!」


マテオが指すほうを見ると、確かにグリフォンがカインを乗せて飛び回っている。


「私も本物は初めて見たわ。

 凄い、かっこいいわね!」


マテオにつられてアメリアも楽しくなってきた。


「アメリア、ジル殿が動くぞ」


ちらり赤いローブのほうを窺うと、その手にピストルを持っている。


これは「合図」だ。


手にピストルを構えたら、「見つけたぞ」の合図。

中には閃光弾が詰めてある。

発砲したら「行け!」の合図だ。


アメリアの手に緊張の汗が滲む。


ハルバートはそっとその肩に触れると、


「大丈夫。リハーサルもしただろう」


と勇気づけた。


「驚いたよ。

 マテオの力も借りたら家三つくらい覆えそうだった」


「あれには私も驚いたわ。 

 こんなに回復してたのね」


「だから、君ならやれる」


そのとき、ジルがピストルを天に向けた。


パン!と乾いた音がし、夕日の中に真っ赤な閃光が光った。


「さあ、行こう!」


「わぁ!」


時計台を飛び降り、

魔力の消費を防ぐため、ハルバートが二人を抱えて飛行する。


マテオがそのスピードにキャッキャと笑う。


「あれだ!」


ひとりの魔術師が大通りを飛び、その後ろを虫が追いかけている。


「あれは・・・キース!」


アメリアには飛ぶ魔術師に見覚えがあった。

散々アメリアに暴言を吐いてきた若手魔術師だ。


「なぜ彼が!」


大通りに降り立ち、アメリアはハルバートに抱えられながら、

思わず頭上を飛び去るキースのほうを振り返る。



「捨て置け、こっちに集中しよう」


目の前には猛スピードでこちらへ向かってくる魔虫の大群。まっすぐにキースを追い、こちらのほうは視界にも入っていないらしい。


「マテオ、力を貸してね」


アメリアは全身に魔力を巡らせる。

髪が逆立ち、足下からぬるい風が巻き起こる。


「ママ、頑張って!」


足にしがみつくマテオが励ます。


虫の接近まであと少し。

ギリギリまで、ギリギリまで粘る!


「まだよ」


ハルバートが少し焦ったように言う。


「アメリア、時間が」


「まだよ」



まだだ。

もう少し。もう少し。


もはや虫の竜との距離は肉薄している!

今だ!


「行くわ」


アメリアは両手を思い切り振り上げると、

投げ網をするようにその手から火の網を繰り出した。

付与する前の、純然たる魔術そのものの姿。



一気に立ち塞がった網に、虫の竜が衝突する。

網を突き抜けようと、その勢いは止まらない。


その勢いと重さに、アメリアは気圧された。


「ぐうっ!」


サイズは十分、だが強度が!


網に引っかかったままの虫の竜は、

なおキースを追おうとアメリアの網を引きちぎろうとする。


「ごめんマテオ!

 もう少し魔力借りるね!」


「う、うん、

 でも僕もちょっときつい!」


「頑張れ、二人とも!」


二人を支えるようにハルバートが抱え込む。


「パパ、ちょっと借りるね!」


「え、あ?」


マテオが右腕にハルバートの腕、左腕にアメリアの脚を抱え込む。


すると、ハルバートの体から魔力が抜ける感覚がした。

みるみるうちにそれは強くなる。


「力が・・・抜ける!

 これは!マテオを介して、

 俺の魔力がアメリアに・・・!」


アメリアの革の靴がじり、じりと網に引きずられて後退する。

ハルバートも力の入らぬ脚で踏ん張る。


魔力が足りなくなったか、

いつの間にかハルバートの変化も解けている。


「ええい!もう少し!」


アメリアが珍しく大きな声を出し、

気合いを入れ直す。


竜の勢いは削がれ始める。


「止まれーーーーー!」


アメリアが思い切り叫ぶと、

呼応するように火の網が赤く発光する。



ジュウ!という一際大きな音。

虫が焼ける黒い煙。


ぶぶ、ぶぶという不快な羽音を残し、



・・・ついに竜の進みは止まった。




「急いで包んじゃうわね!」


気を抜くことなく火魔法の網で竜全体を包み込み、



「・・・でき、た・・・?」



と、三人はへたり込んだ。


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