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子連れ魔術師は今日も編む〜出産して魔力と職を失った魔術師、子の父親から逃避行〜  作者: wag


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『どいつもこいつも間抜けばかりだ』


虫の竜迎撃部隊の最後方にて、キースはあざ笑った。


全く、「呪いの姿」とはよく言ったものだ。

実際は妙な魔術師の妙な力を奪い、あの竜の手綱はキースが握っているというのに。


まぁ当たらずとも遠からず、とはキース自身も思っている。


ここまで大がかりなことを企てたのはダフネというきっかけがあったからだ。


腹の底に大きな恨みを抱えた彼女を救いたかったからこそ、あの竜が産まれた。


確かにそこにキース自身の「俺が凄いところを見せつけてやりたい」という願望が乗っかってはいるが、ある意味ではあの竜はダフネの呪いと言っても過言ではない。



本日は待ちに待った晴れ。

魔虫どもが最も高く、速く躍動できる気候だ。


虫の竜を顕現させるつもりなのと同時に、すでに王都の複数箇所に『自動火付け玉』を投げ込んである。時間差でどんどん火災が起きる算段だ。


『さぁ、今日で僕の人生が変わる』


キースは手袋の中で拳を握った。

滲む手汗が興奮を知らせている。



『行くぞ』



己を鼓舞するその最中、



「火事だ!住民の避難予定の場所だぞ!」



どこかから声が聞こえる。


『さあ、始めようじゃないか』


栄光を手に入れるために。



ーーーー


キースの思惑通り、都市は混乱に陥った。


晴天が昼下がりまで続くと、いよいよ竜が来るとして住民たちが避難を始める。

あらかじめ備蓄した食糧は数カ所に集めて保護してある。


その頃を見計らい、まずは住民の避難予定の場所数カ所から火が上がる。


次に食料庫の一カ所からも火が上がるのだ。


次は?


貴族の屋敷だ。

まず最初の火はダフネの家のタウンハウス。次にイーヴランド侯爵家。

王宮はさすがに無理だったが、十分だろう。


魔術師たちの連絡網に次々に入る火災の知らせ、

そして慌てふためく『金の隊』率いる守備隊の状況に、

キースは鼻を膨らませて興奮した。


筋書き通りだ。

素晴らしい。


「何よ、これ。

 どうなってんの。

 次はジャバ侯爵家で火事だって」


先輩魔術師のルーナが焦りを見せている。

ああ、気分がいい。

ジャバ侯爵家には火入れ玉は仕掛けていないが、

延焼するならすればいい。



「『紅の隊』、進言します。

 住民がパニックで暴力的な行動に出る前に、

 消火活動に何人か回してもいいでしょうか」


どこかの隊の隊長が『紅の隊』の前に進み出る。

しかし、


「駄目だ」


とそれを一蹴する丸眼鏡の男。

『紅の隊』ジル・ロウリーズ。

魔術師というよりは『道具屋』だ。


「まぁ、あっちは任せといていい。

 それよりこっちだ。そろそろ来るぞ」


迎撃隊は、王都を囲む高くそびえる城壁の上で竜を待ち構える。


夕日方向に仁王立ちする彼の隣には相棒の赤い飛行機。

そして、『蒼』『銀』の両隊も侍っていた。


「なぁ、どうだ、『蒼』よ」


唐突にジルは『蒼の隊』に話しかける。


「竜か?

 ・・・まぁ、小物だ」


何でもない、とでも言うように告げる、

『蒼の隊』ハルバート・イーヴランド。


キースは彼に憧れ、王都での就職を目指した。

銀の髪が紫の瞳にかかる、高貴な魔術師。

その身分からはギャップのある荒々しい戦闘スタイル。

 

ダフネの件はあるが、あれに関しては彼は巻き込まれたに過ぎない。

彼はキースの中で最高の魔術師だった。


そのハルバートがキースの竜のために出てきている。


「単に気色が悪いだけだな」


煩わしそうに話す彼の横顔から目が離せない。

近いうちに、自分は彼の隣に同じ単騎隊として並ぶのだ。


『胸を借りさせてもらいますよ、

 ハルバート様』


胸に満ちる感慨もひとしお、

大きく深呼吸をした。


夕日が傾き、世界が赤く染まる。


頃合いだ。


キースはそっと口元を隠し、呟いた。


『顕現せよ』



ーーーーーーーーー


そこかしこから、黒い煙が立ち上る。


火事の煙か、それとも・・・


「いや、あれは魔虫の群れだ!」


黒い煙は幾筋も現れ、一カ所に集まり始める。


「おいでなすったな」


『紅の隊』が腕を組み、踵を鳴らす。

『蒼の隊』はローブを外し、後方へ投げ去った。


「迎撃準備!抜かるなよ!」


「応!!」


ついに黒い煙は竜の形を為す。

これまでで一番大きな姿だ。


「ここまで強い呪いとは。

 やはり王都に恨みがあるに違いない」


どこかで誰かが呟く声がした。



その瞬間、滑るように『蒼の隊』が跳躍する。

飛行術を使って竜近くの地に降り立った。


『予定では土魔法でドームを作るはずだ。

 しかし、させない。

 土魔法は足下が土の場所でしか使えない』


キースの竜は指示に応じ、平野から離れ城壁を越えた。

平民たちの住宅街の真上に移動させる。


『どうだ、土魔法は使えまい。

 火魔法でも使ってみろ、平民の家を焼いて責任問題だ』


ハルバートの様子を窺うと、お構いなしに足下の土を持ち上げ始めている。


『まさか、届くとでも言うのか』


平野の土をえぐりながら、ハルバートの土柱は蛇のように竜に伸びていく。もう少しで届くという頃、それは大きな平手のような形に変化した。


竜の横っ面を土の平手が叩きつける。

魔虫の竜は大きく形を崩し、しかしまた集まり始めた。


キースは安堵に笑う。


『さすがにドームにするには土が足りないと見える』


こうなれば『紅の隊』も手が出まい。


ハルバートはぶんぶんと土の蛇を繰り、まるで蝿叩きのように竜の体を蹴散らしている。


『何を遊んでいるのだ』


キースが鼻で笑ったその時、


「ピィーーーーーー」


と、高い音が響いた。

あまりの甲高さに耳に衝撃が来る。


『な、なんだ』


その音の主は上空から現れた。

大きな鷲の頭に獅子の体、大きな翼を羽ばたかせて、

グリフォンが現れたのだ。


それだけではない。

グリフォンの後ろには大量の鳥の魔獣が連なっている。


彼らは虫の竜に飛びつくと、一斉に捕食し始めた。


『何が起きている』


グリフォン自身は魔虫はあまり好みではないのか、

捕食せずバサバサと滞空し辺りを見回している。


と、グリフォンの猛禽の瞳とキースの目が合った気がした。


グリフォンはすぐさまこちらへ滑空すると、猛スピードで迎撃隊の眼前に迫る。


「こ、攻撃魔法を」


誰かが魔術を構える。


「止めろ!」


銀のローブを羽織ったフードの男が立ち塞がる。

彼は助走を付けると、勢いよく城壁から飛び降りた。


グリフォンは彼を追い滑空して下降し、迎撃隊の視界から消えた。


『グリフォンは「銀の隊」が討伐するのか』


キースは想定外の出来事に目を白黒させる。

と、強い風圧とともに城壁の下からグリフォンが再度目の前に現れた。


その背中には『銀の隊』が乗っている。

フードが後ろに落ち、顕わになったその顔は・・・


『カイン!!

 ・・・まさかあいつが、「銀の隊」!』


キースが「妙な魔術師」と呼び、その力を奪ったはずの男がそこにいた。



「ああ、確かに君の言うとおりだ」


カインはグリフォンの頭に顔を寄せ、何か会話しているように見える。


そしてその視線がキースへ向く。


「見いつけた」



その瞬間、キースの脳内はパニックに陥った。


『まずい、まずいまずい』



足がすくんだまま、キースは竜に指令を出す。


『とにかく一カ所に集まれ』


このままでは単騎隊に竜がやられてしまう。

しかもカインに見つかったかもしれない。

せめて、せめて自分の実力は示さなければならない。


残った魔虫を一カ所に集め、土の柱を振り切るように都市内へ逃げ込ませる。


そうして震える足を叩き、キースは飛び出した。


「僕が囮になります!」


もはや意味も通じない発言だったが、キースは事前にシミュレーションした言葉を叫ぶのが精一杯だった。


周りの言葉も耳に入らず、城壁を飛び降りる。

飛行術を使い、王都一番の大通りをまっしぐらに飛んだ。


その後ろを追うように、虫の竜はついてくる。


その様子は避難所からも王宮からも見えるはずだ。


『見ろ、俺を見ろ、俺が新しい英雄だ!!』


キースの予定では王都の広場で竜にとどめを刺すつもりだ。


『もう少し、もう少し・・・!』



広場が見えてきたその時。

大通りの真ん中にぽつんと住民が立っているのが見えた。

小さな男の子と、両親と思しき男女だ。



『逃げ遅れたか。

 そこで見ていろ、俺の栄光を!』


キースは得意になって彼らの頭上を飛んだ。


全力で飛んで飛んで広間に辿り着き振り返ったキースは、



言葉を失った。



キースの虫の竜は、

大通りに浮かぶ巨大な赤いネットに、

一匹残らず囚われていたのだった。




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たしかに、人生が変わった日だな
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